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聖女さん、見切りをつける
私、逃走中です!
しおりを挟むこんにちは。極悪ブラック環境から逃げ出した、元聖女のセレスティアさんです。
逃げ出してから一日経ちましたが、今、私はとても驚いております。
と言うのも、大人でも失禁を禁じえないほどのグログロポーションを、飲まなくていいのです。
文句を言われることもありませんし、手足を拘束されて飲まされる、ということもありません。
何より、罵詈雑言を浴びせかけてくるクソどものことを考えなくてもいい、と言うのは、私にとってはこれ以上ないほど最高です。
今までは自分を殺してでも、誰かの役に立たねば、なんて考えていましたが、そんな物はクソ喰らえ。今ならば、中指を立てながらそう言ってやるところです。
ただ、私は困ったことに、お金がありません。今までコツコツと貯めてきたわけですから、無一文ということはありませんが、金貨にしてわずか2枚です。
宿屋は安いところでも一日に銀貨1枚かかるので、食べる物を考えると、早急になんとか金銭を得る必要性があると思います。
というか、そうしないと死んでしまいます。
なので、なんとか仕事を探したいところなのですが……。
実は、この国では女性の立場というものがかなり微妙で、お仕事を探そうとしても、まともなものは貴族家や大商人のお家の侍女くらいしかないのです。
パン屋さんや踊り子、遊女などもありますが、パン屋さんは薄給で、その他は嫌です。
なので、私は今非常に困っているところなのです。
お仕事がないと、生きていけません。路地裏生活に戻ってしまいます。
ぶっちゃけ奴隷生活よりかはマシですけど、それでも好んでなりたいものではないでしょう。
少なくとも私は嫌です。だって生ゴミは臭いしまずいですからね。ポーションよりマシかもしれませんが。
とりあえず、この国から逃げ出すのは確定ですね。
そうしないと、いつ騎士たちが私を捕まえに来るか分かったものではないですからね。
回復魔法をかけ続ければ一昼夜走り続ける事もできますし、早くこの王都から逃げてしまいましょうか。嘔吐ばかりしていた王都、なんちゃって。
さて、王都を抜け出そうと決めた私ですが、またまた困っております。王都の門を潜れません。
理由は簡単。城の門番さんだけでなく、城壁のところの門番さんにも顔を覚えられているんです。
王都をぐるりと囲うようにしてそびえる壁。そこには四つだけ開かれた場所があり、扉もつけられているのです。出入り口はその四箇所しかないのに、門番さんは私を通してくれないから、通れない。
困りました。
お金云々の前に、この王都を抜け出せないのでは話になりません。
どうしましょう……。
困っていると、さらに2日が経ってしまいました。
本格的にヤベー状況です。
なぜなら、王国軍が総出で私の事を探し始めたからです。
国は私に多額の懸賞金を懸け、捕まえた者にはそれとは別に貴族位をもやる! などと言っています。
かなりガチです。まじのガチです。目がガンギマってそうで怖いです。
きっと王国の方々は、私の有用性というものを半分くらいは理解しているのでしょう。だからこそ、私を逃さんとヤケになっている。
それとも、「便利な道具が~」と思っているのでしょうか? まあどちらにせよ捕まっていいことはありませんから、本格的に逃げる手立てを考えなくては。
とは言っても、作戦など、思いつこうと思っていい作戦を思いつけば、軍師さんなんていらないんですけどね。
とりあえずは、黒いマントをかぶりながら逃げ伸びましょう。話はそれからです。
最悪の場合はゴリ押しでも良いですしね。
「ん? ……貴様、そこの黒フードをかぶった……、ってオイ! 逃げるな! まて!」
やべぇ。早速バレそう……。
王都を舞台にした鬼ごっこは、呆気なく私の勝利で終わった。
あちらはただでさえクソ重い鎧を纏っているわけですし、私のスタミナは実質無限なので。初めから勝ち目などないのですよ。フフン。これが君たちに酷使されて身につけた、私の力ですよ。
そんな事を考えながら、目についたお店に入った。
そのお店は古本屋のようで、並んでいる本は全てボロボロになっている。
一口に王都と言っても、真ん中から遠く離れた壁の方は、どこもこんなモンだ。すごく廃れていて、今にも倒壊しそうな建物ばかりが並んでいるのだ。
今の私は古本屋になど用はないので、そのまま踵を返して店を出ようとした。
しかし、それより少しだけ早く声をかけられた。
「こんにちは。お客さんかい?」
店の奥から出てきたのは、今にも倒れてしまいそうなおじいさんだった。
声も嗄れていて、少しだけ聞き取りにくい。
「いえ。私は、たまたま迷い込んでしまっただけですので。すみません。これで失礼します」
軽く会釈をして店を出ようとすると、またおじいさんに呼び止められた。
「少し待ってはくれないかね。時間はそうは取らせないよ。
君の声を聞いて、少し話をしたいと思ったんだ」
椅子を二つ用意しながらおじいさんはそう言うが、私の方も一応、急いでいる。なんせ今の私は追われる身なのだから。
ここがいくら芥溜の貧民街とは言え、王国軍もいずれはここまでやってくるだろう。
そうなると、私は本格的に逃げれなくなってしまう。
だから、出来ることならばそのまま無視して出て行きたかったのだが、なぜだか私の体は前へと進み、気付けば椅子に座っていた。
なぜだろう?
自分でも、自分の行動が理解できませんでした。
でもその答えは、意外な事に、おじいさんの口からもたらされたのです。
「座ってくれてありがとう。
さて、お嬢さんには時間が無いと見えるし、急ではあるけど本題に入ろうかね。
まず、儂がお嬢さんを呼び止めた理由じゃが……、お嬢さんは、聖女様なのだろう? ずっと、お礼を言いたいと思っておったんじゃ。
あの時、ヘロヘロになりながらも、儂に回復魔法をかけてくれた事、本当にありがとう」
そう言って、おじいさんは私に対し、深深と頭を下げました。
何を思った訳でもない。ただ、『感謝を伝えられた』だけ。
それなのに、
「……ああ、すまないね。泣かせるつもりはなかったんだ。ほら、これを使いなさい」
ぐすぐすと鼻がなるのは、おじいさんが言った通りに泣いているから、なのでしょうか。
差し出された布を顔に当てると、粘っこい液体が付着していました。
それを見て、また涙が溢れてきました。
「うわあぁぁぁぁぁぁん」
「よしよし。今までさぞ辛かったろう。もう大丈夫じゃよ。よしよし」
そう言って、おじいさんは私が落ち着くまで、頭を撫で続けてくれました。
今まで十数年と生きてきましたが、こんなにも泣いたのは、産まれて初めてでした。
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