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第四章 町に着いても金は無く
稼ぐ理由は人それぞれ
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『じゃあ。また明日ね。ワタシの手駒』
「ああ。また明日」
日課となっているアンリエッタへの定期連絡を終え、ふぅと軽く息を吐く。
向こうも大体見ているくせに、敢えて俺の言葉で説明させようとするから毎回大変だ。それでいてこっちの知りたい情報は中々口を滑らさない。まあ長い付き合いになりそうだから気長に行くが。
「……終わったようね」
「ああ。そっちは?」
「……まだかかるから、先に眠っても良いわよ」
「先にって、ここ一応俺の部屋なんだけど」
俺が連絡をしている間、エプリは持ち物を床に広げて整理していた。いつもローブの内側から取り出しているのであまり見られないのだが、様々な道具を常備しているのだ。
自分の部屋があるのにこっちに来ているのはもう何も言わないが、またソファーで寝る気満々で既にソファーがエプリに用意された寝具に占拠されている。だからここ俺の部屋なんだけど。
ちなみにやっぱりここから離れようとしなかったセプトには、先にまたベッドで眠ってもらっている。
昨日みたいなトラブルを防ぐ為、今回は事前に都市長さんに言って小さな寝袋を用意してもらった。俺はこれで寝るとしよう。寝袋なら流石に潜り込んでは来られまい。……だよな?
黙々と作業を続けるエプリ。その手際は淀みなく、もう何度もこうして整理してきたことが分かる。
部屋に響くのは作業音と、眠っているセプトの柔らかな寝息のみ。……聞くのなら今が丁度良いかな。
「なあ。ちょっと良いか? 気になってたんだけど、昼間のキリの言ってた薬って何のことだ?」
それを聞いて、それまで止まらずに動き続けていたエプリの手が一瞬止まり、すぐにまた作業に戻る。
「…………何のこと?」
「誤魔化さなくてもいいぞ。昼間それを聞いた時から、エプリが何となくいつもと違うのは感じてたさ」
「……たかだか十日程度の付き合いで、いつもと違うなんて思っても説得力がないわね」
「十日も一緒の間違いだな。それに付き合いが長くなくても気付くさ。実際あの場にいたほぼ全員が気づいていたと思うぜ。それをわざわざ隠そうとするなって言ってんの」
おまけにそれを隠して平静を装っているのだから更によろしくない。
「どうしても言いたくないなら良いけど、そうじゃないならせめて言える所だけでも言ってくれ。俺の自己満足の為にも」
「……そこは私の為にと言うんじゃないの?」
「人の為にも自分の為にもなる方が良いだろ?」
エプリが少し呆れたような声を出すが、俺はさらりとそう返してやる。これでも人の為だけに動くほど善人じゃないつもりでね。
さて。寝る前に本日最後の話し合いといこうじゃないか。
「これは俺の勝手な推測なんだけど、エプリが金が必要な理由ってその薬の為なんじゃないか? 俺に以前使ってくれた薬の相場は金貨一枚。つまり良い薬はそれだけ値が張るって事だ。しかもキリの言葉から察するとそこらにあるような物じゃない。つまりエプリはいつ薬が見つかっても良いように金を貯めている。違うか?」
「……話す理由はないわね」
コトリと薬瓶の一つを床に置き、エプリは作業の手を止めずにそう言った。まあ簡単には話さないか。
「……確かにキリとの件で考え事をしていたのは事実よ。いつも通りのつもりで依頼人に気を遣わせたのは謝る。……だけどそれと内容を話す事は別問題。はき違えないように」
