リア充するにもほどがある!? 生徒会から始まる、みずほ先輩の下僕ライフ365日

秋月 一成

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【第七話 みずほ先輩と美術部の不思議な絵】

【7-3】

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 みずほ先輩と俺は結奈をカフェに誘った。おごる代わりに知っていることを教えてもらう約束だ。

 春は近いはずなのに、冷え込んだ日が続いている。テラス席に客の姿はない。

 屋内のテーブル席に空席がひとつだけあった。俺とみずほ先輩は結奈と向かい合って座る。

 シックな装いで落ち着いた雰囲気の喫茶店。ジャズの曲が流れていて、高校生には分不相応に感じる。

 けれど日常から離れた空間だからこそ、本音にアプローチしやすいのだ。家須先輩はそんなアドバイスをしてくれた。

「悪いな結奈、わざわざ時間を作ってもらっちゃって」
「ううん、ここの喫茶店、一度来てみたかったんだぁ。だからこっちが感謝、かな。――で?」
「ああ、美術部の活動についてなんだけどさ。具体的にどんなことやってるのかなーって思って」
「もしかして取材ってやつの一環?」
「あっ、そう。それそれ。広報誌のネタ集めだよ」

 みずから誘われた理由付けをしてくれるなんて、なんて奇跡の協調性女子なんだ。

「瑞穂先輩って生徒会長なのに取材も続けていてたいへんですねー」
「ううん、かつき君が支えてくれるから助かってるのよ」
「いいなぁ。そんな関係、あこがれちゃう。あっ、それで美術部の話ですけど――」

 結奈はメロンソーダをストローでかき混ぜながら思考を巡らせる。さくらんぼが人知れず溺れていた。

「インターネットで調べると、いろんな公募がありますよね? 俳句とかエッセイとか小説とか。その中には、絵のコンテストもあるんです。だから、みんなで作品を仕上げて、そういうのに応募してるんですよ」
「けっこう本格的にやってるのね。それで、入賞したりするひともいるのかしら?」
「激戦だからそう簡単じゃないですけど。でも、村本先輩と鮎川先輩のふたりは別格ですねぇ。とくに村本先輩はテクニックがすごくて、何回か受賞したことがあるんです。あたしが知っているのはアジア圏のコンテストだったかな」
「まじか、アジア圏のコンテストって、規模がすげーな!」

 そんな秀逸な絵師が美術部にいたとは驚きだ。

「学生限定の部門みたいだったけど。でも歴代の部員ではじめての受賞だって顧問の先生も興奮してたよ」

 それから結奈は村本先輩のことを話し始めた。

 村本先輩は目に映る日常の風景をアレンジするのが得意らしい。

 色と色の境界になだらかなグラデーションをつけ、その上にグレース技法で透明感を醸し出していく。スパッタリング技法で鮮やかな星營《せいえい》を散りばめたりもする。

「絵を描くところを見てるとね、何気ない校外の風景が、みるみるうちに幻想的な世界に描き変えられるの」

 結奈は絵の光景を思い出すように目を細める。

 意匠を凝らした数々の作品は、引退した今でも美術室に飾られているらしい。

「ところで結奈も絵、得意なのか?」
「うーん、あたしは得意ってわけじゃないんだけどね。うまくなりたいと思って入部したけど、なかなかねぇ……。だから潮時かと思って」
「そっか。結奈自身が後悔してなければいいけどさ。でも、部活で嫌なこととか、なかったのか?」
「えっ、それはないよ。みんな仲良かったし」

 あっけらかんと答えたから、結奈が部活を辞めるのは人間関係ではなさそうだ。結奈自身の決断によるものなのか。

「コンテストって、入選できないと、自分がどの程度かわからないでしょ。それに芸術って結局、比べられないものを比較するわけじゃない? だったら誰かのためになる生徒会のほうがやりがいがあると思って」

 結奈はガトーショコラをフォークで切ってほおばる。ひとくちがやけに大きい。

「ところでさ、美術部の前に飾られてた絵の怪奇現象って知ってる?」
「あふぅ~、村本先輩が消えちゃった件ですね。美術部でも話題になってましたけど、どうしてなんでしょう」

 片方の頬をケーキでふくらませたまま答える。どうやら結奈に心当たりはないらしい。

「ところで消えた村本先輩の右隣は結奈ちゃんで間違いないのかな」
「あっ、そうなんです、よくわかりましたね!」

 結奈はみずほ先輩の推察を聞いて、こくこくと首を縦に振る。けれど俺は疑問に思った。

「この順番、どうして一年生の結奈が真ん中のほうにいるのさ」
「あっ、鮎川先輩があたしの場所をここに指定したから」
「鮎川先輩はこの左側のひとよね。あなたを特別扱いしたかったのかな」
「わかりませんけど、ちょっと特等席の気分かも」

 光が差すような笑みの表情をみせる。そこに嘘の気配はない。

「そういえば、村本先輩と鮎川先輩ってどんな関係だったの」

 意外な質問だったのか、表情がぴたりと固まる。

「あ、えと……。とっても仲良かったです。まわりは恋人になればいいのに、って思ってたくらいなのに、どっちも草食系で、だから進展はなかったみたいです」
「そうなんだ。でも、ふたりの進路ってどうなったのかな」
「ふたりとも東京の大学を目指してたみたいです」
「へぇー。結局どうなったか知ってる?」
「さぁ……」

 結奈は目をそらしながら首を傾げた。しばらく無言のときを過ごす。

 そこでみずほ先輩がパンと両手を合わせた。

「うん、これで聞きたいことは全部。今日は来てくれてありがとう」
「いえいえ、あたしのほうこそ嬉しかったです。憧れのみずほ先輩に誘ってもらえるなんて。それにごちそうさまでした~」

 そう言って結奈は目を細めて笑う。

 けれど俺はなんとなく、笑顔が湿り気を帯びているような気がして、胸がざわめいた。

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