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聖女さん、帝国へ行く
私、トカゲは嫌いです!
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弟子を抱えながら、魔物の中を疾駆する。
出来るだけ参考になるように、と考えながら、魔力は極々最小限に。右腕を振り抜けばブタさんの頭部が爆ぜ、足で捌けば、相手の足がそのまま千切れて飛んでいく。
一秒毎に新たな血が舞い、地面に赤黒い染みを増やしていく。
「弟子。ちゃんと見てますか?」
「……は、はひぃ……」
そう問いかけると、弱々しい返事が返ってきた。うむうむ……。少しスピードが速すぎたかな?
今の私は、片腕両足で魔物を屠りながら、絶えず移動を繰り返していました。それ故に、スピードに慣れていない弟子が目を回してしまったようです。
これでは修行に良くないです。
私は、計画を少しだけ修正します。私の弟子は、魔物への恐怖をあまり感じていないようなので、結界を張ってその場に置いておくことに決めました。そして、私の戦い方を見てもらいましょう。
本当なら、魔法一発をドカンすれば終わるんですけど。それでは修行の意味がありませんからね。
小さな半円状のドームを作る。
「《聖絶結界》。では弟子。ここで私の戦いを見ていなさいね」
「は、はい……」
弟子の顔は、顔面蒼白。今すぐにでも吐き出しそうでした。また失敗してしまいました……。ちょっと凹みます。
「むっ。邪魔ですね」
バチィィン
振り向きざまに右手の甲をぶつければ、それだけで筋肉質な二足歩行の魔物の上半身が吹き飛びました。残った下半身からは赤黒い血が吹き出し、こちらに迫ってくる魔物たちを汚していきます。
私は魔力調節の訓練も兼ねて、出力調整をしながら殴り蹴りを繰り返します。腕を横薙ぎに振るえば、半扇状に魔物たちが消し飛んで。出力を抑えて殴り飛ばせば、団子のように後方の魔物を巻き込んで。足場にしようと頭を踏めば、蹴った瞬間にひしゃげて。
弱い魔物が、どんどん消えていきます。それでも、魔物たちは私に向かって突撃を繰り返してきます。なぜ逃げないのでしょう?
刈り取った猿の頭部を放り投げながらそんな事を考えていると、炎の塊が飛んできました。それを苦もなく、ふぅぅっと息を吹き掛けることで消失させました。いえい。
事も無げに打ち消したその炎は、街に落ちれば、途端に灰燼に帰してしまうような力が込められていた。セレスティアさんはそれを、息のみで消してみせる。そして出てくるのが、Vサインのみ。Sランク冒険者が見れば、恐らく卒倒するだろう。
炎が迫ってきた方を見ると、首をもたげた赤い鱗のトカゲがいました。正直私は、トカゲがあまり好きではないです。それは赤も青も、黄も緑も、黒も白も変わらないし、翼の生えた四足の龍も、蛇のように長い竜も変わらない。私は全てのトカゲが好きではない。
なぜなら、
「トカゲって……美味しくないんですよね」
そう。美味しくないからである。セレスティアさんは美味しい食べ物が好きなのだ。
「トカゲって爬虫類ですし、エグ味が強いんですよねぇ……。ほんと最悪でした。騎士の皆さんは、よくあんなものを好んで食べてましたよね。変なの」
セレスティアさんは、街を出る前に串焼きを食べていたのだ。低ランク魔物の、ブタの串焼きを。一本、銅貨一、二枚程度の、串焼きを。
彼女がトカゲトカゲと貶めているドラゴンであるが、言うまでもなく超高級食材である。塩を適当にまぶして焼くだけでも、頬が落ちるほどの美食。
それは決して市場に並ぶことはなく、オークションですら、極々稀に出品される程度。その値段は、100gの肉だけで金貨数百枚が飛んでいくほど。
それほどまでに絶大な人気を誇り、好まれている食材が、なぜ安物のブタ肉なんぞに負けたのか?
