嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐

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聖女さん、帝国へ行く

私、魔物を間引きます!

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 少年から目線を外して、魔物の方を見ます。

 そしてまた、少年の方を見ました。

 傷が癒えたとは言え、彼の体は痩せ細り、腕や脚は木の枝のように細いです。

 こんな状態で魔物に突撃させても、無駄死にするだけかも? と思った私は、今回は止めておくことにしました。別に私は、彼を魔物に喰わせたいと考えている訳ではありませんからね。

 育てるにはやはり、育てるべき環境というものがあるでしょう。私は確かに強くなりましたが、環境は地獄のようでしたし、私まであんなようなことをしたら刺されそうです。

 やっぱりやめましょう。

 ただ、弟子にしたからには強くしてあげなければならないので、計画はちゃんと立てておきましょう。今は魔物を見せるだけでいいかな?

 相変わらずパカパカーーパカパカッパカッッッと馬車は進み、魔物たちはそれに釣られるようにして壁に張り付います。ただでさえブサイクな魔物の顔が、壁に押し潰されそうになっていて、さらにヘンテコになっています。残念魔物です。

 これなら大丈夫でしょう。

 そう思って、私は少年ーーいえ、弟子に声をかけます。

「弟子よ。よく聞いてください。私は君を、強くする義務があると思っています。魔物とも戦えるように、と。
 ですので、今から魔物の中に突っ込みます。私と一緒に、ですが」

 それに対して、弟子は静かに頷いた。

「はい」

 恐怖は無いようだ。その事に安心しながら、弟子を抱っこして馬車を飛び降りようとすると、周囲から声を掛けられた。

「いやいやいやいや!?!? ま、待てよ待てよ!? 嬢ちゃん頭大丈夫か!?」
「えええぇぇえぇぇぇ!!? あ、アレの中に突っ込むんですか!? ご自分から!?」
「ああ、我らが女神……」

 確かに見た目は怖いですけど、騒ぎ立てるほど危険でもありませのに。この人たちはよっぽど怖いんですね。私も配慮が足りていませんでした。

「大丈夫ですよ! ザッと見ですけど、トカゲさんと小鳥さんとネズミさんと、その他大勢といった魔物の群れです。この子を抱えていても私が死ぬことはありませんし、返り血で汚れることもありませんからね」
「いやいやいや!!? そういう問題なの!? てかその子震えてるけど!?」
「トカゲ!!? まさかあのファイアードラゴンのことですか!?」
「……ことりさん…………Aランクのカイザーバードが……ことりさん……」

 商人さんに言われ、私の腕の中にいる弟子を見ます。

 弟子は、まるで「どうしたの? お姉ちゃん?」とでも言っているかのような目をして、小首をコテッと傾げていました。

 やはり商人さんは恐怖によって、物事が少々大袈裟に見えているのでしょう。それは、駆け出しの冒険者さんたちも同じようです。

 確かにこの国の騎士が"使えなかった"から仕方ないのかもしれませんが、他国の騎士たちなら、何人かいれば討伐できるレベルの敵です。だから私にとっては、ほんのオヤツ程度なんですよね。なので全く怖くありません。

 私の弟子も大丈夫そうです。恐怖に震えてもいませんし、涙を溜めている様子もありません。

 問題ないと判断し、いざ突撃です。

「あ、馬車はそのまま走らせておいて構いません。適当に間引いたら戻ります」
「「「「「!!?」」」」」

 そう言って、ぴょんと飛び降りました。絶叫が聞こえた様な気がしましたが、きっと気の所為でしょう。

 そして、トンと着地します。馬車の速度は、私の最高速度に比べるまでもないので余裕です。

 一応弟子の様子を確認すると、先程と同じようにコテンとしていました。目元が赤いような気がしますけど、寝起きで擦ってたのが赤くなっちゃったかな、と納得して、結界に向けて歩きます。

 が、ここで困ったことが。

 なんと、魔物たちは私に群がってきているのです。そのせいで、結界から出ることができません。

 仕方が無いので、私はその場にしゃがみ、足を一気に押し出しました。

 瞬く間に変わる視点。ビューン、ゴォォォと感じる風。

 やはり"ジャンプ"(中)をするのは楽しいですね。そんな事を考えながら、噴出した魔力をその場に固定して、空に留まります。

 その場から下を見ると、やはり私に群がっているようで、私のいる空中を向きながらワンコたちがガウガウやっていました。小鳥さんも飛んできます。

「弟子。ちゃんと見ていてくださいね」
「……は、はひ」

 ? 少し噛んでしまったのでしょうか。まあ、急に跳び上がってしまいましたしね。次からは気を付けましょうか。

「では、地上に戻りますよ?」

 小鳥を全てデコピンで堕としながら、そう告げます。失敗したら正す。大切ですよね。

 地面の方に頭が向くように反転し、固めた魔力を足場にしながら、蹴る。そうすれば空に上がった時とは逆に、一気に地上魔物が近くなります。

「あ、邪魔ですね。着地部分くらいは残してもらわないと」

 私は限界まで魔力を抑えて、《火の球ファイアーボール》を放ちました。

 そうすればいつかの時のように、地上に特大の穴が空くこともなく、魔物をーー一体だけ消しました。

 当然、その隙間は一瞬で埋まります。

 止まらない勢い。地上魔物はもう目の前に。

 仕方が無いので弟子を左腕だけで抱えながら、右腕を曲げ、溜めの姿勢。そして、パンチ。

 ドゴォォォォン

 腕に魔力をめ過ぎたのか、半径10メールが吹き飛びました。穴も、少しだけ。

「……弟子よ。覚えておいてください。魔力の調節を間違えると、こうなります」

 そういうことにしました。はい。私がミスったのではなく、あえて極端に見せることで、出力調節の大切さを教えたのです。

 そのおかげで、弟子もコクコクと頷いています。私の胸に顔を埋めながら。音にビビってしまったのですね。

「さて、それじゃあやりますよ。弟子。ちゃんと見ていなさいね」

 コクコク

 弟子はやっぱり、頷いた。
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