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4章 コバルトブルーの放牧篭
44 巨大な青
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目をこらしてよーく見ると、それは鳥の巣のようなかたちをしていた。
青くて細長いなにかをたくさん集めて寄りあわせ、一本一本を編みこんだように見えた。
(カラジョルとおなじ色だ。)
解はそう思った。
深い青色だ。
もしこれが本当に鳥の巣だとしたら、ここで卵を産んで育てる鳥は一体どれほど巨大なのか計りしれない。
遠くに見える山々の連なりと比べても、それは明らかに大きかった。
大きすぎるぞ、と解は思った。
その球体の高さはいま解が立つ山のてっぺんとおなじくらいあるのだ。
(東京ドームくらいかな?)と、解は行ったことのある遊園地に隣接する野球場を思いうかべた。
鳥の巣のような青い球体のいちばん下の部分は解の立つ位置からは見えない。
地面に埋まっているのか、埋まらずに地面の上に乗っている状態なのか、もっと近づいてみないとわからない。
解は呆然とそれを見つめた。
目をこらしてよーく見ると、編まれたような青くて細長いもの、そのところどころに緑色がくっついている。草か短い木のようだ。
ポカンとして口も目も大きく開けた解の耳に、かすかな音が流れこんできた。
プオオオオ、と響く音はホルンのようだった。
やわらかい響きだ。
解は我にかえった。
その音はほどなくして途切れ、また鳴り、それが二度三度とくり返された。
音はいくど鳴ってもみなおなじ程度の秒数で鳴り、おなじ間隔で途切れると解は気づいた。
まるで時計の時報みたいだと思った。
(だれかが鳴らしているんだ。)
その音はコバルトブルーの球体の方角から聞こえるように、解は感じた。
(あそこへ行けばこの音を鳴らした人に会えるぞ。)
解は勢いづいた。
「タン、行こう。ここからは下り道だから少しは楽だよ。」
「つかれタ。」
「もう少しだよ。あそこまで歩けばいいんだ。」
解はふたたび歩きだした。これでようやくだれかに会えるかと思うとうれしかった。
解は歩いた。
山のてっぺんからの下り道は木々の間に分けいり、枝や木の葉が青い球体を隠した。
獣道は曲がりくねり、目当ての場所への道のりをむやみに引きのばした。
それでも解は足を動かした。
ときどき文句をぼやくタンにあきれたりはげましたりしながら、解は進んだ。
やがて視界や日光をさえぎるほど林立した木々の間隔が少しずつ広くなった。
木々のすきまに青いものがチラチラと見えるようになった。
(大きい。)
山を下ったぶん、解の視線はその球体を見あげるかたちになった。
膝が痛いなと解は思った。
下り道は早く進めるが、
足にかかる負担が減るわけではない。
むしろきついくらいだ。
だけどもう少しだと解は自分に言いきかせた。
ついでにタンにも。
「もうちょっとだよ、タン。」
「おまエ、それさっきもいっタ。うそつキ。」
「うそじゃないって、本当にもうちょっとだよ。多分だけど。」
解の膝が、道がいつの間にか下り坂から平坦に変化したことを持ちぬしに伝えた。
解は木々のすき間から球体を見あげた。
さっきよりずっと間近で見あげる球体は、遠くから見るよりずっと、細長いもの同士の隙間が大きいように感じられた。
鳥の巣というより篭みたいだと解は思った。
コバルトブルーの細長いものは上から斜め下へ向かってゆるやかなカーブを描いて伸び、それがまるで編んだように入り組んでいるのだ。そして棒みたいな青く細長い先端が無数に虚空へ突きでている。しなやかなカーブは美しかった。
音楽を絵にしたような、規則性のある優美なカーブだ。
解は目と頭をいそがしく働かせた。
(あの一本一本、けっこう太そうだぞ。こっちの世界の植物なのかな?)
