異世界転移したら……。~色々あって、エルフに転生してしまった~

伊織愁

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第七話 『今世は、短刀の木刀で、まさかの二刀流だった』

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 精神体が本体に戻って来た後、瑠衣と仁奈の呆れたような表情で見つめてくる顔が目の前にあった。 優斗からの説明を聞きいた後、瑠衣が一言。

 「凄いなっ!」

 瑠衣の一言には、多分に多く意味が含まれている様な気がする。 身体に負担はないと知った後は、いつもの様に二人して優斗を揶揄って来た。 フィルを入れて3人がかりでだ。

 「精神体が飛ぶってっ、お前どんだけだよっ。 何? そんなに華ちゃんと離れて暮らしてるの寂しいのか?」

 瑠衣と向き合い、両肩を強く掴まれ、ズバリと瑠衣に図星を突かれた。 表情筋が上手く動かせず、頬がひくつく。 

 もの凄く寂しがっている事がバレて羞恥心が高まり、じわっと頬を染めた。

 「遠距離は辛いって聞くよね。 中々会えない恋人より、そばでずっと居る人に気持ちが移るって言うしね。 華の気持ちが離れないか心配なんだ?」
 「それは、優斗にも言える事だけどな。 まぁ、でも、優斗が華ちゃん意外に目移りするなんて事はないだろうけどな」
 「ユウトはハナに執着してるし、生霊を飛ばすくらいだから、大丈夫じゃない?」

 瑠衣たちが好き勝手に言い合いながら、遠回しに優斗を揶揄って来る。 フィルが言った『生霊』を全力で否定した。

 「だからっ、生霊じゃないからっ!」

 『生霊は面白いね。 これから生霊ってスキル名に変える?』

 (変えなくていいからっ!)

 瑠衣たちの言葉により、優斗の精神が抉られていく。
 
 監視スキルにまで揶揄われ、優斗の精神が存分に削られた後、そろそろ再開するか、と真面目に瞑想を再開した。 

 いつの間にか、瑠衣と仁奈も魔力を目覚めさせていた。 次は、身体の中から武器を取り出すという作業に移る。 

 これが中々大変だった。

 初日は3人とも、何も起こらないまま終わった。 午後に様子を見に来たリューには、『まだ初日だから、焦らずに頑張りなさい』と言われただけだった。

 ふと思った事があり、フィルに訊いてみた。 もしかしたら、主さまはベネディクトの事を全て知っていたのでないかという事だ。 知っていて優斗たちに黙っていたんじゃないかと。

 誤魔化し切れないと思ったフィルが答えてくれた。 そして、銀色の瞳は涙で潤んでいた。

 とても信じられないが、主さまは恋に溺れていた時期があったらしい。 当時は主さまの頭の中がお花畑で、何もかもを投げ出し、相手に陶酔していたのだとか。 

 エルフとカラブリア王国の戦いの時には、創造した世界を管理する事自体を放棄していた為、主さまはエルフの里の事や、ベネディクトの事は全く知らなかった様だ。

 「それに、ユウトたちの世界を覗いていたのには訳があってっ。 これ以上は駄目だよっ。 トップシークレットだからっ。 主さまがユウトたちに幻滅されるっ!!」

 フィルの悲壮な表情を見て主さまの為というよりかは、フィルに同情し『これ以上は追及すまい』、と優斗たちは目を合わせて無言で頷き合った。

 そして、日付が変わる前に約束した通り、優斗はいそいそと華の所へ、精神体で飛んで行った。

 ◇

 今朝は懐かしい声で起こされた。 

 きっと今後の人生、優斗が生きている間は変わらないだろう。

 監視スキルの声が頭の中で響く。

 『【ハナを守る】スキルを開始します。 一部のスキルを除いて全てのスキルが発動されます。 ハナの位置を確認、周囲に危険はありません。 【透視】スキル、【傍聴】スキルを開始して、ハナの最新の映像を流しますか? 実況中継に切り替えますか?』

 監視スキルの確認の後、優斗の意思とは関係なく、脳内にモニター画面が映し出された。 返事をまだしていないので、画面は真っ黒だ。

 (うわっ、この感じ懐かしいっ! 前世の時は、返事の前に華の映像が流されたけど……。 【透視】と【傍聴】スキルは、華が起きてからにしてくれ。 分かってると思うけど、華の不都合な所は流さないでいいからなっ)

 『不都合とは、着替えやら入浴やら、その他諸々の事ですね。 了解しました』

 (み、皆まで言うなっ……)

 枕に顔を埋め、羞恥心に耐える。 

 前世では寿命を全うしているので、今世を足せば100歳を優に超える。 

 前世では色々な事を経験済みだが、今世の年齢に精神が引きずられてしまい、15歳という思春期の年齢には、気恥ずかしいものがある。 果たして、寿命が長いエルフの思春期が何歳までか定かではないが。

 思考に耽っていると、いつもと違う声が頭の中で響いた。 優斗のベストショットと思われる映像が脳内に流れ、優斗の声でイケメンボイスが囁かれる。
 
 『おはよう、ユウト。 まだ寝てるのか? 早く起きないと、朝食に遅れるぞ』
 
 (おいっ! 何の冗談だ!)

