柊瑞希は青春コンプレックス

黒姫百合

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78話

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「この間授業が始まって聞けなかったことだが、もしかして高校受験の時に筆記用具一式を忘れた女の子か?」

 あの授業が始まる前、舞は過去に瑞希に助けられたことがあり、それは入試の時だと言っていた。
 瑞希が高校受験の時に助けた人は、筆記用具一式を忘れたあの女の子しか該当しない。
 もしかしたら瑞希の記憶がないだけで他にも助けた人はいるのかもしれないが、覚えていないので除外する。

「……覚えてくれていたんだ……」

 舞は嬉しいのか恥ずかしいのか分からないが、目に涙を浮かべている。
 やっぱり高校受験の時会った喪女は金森舞だったらしい。
 舞の言う通り『入試』というヒントがなかったら、あの時の喪女と今の舞を結びつけることはできなかっただろう。

 それぐらい見た目が変わっていた。

「まさかあの時の喪女が金森だったとは……金森が黙ってれば一生気づかなかったぞ」
「喪女言うな……でもそうだよね。あの時のあたしは黒髪で髪の手入れもしてなくて眼鏡かけていて暗かったから無理ないよ。むしろ、あんな姿が嫌だったから今の姿になったんだし」

 喪女みたいな黒髪で髪の手入れもしていなかった暗い女の子が、高校生になって明るくて清潔感があってギャルみたいな女の子に変身したと誰が想像できるだろうか。
 明らかに別人である。
 それが本当なら、瑞希と舞は入学前に会っているということになる。
 高校受験の時、隣で試験を受けた女の子が筆記用具を忘れた喪女が今、社交的なギャルになって目の前にいる。
 まさに『運命』というか『奇跡』である。

「さすがに受験当日に筆記用具一式を忘れる馬鹿は忘れられないよ」
「馬鹿言うな……でも改めて思うとあたしって馬鹿だよね……受験当日に筆記用具全部忘れるなんて……」

 どんなに忘れっぽい人でも受験当日に筆記用具一式を忘れる馬鹿を忘れる人なんていないだろう。
 筆記用具なしにどうやってテストを受けるつもりだったのだろうか。
 舞も『馬鹿』とからかわれるのは本意ではないらしく言い返すが、別に怒っている感じではなかった。

 自分でも馬鹿だと認め反省しているし。

「あの時の女の子が金森だから話すが、私も受験で緊張しててね」
「えっ、瑞希ちゃんも緊張することなんてあるの。いつも静かでクールなのに……椿ちゃんの時は別だけど」
「金森は私をなんだと思ってるんだ。私だって緊張ぐらいするさ。って一色は関係ないだろ」

 実を言うと瑞希も高校受験の時はかなり緊張していた。
 初めての受験。
 もし、どこの高校にも受からなかったら浪人というリスクだってある。
 これで緊張しない方がおかしい。
 いくら顔は平静を保っても、心臓はバクバクとうるさかった。
 そんな時現れたのが自分よりも焦っている舞だった。
 その表情は瑞希よりも焦っていて絶望に打ちひしがれていた。
 そんな舞を不憫に思い、瑞希は予備の筆記用具を貸して上げたのだ。
 人間、自分よりも緊張している人を見るとなぜか緊張がほぐれる生き物だ。

「だから今更だけど礼を言わせてくれ。ありがとう金森。私も金森に救われた」

 瑞希は誠心誠意込めて舞にお礼を言う。
 舞からすればかなり不本意かもしれないが、あの時救われたのは舞だけではない。
 瑞希もまた救われたのだ。
 あの時、舞が筆記用具を忘れてこなければ瑞希は緊張のあまりいつも通りの力を発揮することができずに落ちていたかもしれない。
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