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第六章 積もった金の使い時はいつか
同調の加護
しおりを挟む「……それで? 私達が真面目に話し合っている間に、貴女達は何をやっているんですか!」
「まあそう言わずにお姉ちゃんも一つどう? このうま〇棒ってのもうメッチャ美味いよ!」
「シーメ姉の言う通り! これ美味しいよアーメ姉!」
どうやら皆で大葉の出した駄菓子で軽いパーティーをしていたらしい。……うま〇棒も箱買いしてたんかい。
俺達も入るが、元々大葉の家は狭いのでかなりキツキツだ。何とか空きスペースに腰を下ろす。
その際ほとんど密着に近いレベルでエプリとセプトが隣に居るのは考えないことにする。……ちょっとうま〇棒(コンポタ味)の混じった良い匂いがするなんて思ってないぞ。
大葉とシーメが両手に花だと言って笑っているのが何とも言えない。
「まったくもう。……本当に美味しいですねコレ! このサクサク感がなかなか!」
「喜んでもらえて何よりっす! センパイ。こっちでは互いにどういった知り合いなのかとかちょこちょこ話してたっす! センパイ方の首尾はどんな感じっす?」
俺とアーメはレイノルズとの会話を説明した。ヒースの事を聞いたシーメとソーメは少し顔を険しくしたが、全て聞き終わるとどこか納得したように大葉の方を見る。
「なるほどなるほど。照明弾を使ってまで呼び出すなんてどんな一大事かと思ったけど、こりゃあ確かに問題だよね」
「はい。一大事……です。オオバさんが呼ぶのも納得」
「そうなんすよ。我ながらナイス判断っす!」
大葉がドヤ顔でそんなことを言っているが、まだ見つかってないんだからドヤ顔は後でな。
「もしかして、今日アーメ達が巡回していたのも何かあるって知ってたからとかか?」
「流石にそこまでは。ただ昼間から妙な感じがしたと言うか……何となく嫌な予感がするとソーメが言うので、一応普段と少し違う場所を回っていたんです。結果的に正しかったようで何よりでした」
「そっか。じゃあソーメには礼を言わないとな。おかげで助かったよ」
「たまたま……です」
ソーメが恥ずかしそうに顔を伏せる。別に恥ずかしいことなんてないのにな。
「しかしどうしましょうか? まだ屋敷からの連絡はないのですよね?」
「……ええ。まだヒースは帰っていないようね」
「となるとまずは大前提として、ヒース様を見つけて連れ帰ること。そして出来ればレイノルズ氏より先にというのが望ましいですね」
それは言われなくても分かる。先に見つけられたら何を請求されるか分かったもんじゃない。
「じゃあわざわざレイノルズと一緒の所を探すことはないね。どうせ向こうの方が人数多いし。私達は別の所から探そう。目星はあるのトッキー?」
「それが全然。むしろアーメ達の方が知ってるかもって思ったんだけど? エリゼ院長は都市長さんと古い付き合いらしいし、その縁で心当たりがあるかなって。それもあって呼んだんじゃないのか大葉?」
「えっ!? それは知らなかったっすよ! 呼んだのは単に連絡用の道具があったのを思いだしたからっす」
知らなかったんかい! まあ考えてみれば最初は都市長さんのことも知らなかったし、繋がりが有るのを知っていたならアーメ達の伝手を頼るとかもやっていただろうしな。
「教会の縁で人手を集めるとか出来ないんすかね?」
「恥ずかしながら、うちの教会も最近ヒトがあまり来なくて困っているくらいです。それにこんな時間に手伝ってくれそうな方となると」
「あぁ……なんかゴメンっす」
自分で言ってちょっぴり落ち込むアーメに、大葉が慌てて謝る。そもそも前見せてもらった人形劇スタイルの読み聞かせも、来る人を少しでも増やす為に考えたらしいしな。どこも世知辛い世の中だ。
「ただエリゼ院長なら、ヒース様が行きそうな場所も知っているかもしれません。今から戻って聞いてみるというのも手ですね」
