彼は溺愛という鎖に繋いだ彼女を公私共に囲い込む

花里 美佐

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第三章 氷室商事へ

新たな生活ー2

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 それで、朝から何を喧嘩しているかといえば、その会社を移る転籍の問題だ。

 氷室商事に戻るため、彼は大きな契約をしようと準備中。しかも近いうちに海外出張の予定もある。

 そして、その出張で商談がうまくまとまれば、近いうちに戻れるかもしれないと言っていた。

 戻る、つまり彼が氷室商事へ移るときは、私を連れて行くと最初から言い切っていた。

 だが、私は正直行きたくない。このミツハシフードサービスという会社に愛着もあるし、フード業界だからこそ入社したのだ。
 
 ここは実家の喫茶店と取引があった関係で、取引の担当者から誘われて入社した。それに一番大事なポイントは私の知識はフード関係しかない。

 それなのに、彼の会社は総合商社。そこへ知識のないものが転籍して、すぐに役員秘書なんて出来るわけない。

 彼は元々あちらに数年いたのだし、家業だから当たり前だが知識がある。私は全く知らない業種。

 突然仕事を任されてもわからない。しかも役員秘書なんて絶対無理だ。会社の業務を知り尽くさないと恐怖でしかない。

 新入社員や中途採用の人だって、会社や業種について学んだりする時間があるというのに……。私は本当に、そういう方面は知らないので、不安でならないのだ。

 だから、彼が入るより先に、氷室商事へ勉強に行きたいといったのだ。

 彼が転籍するまでもはまだ日にちがかなりある。その間に私があちらに行って、事前に会社について勉強する。そうすれば向こうへ行った彼の秘書として少しはやっていけるかもしれない。
 
「はあ……やっぱり反対されました」
 
 今日は、彼の兄である氷室商事専務の陽樹さんの奥様京子さんとお茶をしている。

 彼女はいずれ私の義姉になる方だ。そんな彼女も夫の秘書をしたことがきっかけでそのまま結婚している。

 兄弟そろって同じことしか考えないなんてあきれるほど仲良しだ。

「うふふ。嫉妬深い俊樹さんが自分の目の届かないところへあなたをやるわけがないとは思っていましたけど、予想通りの反応でしたね」
 
「そんな、笑っている場合ではありませんよ」

 優雅にケーキを切り分ける細く白い指。綺麗な指輪が薬指に輝いている。

「そうですね。陽樹さんを味方につけるのはいいんですけど、それよりも先にミツハシのほうで菜摘さんを異動させてしまえば文句も言えないんじゃないかしら?」
 
「すごい!さすが京子さん。そうでしたね、彼の影響力が及ばないのは今の会社のほうかもしれません。そうだ、三橋達也取締役を味方につければ出来そうです」
 
「菜摘さんは相変わらず頭の回転が速いですね。私はただ、提案しただけ。お父様や陽樹さんを味方につけてもどうせ、お母様が俊樹さんの味方だからウチの会社では思うようにいかないかもしれないから。それに、彼の味方の子飼いもいますしね」
 
「子飼い?」
 
「彼の同級生達。いずれ、彼の手足となって働いてくれる人を彼は学生の頃からスカウトしてきて、うちに入社させてるというわけ。戻ってきたら彼らに仕事を教えてもらいながら元の業務に難なく戻るという算段。出るときから、自分のやりたいことを彼らに指示して出向しているから、すでに彼の計画は彼がいなくても子飼いが進めている。あなたのご主人になる人は結構すごい人ですよ」
 
「……それ、本当ですか?」
 
「私が見た感想としては、私の夫は王様タイプ。大臣のことまではよく理解しているけど、その下のことは大臣に任せきり。信頼した大臣しか置かないけどね。あなたのご主人になる人はしのびタイプ。目的のために自分を抑えて水面下ですべて仕切る。そして事細かく指図する。仕える相手には忠実。お父様やお兄様に仕えようと決めている。徳川家康と柳生一門みたいな」
 
「なんですそれ?」
 
「だから、他家つまりミツハシへ侵入したりする。忍者でしょ」
 
「そうですね。彼は細かくて把握したがるタイプです。私はおおざっぱです。しかも所詮、フード関係の知識しかありません。育ちも普通ですし、正直彼との結婚自体不安でしかないんです」
 
 コーヒーを飲みながら頬杖付いて京子さんが私を見ている。

 絵になる人ってこういう人をいうんだろうな。さらさらの黒髪が肩から流れている。
 
 それに比べ、こんな見るからに平民女子代表である私が、本当に氷室家に嫁いで大丈夫なのか……緑ちゃん以外、家族みんなが心配していた。

 緑ちゃんはなんでかわかんないけど大丈夫しか言わない。ほんとうに根拠がなさすぎる。
 
「結婚自体も怖いの?きっと、マリッジブルーと転籍の不安が一緒に来たのね。大丈夫よ、言ったでしょ。みんなあなたの味方だから。私はあなたを助けるためにいるから何かあれば今日みたいに遠慮なく相談してくれたらいいのよ」

「ありがとうございます。頼りにしてます、京子さん」

「そう、それでいいの。とにかくやってみて連絡ちょうだい。私も陽樹さんに言って、そちらの会社へ彼から働きかけできないか頼んであげるわ。あと、こっちでの最初の受け入れ先は考えておくように陽樹さんにお願いしておくわね。俊樹さんのことはこっちでなんとかするから」

 二人でにっこり笑い、コーヒーのおかわりを飲む。 デザートも追加する?なんて二人で笑いあった。

 
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