そのとき解は気づいた。
篭のような球体のなかでなにかが動いた。
解は足を動かしながら目にも注意を集中させた。
近づくにつれ篭のすきまがよく見えるようになっていく。
(なかに動物がいる。それも一匹じゃない、たくさんだ。)
バサッ、と音がした。
球体の隙間からなにかが飛びだした。
解はそいつをじっと見た。
まっ白な身体の生きものだ。くねくねと動くため、解は目でそいつのかたちをとらえるのに苦労した。
はじめ解の目にそいつはヘビのように見えた。
が、よくよく見ると短い足がある。
解は足の数を数えた。四本だ。
ほどなくしてそいつは篭の表面に顔を近づけてしばらくじっとした。
そして顔をあげ、身体をくねらせてふたたび大きな青い篭のなかへ引っこんだ。
(飛んでいる。カラジョルと一緒だ。ここの人間も動物も飛べるのがふつうなのかな。)
でもタンはちがう、と解は気づいた。
もしかしてタンもそのうち飛べるようになるのだろうか、たとえば卵から孵ったりしたら、と解は考えた。
殻のなかのタンの身体は一体どういうかたちなんだろう、とも。
不意に、視界が一気に開けた。
野原へ出た。
解は足を止めた。
そして目と口をポカンと大きく開けた。
山のてっぺんで大きな青い篭をはじめて見たときとおなじように。本日二度目のおどろきが解をおそった。
コバルトブルーの球体、篭のような、巨大なドームのようなそれは、下の部分が地面に埋まりもせず、転がっているわけでもなかった。
その球体は宙に浮いていたのだ。
青くて細長いなにかをたくさん集めて寄りあわせ、一本一本を編みこんだように見えた。
(カラジョルとおなじ色だ。)
解はそう思った。
深い青色だ。
もしこれが本当に鳥の巣だとしたら、ここで卵を産んで育てる鳥は一体どれほど巨大なのか計りしれない。
遠くに見える山々の連なりと比べても、それは明らかに大きかった。
大きすぎるぞ、と解は思った。
その球体の高さはいま解が立つ山のてっぺんとおなじくらいあるのだ。
(東京ドームくらいかな?)と、解は行ったことのある遊園地に隣接する野球場を思いうかべた。
鳥の巣のような青い球体のいちばん下の部分は解の立つ位置からは見えない。
地面に埋まっているのか、埋まらずに地面の上に乗っている状態なのか、もっと近づいてみないとわからない。
解は呆然とそれを見つめた。
目をこらしてよーく見ると、編まれたような青くて細長いもの、そのところどころに緑色がくっついている。草か短い木のようだ。
ポカンとして口も目も大きく開けた解の耳に、かすかな音が流れこんできた。
プオオオオ、と響く音はホルンのようだった。
やわらかい響きだ。
解は我にかえった。
その音はほどなくして途切れ、また鳴り、それが二度三度とくり返された。
音はいくど鳴ってもみなおなじ程度の秒数で鳴り、おなじ間隔で途切れると解は気づいた。
まるで時計の時報みたいだと思った。
(だれかが鳴らしているんだ。)
その音はコバルトブルーの球体の方角から聞こえるように、解は感じた。
(あそこへ行けばこの音を鳴らした人に会えるぞ。)
解は勢いづいた。
「タン、行こう。ここからは下り道だから少しは楽だよ。」
「つかれタ。」
「もう少しだよ。あそこまで歩けばいいんだ。」
解はふたたび歩きだした。これでようやくだれかに会えるかと思うとうれしかった。
解は歩いた。
山のてっぺんからの下り道は木々の間に分けいり、枝や木の葉が青い球体を隠した。
獣道は曲がりくねり、目当ての場所への道のりをむやみに引きのばした。
それでも解は足を動かした。
ときどき文句をぼやくタンにあきれたりはげましたりしながら、解は進んだ。
やがて視界や日光をさえぎるほど林立した木々の間隔が少しずつ広くなった。
木々のすきまに青いものがチラチラと見えるようになった。
(大きい。)
山を下ったぶん、解の視線はその球体を見あげるかたちになった。
膝が痛いなと解は思った。
下り道は早く進めるが、
足にかかる負担が減るわけではない。
むしろきついくらいだ。
だけどもう少しだと解は自分に言いきかせた。
ついでにタンにも。
「もうちょっとだよ、タン。」
「おまエ、それさっきもいっタ。うそつキ。」
「うそじゃないって、本当にもうちょっとだよ。多分だけど。」
解の膝が、道がいつの間にか下り坂から平坦に変化したことを持ちぬしに伝えた。
解は木々のすき間から球体を見あげた。
さっきよりずっと間近で見あげる球体は、遠くから見るよりずっと、細長いもの同士の隙間が大きいように感じられた。
鳥の巣というより篭みたいだと解は思った。
コバルトブルーの細長いものは上から斜め下へ向かってゆるやかなカーブを描いて伸び、それがまるで編んだように入り組んでいるのだ。そして棒みたいな青く細長い先端が無数に虚空へ突きでている。しなやかなカーブは美しかった。
音楽を絵にしたような、規則性のある優美なカーブだ。
解は目と頭をいそがしく働かせた。
(あの一本一本、けっこう太そうだぞ。こっちの世界の植物なのかな?)
そのとき解は気づいた。
篭のような球体のなかでなにかが動いた。
解は足を動かしながら目にも注意を集中させた。
近づくにつれ篭のすきまがよく見えるようになっていく。
(なかに動物がいる。それも一匹じゃない、たくさんだ。)
バサッ、と音がした。
球体の隙間からなにかが飛びだした。
解はそいつをじっと見た。
まっ白な身体の生きものだ。くねくねと動くため、解は目でそいつのかたちをとらえるのに苦労した。
はじめ解の目にそいつはヘビのように見えた。
が、よくよく見ると短い足がある。
解は足の数を数えた。四本だ。
ほどなくしてそいつは篭の表面に顔を近づけてしばらくじっとした。
そして顔をあげ、身体をくねらせてふたたび大きな青い篭のなかへ引っこんだ。
(飛んでいる。カラジョルと一緒だ。ここの人間も動物も飛べるのがふつうなのかな。)
でもタンはちがう、と解は気づいた。
もしかしてタンもそのうち飛べるようになるのだろうか、たとえば卵から孵ったりしたら、と解は考えた。
殻のなかのタンの身体は一体どういうかたちなんだろう、とも。
不意に、視界が一気に開けた。
野原へ出た。
解は足を止めた。
そして目と口をポカンと大きく開けた。
山のてっぺんで大きな青い篭をはじめて見たときとおなじように。本日二度目のおどろきが解をおそった。
コバルトブルーの球体、篭のような、巨大なドームのようなそれは、下の部分が地面に埋まりもせず、転がっているわけでもなかった。
その球体は宙に浮いていたのだ。
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