リア充するにもほどがある!? 生徒会から始まる、みずほ先輩の下僕ライフ365日

秋月 一成

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【第四話 かつき君の不思議な夏の体験記】

【4-2】

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 帰り支度を整えたところで、みずほ先輩にそれとなく尋ねる。

「ところでみずほ先輩は取材頑張ってますけど、精神を蝕まれてないんですか」
「そんなことないよ。っていうか宇和野先輩なんでそんな大げさなこと言ったのかな」
「さあ、でも親切な人ですよね。まあ、俺はタフなんで大丈夫ですけど」
「じゃあさ、気にしないで夏休み中にどこか取材しない?」

 みずほ先輩はすでに休暇モードなのか、妙にうきうきしている。

「うーん、夏休みの取材っすか……。ちょっと調べてみます」

 スマホで近隣の観光地を検索していると、みずほ先輩がにこにこしながら俺のカバンをのぞき込んでいた。

 成績表が挟まれたクリアファイルが半分、顔を出しているのに気づいたようだ。

「ところで、かつき君の成績はどうだったのかなー?」
「まっ、まあ、予想通りっすかね」
「そんな謙遜しちゃってぇー」

 断りもなく突然、それをひょいと取り上げた。

「あっ!」

 すかさず俺に背を向ける。一瞬の出来事だった。

「ちょっ……なに勝手に取ってるんすか!」
「いいじゃない、お互いの能力を知るのは大事なことよ。パートナーとしてね」

 見られちゃだめだ! なにせ、そこにはみずほ先輩と対照的な俺のポジションが記されているのだ。

 取り返そうとすると小走りで逃げて距離を取る。

 くるりと振り返り、まるで悪気のない表情で成績表を開く。

「じゃじゃーん!」

 大げさに開いて、ためらいなく成績表に視線を落とした。

 とたん、みずほ先輩の表情から血の気が引いた。

「なによ、これ……」

 ほら、だから見せたくなかったんだ。

 冗談が通じっこない、こわばった表情で俺を見据えるみずほ先輩。

「かつき君、まさかこんな底辺にいたなんて……」
「こっ、これは、三角形っすよ。だって、俺とみずほ先輩のコンビってほら、底辺の男×高嶺の花÷2じゃないっすか」

 しどろもどろで言い訳をする。

「なによそれ! 面積関係ないでしょ!」
「それに俺、スロースターターなもんで……」
「勉強って、さいしょにつまずいたらずっと後まで響いちゃうんだってば! 何がいけなかったか、ちゃんとわかってる?」

 まさかここまでひどい成績だとは思っていなかったのだろう。

 成績不良の俺が悪いのか? 勝手に見たみずほ先輩が悪いのか?

 わからなかったが、一方的に、しかもえらく非難的に言い返された。

「その、あの……家の近くの工事が騒々しくて……」
「だったら図書室かここで勉強していけばよかったでしょ!」
「しかもテスト前にお腹を壊しちゃって……」
「整腸剤くらいあげるわよ! 体調管理だって実力のうちよ!」

 言い訳を聞き流してくれるほど、みずほ先輩は甘くない。

 それに、みずほ先輩は俺を買いかぶりすぎている。分不相応な期待は重荷でしかない。

 追い込まれた俺は、心にもないことを口にしてしまった。

「だいたい、取材の手伝いで時間取られちゃったのも原因なんすよ!」

 言ってはいけないことだと、声に出してから思った。

 時間の問題でないことはわかっていた。

 なにせ俺以上に忙しいみずほ先輩は、きっちりと申し分のない成績を収めているのだ。

 試験の成績優秀者に名前が掲載されていたから間違いない。

 聞いたみずほ先輩はわなわなと肩を震わせる。哀れむようなまなざしを俺に向けた。

「だったら……時間がないってちゃんと言えばよかったじゃない。学生の本分は勉強なんだから、無理ならわたしひとりで……」
「みずほ先輩が俺の都合を聞いたことなんて、一度もなかったじゃないっすか」
「じゃあ、夏休みはわたしが勉強を教えてあげるから」

 ありがたいとは思うけれど、俺のせいでみずほ先輩の時間を奪うなんて下僕の名折れだ。

「いや、いいっす。俺、自分の道は自分で切り開くっす」
「ちゃんと進路とか将来のこととか、考えて生きてよね。きみの人生なんだよ」

『進路』、『将来』、そして『人生』。パワーワードを三つも持ち出されたら閉口するしかない。俺にはそれに勝てる正論なんてなかった。

 そんな俺の心配なんてしてくれなくていい。余計に自分自身が情けなくなる。

 残された逃げ道は、拒絶しかなかった。混沌とした感情がやみくもにあふれだす。

「俺の未来のことなんて、みずほ先輩には関係ないじゃないっすか!」

 みずほ先輩は驚いた顔をして瞳を潤ませた。

「うそ……関係ないって思ってるの⁉」
「いや、全然関係ないっしょ!」
「かつき君、最初からそんなつもりだったの……?」
「はぁ?」

 最初からって、いったいどこからだ。

 生徒会に誘ったのも、こんなヘタレを下僕にしたのもみずほ先輩自身だ。

 でも、手を焼かせるくらいなら、俺はいないほうがいい。意を決して言い返す。

「もう、みずほ先輩とは付き合ってらんないっすよ!」
「えええっ⁉」

 想像だにしなかった、息をのむような、悲鳴にも似た叫び。

 あのみずほ先輩が発した声とは思えなかった。

「ほんとに、ほんとにもう付き合ってくれないの?」
「あたりまえじゃないっすか、そこまで言われたら一緒にいられるわけないっすよ!」
「そっ、そんなっ……!」

 みずほ先輩はまるで全身の力を奪われたかのようにその場に崩れ落ちた。

 手のひらで口を押さえうつむく姿はまるで悲運のヒロインのよう。

 なんだなんだ、下僕をいっぴき喪失したぐらいで、そこまで大げさなリアクションは釣り合わない。

 ということは、つまり俺へのあてつけに違いない。

 そう思い、俺はみずほ先輩に見切りをつける。

「もう帰ります、!」

 みずほ先輩の手からこぼれ落ちた成績表を拾い上げる。

 そして俺は煮えたぎる怒りを胸に抱え――そのほとんどは自分に向けたものだったけど――逃げるようにその場を去っていった。

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