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【間奏 南鷹先輩の「お・た・の・し・み」】

【間奏②ー3】

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 そう思って隣のテーブルを見ると、宇和野君のぶんだけはそこに残されていました。

 宇和野君は虚ろな目でのっそりと立ち上がり、私の隣に腰をおろしました。

 ひたいには滝のような汗をかいています。にきびも驚く水浸しです。

「宇和野先輩、調子悪いんすか?」

 黒澤君は無邪気に尋ねます。罪の意識がないことこそ、重い罪だと思えてなりません。

「いや、大丈夫だ、僕は冷静だ、いつもとなんの変わりもない」
「あ、そうっすか」

 全然大丈夫ではありません、原因は黒澤君ですよね、と言いたいところですが、ぐっと自分を抑えます。

 宇和野君は必死に冷静さを保っていて、涙ぐましくもあり可愛くもあります。

 ハイスペック男子の弱った姿はどうしてこんなに心がくすぐられるのでしょうか。

 こんな姿が見られるのも、黒澤君が生徒会に加入してくれたおかげにほかなりません。瑞穂ちゃんに近づきつつあった宇和野君を絶望に陥れた彼。そのおかげで私は毎日わくわくが止まりません。

 宇和野君はフルーツポンチを掬い上げましたが、指先がかすかに震えています。

 そうでしょうそうでしょう、愛しの瑞穂ちゃんと、そのハート奪い取ったにっくき黒澤君との合作のフルーツポンチ。

 そんなものを宇和野君が体内に取り込むなんてできるはずがありません。

 そこで私の胸中にはあざとい考えが芽生えました。

「宇和野君、フルーツ苦手なら私、もらっていい?」
「あっ、ああ、実はそうなんだ。ふたりには悪いが、これは南鷹に託そう」

 やった、思った通りの返答です! 私は宇和野君の腕をたぐり寄せ、スプーンの先を一思いに口に含みます。

 ああ、やっぱり美味しい! 幸せな時間の再来です!

 生徒会員たちがにやにやした顔で私たちのことを見ています。

「やっぱりおふたり、仲良かったんすね」
「南鷹先輩と宇和野先輩、お似合いに見えますよ」

 黒澤君と瑞穂ちゃんはそろいもそろってカップル認定みたいなことを言いました。

 ――それそれ、なにげに宇和野君を追いつめているんだって。だからもっと言ってやって!

 私だって気分はノリノリです。ウェーイしてますよ!

「やっぱりそう? だって、宇和野君っていろんな意味で最高だもんねー!」
「最高って、どういうことですか、宇和野先輩。まさか……」
「待て、誤解するな瑞穂! これはあくまで南鷹の主観的な意見だ。俺は南鷹のことなんてなんとも思ってないぞ」
「宇和野先輩、そんな言い方、南鷹先輩がかわいそうです!」

 宇和野君はこともあろうに瑞穂ちゃんに叱責されました。

 生徒会長とは思えないような貫禄のなさであたふたし始めます。

 ああ、やっぱり見ていて楽しい!

 私にはそんな無防備な宇和野君が、どうにも甘くてたまらないのです。

 今日の生徒会室では、皆にさまざまな気持ちが芽生えたようです。

 ちなみに私はというと――。

 彼の楽しい姿を見続ける方法を思いついたのです。

 そう、宇和野君と同じ大学を目指すしかありません!

 という理由で進学先を選ぶことにしたのです。

 そんな決意を固めた、初秋の午後の一幕でした。
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