 ベストショットの優斗の表情が愛しいものを見つめる眼差しだった為、自分自身なのだが、背中に悪寒が走り、身震いしてから勢い良く布団を捲って起き上がった。

 勿論、監視スキルが優斗の声真似をしていたのだが。 映像は何処から持って来たのかと思っていたら、優斗の記憶の底から引っ張り出し、視点を変えた映像だった。

 『いや、まだ、起きないからさ、どうしたものかと思って。 ユウトたちの元の世界にはあるんでしょ? イケメンボイスの目覚まし時計。 真似してみた。 前に主さまが楽しそうに話してたからさ、面白そうって思って』

 (ぬ、主さまっ?! そしてお前は、それを何処で聞いたんだっ!!)

 ベッドに腰掛けながら、両手で顔を覆う。 頭の中で、監視スキルの楽しそうな笑い声が響く。

 むっつりとした表情で食堂へ降りて来た優斗に瑠衣が一早く気づき、ニヤついた笑みを向けて来た。 優斗の精神が監視スキルの所為で削られた後だというのに、更に削られるのだった。

 今日も武器を取り出す為の瞑想を行う。 

 監視スキルに気が散るので、【透視】と【傍聴】スキルを停止してもらい、華に何かあれば教えて欲しいと伝える。 

 監視スキルから『OK』と軽い返事が返って来た。
 
 ◇

 全身から汗が大量に流れ、優斗と瑠衣、仁奈の表情にも焦りが浮かんでいる。

 今日も優斗たち3人は瞑想をしていた。

 優斗には戦士の能力がないのでは、と思うほどに全く上手く行かなかった。 

 武器を取り出す瞑想を朝から始めて、数時間が経っていた。 大きく深呼吸して精神を集中し、自身の中に武器があるのか魔力で探って行く。 血管の中でゆっくりと血液と一緒に魔力を流す。 

 手足の先、心臓や内臓、脳にまで全身くまなく魔力を循環させる。 全身に血液が巡ったからか、身体がほんのりと温かくなり、身体の奥で何かが動いた。

 時計の塔が12時を知らせる鐘を鳴らし、エーリスの集落中に鳴り響いた。

 12時の鐘が鳴った事で、お腹の虫が鳴って集中力が切れた。 身体の奥で何かを感じて後もう少しだったのに、全身を巡っていた魔力が霧散する。 武器は見つからず、落胆して息を吐き出した。

 随分と集中していたようで、いつの間にか昼食の時間になっていた。 4時間ほど集中して瞑想していたらしい。 

 周囲に意識が向くと、近くで誰かのお腹の虫が聞こえてきた。 隣では、固まった身体を解す為、大きく伸びをした瑠衣が全身の力を抜いて脱力していた。 

 3人とも瞑想を止め、優斗の膝の上で寝ていたフィルは、昼食の鐘で覚醒した。

 フィルは素早く銀色の少年の姿へと変わって、優斗の膝から飛び降りる。

 「もう、昼か。 優斗、仁奈、昼食の準備を手伝いに行くか」
 「そうだな」
 「私もお腹ペコペコ!」
 「ぼくもお腹ペコペコ!」

 (フィル、お前は寝てただけなのに、あんなに食べた朝ごはん、もう消費したのかっ)
 
 「簡単にはいかないもんだな。 俺、リューさんの期待を裏切りそうで怖い」
 「優斗、気長に行こうぜ。 リューさんも、焦るなって言ってただろう」

 競争しながら螺旋階段を降りて行くフィルと仁奈の足音が騒音となって聞こえてくる。

 「元気だな、あいつら……」
 「だな、俺は身体が固まって痛いっ」

 優斗と瑠衣は足取りも重く、疲れたオジサンみたいな事を言って螺旋階段を降りて行った。

 優斗が暮らすツリーハウスには、数人の役人が勤務している。 エーリスの運営を行っている役人たちだ。 働く役人たちの昼食を用意する事もタルピオス家の仕事の中に入っている。