「だけどアーメ姉。ここからだと……教会まで少し掛かるよ」
「そうですね。行って戻るとなるとそれだけで時間が掛かります。なら何人も行くこともありません。後で私が一人で向かいましょう」
一人でってのは少し気にかかるが、確かに話を聞くだけなら何人も行く必要は無いか。
「じゃあ頼むよ。後は誰か探す当てみたいな所はあるか? アーネを待っている間も動いておきたい」
「……と言ってもヒースとは基本屋敷内で会ってばかりだしね。当てと言っても」
エプリが素っ気なく言うがもっともだ。これなら一回ぐらい一緒に講義を抜け出して飯でも食いに行けばよかったかな? ……待てよ? そう言えば、
「ラーメン、一緒に食べた」
そこでセプトが俺と同じ考えに至ったのか、そうポツリと呟く。
「ラーメン……ですか?」
「ああ。そう言えばヒースが数日おきに通っている店があったんだ。もしかしたらそこの店主なら何か知っているかもしれない」
幸いその店はここからそう遠くない。ただ通りに待たせている雲羊の所に一度戻ってとなると少々タイムロスかもだ。それを伝えると、アーネが何か思いついたかのように頷く。
「ここは三手に別れましょう。まず私が教会まで単身で向かいます。そしてその店に向かう組と、クラウドシープを回収しながら途中を捜索する組を作るというのはどうですか?」
「……他に探す当てがない以上、今はそれくらいしか手が無いか。……よし。それでいこう」
「では一足先に出発しますね。一番時間が掛かるのは私みたいですから」
ひとまずの作戦を決めると、アーメは周りの人に当たらないようゆっくりと立ち上がり、そのまま家の外へと歩いていく。早速教会へ向かうつもりらしい。
「あっ!? ちょっと待ってくれアーメ。一人で行くのはまあよく巡回するくらいだから慣れてるとして、連絡手段はどうする?」
後ろから声をかけると、アーメは白いフードを被り直しながら振り向いて微笑んだ。
「ああ。それなら妹達が一緒に居る限りは心配ありませんよ。詳しい説明は二人に聞いてください。光よここに。“光球”」
そう言ってさっと光球を身体に纏わせ、夜の闇の中に消えていくアーメ。二人に聞けって何のことだ? よく分からないのだが、まずは組み分けをするとしようか。
結局組み分けとしては俺とセプト、大葉、シーメが店へ向かい、エプリとソーメが雲羊を回収、捜索しながら一番近くの通りまで移動して後で合流する……という流れに落ち着いた。
エプリは護衛として離れる訳にはいかないと反対したが、雲羊を操れるのがエプリしかいないので渋々同意。そしてソーメが付き添う理由だが、
「“同調”の加護?」
「そっ! 私とお姉ちゃんとソーメが生まれつき持っていた加護。ざっくり言うと、私達はいつも繋がってんのよね」
組み分けをする直前、それなら私かソーメの加護が使えるからどっちか一緒に行った方が良いというシーメの言葉に従って別れた後、ラーメン屋に移動しながら細かい説明を受ける。
「繋がってるって……どういう事だ?」
「う~ん。なんて言えば良いかなぁ。離れていてもある程度互いのことが分かる……みたいな? 大体の居場所とか考えていることとか」
「それは凄いな! 三人限定のテレパシーみたいなものか?」
「てれぱしーってのは知んないけど、伝われ~って強く念じると伝わるよ。相手の考えを勝手に読むのは無理だけど」
その範囲ときたら、この町をまるっとカバーできるくらいだという。範囲内であれば大まかな位置も分かるし連絡も取れる。相手がケガをしたり調子が悪くなっても何となく分かると言うから凄まじい。三つ子の間のみではあるが凄い加護だ。
「そう言えば前もそんなことがあったっすね。あの時は連絡用の道具を使ってるのかと思ってたっす!」
大葉も何か納得したように頷く。前にも使ってたなら信用できるな。
「っていう訳だから、連絡役なら任せといて!」
「ああ頼むよ。……そろそろ着くぞ」
