脳内お花畑から帰還したダメ王子の不器用な愛し方

伊織愁

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27話

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 馬車の旅は順調に進み、程なくして温泉施設とレストラン村へ着いた。レストラン村で昼食を摂り、自由行動となる。

 馬車停めに停まった馬車から降り、ファブリツィオは背伸びをして、固まった身体を伸ばした。直ぐ後ろからカーティアが降りて来て、ファブリツィオの隣に立つ。

 ぴくりとファブリツィオの身体が動き、無意識に間を空ける。何も気にしていないのか、カーティアは空けられた空間を縮めた。

 「こちらのレストランは全て違う国のお料理を出しているのですって」
 「……そうか」

 ファブリツィオの瞳が死んだ魚の様に光を失った。視線が合ったフラヴィオは、片目を瞑って謝って来た。序でに『頑張れ』と唇が動いた。ファブリツィオの眉間に皺が寄せられる。

 頑張れって、どうやって頑張ればいいんだ。いや、バイバイじゃない!フラヴィオ、何処に行くつもりだ!俺を一人にするな!

 フラヴィオは約束をしていたのか、数人の令嬢と温泉施設へと消えた。ファブリツィオの口から舌打ちが鳴らされる。

 狼狽えている間に、アドルフォとサヴェリオも既に消えていて、奇しくも、カーティアと二人っきりになっていた。

 「ファブリツィオ殿下、私、隣国のお料理を食べた事がないんです。そちらが食べたいですわ」

 カーティアは既にファブリツィオと一緒に昼食を摂る気満々だった。

 「…….っ、分かった。では、行くか」

 本当は行きたくないが、仕方なくカーティアと一緒に、レストラン村へ向かった。

 ◇

 温泉施設で足湯を楽しんでいたヴァレリアは、レストラン村ですれ違った令嬢の話が聞こえ、眉尻を下げた。

 「殿下とクローチェ伯爵令嬢が一緒にレストランで食事をしていたわ」
 「まぁ、本当に?」
 「ええ、クローチェ伯爵令嬢はとても嬉しそうにしていたわ」
 「最近は殿下、ストラーネオ侯爵令嬢と仲睦まじくされてましたものね」

 令嬢たちはヴァレリアに気づいているのかいないのか、お喋りをやめなかった。

 「気にしてはだめよ、ヴァレリア」
 「そうだ、これは作戦なんだからさ」
 「ええ、分かっているわ」

 一緒に足湯を楽しみ、レストラン村で昼食にしようと、ヴァレリアたち三人はお目当てのレストランへ向かっていた。

 フィオレラが隣国の料理を食べたいと、リクエストしたので、隣国のレストランへ向かっていた。

 店に入って三人は後悔した。ヴァレリアの視線の先では楽しそうに食事をするファブリツィオとカーティアの姿があった。

 不意にヴァレリアの脳裏に、一年生の時の思い出が蘇る。去年は、二人が仲良さそうにしている姿を見るのが辛かった。

 ヴァレリアの元へ戻って来てくれた今でも、二人が一緒いる姿は見たくないと思ってしまう。

 「……別のお店にしましょう」
 「そ、そうね。隣りのレストランにしましよう」
 「そうだな、そうしょう」

 トロヴァート家の双子もヴァレリアに同意し、三人は足早にレストランを出た。

 同じレストランでヴァレリオとジャンカルロも食事をしており、ジャンカルロはファブリツィオとカーティアの二人を目を丸くして見つめていた。

 勿論、ヴァレリアたちが同じレストランに来たことはファブリツィオも気づいていた。ヴァレリアがたまらず、レストランを出て行った後姿を、ファブリツィオがどんな表情で見つめていたのか、ヴァレリアは気づいていなかった。

