美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

花里 美佐

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第五章

暗雲~side蓮

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 クルーザーデートの翌日。僕は彼女から聞いた新しい店員のことが気になり、名取のHPを検索し調べた。

『林 芹那』

 その名前と写真を見た瞬間に嫌な予感が当たったと頭を抱えた。

 大学の同窓生……そして父が一番厄介だといっていた縁談の相手。それが彼女、林芹那だ。

 彼女のことを大学時代から名取は追いかけまわしていた。美人で博学、お嬢様と三拍子揃っていた。

 なぜ彼女がフラワーアーティストになっているのか不思議だった。確か、大学の時は社長であり、衆議院議員でもあった父親の関係会社に入ると話していたはずだった。

 彼女を名取がスカウトしたのか?いや、よくわからないがこの美貌だ。フラワーアーティストとして力があれば、メディアで取り上げられるのもうなずける。

 父親にとっても選挙対策としては娘の評判がいいのはいことづくめだろう。

 問題はその父親にある。実は彼は現在の国交大臣だ。

 うちの家業には関連のある省庁で避けては通れない。この間行った鈴木造船はうちのライバルだが、大臣にずいぶんとご機嫌伺いを欠かさず、自分の息子と大臣の娘を娶せようとしていると噂になっていた。

 しかし、それは無理だ。なぜなら、林大臣は先にうちへ縁談を持ってきていたことがこの間わかったのだ。

 父の手元にいくつかの大きな縁談が来ていて、そのうちのひとつだった。父は断りづらい相手で同級生だと大臣から聞かされて驚いていた。

 ただ僕は、彼女がこんな仕事をしているなど知らなかったし、おそらく無断で親が進めているのだろうと軽く考えていた。

 俺はHPの写真を見ながら嫌な予感を拭い去ることができなかった。

 何のために名取は彼女をここへ寄越したのか。

 彼女は元々この街の出身で、父親が議員となって引っ越していった。僕は彼女に興味はなかったが、大学時代彼女は僕を中学時代から知っていたと言った。

 最初、言い寄られたときも正直驚いた。私と付き合ってほしい、ではなくて、試しに付き合ってみない、と聞いてきたのだ。

『父が神崎君のおうちの仕事に関係する省庁の担当になりそうなの。神崎君、おうちの仕事継ぐんでしょ?』

 それだけを言った。僕が好きだからとかそういうことではなく、利害関係を最初からちらつかせ誘って来た。彼女の周りにはその美貌と背景を知る男性が大勢いた。

『それが理由だとしたら、僕と付き合うメリットが君にはないようだけどね』

『何言ってるの?相変わらず自分が何者かわかってないわね。あなたは特定の彼女を全く作らない。どんな美人にもおちない玲瓏皇子。もしおとせたとしたら私にはどれほどの賞賛が待っているかしら?』

『賞賛?そんなもの、僕じゃなくても君は簡単に手にできるだろ?』

『あなたがいいのよ。選ぶのは私。私が選んだのはあなた。返事、気長に待ってるから』

 そう言っていた。僕は大学二年で留学して、戻ってきたらあっという間に卒業だった。彼女から帰国後一度も声をかけられることはなかった。だからすっかり忘れていたのだ。僕に対する興味は失せたはずなのに、今さら縁談とはどういうことだ。しかも今になって彼女が名取と繋がっていたことも驚きだった。

 * * * 

 今日は日曜日。

 昨日の夜は今年最初の花火大会だった。

 うちの両親はホテルのいつもの部屋に宿泊を予約している。今年もふたりで花火を満喫したようだ。どうやら父さんは花火の日までには必ず帰ると母に言っていたらしい。父の予定の最優先は母なのだ。

 父は母と、僕は恋人と、それぞれ花火見物をして朝帰りだった。家族三人午後のティータイムを取って、母は席を外した。リビングで残った父と向き合って座っている。

 父は息子の僕から見ても美男子だ。母が父におちたのはわかる気もする。

 ゆったりと足を組んで報告書に目を通している。

 僕はそろそろいいかと思い、声をかけた。

「父さん、縁談の件ですが断っていただけましたか?」

 父は眼鏡をはずしてチェストに置くと、僕に目を移した。

「蓮。具体的に言ってほしいね。だ?」

 この人は意地が悪い。

 縁談のことでお前に迷惑をかけられていると行く前も散々な言いようだった。そして、どれほど断るのに苦労しているか考えたことがあるかと説教。

 だから帰ってきてすぐに大事な人が出来たと報告した時、父はティーカップをその場で落とすくらい驚いた。

「もちろんです」

「それは無理だ。言っただろう、ひとつは作戦が必要だ」

「……父さん!」

「蓮。お前が自分でやったらどうだ?そうしてくれ。それが一番だ。その運命の彼女とやらを見せて先方へ頭を下げてこい」

「父さん、彼女に負担を強いるようなことはしたくない。父さんだったらそんな場に母さんを連れて行ったかい?」

「……」

 何知らんふりしてるんだか……。僕の様子を覗き見て、勘のいい父は言った。

「どうした?」

「実は、林大臣の娘さんが彼女の店で働きだした。彼女に僕と縁談があることは何も話していないようだ」

 父さんはじっとこちらを見ている。

「お前たちが付き合っていることを林さんは知っているのか?」

「知っていると思う。名取が話していないとは思えない。僕らは大学の同窓だったし、大体、学生時代彼女に夢中だったのは名取の方なんだ。」

「なるほど。お前、学生時代の友人にはめられるような情けない関係なのか?」

「いや、林さんは最近個人としてもマスコミでも有名だし、店の利益も絡んでいるから名取の判断もあったかもしれない」

「今回お前の交際相手の近くへ彼女が来たのは、もちろん何らかの思惑があるだろう。巻き込まれるお前の交際相手にとってはとんだ迷惑だな」

「だから林さんとの縁談だけは早期にお断りをしたい。そのため、大臣にお会いしろというなら従う。僕は何をすればいい?」

 父はため息をついた。

「椎名を通して直接連絡してみなさい。ただ、大臣は忙しいから直接会うのに時間がかかるぞ。それまでに何か起きないように自分でなんとかするんだな」

「わかりました」

 僕はとりあえず、名取を捕まえて本音を吐かせようと決めた。彼女へ先に警告しておくべきだったのだが、言いづらくてやめた。そのことが大きな後悔に繋がるなんてその時は思いもしなかったのだ。

 僕はその夜、名取に連絡して林芹那をあそこに入れた理由を問いただした。

 すると名取は彼女のネームバリューでセレブにも人気が出る店になるし、店をひとりでも任せられる人材として抜擢したと得意げに話した。予想通りだった。

 僕は彼女と縁談が持ち上がっていることを正直に話した。名取は驚愕していた。まったく知らなかったようだった。そして、謝られた。知っていたら絶対配属しなかったと言った。その後、問い詰めたらとうとう奴は本音を漏らした。

 さくらの独立を阻みたい気持ちが強かったと言われた。僕をけん制するために、学生時代にひと悶着あった彼女を利用したつもりだったのにと悔し気に言い捨てた。

 そう、つまり名取は彼女に利用されてしまったことにきづいていなかった。林さんは名取に、店の実権を握ってでもさくらを独立させませんと言ったそうだ。さくらを潰して店ごと乗っ取る気なのかもしれない。

 名取は林さんに僕らの交際や店に僕が出資していることを話してしまっていた。

 名取はフラワーアーティストになった林さんが名取の会社に入社した時から、一時期特別な関係だったとも匂わせていた。さくらをとんでもない境遇に陥れた名取を許せなかったが、考えの甘かった自分にも腹が立った。

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