嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐

文字の大きさ
35 / 45
私、帝国領で暴れます!

私、決別します。

しおりを挟む
「ききき、きさまァァァ!!! セセセ、セレスティアだろォ!!!」

 ミーナスさんを抱き上げて、弟子の元へと戻ろうとした私に、そんな声が掛けられた。
 耳をつんざくような、不快な声。地は低音なのに、高音に変わっているキンキンとやかましい声。

 この声は、耳に覚えがあります。幾度となく、近くで聞かされてきたから。

 声の方を見ると、やはりと言うべきか、ゴミがいました。不自然に周りの席が空いている所を見ると、あの臭いは未だ解消されてはいないのでしょう。

「何を言っておられるのですか? 私はセリーですよ」

 面倒臭い事に変わりは無いので、出来ればこれで流して欲しいんですけどね。無理なら無理で、ですけど。

「う、嘘をつくなァ!!! その白金色・・・の髪は、お前しかおらんのだぁっ!!!」

 はて? 白金色? 私はちゃんと黒色の髪を着けているはずですけど……。
 そう思って髪を見ると、確かに白金色でした。

 あれ……? 髪の毛落とした?

 まあいいです。バレているのなら仕方がない。

「まあ、それはいいです。それで? 私に何か言いたいことでもあるんですか? 今なら聞いてはあげますけど、言葉は慎重に選んでくださいよ」

 弟子のお母さんを奪った事で先程の怒りは収まりましたけど、今度はアレの顔を見た事で、また怒りが再発しました。

 ちょっと思い出すだけでも、魔力が唸りを上げるほどです。ああ、不快不快。きっと、不快極まりないという状況はこの事ですね。

「ききき、きさまァ! 私に向かってその物言いはなんだァッ!!! 私はきさまのご主人様だぞォッ!」
「はぁ……」

 頭の中にまでウジが湧いているんですかね。脳を食べられ、寄生虫がウジャウジャしてるんですか。
 本当に残念な頭ですね。昔から変わらない。

 思わずため息が漏れてしまうのも、仕方がないというものでしょう。

 そんな私の態度に、首まで染め上げて怒鳴り散らしていますけど。怒りたいのは私の方なんですよ。

 私が今まで、お前に何をされてきたのか。
 ポーションだけでは飽き足らず、私の尊厳という尊厳を踏みにじってきたお前にッ! ……お前に怒りたいのは私の方なんですよ。

「……ここで死にますか? 侯爵閣下?」

 私はあれですね。怒り始めると、どうも周りを冷やしてしまうらしい。まあ、この場が永久凍土の地になろうと、クズが・・・死のうと、私は知りませんけどね。

 一応冷静な部分もありますから、無関係な人は殺しませんけど。クズくらいなら、殺したところで文句は言われないでしょう。そう、のですから。

「~~~ッッッ!!!!! ぎ、ぎざまァァァ!!!!!」

 この人、ほんとダメですね。私の殺気・・に対して、本能はちゃんと震えて警告を出しているのに。無駄に肥え太ったプライドがそれを無視して、死に向かって壁を乗り越えていく。そして私の不快感を、際限なく高めていく。

『お金を持つ』と言うのも考えものですね。その上に胡座あぐらをかいて、他者など顧みずに傲慢に成り下がってしまう可能性も、あるみたいですからね。そういう輩は、己の命の危機すらも認識出来ない様になるみたいですし、命を懸けて助けてくれる人もいないでしょう。
 全く虚しい人生です。

 やっぱり、弟子の想いを大切にしてよかったです。私はちゃんと、大切に思っている皆で、一緒に幸せになるので。あなたは反面教師には……、うーん。……まあ、使えたって事でいいか。

「じゃあお前はここで、死んでいてください。さようなら」
「!? ふ、ふざけーー」

 バチン

 ただの人間一人を殺すくらい、魔力を使えばどうと言うことは無いのです。魔法など使うまでもなく、体内に潜ませて膨張させるだけ。それだけで、人間の体は容易く弾けます。

 醜く肥え太った肉が飛び散って、ビチャビチャと汚い音を立てながら血が降り注いでいますが、私には関係ないです。ここまでは飛んできませんし。

 ……嘘でした。……体が臭い人は、血まで臭いんですね。ヘドロみたいな悪臭です。最悪です。

 でも最悪な臭いに反して、私の心は澄み渡るように綺麗になっていく気がしました。それは言うなれば、呪縛から解き放たれたみたいな感覚、でしょうか? わりとまだ残っていたんですね。

 さて、それじゃあ、お母さんを弟子の元へと届けましょうか。

「……ん?」

 空中を歩き始めてから、すぐに何か違和感を覚えました。それが何なのかまでは分からないですが、確実に何かが起こったと思います。

 呪い……? でも、そんな感じじゃ無いんですよね。そもそも、私に呪術的な攻撃は効かないはずですし……。うーん? まあいっか。

「弟子。お母さん、取り返して来ましたよ」

 そう言ってミーナスさんを降ろせば、二人は少しの間見つめ合っていました。お互いを確かめ合うみたいに。
 やがて、弟子が大粒の涙を流しながら、お母さんを呼びます。

「かあ……、さん……」
「ぇ……? ウィス……? ウィスくん……なの?」
「母さんっ!!!」「ウィスっ!!!」

 うんうん。感動の再開を果たせたみたいですね。よかったよかった。
 泣きながら抱き合っているところを見ると、本当に救出してよかったなって思います。

 この親子が感動の再開を終えるまでは、周りの人たちは威圧しておいた方が良さそうですね。息が浅くなっている人とかもいる様ですけど、この人を買おうとしてた人なので、もう少しだけ苦しんでいてください。

 あ、死んだらもちろん自己責任です。だから頑張りなさいね。私は一切の責任を負わないので!

 涙を流しながら、お互いに背中を擦りあっているところを見ると、私もうるっと来てしまいそうです。


 でも少しだけ、ほんの少しだけ、弟子が羨ましいと思ってしまいます。嫉妬、とまでは、多分いかないけど……。

════════════════
エール感謝12本目!

【報告】
本作のアルファポリス様への書籍化申請、無事に落ちました! 五日で『テメェのは無理じゃい!』って言われました! 笑
公開開始初期で、1,600ポイントくらいしかない時だったので当たり前ですね!
拾い上げに期待します! 笑

これからもよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

処理中です...