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聖女さん、帝国へ行く

私、弟子をとります!

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 全ての人の準備が終わり、積み荷も全て馬車に載せ終えました。
 早速出発です!

 今の私は、冒険者の方々と一緒に歩いています。馬車に揺られるのもいいですが、今は少年が寝ているので、私は歩きです。
    ちなみに、服装はもう変えました。冒険者っぽい服はしまって、今は村娘のような格好をしています。

 もう慣れてしまった門での検査を終え、街を出ました。
 帝国領までは、最短距離を進んでも街二つ分あるそうです。森を突っ切れば四日くらいは短縮出来ますが、安定しませんし、何より危ないとのことで普通の道を行くことになりました。

 本当は私がいるから問題ないんですけどね。まあ私も、ガタガタと揺れる道より、揺れの少ない道の方が楽でいいんですけどね。

 ここから次の街までは、五時間くらい掛かるそうです。休憩も三十分程度で、着く頃には夜ですね。
 ただこれはすんなりと進めた場合の話で、魔物が出てきたらその分遅れます。どうしても足を停めざるを得ないですからね。

 今の王国では魔物の動きが活発化しているので、十分に有り得そうです。ただ、私は魔物と戦うのなんてメンドくさいことはしたくないので、事前に次の街までの道を作っておきました。結界を二つ並べて、壁みたいにしちゃう形です。これで無視できます。

 私たちが無視した魔物は、王国の人たちが何とかしてくれるでしょう。押し付けたとか言われても困ります。本来は国のお仕事ですし、人望のない自分たちを恨んでくれ! としか言えません。ざまぁwwww

 そんな訳で、私たちは今、のんびりのんびりと街道を歩いています。魔物に囲まれながら。

「ひっ……こっ、これ、マジで大丈夫かよ……」
「……ワタシハダイジョウブ……ダイジョウブ……」

 魔物の顔って凶悪で怖いですもんね。しかもガオガオ言ってますし。結界も見えないようにしていますから、皆さんからしたら不安で仕方がないのかもしれませんね。

「あの、何度も言ってますけど、結界があるので大丈夫ですよ? 私たちが襲われることはないので」

 そうやって教えてあげても、

「いやいやいや!? 結界があるとかないとかの問題じゃないんだよ!? ねえ分かる!? コレ! すっごい怖いの! 嬢ちゃんは大丈夫でも、俺たちはこんな魔物の大群に囲まれたことも、こんなに近くで見たこともないの!!!」

 と、すごい剣幕で言い募ります。早口です。

「そう興奮しないでください」
「興奮もするわ!!! こんな状況で落ち着いていられるのは嬢ちゃんくらいなんだよ!」

 真っ青だった顔が、今度は赤くなっています。顔色がお忙しいですね。
 そうやって騒いでいると、馬車の荷台から呻き声が聞こえてきました。

「うぅ……ん……」
「目が覚めましたか?」

 先程の少年は、まだ眠たいのか目を擦っています。頭も回っていないのでしょう。目を閉じかけながら、辺りを見回そうとしています。

「ここ……ぁ?」
「馬車の中ですよ」
「んぁ~?」

 寝起き故に間延びのした声が、なんとも可愛らしいです。私に弟はいませんが、いたらきっと、こんな感じなのでしょう。

 少年は、やっと私の方を見ました。その瞬間に目を見開いて、徐々に顔が赤くなっていきます。
 きっと、寝顔を見られたのが恥ずかしかったのでしょう。孤児だったのに、変わった子ですね。まあ、変わっているから他人を助ける、なんて無茶をした訳ですしね。

「おはようございます。よく眠れましたか?」
「へぁっ、ぁっ……えと、あぅ……」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ? 私は君のことを食べたりしませんから」

 孤児にとっては、寝て起きたら目の前に知らない人が! という状況は思いつく限りでは最悪ですもんね。殴られる可能性もありますし。思わず身を硬くしてしまうのも分かります。

 そこから何十分とかけて、ゆっくりゆっくり話していたら、ようやく私は安全な人だと理解してもらえたようです。
 そして聞いてみると、やはりこの子も孤児だったようです。ただこの子は、捨てられたとか両親を亡くしたとかではなく、攫われたそうです。
 運ばれている最中に、誘拐犯たちは魔物に食い殺され、逃げ延びたこの子は孤児になった、との事です。

 ですがこの子の中では、もう整理が付いているようで、ちゃんと前を向いていました。

「今は、隣の街に向かって進んでいます。最後の目的地は帝国領です」
「そう、ですか……。分かりました。それで僕はどうなるでしょうか?」
「君が望むなら、私が育ててもいいですよ。君のご両親を探しながらの旅、って言うのも悪くないです」

 どうせ私は、世界中を旅して回る予定でしたし、目的が一つ二つと増えるくらいは大した事じゃないのです。むしろ、目的が増えた方が楽しそうでいいです。
 人数だって、一人より二人の方が楽しいでしょう。喋る相手は偉大です。

 少年は何か考えた素振りを見せてから、私が強いかどうか訊ねて来ました。魔物に襲われたことがあると言っていましたから、きっと怖いのでしょう。

「安心してください。私はとても強いですからね!」

 そうするとやはりホッと息を吐いて、胸をなで下ろしていました。
 それから、

「あの、僕を弟子にしてください!」

 そう言ってきました。
 力は、少しでもあった方が有利になります。暴力というのは、強力な武器です。孤児ならば、それを嫌という程知っている。

「いいですよ。君のご両親が見つかるまで、私がお師匠様になってあげます」
「ありがとうございます!」

 こうして私に、初めての弟子が出来ました。

 ところで、弟子って何を教えれば良いのでしょうか? 実践……?
 とりあえず、魔物の群れに突っ込ませてみますか。

 今後の算段を付けながら、私は少年を眺めました。
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