もっともだ。言う気のない事を無理やりに聞き出そうとは思わない。と言うか聞き出せる気がしない。
「そっか。そうなると十日後にキリが戻ってきたらそれについて話を聞くのか?」
「……そうね。まずジューネの依頼した指輪の情報を手に入れてくるか確かめてから。……まだキリの情報の信憑性については知らないから」
まずは腕前を知りたいって事か。このままキリが指輪について調べてこれたのなら、それはキリの情報収集能力の高さを示している。
キリの言う薬がどういうものかは知らないが、エプリとしては今日会ったばかりの相手が探し物の情報を持っているのは少々胡散臭い。だから実力を証明してもらうというのは一応納得できる。試すようなやり方は個人的にあんまり好きじゃないけどな。
「もしキリがその薬の情報を持っていたらどうするつもりだ?」
「多少無理をしてでも情報を聞き出す。……どれだけの対価を要求されるかは分からないけれど」
「そっか。じゃあその薬の在処が分かったらそっちに向かうのか?」
そんな言葉が口から出たことに自分でも驚いた。今のは自然と口をついて出たのだ。
「…………何? 私が依頼人を放っておいて薬を取りに行くとでも思っているの?」
その言葉と共に、エプリは静かに立ち上がってこちらに歩いてくる。
う~ん。この流れはアレか。ちょっと予想できる流れに、俺は言葉選びを間違ったとうっすら冷や汗を流しながら迫りくるエプリをじっと待つ。そしてエプリは俺の前に立つと、
「舐めないでくれる?」
その言葉と共に指先から発射された“風弾”が俺の額に直撃した。久々に食らったけどやっぱり痛い。悶絶しながら額を押さえた所に、エプリが俺の鼻先に指を突きつける。
「……仮に情報が正しくても、依頼人の護衛を投げ出すつもりは無い。十日も一緒に居たなら分かってるんじゃないの?」
俺が先ほど言った言葉を皮肉気に返すエプリ。今のは完全にこっちの失言だった。
「悪かった。確かにエプリは請け負った仕事を投げ出すような奴じゃなかったよな。相手がどんな嫌な奴だって、仕事を辞めるだけの理由がない限り絶対最後まで守り切る。そういう責任感の強い奴だ」
「……分かれば良いのよ」
あのクラウン相手にだって、筋を通して仕事をこなそうとするくらい義理堅い奴だ。あんな言い方をしたら怒るのは無理ないだろう。俺が頭を下げて謝ると、少しは機嫌を直したのかエプリは指先を下ろす。
「それにしても、こちらが悪かったとはいえ一応依頼人に風弾をぶっ放すのはどうかと思うぞ」
「……心配しないで。手加減はしてあるし、余程無礼な相手かトキヒサにしか撃ったりしないから」
「俺常時無礼者扱いっ!?」
そんな所だけ特別扱いしなくても良いんだけどな。額が赤くなってないかと擦っていると、今の騒動で目が覚めたのかセプトがベットから抜け出してきた。
「ゴメンな。起こしちゃったか?」
「別に良い。トキヒサ。大丈夫?」
「ああ。大丈夫さ。ちょっと額をぶつけただけだ」
エプリにやられたとは言わない。わざわざ事を荒立てるものでもないし、セプトを心配させる事もない。セプトは俺の額をじっと見つめる。……自分じゃ見えないけどやっぱ赤くなってるかな? そして、
「よしよし」
セプトはググっと背伸びをして、何とか届いた手で俺の額を撫で始めたのだ。
「ど、どうしたセプト?」
「私、治癒系統使えないから。これで、少しは良くなるかなって」
う~む。年下の子にナデナデされるこの微妙な背徳感。……だがこれもまたロマンだ。逆ナデポってのはないのかね?