簡単である。
それは、彼女に出される時のみゲロマズトッピングが施されていたからだ。
王国の上層部は、とにかくセレスティアを強くしたかった。それ故に、考えた。
王国「ドラゴン肉美味いし、魔力ポーションに浸しといてもいけるんじゃね?」
と。
結果は言うまでもなく惨敗。むしろ、プラスかけるマイナスで、大きくマイナスになってしまっていた。
ドラゴン肉は、魔力が豊富である。その肉は魔力を蓄積する事に長け、食べ合わせによっては魔力の増幅をも望める激レア料理なのである。
それ故、まあ、ご愁傷さまですという他ないが、彼女は最悪の最悪を引いてしまったのだ。
それによって、彼女の中では『ドラゴン=肉不味い=〉所詮はトカゲ=〉トカゲ』という方程式が成り立つに至ったのである。ドラゴンも堪ったものではない。
「まあ"邪魔"ですし、弾けといてくださいな」
凝縮した魔力を無造作にポイッと放り投げ、頭にぶつける。
パァァッン
そしてドラゴンの頭は、容易く弾け飛んだ。
血に混じって、ドラゴンの脳汁が魔物たちの頭上に降り注ぐ。
魔物たちを血の雨が十分に汚した後で、雨は止む。
それを見ながら、呟いた。
「う~ん。もういいかな? ……あ、確かトカゲは高く売れるんでしたっけ。よしっ。持っていきましょう」
魔力を噴き出して魔物を圧倒しながら、割れて出来た道をトコトコと歩いていく。そしてドラゴンの尻尾を無造作に掴み、ズルズル、ズルズル。
誇り高きドラゴンさんは、セレスティアさんによって"トカゲ"と貶められ、ついで程度に殺されて、お金になるからと死体を持ち出され、どうせトカゲだしと引き摺られながら運ばれた。
あんまりにもあんまりでもある。
近くで見ていたとある子供は、「凄い!」と思う前に、「コイツやべぇわ……」と思い始めていたとか、いないとか。
それは本人にしか、分からない。
出来るだけ参考になるように、と考えながら、魔力は極々最小限に。右腕を振り抜けばブタさんの頭部が爆ぜ、足で捌けば、相手の足がそのまま千切れて飛んでいく。
一秒毎に新たな血が舞い、地面に赤黒い染みを増やしていく。
「弟子。ちゃんと見てますか?」
「……は、はひぃ……」
そう問いかけると、弱々しい返事が返ってきた。うむうむ……。少しスピードが速すぎたかな?
今の私は、片腕両足で魔物を屠りながら、絶えず移動を繰り返していました。それ故に、スピードに慣れていない弟子が目を回してしまったようです。
これでは修行に良くないです。
私は、計画を少しだけ修正します。私の弟子は、魔物への恐怖をあまり感じていないようなので、結界を張ってその場に置いておくことに決めました。そして、私の戦い方を見てもらいましょう。
本当なら、魔法一発をドカンすれば終わるんですけど。それでは修行の意味がありませんからね。
小さな半円状のドームを作る。
「《聖絶結界》。では弟子。ここで私の戦いを見ていなさいね」
「は、はい……」
弟子の顔は、顔面蒼白。今すぐにでも吐き出しそうでした。また失敗してしまいました……。ちょっと凹みます。
「むっ。邪魔ですね」
バチィィン
振り向きざまに右手の甲をぶつければ、それだけで筋肉質な二足歩行の魔物の上半身が吹き飛びました。残った下半身からは赤黒い血が吹き出し、こちらに迫ってくる魔物たちを汚していきます。
私は魔力調節の訓練も兼ねて、出力調整をしながら殴り蹴りを繰り返します。腕を横薙ぎに振るえば、半扇状に魔物たちが消し飛んで。出力を抑えて殴り飛ばせば、団子のように後方の魔物を巻き込んで。足場にしようと頭を踏めば、蹴った瞬間にひしゃげて。
弱い魔物が、どんどん消えていきます。それでも、魔物たちは私に向かって突撃を繰り返してきます。なぜ逃げないのでしょう?
