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聖女さん、見切りをつける

私、ストライキします!

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 私はセレスティア。18歳。職業は聖女という名の付いた、単なる奴隷。

 そう、奴隷です。

 国にこき使われ、貴族にこき使われ、民たちからもこき使われる。そんな悲しい奴隷です。
 でも、それだけならば、まだ救いはあったかもしれません。

 私の待遇は、控えめに言って最悪です。そこら辺の虫さんの方が、まだいい生活を送っていると言えてしまうくらい、悲惨です。

 いやいや、流石にそれは言い過ぎでしょう。
 そう、思われた方もいるかもしれませんので、少しだけ私のお話しをしましょう。
 良ければ、聞いてください。


 聖女になる前の私は、路地裏でゴミを漁り、泥水を啜ると言う生活をしていました。
 物心が着いた時には、既に親の姿は無く。路地裏にいました。

 当然、誰かが食べ物をくれるということもないし、ましてや天から降り注ぐ、なんてこともないです。
 だから私は、生きるためにゴミを漁りました。見つかると叩かれるから、こっそりと隠れながら。

 そんなある日、私の生活は一変します。

 神殿の人がやってきて、私にこう言ったのです。

「あなたは『聖女』の力を持っている。是非我々と来てほしい」

 と。
 よく分からなかったけれど、その人たちはとても綺麗な服を着ていたから、ついて行けばご飯が貰えるかもしれない。そう思って、ついて行きました。

 結果、私はご飯を貰えました。
 それはもう美味しくて、夢中になっている間に契約を結ばれてしまっていたようです。
 そして私は、聖女様になりました。

 聖女になるための訓練は過酷を極め、

 死ぬほど苦い魔力回復ポーションを、ゲロを吐きながらも何とか飲み干し。
 何度も気絶しながら魔法の練習をし。
 白目を剥きながら魔法を使い続け。
 ポーションに対して体が拒否反応を起こそうとも、顎を掴まれて無理やりポーションをねじ込まれ。

 そんな風にして、私は成長していきました。

 聖女になってからも過酷なのは変わりませんでした。むしろ、人々の感情が混じるようになった分、より酷くなったと言えます。

 死ぬほどキツイポーションを飲みながら負傷した人を癒しても、
「もっと早く治せよ! グズが!」
 と罵られ。

 裏でゲロを吐きながらも、頑張って回復魔法の行使をしても、
「お前がグズグズしているせいで後遺症が残っただろうが! 死んで詫びろ!」
 と謗られ。

 近寄るだけで体が痛くなるほどの強力な呪いを、泣きながら解呪しても、
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
 と呪詛を吐かれ。

 また、こちとらゲロマズポーションを何度も何度も飲みながら、頑張って魔物を弱らせる結界を維持しているというのに、それを知らない畜生たちは、私に対して、

「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の優秀な騎士たちが傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。能無しが……」

 そんな罵詈雑言を浴びせかけてきます。

 テメェらはあのクソマズポーションを一度でも飲んだことがあるのか!? あぁん!? いっぺん飲んでから文句垂れろや! ブタクソどもが!!!

 ……と、言いたいくらいです。

 お給料なんて、月に銀貨一枚です。薄給もいいところです。ブラックです。
 イメージしやすいようにお金の価値を説明するならば、

 日雇いの肉体労働者さんたちで、月に銀貨5枚から金貨1枚ほど。
 串焼き屋さんなどの露店を営めば、月に金貨3枚から、人気なところで20枚ほど。
 あちこちを行き来する行商さんで、月に金貨20枚から50枚ほど。
 大商人さんで、月に100枚~となります。

 一般家庭は、一世帯四人と仮定するならば、月に金貨が3枚から5枚あれば十分に足ります。

 ちなみに金貨とは、1枚で銀貨10枚分の価値があるので、私のお給料は彼らの十分の一、百分の一、となります。
 回復魔法の担い手は希少だと言うのに、これではあんまりです。

 そう思って、抗議したことも幾度かありました。
 でも、その度にゲロマズポーションが1本追加されました。最低です。クズです。鬼畜です。

 今現在、私は一日でそれを20本飲んでいます。普通の人がにおいだけで顔をしかめるような、クソ不味いポーションを、一日で、20本です。普通の人なら、一生を通して一本飲むことすらもないという、そんな効果だけは抜群なポーションを20本です。

 感謝をして貰えるのならば、まだ頑張れたのに。
 誰も、感謝してくれない。
 手こそ上げられ無いものの、待遇は殴られるよりも如実に、私の心身を殴りつけてくる。

 正直言って、もう限界なのです。こんな奴隷生活は。

 だから私は、ストライキすることにしました。ネグレクトでしょうか?
 そこら辺は分からないですけど、とにかく逃げ出します!
    寛大な私でも、さすがに怒ります! もう私は、我慢の限界だ!!!

 お前らなんて、もう知らねー! ばいばーい!
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