美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

花里 美佐

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第五章

衝撃1

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 彼との花火デートの翌日。

 午前中に船を降りて、彼と別れた。

 今日は芹那さんが昨日の引継ぎもあり、午前中だけ店に出てくれる予定だ。私は午後からの予定だったが昼前には店へ入った。

 すると、彼女と店先で話している素敵な女性がいる。

 間違いない。オーベルージュの下にあるシャンパンフラワーの店長、相良さんだ。彼女は有名なフラワーアーティストの一人。この街を代表するフラワーアーティストだ。

 イタリアに留学し、戻ってきてからシャンパンフラワーの店長に抜擢されたと聞いている。

 叔父の代から面識はある。さすがに、この地域で長く花屋をやっていればこちらにご挨拶しないことはありえない。

「あら、清水さん。お久しぶり。綺麗になったわね。それにしても今日はずいぶんとゆっくりなのね」

「……あ、あの。ご無沙汰しております。相良さん今日はどうされたんですか?」

「あら、知らなかった?芹那は私の同級生の妹。だからこの街に住んでいたときから知っているの。こっちにまた戻ってきたと聞いてさっそく会いにきたのよ。芹那ったら、名取でなく留学先を紹介した私の下で働きなさいよ」

「……やだ、優華さん。そんなこと言ってまた、本気にしますよ」

「何よ、芹那。本気ならうちに来る気あるのかしら」

 ふたりの息の合ったやり取り。知り合いなのは本当なんだろう。でもこのままだとまずい方向へ話が行くと思い、間に入った。

「相良さん。申し訳ございませんが芹那さんはうちの大事な戦力です、それだけはご勘弁ください」

「ブラッサムフラワーを閉めてしまってびっくりしたわ。店長のお加減はどうなの?この店をどうして始めたのかと思っていたら神崎造船の副社長といい関係だったとは……。あの人誰にも落ちないと有名だったのに、やるわね、清水さん」

 私は青くなって言葉を失った。すると横から林さんが口を挟んだ。

「もう、優華さん。相変わらず手厳しい。店長はそんなつもりじゃないんですからやめてあげてください。社長から聞いたんですが、店長のご実家の店と神崎造船は古い取引があったそうですからね」

「そんなことは知ってますよ。それよりあなた、どういうつもりなの?独立したいって前は言ってたじゃないの」

「もちろんです。だから色々と店長からも勉強させていただいています」

「ね、お父様はこのことご存じなの?」

「当たり前ですよ。大賛成でした。いい方法だって……」

 いい方法?なにそれ……。彼女は私をちらっと見て、舌を出した。相良さんの背中を押して頭を下げた。

「優華さん、またお食事でもお誘いします」

「あらそう。じゃあ、清水さん。叔父さんをどうぞお大事に、よろしくお伝えください。またね」

「……あ、はい」

 芹那さんは相良さんを見送ると店に入っていった。

「店長、引継ぎしてください」

「……あ、はい。ごめんなさい」

 昨日のアレンジ教室、それに売り上げ、予約などの説明を受けた。完璧だ。

 売り上げもいい。正直私だけの日より売り上げが高い。しかも、彼女を指名した花束、アレンジが急増している。

 アレンジ教室も一日任せたら、私ではなく彼女が講師をする日に通いたいという人が何人も現れた。正直ショックだった。

 マスコミ露出もあった彼女に勝てるわけがないと諦めていたが、このままでは店長としての私のポジションを奪われる危険性があるということだ。

「店長。さきほど相良さんもおっしゃってましたが、神崎蓮さんとお付き合いされているんですよね?」

「……え?」

 彼女はため息をついた。

「店長の口からいつ聞けるかと待ってたのに。お客様、特にノースエリアの方はSNSでご存じの方が多いらしいですよ。おふたりが蓮さんの行きつけの店に何度か二人きりで現れているのを噂しているようです。私、何回か聞かれましたから……」

「うそ……」

「まさかご存じなかったんですか?お客様から聞かれていない?」

「……聞かれてないわ」

 彼女はうちのインスタをだしてコメント欄を見せた。

『この店の店長と噂の玲瓏皇子とデートしているところを発見!』
『神崎造船のインスタの花、この店のものだよね。匂わせ?』
『蓮様はパトロンなの?もしかして……魔性の女』

 私はびっくりした。こんなコメント金曜日はなかったと思う。どういうことなの。

「まあ、何とかしたほうがいいですね。実は彼に出資してもらっていたとか、アドバイスをタダでもらっていたとか……恋人だから?ま、いろんな噂が流れますからね。気をつけたほうがいいですよ」

「……」

 彼女は私に見せたことのない白い眼を向けた。

「店長が隠していたように、私にも考えっていうのがあるんですよ。ここにわざわざキャリアを中断して戻ってきた。名取君に頼まれたからっていうだけじゃない」

「……名取君って……」

 彼女はエプロンをはずして髪をほどくとこちらを見ながら言った。

「……あ、言ってませんでしたっけ?彼は大学の同窓です。もともと知り合いなの。というか、私の追っかけのひとりだったんだけど、今はお互いいい意味で利用し合う関係です」

 驚きすぎて声が出ない。大学の同窓?どこかで聞いたような……え?確か、蓮さんと名取さんも……。じゃあ私より年上でキャリアもあるのに我慢して下についていたの?

「うふふ。じゃあ、お先に上がらせてもらいます。明日はよろしく」

「……ちょ、ちょっと待って」

「何?」

「まさか、あの……彼とも……」

 彼女は意味深な笑みを浮かべ答えた。

「さあ、どうでしょうねえ。聞いてみたらどうですか?本当に恋人なら、ね」

「……芹那さん、あなた一体何を考えているの?」

「彼はこの店に投資して、運営に関してアドバイスまでしている。あなたときたら、彼が見返りを欲しがらないからって一銭も利益還元してないなんておかしいと話したでしょ」

「……」

「つまり、身体の関係があるから彼はお金を求めてこないんじゃないの?皆そう思ってるでしょうね。ま、想像でしかないから、気にしないで。ではお先に」

 頭の上にハンマーが落ちてきた。彼女が去っていくのを茫然と見つめる。私はあまりの衝撃で倒れそうになり、横の椅子に座り込んだ。

「……なんなの。一体どういうこと?」

 名取社長、芹那さん、この店の周囲に渦巻く噂すべてが、昨日まで花畑にいた私をどん底へ突き落した。

 そして、そのどん底はまだ最後ではなく、その下にもっと深い底があるなんて想像もしていなかったのである。
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