 レストランを出たヴァレリアは、何も考えずに隣のレストランへ入った。思っていたよりも、ヴァレリアの歩く速度が速かったのか、トロヴァートの双子は遅れて入って来た。

 「やぁ、ストラーネオ侯爵令嬢、トロヴァートの令息、令嬢。園遊会、楽しんでいる?」
 「ジラルデンゴ侯爵子息」

 フラヴィオは和かな笑みを浮かべて、ヴァレリアに近づいて来た。ヴァレリアの気持ちが落ちていることに目敏く気づくと、フラヴィオは連れている令嬢たちに先に席に着いてもらうように言った。

 「ちょっとだけ生徒会の話があるから、先に席へ行っていて、ごめんね」
 「ええ」
 
 令嬢たちは快く返事をすると、先にレストランの奥へ消えた。フラヴィオの話が何か分からず、首を傾げるヴァレリア。

 「あの、ジラルデンゴ侯爵子息?」
 「ああ、話って言うのはね。自分で決めたことなんだから、囮らしくしろって言っておいて欲しいんだ。少しくらい媚びないと、ハニートラップ仕掛けてこないよって」
 「え、ええ。分かりました」
 「じゃ、よろしく!」
 「はい」

 『どう言う意味だ?』と、フリオはフラヴィオが言っていることが理解できなくて首を傾げている。

 「やぁね、分からないの?!」
 「何だよ」

 フィオレラは軽く自身の双子の弟の背中を叩く。
 
 「彼女を嵌めるって言っている割には、全くダメダメって事ね」

 フィオレラは呆れた様に息を吐き出した。フィオレラとフラヴィオの話を聞いて、ヴァレリアは少しだけ気持ちが落ち着いた。ファブリツィオの気持ちが揺らぎないと言うことだ。

 しかし、今のままでは駄目だが。

 フラヴィオのお陰で、ヴァレリアは落ち着いた気持ちでレストランで食事を終えた。

 温泉施設とレストラン村での遊興は、概ね、多くの生徒が満足して終えた。

 ◇

 王立学園の16台の馬車は無事に北区の保養所へ着き、就寝までの自由時間を過ごした。

 ファブリツィオがヴァレリアの元へ訪ねたのは夜遅くだった。ずっとカーティアに張り付かれ、明日は早いからもう寝ると、何度も言ってやっと逃げて来た。

 クラス別にコテージが別れていて、ヴァレリアが泊まるコテージを、ファブリツィオは事前に調べてあった。

 迷いなく、ヴァレリアの泊まるコテージまで辿り着いた。

 「リア!」

 コテージの二階のベランダからヴァレリアが顔を出した。

 ◇

 自身を呼ぶファブリツィオの声が外から聞こえ、ヴァレリアはベランダに出た。

 「ファブリツィオ様!な、何をされて、」
 「いいから、出て来てくれ、リア」
 「行ったらいいわ、点呼までなら誤魔化してあげるから」
 
 フィオレラは、ヴァレリアの昼間の落ち込みようを知っているので、快く送り出してくれた。

 「ありがとう、フィオレラ」
 「いいのよ、でも、生活指導の先生には気をつけなさい。自由時間だとしても、見つかったら面倒だから」
 「ええ」

 コテージから出ると、外にいたファブリツィオの元へ走った。ファブリツィオは笑顔でヴァレリアを迎えてくれる。

 「リア、会いたかった!今日は全く話せなかったからな」
 「はい、私もです。ファーベル様」
 「昼間はすまない、クローチェ伯爵令嬢を油断させないといけないから」

 ファブリツィオは眉尻を下げて謝罪をして来た。

 「はい、少し落ち込みました。でも、後からジラルデンゴ侯爵子息から聞きました」
 「フラヴィオから?」

 嫌な予感が過ったのか、ファブリツィオは苦虫を噛み潰した様な表現を浮かべた。

 ◇

 ヴァレリアの話では、フラヴィオが今日の馬車での様子をヴァレリアに全て話したらしい。

 「全く、クローチェ伯爵令嬢に媚びたりしないから、ファーベル様はやる気があるのかと」
 「あいつ、余計な事を!」
 「怒らないで上げて下さい。馬車での話を聞いて、私は安心してしまったんですから。きっと私の為に話してくれたんですわ」
 「そうか……」