「……ちなみにこれも情報元はアーメ達だったりするか?」
「うん。こうすると、男は元気になるって言ってた。でも、やりすぎると元気になりすぎて危ないから、好きなヒトだけにやった方が良いって」
「そ、そうか。確かに誰彼構わずするとマズイからな! うん」
言外に自分が好きだと言われている訳で、ちょっと体感で顔が熱くなっていたりする俺。……ただエプリのジト~っとした冷たい視線が後頭部辺りに突き刺さっているので、実質プラマイゼロな気がする。
「も、もう大丈夫だからっ! ほらっ! この通り元気になったからもう良いよっ!」
「本当? 良かった」
これ以上続けたらエプリの視線がマジな意味で痛みを伴いそうなので、僅かに名残惜しみながらもセプトを引き離して元気だぞアピールをする。幸いセプトは素直に引き下がった。
……俺の言う事に全面的に従う美少女っていうのはある意味グッとくるものがあるな。これがずっと続くといつかダメな奴になってしまいそうでホントに怖い。
「ということでもう俺は大丈夫だからお休み。明日も忙しくなるぞ」
「うん。分かった。……トキヒサも、一緒に寝る?」
「お、俺はもう少し起きてるからっ! お休みセプト」
セプトをベットに押し込み、すぐにスヤスヤと寝息を立てるのを確認する。エプリもセプトもやたら寝つきが良いよな。
エプリは再び作業に戻り、今度は護身用と思われる短剣を布で拭いていた。……エプリが刃物を持つと一気に凄みが増すからおっかない。知らずに夜道で会ったりしたら腰を抜かすかもしれないな。
「そう言えばエプリがそれを使っているのを見たことが無いな」
「……でしょうね。実際戦いで使ったのは数えるぐらいしかないもの。敵を切り裂くなら“風刃”で事足りるし、そもそも接近戦をあまりしないから。……出来ない訳じゃないけど」
「それにしちゃあ大切に手入れしているみたいだな」
短剣には古くて細かな傷が沢山あった。明らかに最近ではなく、何年も前に付いた傷もある。しかしその刀身にはほぼ曇りが無かった。定期的に、それも長い時間手入れをしていないとこの状態は保てない。
「……フッ。ただの貰い物なだけよ。捨てるのも売り払うのも面倒だから持っているだけ」
皮肉気にそう笑ってみせるエプリ。だが彼女のそれを見る瞳からは、決してそんなどうでも良い物を見るようには見えなかった。
そもそも本当にどうでも良いものなら面倒くさがらずに捨てるなりなんなりしているだろうしな。エプリだったら。それをしないってだけで大切な品だと分かる。
「そうか。じゃあ聞きたい事も一応聞けたし、そろそろこっちも寝るとするかね」
結構話し込んだので、こっちも目蓋が重くなってきた。欠伸を一つすると、俺は寝袋に潜り込む。
「今日はジューネの護衛もあって無理だったけど、明日こそは町の様子を探って金稼ぎの糸口を見つけるからな。早いとこ稼がないとエプリの給料も払えないし」
「そこについては頑張ってほしい所ね。……あまり期待していないけど」
言ってくれるじゃないか。見てろよっ! ノービスにいる間に、少なくともエプリの給料分くらいは……行けるかどうか分からないけど、出来る限り稼いでやるからな。
そんな思いを胸にしつつ、俺の意識は薄らいでいく。そう言えば寝つきが良いのは俺も同じだった。
薄れゆく意識の中で、
「……待ってなさいオリバー。嫌だと言っても助けて見せる。……病気で死に逃げなんて許さないから」
そうエプリが短剣を見つめてポツリと漏らしたような気がした。だが俺はそれがどういう事か考える余裕もなく、完全にまどろみの中に落ちていった。
アンリエッタからの課題額 一千万デン
出所用にイザスタから借りた額 百万デン
エプリに払う報酬(道具の経費等も含む。現時点までで) およそ一万デン
その他様々な人に助けられた分の謝礼 現在正確な値段付けが出来ず
合計必要額 一千百一万デン+????
残り期限 三百四十八日
◇◆◇◆◇◆
如何だったでしょうか? この話が少しでも皆様の暇潰しにでもなれば幸いです。
この話までで面白いとか良かったとか思ってくれる読者様。完結していないからと評価を保留されている読者様。
お気に入り、感想、または何らかの反応は作家のエネルギー源です。ここぞとばかりに投入していただけるともうやる気がモリモリ湧いてきますので何卒、何卒よろしく!
