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深淵編
タロット占い
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俺も包装紙を開けてみる。
ごく普通のトランプだが、店長がくれたってだけで何だかすごいアイテムのような気がする。
「都築くんが貸してくれた勾玉は、千代ちゃん達からもらったってことが大切なんだろうと思って……。僕から代わりの勾玉もらってもしょうがないだろ?」
そういうところは、ちゃんと分かる人なんだよなぁ……。
「ありがとうございます。トランプ、ありがたく使わせてもらいますね。……そういえば店長、トランプってタロットが元になったって言ってましたよね?」
「うん、そうだよ。正確にはタロットの小アルカナって部分がトランプと共通なんだ。大アルカナの部分はまた別」
「小あるかな???」
俺のタロット知識がゼロなのを察した店長は小さく笑い、いったん店の奥にひっこんでタロットカードを手に戻って来た。
そういえば、タロットは呪術の道具だって店長は言ってたけど、うちには本当に何でもあるんだな……。
店長は俺の手からトランプを取り、カウンターにカードを拡げると、タロットと一緒に並べて説明してくれる。
「トランプには、クラブ、スペード、ハート、ダイヤの四つのマークがある。それぞれがタロットの棒、剣、聖杯、硬貨に対応してる。四組が十枚の数札というのも同じ。人物札は、王のKと女王のQはそのまま、騎士と若者が一つにまとまってJになったんだ」
「おぉー! なるほど! 分かりやすい!」
アレクと橘も興味深そうに店長の説明を聞いている。
「カードの意味も共通しているよ。例えばトランプのダイヤ9は『予期しない利益』、タロットのペンタクル9は『隠れた収益』。トランプのスペード9は『悪意ある妨害』、タロットのソード9は『悲しみと恐怖』だ。僕はインスピレーションで読み取る時は同じカードとして認識してる」
それぞれ対応するカードを並べる店長の手捌きは、まるで手品師みたいだ。
「店長は『祓い』だけじゃなく『占い』も得意なんですね、さすがは野良霊能力者!」
店長は軽く肩を竦めて苦笑する。
「都築くん、気づいてなかった? ムーンサイドのお客様は祓いより占いの方が多いんだよ。芸能や政治関係は特にこういった物に頼りがちだから。橘くんのところもそうだよね?」
「はい」
「へぇ~……全然気づかなかった」
千代ちゃんがソファの方から声を上げる。
「橘くーん! そっちで話し込んでないで、早く戻って来てよ! 星占いの話の続きが聞きたいわ!」
「星占いじゃなく『占星術』なんですが……」
橘は持っていた空のコップにオレンジジュースを注ぎ、苦笑しつつソファの方へ戻って行った。
店長のタロットを見つめながら、アレクが口を開く。
「そのカード、サルバドール・ダリか。また随分クセが強いのを使ってるんだな」
「そう? 慣れればすごく使い勝手がいいよ」
「尾張のことだから、アレイスター・クロウリーのトートを使ってるかと思ってたぞ」
「あれは名作だけど、ちょっと危なっかしいから……“普段は”使ってない」
アレイスター・クロウリーって名前、前に店長と六芒星の話をした時にも出て来たな。店長が「先生」なんて敬称つけてたのを覚えてる。
俺は二人の話の邪魔にならないよう遠慮がちに動いて、大皿からサンドイッチを取り皿によそった。
「五芒星の小追儺儀式にも驚いたぞ」
アレクの言葉で、カードを揃えていた店長の手がとまる。
そういえば夜宴で店長が悪魔を退けた時、アレクがすごく驚いてたな。
「あれはかなりポピュラーだよ……珍しくもない」
「尾張、もしかしてお前の本当の専門って――…」
アレクが言葉を切った。
見ると、店長が人差し指を口元に当てて「内緒」とでもいうように微笑んでいる。
「ま、いい……」
アレクはジンジャーエールをグイッと呷ると、お代わりを注ぎにペットボトルの方へ移動してしまった。
「店長、質問いいですか?」
俺が右手を上げると店長は軽く首を傾げた。
「なんだい?」
「あそこにいたのって『悪魔』だったんですよね? 橘が陰陽道で作った結界でちゃんと効果あるんですか?」
俺の質問に、店長は目をパチクリさせた。
あれ? 俺また素人丸出しな質問しちゃったか?
