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【第五話 みずほ先輩の壮絶な生徒会長選挙】

【5-2】

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 現二年生のメンバーといえば、お悩み相談で過激な発言をする円城嘉門えんじょうかもん先輩、科学研究部とかけもちで生徒会の活動をしている天才肌の家須満いえすみつる先輩、そして俺を下僕として従える才色兼備のアイドル、清川瑞穂きよかわみずほ先輩である。

 円城先輩は「俺が出馬したらアンチが暴れるだろうな」といって身を引き、家須先輩は「科学研究部の部長に任命されるだろうから、さすがにかけ持ちは無理だな」と辞退した。

 現在の生徒会長である宇和野先輩だって、みずほ先輩を推していたのだ。となれば候補者は一択だ。

 けれどみずほ先輩は、「わたしに務まるかしら……」と不安げな様子だった。

 俺はみずほ先輩のもとで下僕生活を続けること半年。皆に尽くす真摯な情熱を一番間近で見てきた自負がある。

 だから地道な努力をいとわないみずほ先輩こそ、次期生徒会長にふさわしいと断言できる。

 生徒会長になったあかつきには俺も一緒に頑張るつもりだ。

 最終的にみずほ先輩は納得し、立ち上がった。六人全員で手を重ねて掛け声をあげる。

「生徒会長選、絶対勝つぞー!」
「「「「「おー!」」」」」

 なぜ、生徒会で一致団結し、気合を入れて挑まなければいけないのか。それには相応の理由があった。

 生徒会長は学内生徒全員の選挙によって決められるが、たいてい候補者は生徒会が擁立し、信任投票で丸く収まるらしい。

 けれど突然、生徒会以外から立候補者が現れたのだ! じゃじゃん!

 玉城圭吾たまきけいご。父親が政治家で常に取り巻きに囲まれている、カースト最上位の二年生。入学してから一年余りで不動の地位を築いた奴はついに、学校を牛耳ろうと生徒会長の座に手を延ばしてきた。

 本来は生徒会に所属し、みんなのために尽力してきた者が生徒会長を引き継ぐのが筋なのだ。けれど生徒会の規約によれば、候補者となる権利は生徒全員にあるとされている。

 そこに目をつけて、下積みの苦労をせず、人気と知名度を振りかざして生徒会長の座を奪おうなんて、虫の良すぎる話だ。

 そんな奴が相手だから、生徒会は一丸となってみずほ先輩を応援している。

 それなのに、肝心のみずほ先輩が猫とランデブーしてるなんて!

 俺はほとほと、この学校の未来が心配でならない。



「みずほ先輩、宇和野先輩ももうすぐ来るはずですよ」
「わかってる、靴を履き替えてすぐもどるよ」

 みずほ先輩は猫たちに手を振って生徒会室に舞い戻る。ちょうどそのタイミングで、現生徒会長である宇和野先輩が姿を見せた。

 すらりとした長身の体躯に爽やかな笑顔。けれど発したひとことは意外なものだった。

「おう、おふたりさん。さては内緒でニャンニャンしてたか?」

 そのひとことにみずほ先輩の肩がびくりと跳ねる。

 どうやら宇和野先輩は猫との触れ合いを目撃していたようだ。みずほ先輩はあわてて否定する。

「ニャン……しっ、してませんっ!」

 俺は猫の餌やりぐらい、たいした罪じゃないと思っている。

 それに宇和野先輩はおおらかで懐の広いひとだ。大目に見てくれるはずだ。

「いや、めっちゃしてたじゃないっすか。宇和野先輩に隠しごとはよくないっすよ」
「おおっ、黒澤は正直で潔いな。男らしさを感じるぞ」

 ほら、やっぱり。

「かつき君、余計なこと言わないでよ!」

 みずほ先輩は条例違反が気まずかったのか、素直に認めようとしない。

 一方の宇和野先輩は犯罪者を自白させる警察の気分なのだろうか、表情がきわめて真剣だ。

「なんとなくいい雰囲気だと思ってたが、まさかな」
「はい、いい感じっす。っていうか、めっちゃみずほ先輩になついてます!」
「やっぱりそうだったか。こうなったら瑞穂、観念して認めろよ」

 みずほ先輩はついに顔を赤らめ、小声でつぶやいた。

「もうっ、あげちゃうのはいけないことだってわかってたけど……欲しそうな顔してたんだもん。内緒にしたかったのに……」

 ところがその返事に、宇和野先輩の表情が豹変する。驚きで固まり、頭のてっぺんから湯気が立ち昇る。

「おっ、おっ、おまえらふたり、マジでそこまでいっちゃったのかぁぁ‼」
「「え?」」

 みずほ先輩と俺はふたりしてきょとんとした。マジでそこまでって……何?

 そこでもう一度『三人の会話』を反芻した。みずほ先輩も俺と同じく思考を巡らせる。

 ――そして数秒後。

 みずほ先輩も俺も、その意味が理解できてはっとなった。

 ふたりで顔を見合わせて、せーので同時に先輩を指さして言い返す。

「「先輩、おもいっきり勘違いしてるー!」」

 こうして生じた誤解を解消するため、俺はみずほ先輩と猫との関係を宇和野先輩に伝えることになった。

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