「ああ。また明日」
日課となっているアンリエッタへの定期連絡を終え、ふぅと軽く息を吐く。
向こうも大体見ているくせに、敢えて俺の言葉で説明させようとするから毎回大変だ。それでいてこっちの知りたい情報は中々口を滑らさない。まあ長い付き合いになりそうだから気長に行くが。
「……終わったようね」
「ああ。そっちは?」
「……まだかかるから、先に眠っても良いわよ」
「先にって、ここ一応俺の部屋なんだけど」
俺が連絡をしている間、エプリは持ち物を床に広げて整理していた。いつもローブの内側から取り出しているのであまり見られないのだが、様々な道具を常備しているのだ。
自分の部屋があるのにこっちに来ているのはもう何も言わないが、またソファーで寝る気満々で既にソファーがエプリに用意された寝具に占拠されている。だからここ俺の部屋なんだけど。
ちなみにやっぱりここから離れようとしなかったセプトには、先にまたベッドで眠ってもらっている。
昨日みたいなトラブルを防ぐ為、今回は事前に都市長さんに言って小さな寝袋を用意してもらった。俺はこれで寝るとしよう。寝袋なら流石に潜り込んでは来られまい。……だよな?
黙々と作業を続けるエプリ。その手際は淀みなく、もう何度もこうして整理してきたことが分かる。
部屋に響くのは作業音と、眠っているセプトの柔らかな寝息のみ。……聞くのなら今が丁度良いかな。
「なあ。ちょっと良いか? 気になってたんだけど、昼間のキリの言ってた薬って何のことだ?」
それを聞いて、それまで止まらずに動き続けていたエプリの手が一瞬止まり、すぐにまた作業に戻る。
「…………何のこと?」
「誤魔化さなくてもいいぞ。昼間それを聞いた時から、エプリが何となくいつもと違うのは感じてたさ」
「……たかだか十日程度の付き合いで、いつもと違うなんて思っても説得力がないわね」
「十日も一緒の間違いだな。それに付き合いが長くなくても気付くさ。実際あの場にいたほぼ全員が気づいていたと思うぜ。それをわざわざ隠そうとするなって言ってんの」
おまけにそれを隠して平静を装っているのだから更によろしくない。
「どうしても言いたくないなら良いけど、そうじゃないならせめて言える所だけでも言ってくれ。俺の自己満足の為にも」
「……そこは私の為にと言うんじゃないの?」
「人の為にも自分の為にもなる方が良いだろ?」
エプリが少し呆れたような声を出すが、俺はさらりとそう返してやる。これでも人の為だけに動くほど善人じゃないつもりでね。
さて。寝る前に本日最後の話し合いといこうじゃないか。
「これは俺の勝手な推測なんだけど、エプリが金が必要な理由ってその薬の為なんじゃないか? 俺に以前使ってくれた薬の相場は金貨一枚。つまり良い薬はそれだけ値が張るって事だ。しかもキリの言葉から察するとそこらにあるような物じゃない。つまりエプリはいつ薬が見つかっても良いように金を貯めている。違うか?」
「……話す理由はないわね」
コトリと薬瓶の一つを床に置き、エプリは作業の手を止めずにそう言った。まあ簡単には話さないか。
「……確かにキリとの件で考え事をしていたのは事実よ。いつも通りのつもりで依頼人に気を遣わせたのは謝る。……だけどそれと内容を話す事は別問題。はき違えないように」
もっともだ。言う気のない事を無理やりに聞き出そうとは思わない。と言うか聞き出せる気がしない。