 今日一日で不安になってしまったファブリツィオは、作戦を考え直さないと行けないのではないかと思い始めていた。

 「俺は何をしているんだろうな」
 
 ヴァレリアはファブリツィオの心情を正しく察した様で、彼女は真剣な眼差しで見つめてきた。

 「ファーベル様、どちらにしても彼女は貴方を排斥する為に仕掛けてくるのですから、受けて立ちましょう。今後は私も逃げません。ハニートラップなんて、撥ね付けてやりましょう」

 呆気に取られたファブリツィオは、ヴァレリアが力強く頷く様子を見つめた。

 ファブリツィオの脳裏に思い浮かんだのは、幼い頃のヴァレリアと自分自身だ。

 そう言えば、幼い頃にもあった。兄上たちに敵わない時、マウリツィオ兄上のミッションを達成出来ない時、いつもリアは、俺の事を励ましてくれた。

 「そうだな、ハニートラップなんか撥ね付けてやろう。いや、のし付けて撥ね付けよう」
 「はい!」

 ヴァレリアのいい笑顔に、思いっきり抱きしめる。

 「夜は必ず、会いに来る。明日の夜は花火だったな。色々と話そう」

 『いつまで話している』と、生活指導の先生に見つかり、ファブリツィオはヴァレリアを離した。

 「早く自分のコテージに戻りなさい」
 「はい」
 「はい、すみません」

 ファブリツィオとヴァレリアは『また、明日』と、目と目で会話した後、別れた。

 ◇

 園遊会の二日目、朝食後に農業センターの各施設の始業時間に合わせ、一・二年生はグループに別れて社会見学へ出かける。

 三年生は、本日から勉強合宿が始まる。

 ヴァレリアとは別グループで移動する事になっている。グループ移動もカーティアたちと旧生徒会のメンバーと一緒だった。

 三十六人乗りの馬車には、酪農見学をする生徒たちが乗っていた。一つのボックス席に座っていたファブリツィオのグループは、相変わらずカーティアが一人で話していた。

 「殿下?どうされました?難しいお顔をされて?」
 「いや、何もない」
 「そうですか?」
 「そう言えば、君は良かったのか?酪農という事は家畜がいて、匂いとかもきついぞ?」
 「ええ、大丈夫です。実家に家畜は沢山いますから」
 「そうか、それは知らなかったな」
 「はい、領地は田舎ですから、殿下こそ良かったのですか?」
 「ああ、俺は色々と勉強しないと行けないからな」
 「相変わらず、そういう所は真面目ですね、殿下」

 アドルフォが苦笑しながら、話に入って来た。ファブリツィオが酪農見学に参加した訳は、ヴァレリアの領地でも酪農部門があるからだ。乳製品の新開発も視野に入れていた。

 学園を卒業したら直ぐに婿に入りたいしな。でも、手続きや何やらで一年、結婚準備で一年くらいかかるのか?!卒業してから直ぐは無理なのか!

