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「私は、梅香もきょーちゃんも、大好き。だから、大好きな2人が付き合ったらすごく嬉しいなって思ってるよ!」

 爆弾が投下された。そして、爆心地の空気はさっきよりもはるかに凍てついた。

 状況を把握できない梅香は、もはやモナ・リザみたいな表情をしている。そして爆弾魔、らいちも様子がおかしい。

「ふふ。あーそろそろ、帰らなきゃ……じゃあ、あとは若いもんに任せるから!」
 らいちはそう言って、俺の右手と梅香の左手をとり、両手で包む。
「2人とも、大好き!……じゃあね!」
 大袈裟な別れの儀式をして、逃げるようにその場を去っていった。
 取り残されたモナ・リザこと梅香が、口を開く。
「私、家族と食事に出かけるの午後なんだ。まだ時間あるからさ、杏ちゃん、ちょっとツラ貸せや」
 なんか口が悪い。雰囲気的に「御意」と言うのが精一杯だった。

 例によって、公園のベンチでコンビニコーヒーと柿ピーだ。梅香は俺を気にかけることなく、ピーナッツ9対柿の種1の割合で食べている。俺はしょうがないから、あまりコーヒーと合わないなと思いながら柿の種だけをつまんでいた。
「で、昨日の夜泊まったんでしょ? らいち」
「え?」何故バレているのか。
「面倒だから、とぼけないでいいよ」
「……あ、はい。泊まりました。って何でわかったの?」
「らいちの髪の匂いがいつもと違ってた。同じ匂いさせやがって……」
 なるほど。思えばらいちをハグした辺りから、梅香の様子がおかしかった。
「で、2人きりでお泊まりして何があったの?」
「特に何も」
「お泊まりらいちと2人きりで何もないとか……杏ちゃんはインポテンツなのかな?」
 お泊まりらいちって何だよ。発想も昭和のおっさんだ。
「いや、そんなことはない。理性を持っているだけです」
 俺も正直何かあると思ってたよ。でも、告白して振られたことぐらいしかなかった。
「あ、そうだ。なんかあった。俺、告った」
「は? 何それ?」
「らいちと梅香、両方好きって言った。そんで、友達でいたいからって振られた。あと、らいちが、俺と梅香が両思いだから寂しいって言ってたから、否定しといた。って言っても、勝手に梅香が好きなのはらいちだとか言えないから、違うと思うよーくらいしか言えなかったけど。そんくらいかな」
 らいちが泊まったのを秘密にしてたのは確かに良くないけれど、俺だって悪いことをしたわけじゃない。むしろ頑張った方だ。そう思うと、つらつらと言葉が出てきた。
 梅香は暫く遠くを見つめて考え込んでいたが、一度深くため息を吐き、こちらを向いた。
「私、明日。らいちに告るわ」
 百合展開だ。しかし何故か喜びきれない。苦渋の決断をしたような表情を見ると「……おう。がんばれ」とぼやきに近い声をかけることしかできなかった。

「杏ちゃんには苦労かけるねって声をかけたいけど、なんか腹がたつから言えなくてごめん」
「おう。よくそんな心境でそこまで言えたな。えらいえらい」
「上からしゃべんな。ぶん殴るよ」
 鋭い視線で刺される。今の梅香はまるで手負いの獣だ。
「はい、すみませんでした。ってか、梅香は告白するつもり、なかったの?」
 梅香はしかめっ面を緩ませ、小さくため息ついた。
「なかった。大体ダメだろうし、ダメになったら友達にも戻ってもらえなさそうだし。逆に言えると思う?」
 確かに。今までその辺をあまり深く考えていなかった。可能性が低い上に、友達にも戻れない。告白のリスクが高すぎる。
 梅香の苦しい立場を、俺はわかっていたつもりが全くダメだ。
「玉砕したら色々と付き合うんで、頑張ってください。ケーキ、ホールで買う準備はできてる」
 なんとか空気を緩めたくて、必死でくだけた雰囲気を出す。彼女もそれを感じたのだろう、無理矢理口角を吊り上げた。
「ありがと……っあーーーー高校生活、ずっと片想いで過ごしたかった……私には胸が当たった回数を毎日数えるくらいでちょうどいいのに……クッソ! 杏ちゃんのあほ」
 梅香はうわ言のように喚いた。
「それで気が済むならいくらでも言えよ」
「杏ちゃんのインポテンツー!」
「それは違う」
 少しだけ調子を取り戻した梅香を確認して、別れる。

 梅香、がんばれ。心から祈る。

     
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