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第五章 二人の決意
互いの嫉妬~賢人side~ー4
しおりを挟む『里沙』
『どうしたの?今日は秘書室のお嬢さん達とお出かけでしょ?』
『なんでそれを知って……お前こそ、今終わったのか映画。相模は帰ったのか?』
『え?』
出口から電話をしながら出てきた里沙を歩いて迎えに行く。正面から来た俺に気づいた彼女はびっくりして立ち止まった。
「どういうことなの?追跡してきた?」
彼女の手を握ると、一緒に歩きだした。
「俺は秘書連中の一次会を終えて、梶原と福原と少し飲んで解散した。お前が相模と一緒だと福原から聞いて、いても立ってもいられなくなって電話したんだ」
「……」
「私は大分前に相模さんと食事して別れて、ちょっと家に帰りたくない気分だったから、ちょっと寄り道して映画を見ていただけよ」
「……里沙。どうして怒ってる?昼間怒っていただろ。目も合わせない、どういうことだ?」
「秘書の彼女美人ね」
もしかして……嫉妬か?彼女を通りを曲がった暗がりに連れ込んだ。壁に身体を縫い付けると囲い込んで顔を見た。
「もしかして、嫉妬してくれた?」
「……なによ!何でそんな嬉しそうなの、最低!」
彼女を抱きしめた。
「忙しくて連絡出来なくてすまない。でも里沙も全然連絡くれないから、俺はお前に捨てられるのかとびくついていた」
「……ええ?」
「あげくに、相模がお前にくっついているのを見てイライラしたところで、二次会でお前が相模と一緒に二人で飲みに行っていると聞いてアプリを使わずにはいられなくなった。俺も嫉妬したんだよ」
里沙の顔をのぞき込むと俺をじっと見て、つぶやいた。
「私だって……聞いたもの」
「何を?」
「賢人は縁談が破談になって、あなたを狙っている秘書室の女性達がここぞとばかりに告白しまくっているって……」
誰だ、そんなデマを流した奴は。まあ、告白は今のところ三人くらいにされたのは事実だ。俺が黙っているのを見て、里沙はじろりと俺を睨んだ。
「本当なのね?今日もさぞかし……女性の香水の匂いがするもの。最低。せっかく映画を見て少し忘れたのに、会いに来たから思い出しちゃったじゃないの!」
「……里沙はどうして何でもひとりで解決しようとする。俺にそういうことを直接ぶつければいいだろ?そして事実かどうかをまず確認しろよ。デマの可能性もあるんだぞ」
「……」
「嘘はつかない。三人に告白されて付き合っている女がいると断った。俺に彼女がいると皆知らなかったので、縁談が破棄された理由は、好きな女性が出来たからだと教えてやったら、相手はだれだと大騒ぎだった。色々聞かれたが、里沙に怒られるから我慢して答えなかった。褒めてくれよ」
彼女の瞳から怒りが消えた。そして、目が潤んできた。
「おい、泣くなよ。どうして泣くんだ。それに目が真っ赤だぞ。どうしたんだ、まさか何かあって泣いたのか?誰にいじめられた?」
「だって……秘書の人達みんな綺麗で若くて、見ているとあなたとお似合いだもの。連絡はくれないし、もしかして悟みたいに浮気……」
里沙は俺にしがみついてきた。彼女を抱き寄せて背中を撫でてやる。
「あんな奴と一緒にすんな!俺は浮気しないと言っただろ、忘れたのか?ったく、馬鹿だな。どうしてそんなに俺の彼女だという自信がないんだ?里沙は秘書連中よりずっと大人で俺の好みだ。大体俺が同棲したいとまで言ったのに忘れたのか?会社で交際を公表したいとも言ったぞ」
「だって……」
「馬鹿だな。俺にはお前だけだ」
「……賢人、明日も仕事なの?」
「いや、疲れたから週末は休む。里沙に連絡出来ないくらい今週は忙しかったんだ。俺のアンチが社内に大勢いることがわかって、結構メンタルも削られた。里沙、明日明後日は俺にくれよ。癒やしてほしい」
「私だって疲れたもん。あなたは浮気していそうだし、家でめそめそ泣くのは嫌でわざわざ映画を見にきたの。やっぱりあなたのことを考えて泣いちゃった」
「あー、お前って素直になると急に可愛いこと言うんだよな」
そう言うと、キスをひとつ落とした。
「……賢人」
「さっさと帰ろう。どっちへ行く?」
「あなたの部屋の方が広いけど、汚いのがいや。私の部屋でもいい?」
「わかった。でも日曜日は俺の方へ移動しよう。翌日俺のうちから出勤した方が近い」
「また?」
彼女の手を取り、タクシーへ乗り込んだ。彼女の部屋へ戻ると、玄関先ですぐにキスをして、ベッドへなだれこんだ。俺は二週間分の愛情を彼女に注いだ。
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