天流衆国の物語

スズキマキ

文字の大きさ
100 / 112
8章 地徒人の少年がもたらすもの

99 部族を超えた会合(前)

しおりを挟む
サシブ川の川岸に八人の人間があつまった。
かい凱風ガイフウ四ツ谷よつやかなめ花連かれん親子、伊吹イブキ、アシファット族の族長トウィード、クリアドル族の族長エルグベーム。
それからもう一人、解の知らない人間も加わった。
伊吹がささやき声で解に教えてくれた。
「ブレバ族の族長メラウィ殿だよ。ついさっきブレバ族もここへ到着したんだ。」
浅黒い肌の、縦にも横にも大きな人だ。
この人もフード付きのあの上衣を着て、胸元に銀のエンブレムをつけている。
紋章は丸い輪だった。
いままで解が見たなかでもっともシンプルな紋章だ。
上衣の下に着こんでいるのは、まるで空みたいに明るい青色の服だった。

この人達の前で解はこれまでに自分が見聞きしたことをすべて話した。
話したいことはたくさんあったが、話すべきことは次のことがらだった。

コバルトブルーの電車で天流衆てんりゅうしゅう国にやってきたこと、カク・シに会ってシェルギの影を通り骨鉱山こつこうざんへ入ったこと、そこで蘇石骨ベラットを採掘したこと、レシャバールとの出会いとその死、結生が骨鉱山に残り、解はここまでやってきたこと。

凱風は解の言葉にいちいちうなずいた。
話の合間にときどき「ふむ。」とか「ふむふむ。」とうなずき、ときどきひとりごとをつぶやいたが、基本的には解の語る話に疑いをさしはさむ気配がなく、すべて実際に起きた話として受けいれて聞いているのが解に伝わった。
そしてそのことは解の口をなめらかにした。
解はレシャバールの遺言を口にした。
あのときとおなじで、解一人では不完全な音だった。
それまでは明るかった凱風の顔がくもった。
彼は言った。
「ふむ、たしかにそれは王の遺言だ。むかし私が前代の国王陛下からレシャバール陛下へその言葉を伝えた。なるほど、それならたしかにレシャバール陛下はお隠れになったのだね。ふーむ。」
凱風は天を仰いだ。
そしてやはりひとりごとをつぶやいた。
「もう一度お会いしたかったねえ。」
「レシャバールさんもおなじことを言っていました。」
解は言った。
凱風は解を見つめてうなずいた。
解はあることに気づいて凱風にたずねた。
「もしもぼくと凱風先生がこの言葉を同時に口にしたら、それは完全な言葉になりますか?」
凱風は首を横に振った。
「いいや、そうはならないと思うね。それはおなじ言葉であってもことなる言葉だよ。私にそれを伝えた王と、君に伝えた王はべつの御人だから、ちがう言葉になるのだ。一人の王が伝えた二人の者が口にしてはじめて一つの言葉になる。つまりその言葉を次代の国王陛下となる御人に伝えるためには、君の話に出てきた、君の友だちが一緒に役目を果たす必要があるというわけだね、ふむ。」
四ツ谷枢がうなずいて言った。
「つまり、次の代の国王陛下が即位なさるためには、解くんと一緒に骨鉱山へ来た地徒人アダヒトを助けなければならない、そういうことだ。」
解はなんとか話を終えた。
そこに集まった人たちは沈黙した。

いちばんに口を開いたのは、クリアドル族の族長エルグベームだ。
「ホロビシンだと、ばかばかしい!」
エルグベームは強い声で言いきった。
「ただの言い伝えだ。あの四十年前でさえそんなものは出現しなかった!」
解はこっそり首をかしげた。
(四十年前になにがあったのかな?)
解の知らない話だ。
だがこの話についてたずねるのは後にしたほうがよさそうだと解は思った。
エルグベームの言葉に反応したのはアシファット族の族長トウィードだ。
彼は短く言った。
「いま気にするべきはホロビシンよりもあの雑夙ボラスコどもだ。」
ブレバ族の族長メラウィが同意した。
「まったくもってその通り。我らブレバ族のいちばん大きな定住地にあの者たちが現れたときには、信じられないものを見る気持ちでした。あの者たちはハマゴウ峡谷の上流で、谷底に向けて大岩をつぎつぎと放りこんだのですぞ。そのせいで川は干あがる寸前です。」
エルグベームがふんと鼻をならした。
「それはこっちもおなじだ。やつらソバナ峡谷にも現れてまったくおなじことをしおった!」
トウィードがうなずいた。
「そしてシャジン峡谷でも。私は不在だったが、アシファット族の者が見た。」
メラウィが両手をこすりあわせ、その手を見つめ、それから一同を見まわした。
「あんなことをもう一度されては定住地がとても住めたものでなくなりましょう。人も家畜も乾きで苦しむことになってしまいます。」
「ふん、そんなことをさせてたまるか! 我らクリアドル族は戦うぞ!」
エルグベームの声に、トウィードがこたえた。
「あの数だ。決して容易ではない。」
「なんだアシファット族、数を前にひるんだか!」
話しあいの真っ最中だが、解はチラッとタンを見た。
さっきからタンの動きが気になって仕方ないのだ。
タンは凱風の足の指のあいだにいる。
凱風は素足にすごく大きな草履を履いていた。
足の指も甲も、やはり牡蠣殻のようだった。
その牡蠣殻にタンがくっついている。
どうもペパーミントのにおいがタンを夢中にさせているようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

処理中です...