「……都築くん、悪魔も鬼も妖怪も全部同じものだよ?」
「え――…?」
「時代や地域によって呼ばれ方が違うだけで、全部同じ。猫が長生きしたからちょっと力を持っちゃったみたいなのから、元は神様だったけど堕ちて悪魔になったっていうのまで……力や影響力はピンキリだけどね」
「でも店長……夜宴で悪魔を退けた時、いつも良く使ってる陰陽っぽい術じゃなくて、『五芒星小つい……何とか』って術を使ったんですよね?」
「あぁ、あれね……」
店長は天井へと視線を向け、軽く首を捻った。
どう説明しようか考えてるようだ。
「たとえば、都築くんもお説教受ける時は英語で叱られるより母国語の日本語で叱られた方がこたえるだろ? そんな感じ」
なんじゃ、そりゃ……。
分かりやすいような分かりにくいような、変な例えだ。
俺は改めて店長が持っているタロットに目をやった。
「そうだ、せっかくだし俺のこと占ってくださいよ。店長!」
「都築くん、悩みなんかあるの?」
「悩みっていうか……俺もそれなりに将来が気になるし、日々こういうこと頑張って行くといいよ! みたいな……アドバイスとかもらえたら嬉しいです」
「ふむ……それならヘキサグラムかな」
店長はタロットカードをカウンターの上に拡げてシャッフルしてから一つにまとめ、裏返しの状態で並べていく。一枚のカードを中心に六枚のカードがその周りを囲むような配置だ。
「はじめるよ。……――まずは過去、……未来、……それから、現在……ふむふむ、……環境、……なるほどね」
一枚ずつカードをめくりながら呟く店長。
それぞれのカードが俺の過去や未来を表しているってことか。
カードを見て小さく苦笑する店長……いや、あの……説明して下さい。
「……それから、願望……、……ふぅ~ん……」
いや、だから! 説明して下さいって!!
「そして、最終結果――…っ、……」
最後の一枚、真ん中のカードをめくった店長の手が止まる。
なんだ? 表情が読めない。いいのか? 悪いのか?
「ごめん、失敗みたいだ」
え???
店長は拡げていたカードをまとめて揃え、ケースへとしまう。
それ、めちゃくちゃ悪かったとしか受け取れないぞっ!!
なんだ? 俺、死ぬ!? 死ぬのかっ!?
「都築くんは本当に無敵だから、占いまで弾かれちゃうなんて……商売あがったりだよ、まったく」
店長が苦笑する。
なんだ、そういう事か。
「商売って! 店長この占いでもお金取るつもりだったんですかっ!?」
「当然だろ?」
油断も隙もあったもんじゃない、本当にこの人には気を付けないと!!
下手したら一生ムーンサイドでこき使われるぞ……。
俺は取り皿からサンドイッチを摘まんでかぶりついた。
シャキシャキレタスと玉子の塩加減が絶妙だ。
まぁ、店長の手料理がまかないで食べられると思えば、ムーンサイドの仕事もそれほど悪くはないかもしれないが……。
ごく普通のトランプだが、店長がくれたってだけで何だかすごいアイテムのような気がする。
「都築くんが貸してくれた勾玉は、千代ちゃん達からもらったってことが大切なんだろうと思って……。僕から代わりの勾玉もらってもしょうがないだろ?」
そういうところは、ちゃんと分かる人なんだよなぁ……。
「ありがとうございます。トランプ、ありがたく使わせてもらいますね。……そういえば店長、トランプってタロットが元になったって言ってましたよね?」
「うん、そうだよ。正確にはタロットの小アルカナって部分がトランプと共通なんだ。大アルカナの部分はまた別」
「小あるかな???」
俺のタロット知識がゼロなのを察した店長は小さく笑い、いったん店の奥にひっこんでタロットカードを手に戻って来た。
そういえば、タロットは呪術の道具だって店長は言ってたけど、うちには本当に何でもあるんだな……。
店長は俺の手からトランプを取り、カウンターにカードを拡げると、タロットと一緒に並べて説明してくれる。
「トランプには、クラブ、スペード、ハート、ダイヤの四つのマークがある。それぞれがタロットの棒、剣、聖杯、硬貨に対応してる。四組が十枚の数札というのも同じ。人物札は、王のKと女王のQはそのまま、騎士と若者が一つにまとまってJになったんだ」