 優斗たちを含めると、20人弱の昼食を用意する事になるのだ。

 リュディだけでは大変な作業になる。

 2段目のログハウス、キッチンで人数分の昼食を準備すると、1段目のログハウスで、雑務や住人の相談などを聞いている役人たちへお弁当を届ける。 

 役人たちは、それぞれの机で食べるか、会議室を使用する。 最後に執務室へ、リューと補佐役にお弁当を届けた。

 「ありがとう。 執務が終わった後、君たちの様子を見に行くから」
 「……はい」

 優斗は2段目のログハウス、食堂でリュディや瑠衣たちと食べた。 本日の昼食はローストビーフのサンドイッチ、キノコの野菜スープ、サラダだ。 フィルが採って来た果物が残っているので、ジュースにする。

 皮を剥いた瑞々しい果物を搾り機に挟み、力を入れて搾り出すと、瑞々しい果物のジュースが水差しに注がれていく。 

 透明ガラスの水差しの中で、搾りたてのジュースが反射で煌めいていた。

 ガラスのコップに搾りたてのジュースを注ぐ。

 (常温保存してたから、ちょっと温いな。 冷たいのが飲みたい、でもむりっ、えっ?!)

 自動で全身の魔力が循環されて掌に集まり、常温のジュースに冷たい魔力が注がれていく。

 搾りたてのジュースは、一瞬でガラスの澄んだ音が鳴るくらい冷やされ、グラスは温度差で汗をかいていた。 席に着いていた皆が優斗のグラスを見ると、一斉にジュースが入った自身のグラスを差し出してきた。

 瑠衣も隣で、これも修行の内だと『俺のもよろしく』と黒い笑みを浮かべた。

 確かに、と全員のグラスを冷やし、自身の冷やしたジュースを一口飲んだ。 

 ちょっと気づいた事がある。 生活魔法の一部だと思ったが、リュディに訊くと、冷たい水や温かいお湯を出せても、変化させる事は出来ないと言う。

 (もしかして、水の温度変化の能力があるの……かな?)

 監視スキルからの返事は無く、静かすぎる監視スキルは少しだけ気持ち悪い。
 
 隣でフィルが小さい身体で、大きな口を開けてローストビーフを頬張り、美味しそうに咀嚼している。 瑞々しいレタスをかみ砕く音がフィルの口から零れ、優斗は白銀の瞳を柔らかく細めた。

 ◇

 前世の時は、魔道家具が充実していた事もあり、生活魔法をあまり使っていなかった。 エルフの里では、そこそこ生活魔法を使う。 水を出したり、火を付けたり、掃除も簡単な風魔法でゴミや土埃をかき集める。 洗濯も桶に水を溜め、風魔法でかき混ぜる。 前世での、カラブリア王国で暮らしていた時よりも不便ではあるが、生活魔法によって快適に生活が出来るよう皆、工夫をしている。

 瑠衣たちと昼食の後片づけをして、綺麗になったキッチンとダイニングを見渡す。

 窓から差し込む午後の陽射しで、キラキラと輝くキッチンとダイニングに自己満足した。

 (こんなもんかな)

 田舎と都会暮らしの違いだろうか。 

 里での暮らしは、魔物狩りをし、野生動物は保護する対象で、食料ではない。 

 野菜や薬草、キノコを育てて木を植樹し、必要であれば木を伐採して森を育てる。 自然と共存する生活をエルフは延々と行って来た。

 今後もずっと変わらないだろう。

 野生動物を食べないのに、どうして食卓にローストビーフが並ぶのかというと。

 悪魔に憑りつかれた魔物を狩って浄化する。 悪魔に憑りつかれた魔物を、エルフの里では『悪魔憑き』と呼んでいる。 

 一度悪魔に憑りつかれた魔物は野生に戻しても、直ぐにまた別の悪魔に憑りつかれやすい為、浄化された魔物はエルフたちの食糧になるのだ。 

 『悪魔憑き』という言葉は、エルフの里でしか使わない為、他国では広まっていない。 優斗たちもエルフへ転生してから初めて知った事だった。

 後片づけが終わると、瑠衣たちと一緒に再び、5段目のログハウス、瞑想部屋へ移動する。
 
 ローストビーフは先日、牛の悪魔憑きが出た時のおこぼれである。 ビーフはビーフでも、魔物化した牛だ。 優斗たちも狩りに参加させられるが、武器の使用は禁止されている。 専ら、陽動や野生動物の避難、石での投擲などだ。 