刈り取った猿の頭部を放り投げながらそんな事を考えていると、炎の塊が飛んできました。それを苦もなく、ふぅぅっと息を吹き掛けることで消失させました。いえい。
事も無げに打ち消したその炎は、街に落ちれば、途端に灰燼に帰してしまうような力が込められていた。セレスティアさんはそれを、息のみで消してみせる。そして出てくるのが、Vサインのみ。Sランク冒険者が見れば、恐らく卒倒するだろう。
炎が迫ってきた方を見ると、首をもたげた赤い鱗のトカゲがいました。正直私は、トカゲがあまり好きではないです。それは赤も青も、黄も緑も、黒も白も変わらないし、翼の生えた四足の龍も、蛇のように長い竜も変わらない。私は全てのトカゲが好きではない。
なぜなら、
「トカゲって……美味しくないんですよね」
そう。美味しくないからである。セレスティアさんは美味しい食べ物が好きなのだ。
「トカゲって爬虫類ですし、エグ味が強いんですよねぇ……。ほんと最悪でした。騎士の皆さんは、よくあんなものを好んで食べてましたよね。変なの」
セレスティアさんは、街を出る前に串焼きを食べていたのだ。低ランク魔物の、ブタの串焼きを。一本、銅貨一、二枚程度の、串焼きを。
彼女がトカゲトカゲと貶めているドラゴンであるが、言うまでもなく超高級食材である。塩を適当にまぶして焼くだけでも、頬が落ちるほどの美食。
それは決して市場に並ぶことはなく、オークションですら、極々稀に出品される程度。その値段は、100gの肉だけで金貨数百枚が飛んでいくほど。
それほどまでに絶大な人気を誇り、好まれている食材が、なぜ安物のブタ肉なんぞに負けたのか?
簡単である。
それは、彼女に出される時のみゲロマズトッピングが施されていたからだ。
王国の上層部は、とにかくセレスティアを強くしたかった。それ故に、考えた。
王国「ドラゴン肉美味いし、魔力ポーションに浸しといてもいけるんじゃね?」
と。
結果は言うまでもなく惨敗。むしろ、プラスかけるマイナスで、大きくマイナスになってしまっていた。
ドラゴン肉は、魔力が豊富である。その肉は魔力を蓄積する事に長け、食べ合わせによっては魔力の増幅をも望める激レア料理なのである。
それ故、まあ、ご愁傷さまですという他ないが、彼女は最悪の最悪を引いてしまったのだ。
それによって、彼女の中では『ドラゴン=肉不味い=〉所詮はトカゲ=〉トカゲ』という方程式が成り立つに至ったのである。ドラゴンも堪ったものではない。
「まあ"邪魔"ですし、弾けといてくださいな」
凝縮した魔力を無造作にポイッと放り投げ、頭にぶつける。
パァァッン
そしてドラゴンの頭は、容易く弾け飛んだ。
血に混じって、ドラゴンの脳汁が魔物たちの頭上に降り注ぐ。
魔物たちを血の雨が十分に汚した後で、雨は止む。
それを見ながら、呟いた。
「う~ん。もういいかな? ……あ、確かトカゲは高く売れるんでしたっけ。よしっ。持っていきましょう」
魔力を噴き出して魔物を圧倒しながら、割れて出来た道をトコトコと歩いていく。そしてドラゴンの尻尾を無造作に掴み、ズルズル、ズルズル。
誇り高きドラゴンさんは、セレスティアさんによって"トカゲ"と貶められ、ついで程度に殺されて、お金になるからと死体を持ち出され、どうせトカゲだしと引き摺られながら運ばれた。
あんまりにもあんまりでもある。
近くで見ていたとある子供は、「凄い!」と思う前に、「コイツやべぇわ……」と思い始めていたとか、いないとか。
それは本人にしか、分からない。
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