「そっか。そうなると十日後にキリが戻ってきたらそれについて話を聞くのか?」
「……そうね。まずジューネの依頼した指輪の情報を手に入れてくるか確かめてから。……まだキリの情報の信憑性については知らないから」
まずは腕前を知りたいって事か。このままキリが指輪について調べてこれたのなら、それはキリの情報収集能力の高さを示している。
キリの言う薬がどういうものかは知らないが、エプリとしては今日会ったばかりの相手が探し物の情報を持っているのは少々胡散臭い。だから実力を証明してもらうというのは一応納得できる。試すようなやり方は個人的にあんまり好きじゃないけどな。
「もしキリがその薬の情報を持っていたらどうするつもりだ?」
「多少無理をしてでも情報を聞き出す。……どれだけの対価を要求されるかは分からないけれど」
「そっか。じゃあその薬の在処が分かったらそっちに向かうのか?」
そんな言葉が口から出たことに自分でも驚いた。今のは自然と口をついて出たのだ。
「…………何? 私が依頼人を放っておいて薬を取りに行くとでも思っているの?」
その言葉と共に、エプリは静かに立ち上がってこちらに歩いてくる。
う~ん。この流れはアレか。ちょっと予想できる流れに、俺は言葉選びを間違ったとうっすら冷や汗を流しながら迫りくるエプリをじっと待つ。そしてエプリは俺の前に立つと、
「舐めないでくれる?」
その言葉と共に指先から発射された“風弾”が俺の額に直撃した。久々に食らったけどやっぱり痛い。悶絶しながら額を押さえた所に、エプリが俺の鼻先に指を突きつける。
「……仮に情報が正しくても、依頼人の護衛を投げ出すつもりは無い。十日も一緒に居たなら分かってるんじゃないの?」
俺が先ほど言った言葉を皮肉気に返すエプリ。今のは完全にこっちの失言だった。
「悪かった。確かにエプリは請け負った仕事を投げ出すような奴じゃなかったよな。相手がどんな嫌な奴だって、仕事を辞めるだけの理由がない限り絶対最後まで守り切る。そういう責任感の強い奴だ」
「……分かれば良いのよ」
あのクラウン相手にだって、筋を通して仕事をこなそうとするくらい義理堅い奴だ。あんな言い方をしたら怒るのは無理ないだろう。俺が頭を下げて謝ると、少しは機嫌を直したのかエプリは指先を下ろす。
「それにしても、こちらが悪かったとはいえ一応依頼人に風弾をぶっ放すのはどうかと思うぞ」
「……心配しないで。手加減はしてあるし、余程無礼な相手かトキヒサにしか撃ったりしないから」
「俺常時無礼者扱いっ!?」
そんな所だけ特別扱いしなくても良いんだけどな。額が赤くなってないかと擦っていると、今の騒動で目が覚めたのかセプトがベットから抜け出してきた。
「ゴメンな。起こしちゃったか?」
「別に良い。トキヒサ。大丈夫?」
「ああ。大丈夫さ。ちょっと額をぶつけただけだ」
エプリにやられたとは言わない。わざわざ事を荒立てるものでもないし、セプトを心配させる事もない。セプトは俺の額をじっと見つめる。……自分じゃ見えないけどやっぱ赤くなってるかな? そして、
「よしよし」
セプトはググっと背伸びをして、何とか届いた手で俺の額を撫で始めたのだ。
「ど、どうしたセプト?」
「私、治癒系統使えないから。これで、少しは良くなるかなって」
う~む。年下の子にナデナデされるこの微妙な背徳感。……だがこれもまたロマンだ。逆ナデポってのはないのかね?