 ぐるぐると考えているファブリツィオをフラヴィオが呆れた様に瞳を細めている事など、ファブリツィオは気づいていなかった。

 馬車は酪農体験が出来る農場に着き、ゆっくりと停まった。家畜の匂いが苦手な者もいる為、馬車は全部で三台だった。

 家が酪農を営んでいる生徒ばかりだった。皆、何か稼ぐ手立てがないか学ぶ為に来た様だ。

 「では、酪農見学を始めます。で、見学を終えた後は、保養所に戻ってレポートを提出してもらう。全員がちゃんと勉強したか、見るからな」

 酪農見学担当の教師が農場の入り口に集まって来た生徒たちに告げる。ただの遊びにしない所は学園らしい。

 学びが半分遊びが半分の生徒たちから一気に不満が広がった。夜は花火があるので、一・二年生は夕食までに必死にレポートを仕上げなくてはならない。

 酪農見学は中々面白かった。隣に張り付いているカーティアの相手は面倒だったが、乳搾りやチーズ作りは楽しめた。

 「フラヴィオが酪農を選ぶとは思わなかったな」
 「そうでしょう。でも、うちの領地にも酪農があるからね。次男だけど、広い領地経営を兄一人に任せたら、父と兄からゲンコツが落ちてくる」
 「ああ、ジラルデンゴ侯爵と兄君はお前と違って生真面目だからな」
 「殿下には言われたくないと思うよ。でもそうだね。兄は堅物だから婚約者もいないしね」
 「そう言えば、いつかの舞踏会でジラルデンゴ侯爵が愚痴っていたな。息子二人の結婚を憂いていたぞ」
 「……そう」

 チーズ作りをしながら、フラヴィオと話していたら、カーティアはしれっとファブリツィオの隣を陣取っている。簡単に牛乳で作れるチーズがあり、酪農家の説明を聞き、生徒たちは楽しそうに作り始めた。

 ファブリツィオも説明を聞きながらチーズを作る。出来立てのチーズをパンに乗せて試食する。自身で作ったチーズはとても美味しかった。 

 リアにも食べさせたかったな。量が一人分くらいしかないのが残念だ。

 「殿下、私の分と一口分交換致しましょう?殿下が作った物、食べてみたいですわ」

 少し躊躇ったが、フラヴィオを見ると頷くので、ファブリツィオは仕方なくカーティアと少しだけ分け合った。

 「あぁ、いいぞ」
 「ありがとうございます、殿下」

 嬉しそうにするカーティアの姿が目立ち、生徒の間で噂が広がっていった。

 『殿下とクローチェ伯爵令嬢の仲が復活したのではないか』『殿下、まさかの二股か』『ストラーネオ侯爵令嬢と仲睦まじくしていたのはフェイクだったのか』

 等と、ある事ない事が噂されていた。

 保養所へ戻り、学園の生徒たちは共同食堂でグループ毎に固まり、レポート作成に追われていた。直ぐに夕食で、食べ終えれば花火が待っている。

 ファブリツィオの前で、フラヴィオが面倒そうにペンを置いた。

 「はぁ~、レポート提出なんて面倒だよ」
 「仕方ないだろ。憂なく花火を見たいなら、頑張って仕上げるんだな」

 フラヴィオは舌打ちをした後、大きい溜め息を吐いた。ファブリツィオの隣では可笑しそうに笑うカーティアの姿があった。

 「殿下、夜の花火ですが、一緒に見ませんか?」
 「いや……いてっ!」

 フラヴィオに足を蹴られ、ファブリツィオは仕方なく了承した。

 「ああ、では広場で待ち合わせしよう」
 「ありがとうございます、殿下。お待ちしております」
 「ああ」

 嬉しそうに笑うカーティアを見てふと気づく、カーティアのメイドであるアリーチェがいない事に。一緒に酪農見学に来ると思ったが、彼女は乗馬が好きだと宣言していた通り、馬場見学の方に行っていた。

 別のグループの中にアリーチェがいて、レポート作成をしている様子が少し離れた場所に確認できた。

 彼女はストッパーになりそうにないな。まぁ、ハニートラップにわざと引っ掛かるつもりなんだから、そんな期待はしたら駄目だが……。

 ◇

 ファブリツィオが、隣にいる事をカーティアに許している様子を、別の方向から見ていたジャンカルロは、憮然とした表情をしていた。

 「ジャン、そんなに怒るなよ。社会見学は遊びじゃないし、皆が将来の為に学ぶ場所を選んているんだから」
 「だが、それなら婚約者同士は同じ場所を選ぶだろう?」
 「そんな事もないと思うよ。夫婦でも役割や担当があるし」
 「まぁ、そうだけど。もし、これ以上、変な噂が聞こえてきたら、黙っていられないかも知れない」

 ファブリツィオの背中を睨みつけるジャンカルロの瞳には、メラメラと燃える炎が見えた。
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