暗い夜道を歩く中、前に行った店が見えてくる。明かりがあるからどうやらまだ営業中のようだ。
「にしてもこっちにもラーメン屋があったんすねぇ。……センパイ。ここで一つ食っていきましょうか?」
「そう言えば、今日はまだ夕食食べてないからお腹空いたなぁ。さっきのうま〇棒は美味しかったけど少しだけだったし、食べてくんなら私も私も!」
「今はヒースを探すのが優先な。事態が収まったらまた改めてこよう」
大葉とシーメが二人してお腹を擦りながら言うので微妙に緊張感が削がれるな。さて、他に客が居たら申し訳ないが、少し話を聞かせてもらおうか。
「えっ!? とっくに帰った? 本当ですか?」
「……へい。今日もヒース様はふらりとやってきてラーメンを注文し、夕方少し前に帰られやした」
ヒースの事を尋ねると、おやっさんは一人で机を拭いたり次の仕込みをしながら話してくれた。ちなみにおやっさんっていうのは俺の勝手な呼び方だが、別に呼び方は何でも構わないと快く許してくれた。
「まあ考えてみれば、今もここで食べているってのは流石に無いか」
「しっかしどうしましょうっすか? 手がかり無くなっちゃいましたっす」
「だよね。となると後は院長先生に聞きに行ったお姉ちゃんからの連絡待ちかな? 今の所…………あ、ダメだ。まだ教会までもうチョイかかりそう」
大葉が困ったように言い、シーメが軽く念じるように目を閉じてからそう返す。同調の加護でアーメの位置を探ったらしい。
セプトは何も言わないが、前髪から覗く瞳がどうしようかとこちらに語り掛けているように感じた。しかしあと手掛かりといっても何が。
「…………あ、おじさん! ちょっと聞きたいんだけど、ヒース様が来る時間と帰る時間はいつも決まってた?」
「へい。来る時間はまちまちでしたが、帰る時間はいつも大体夕方頃でした。ラーメンを食べた後は毎回腹がこなれるまで休んでいましたんで」
「なるほど…………次はっと…………じゃあこれまで何か休んでいる間に言っていたことや変わったことはなかった? 小さなことでも何でもいいの」
急にシーメが軽く頭を指で押さえながら、何かに応答する様に頷きつつおやっさんに訊ねる。あれってもしかして誰かと連絡しながら話してるのか?
おやっさんは少し考えこむと、何か気付いたような顔をする。
「そう言えば、休みながら何か書き物をしてやした。客の相手のついでにチラッと見ただけなんで何とも言えやせんが、あれはおそらくこの町の地図でしたね」
「地図? 書き物ってことは印でも付けてたんですか?」
大きな手掛かりに俺も話に食いつく。
「へい。幾つかの場所に丸が付いてたんですが、店に来る度に丸が塗りつぶされてやした。……それと今日は妙なことを言ってやしたね。『おそらく今日。有るとしたらどちらかだ』って。本当にポロッと洩らしたって感じだったんで、もしかしたら自分でも口に出したことに気づいてなかったかもしれやせん」
「どちらかか…………分かった。ちゃんと聞くから…………おじさん。どこに丸が付いてたか分かる?」
「流石にそこまではなんとも。あまり役に立てないで申し訳ねぇ」
「とんでもない。おやっさんが謝る必要ないですって! 十分参考になりました」
深々と頭を下げるおやっさんに、俺は慌てて頭を上げてもらう。おやっさんは頭を上げ、そのまま仕事に戻っていった。
「それであらかた聞いたけど、これからどうするトッキー?」
「ひとまずエプリ達と合流しようか。……それに、さっきの話も加護で伝えてるんだろ?」
「当然! それと質問の内容を考えたのはエプリね! それをソーメが中継して伝えてたって訳」
やっぱりか。さっきの態度からそんな感じはしてたんだ。……だけど内容を考えたのはエプリか。向こうでも何か気付いたことがあったのかね?
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