「……ちなみにこれも情報元はアーメ達だったりするか?」
「うん。こうすると、男は元気になるって言ってた。でも、やりすぎると元気になりすぎて危ないから、好きなヒトだけにやった方が良いって」
「そ、そうか。確かに誰彼構わずするとマズイからな! うん」
言外に自分が好きだと言われている訳で、ちょっと体感で顔が熱くなっていたりする俺。……ただエプリのジト~っとした冷たい視線が後頭部辺りに突き刺さっているので、実質プラマイゼロな気がする。
「も、もう大丈夫だからっ! ほらっ! この通り元気になったからもう良いよっ!」
「本当? 良かった」
これ以上続けたらエプリの視線がマジな意味で痛みを伴いそうなので、僅かに名残惜しみながらもセプトを引き離して元気だぞアピールをする。幸いセプトは素直に引き下がった。
……俺の言う事に全面的に従う美少女っていうのはある意味グッとくるものがあるな。これがずっと続くといつかダメな奴になってしまいそうでホントに怖い。
「ということでもう俺は大丈夫だからお休み。明日も忙しくなるぞ」
「うん。分かった。……トキヒサも、一緒に寝る?」
「お、俺はもう少し起きてるからっ! お休みセプト」
セプトをベットに押し込み、すぐにスヤスヤと寝息を立てるのを確認する。エプリもセプトもやたら寝つきが良いよな。
エプリは再び作業に戻り、今度は護身用と思われる短剣を布で拭いていた。……エプリが刃物を持つと一気に凄みが増すからおっかない。知らずに夜道で会ったりしたら腰を抜かすかもしれないな。
「そう言えばエプリがそれを使っているのを見たことが無いな」
「……でしょうね。実際戦いで使ったのは数えるぐらいしかないもの。敵を切り裂くなら“風刃”で事足りるし、そもそも接近戦をあまりしないから。……出来ない訳じゃないけど」
「それにしちゃあ大切に手入れしているみたいだな」
短剣には古くて細かな傷が沢山あった。明らかに最近ではなく、何年も前に付いた傷もある。しかしその刀身にはほぼ曇りが無かった。定期的に、それも長い時間手入れをしていないとこの状態は保てない。
「……フッ。ただの貰い物なだけよ。捨てるのも売り払うのも面倒だから持っているだけ」
皮肉気にそう笑ってみせるエプリ。だが彼女のそれを見る瞳からは、決してそんなどうでも良い物を見るようには見えなかった。
そもそも本当にどうでも良いものなら面倒くさがらずに捨てるなりなんなりしているだろうしな。エプリだったら。それをしないってだけで大切な品だと分かる。
「そうか。じゃあ聞きたい事も一応聞けたし、そろそろこっちも寝るとするかね」
結構話し込んだので、こっちも目蓋が重くなってきた。欠伸を一つすると、俺は寝袋に潜り込む。
「今日はジューネの護衛もあって無理だったけど、明日こそは町の様子を探って金稼ぎの糸口を見つけるからな。早いとこ稼がないとエプリの給料も払えないし」
「そこについては頑張ってほしい所ね。……あまり期待していないけど」
言ってくれるじゃないか。見てろよっ! ノービスにいる間に、少なくともエプリの給料分くらいは……行けるかどうか分からないけど、出来る限り稼いでやるからな。
そんな思いを胸にしつつ、俺の意識は薄らいでいく。そう言えば寝つきが良いのは俺も同じだった。
薄れゆく意識の中で、
「……待ってなさいオリバー。嫌だと言っても助けて見せる。……病気で死に逃げなんて許さないから」
そうエプリが短剣を見つめてポツリと漏らしたような気がした。だが俺はそれがどういう事か考える余裕もなく、完全にまどろみの中に落ちていった。
アンリエッタからの課題額 一千万デン
出所用にイザスタから借りた額 百万デン
エプリに払う報酬(道具の経費等も含む。現時点までで) およそ一万デン
その他様々な人に助けられた分の謝礼 現在正確な値段付けが出来ず
合計必要額 一千百一万デン+????
残り期限 三百四十八日
◇◆◇◆◇◆
如何だったでしょうか? この話が少しでも皆様の暇潰しにでもなれば幸いです。
この話までで面白いとか良かったとか思ってくれる読者様。完結していないからと評価を保留されている読者様。
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