 武器の使用は、成人してからになる。

 自身の武器を取り出せる戦士になれるかは分からないが、変なこだわりや癖がつくと、戦士の能力が目覚めた時、困った事になるからだ。

 ◇

 昼食が終わり、再び皆で瞑想部屋に籠っていた優斗たち。 底冷えする床に座って今日も無理だろうな、と思っていた時、昼前に身体の奥で感じた物が、優斗の中で弾けた。

 身体の中心に火が大きく灯り、掌に少し熱を持った魔力が集まる。 そして、頭の中で1つの言葉が浮かんできた。 

 気づけば、浮かんで来た言葉を心の中で呟いていた。

 『テュール』

 言葉の後、音で表現するならば、ズズッという擬音だろうか。 掌から木の柄の先が少しずつ出て来る。 不思議なんだが、全く痛みを感じない。 木の柄を見て、優斗の白銀の瞳が見開かれた。

 (これって、もしかして)

 木の柄の持ち手部分が全て出た。 

 次は木で出来た刀身部分が徐々に姿を現すと、短い木刀が出現した。

 自身の掌から出て来た武器を見て、優斗は固まった。 前世と同じで木刀だった。

 予想通りではあったが、今世では少し違ったようだ。 優斗が取り出したのは木製短刀で、2本出て来たのだ。

 「えっ! 二刀流なの? しかも、また今回も木刀なのっ?!」

 木製短刀で、まさかの二刀流だった。

 しかも、ちゃっかり桜柄で、武器も前世を引きずっている様だ。 ちょっと自身が恥ずかしくなって来た。

 監視スキルの声が頭の中で響く。

 『へぇ~、桜柄の木製短刀か。 僕が渡した世界樹の枝が上手く武器に変わったようだね。 武器の名は【テュール】 軍神、剣の神が宿っている武器だね』

 (も、木製短刀っ……えっ、軍神?! 剣の神が宿ってるっ?!)

 頭の隅では停止していたはずの【透視】と【傍聴】スキルが自動で発動し、華の映像が流れだしていた。 今は勉強の時間らしく、家庭教師なのか、客室で華とフィンがソファーに座り、教師の話を真面目に聞いている様子が映し出されていた。 無意識化の現実逃避である。

 何故、現実逃避しているのかというと。

 木製短刀を見て、前世で自身の得意分野を思い出していた。 幼い頃から習っていた剣道である。 そして、気づいたのだ。

 今世の優斗は、武器を何も覚えていない。 だが、脳は前世でやっていた剣道の技や足さばきの感覚を覚えている。 

 しかし、今世の優斗の身体には、剣道は叩き込まれていない。

 結論、脳と身体がリンクしていない。

 なので、上手く身体が動かないだろうという事。 木製短刀だから動き方が違う。 

 闘いの脳は、前世の様な戦い方の指示を出すだろう。 身体は指示通りには動かないだろうけど。 脳との齟齬を打ち消し、木製短刀での戦い方を一から習い直さないと駄目だなのだ。 前途多難である。 

 こうならない為に、成人前は武器を覚えさせないのだ。

 「まじかっ、なんて、面倒なっ?!」

 頭の中で監視スキルの楽しそうな笑い声が響いている。 ムッと優斗の顔が面白くなさそうに歪む。

 『でも、良かったじゃない。 前世の時には使えなかった魔法も使えるようになるし』

 (えっ、使えなかった魔法って、なんかあったか? 全部、使えてるって思ってたけど)

 『いや、使えてなかったでしょ? 苦手って言って使ってなかったじゃないか、炎魔法』

 監視スキルに言われ、思い出した。 

 前世では、専ら氷魔法を使用し、炎魔法はあまり使っていなかった。 なるほど、と納得しかけて首を傾げる。 

 二刀流になったからといって、炎魔法が使えるかなんて、分からないだろうと。

 『元々は、炎魔法と氷魔法だったでしょ? 世界樹ダンジョンで、ミノタウロスを倒した時』

 前世での話である。

 「ああ、そう言えばそうだった」

 再び、監視スキルに言われて思い出して納得した。 前世で、1本だった木刀を2本の木刀に変えて、炎と氷を纏わせて、氷と炎の刃でクロス切りした。 世界樹ダンジョンのボスは、燃えて凍りつき、砕け散ったのだった。

 (あの時みたいに、炎と氷を纏わせればいいのか?)

 2本の木製短刀を握り、全身に魔力を循環させた。 手の先に冷たい魔力と熱い魔力を流す。 そして、それぞれの木製短刀から氷の刺すような冷たさと、手をなぶる炎の熱さの感覚が襲った。

 (この感覚も懐かしいっ!)

 次の瞬間、熱さも、冷たさも、全く何も感じなくなった。 2種類の魔力を木製短刀に流し切る。 2本の木製短刀は、炎と氷を纏った木製短刀に変わっていた。
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