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第二章 恋しい人

正体~賢人side~ー2

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 翌日。

 どうしても午後から捜査状況の説明を兼ねたミーティングに出ないといけなくて、氷室商事本社へ戻ってきた。

「ああ、賢人。話を聞かせてくれ、忙しいところ済まないな」

 役員室で専務の氷室陽樹と向き合って話す。生粋の御曹司。見た目も良いからモテる。しかし既婚者だ。

 俺の親友だが、今は上司。高校からの知り合いだが、高校卒業時に俺の実家の会社に入ってくれないかとスカウトされた。

 あいつはいずれこの氷室商事の社長になる。俺はやりたいことがあったわけではなかったので、とりあえず考えておくとしか言わなかった。

 だが、大学二年の途中に氷室商事の社長である陽樹の父親とあちらの策略に乗せられて話をする機会を作られた。

 大学のゼミに社長が身分を隠して実業界の社会人のひとりとしてカンファレンスに入り、討論を数人でさせられた。

 その時に色々質問されて答えたのがどうやら社長の試験だったらしく、合格してしまった。

 その後、役員室で再会。

 そうなったときはすでに逃げられない感じだった。人当たりのいい笑顔。それでいて威厳もある。

 陽樹にも似たところがあり、結局陽樹の懐刀として入った。いつもは役員企画室専務担当付き。役員秘書とは別でそういう部署があるのだ。

 今日は陽樹と俺、それに業務の花田部長の三人で机を囲んだ。財団担当役員の木下取締役は呼ばなかった。関係者の可能性が出てきたからだ。

 花田部長が話し始めた。

「それで、鈴村君。どうなってる?」

「営業二部の長田、峰山のふたりが実行役、隠蔽が会計取締役の畑中専務。おそらく、木下取締役が指示役でしょう。秘書に確認したところ、昨日畑中専務が午前中急遽来ていたようです。内密にしていましたが、他の秘書に確認したところばれました」

 業務部の花田部長はため息をついた。専務の陽樹は反っくり返って座っている。

「賢人。それで、財団の会長や社長は関与しているのか?」

 陽樹が聞いた。

「その辺りを探って頂きたいんですよ。さすがにそこまではわかりません。俺も役員フロアは行かないようにしています。身バレを防ぐために……」

「……おそらく、会長じゃなくて社長かもしれん。畑中は社長派閥だ。財団社長とうちの木下取締役は同期だ。間違いないかもしれない」

 陽樹は呟いた。花田部長が言う。

「トラップ増やしましょうか?例のも仕掛けます?」

「そうだな。頼んでいいか?」

「はい」

 花田部長がうなずいた。彼は若いが優秀だ。陽樹の子飼いの一人。俺とは違うが、早くから目を付けられて大切に育てられてきた。

「専務。財団の第二営業部で不正に感づいた者がいました。関根課長です。彼は事務アシスタントと何か気付いたらしくて、帳簿を探しにきていて会いました。実は彼は俺が誰だか気付いたようで……」

「関根君と言えば、グループ内でも有名な仕事の出来る課長だよね」

 花田部長が言った。

 その通り、大きな美術展を企画し、成功させたのは彼だ。美術界では結構有名人になった。うちには彼がいるというだけで、仕事が舞い込むようになったのだ。

「関根課長は俊樹の同級生だ。俊樹の子飼い連中とも親しい。お前のこと知っていたのか?どこかで会ってるんだろ?」

 俊樹さんとは陽樹の弟さん。彼も仕事の出来るすごい人だが、今は母親の親戚でこの会社の取引相手であるミツハシフードサービスに取締役として勤務中。あちらでは母親の名字を名乗っている。

「俊樹さんがミツハシフードサービスに行ってから、最近俺はお会いしていないんですけど、俊樹さんの部であるここの営業二部に俺の同期や親しい人間もいて、結婚式の二次会とかそういうところで遭遇していた可能性はあります。彼のことはもちろん知ってましたが、話したことがあったかまで記憶してなかったんで……」

 陽樹はあきれ顔で俺を見る。

「お前は酔っ払うと記憶が少し飛ぶからその時に話したんじゃないのか?気をつけろとあれほど言っているのに……そっちでは飲むなよ」

「飲むわけないじゃないですか。偽装潜入してるんですよ。そんなリスク冒すわけがない」

 花田部長が言い争いをはじめた俺たちをなだめた。

「はい、いい加減にして下さい。それで、証拠固めは大体終わりましたか?」

「もう少しです。畑中専務秘書と関根課長にも頼んでいるので、予想より早く終わりそうです」

「そっちの営業二部の部長は把握してなかったのか?」

「……それなんですけど、どうやら気付いてないらしいです。かなりの問題のある人ですね、だとすると。一味だとは思えない性格ですし……」

「そういう人っていますよね。営業はできるけど、洞察力がない。いわゆる、管理職としては不向きなタイプ。どうして部長になれたのか、その辺りはもしかすると木下取締役の息がかかってるかもしれませんね。あるいはそっちの社長」

 花田部長が呟いた。俺もうなずいた。

「とにかく、俺たちはそっちの社長とうちの木下取締役をどうすべきか、親父と話し合う。それと、そっちの会長については親父から話をしてもらうとするか」

「よろしくお願いします」

「関根君は次の部長候補だな。今回のことがうまくいったら一度一緒に一席設けてもらう」

「わかりました。じゃあ、俺はこれで失礼します」

「ああ、気をつけて」

 本社ビルを出て、タクシーに乗った。

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