「おぉー! なるほど! 分かりやすい!」
アレクと橘も興味深そうに店長の説明を聞いている。
「カードの意味も共通しているよ。例えばトランプのダイヤ9は『予期しない利益』、タロットのペンタクル9は『隠れた収益』。トランプのスペード9は『悪意ある妨害』、タロットのソード9は『悲しみと恐怖』だ。僕はインスピレーションで読み取る時は同じカードとして認識してる」
それぞれ対応するカードを並べる店長の手捌きは、まるで手品師みたいだ。
「店長は『祓い』だけじゃなく『占い』も得意なんですね、さすがは野良霊能力者!」
店長は軽く肩を竦めて苦笑する。
「都築くん、気づいてなかった? ムーンサイドのお客様は祓いより占いの方が多いんだよ。芸能や政治関係は特にこういった物に頼りがちだから。橘くんのところもそうだよね?」
「はい」
「へぇ~……全然気づかなかった」
千代ちゃんがソファの方から声を上げる。
「橘くーん! そっちで話し込んでないで、早く戻って来てよ! 星占いの話の続きが聞きたいわ!」
「星占いじゃなく『占星術』なんですが……」
橘は持っていた空のコップにオレンジジュースを注ぎ、苦笑しつつソファの方へ戻って行った。
店長のタロットを見つめながら、アレクが口を開く。
「そのカード、サルバドール・ダリか。また随分クセが強いのを使ってるんだな」
「そう? 慣れればすごく使い勝手がいいよ」
「尾張のことだから、アレイスター・クロウリーのトートを使ってるかと思ってたぞ」
「あれは名作だけど、ちょっと危なっかしいから……“普段は”使ってない」
アレイスター・クロウリーって名前、前に店長と六芒星の話をした時にも出て来たな。店長が「先生」なんて敬称つけてたのを覚えてる。
俺は二人の話の邪魔にならないよう遠慮がちに動いて、大皿からサンドイッチを取り皿によそった。
「五芒星の小追儺儀式にも驚いたぞ」
アレクの言葉で、カードを揃えていた店長の手がとまる。
そういえば夜宴で店長が悪魔を退けた時、アレクがすごく驚いてたな。
「あれはかなりポピュラーだよ……珍しくもない」
「尾張、もしかしてお前の本当の専門って――…」
アレクが言葉を切った。
見ると、店長が人差し指を口元に当てて「内緒」とでもいうように微笑んでいる。
「ま、いい……」
アレクはジンジャーエールをグイッと呷ると、お代わりを注ぎにペットボトルの方へ移動してしまった。
「店長、質問いいですか?」
俺が右手を上げると店長は軽く首を傾げた。
「なんだい?」
「あそこにいたのって『悪魔』だったんですよね? 橘が陰陽道で作った結界でちゃんと効果あるんですか?」
俺の質問に、店長は目をパチクリさせた。
あれ? 俺また素人丸出しな質問しちゃったか?
「……都築くん、悪魔も鬼も妖怪も全部同じものだよ?」
「え――…?」
「時代や地域によって呼ばれ方が違うだけで、全部同じ。猫が長生きしたからちょっと力を持っちゃったみたいなのから、元は神様だったけど堕ちて悪魔になったっていうのまで……力や影響力はピンキリだけどね」
「でも店長……夜宴で悪魔を退けた時、いつも良く使ってる陰陽っぽい術じゃなくて、『五芒星小つい……何とか』って術を使ったんですよね?」
「あぁ、あれね……」
店長は天井へと視線を向け、軽く首を捻った。
どう説明しようか考えてるようだ。
「たとえば、都築くんもお説教受ける時は英語で叱られるより母国語の日本語で叱られた方がこたえるだろ? そんな感じ」
なんじゃ、そりゃ……。
分かりやすいような分かりにくいような、変な例えだ。
俺は改めて店長が持っているタロットに目をやった。
「そうだ、せっかくだし俺のこと占ってくださいよ。店長!」
「都築くん、悩みなんかあるの?」
「悩みっていうか……俺もそれなりに将来が気になるし、日々こういうこと頑張って行くといいよ! みたいな……アドバイスとかもらえたら嬉しいです」
「ふむ……それならヘキサグラムかな」
店長はタロットカードをカウンターの上に拡げてシャッフルしてから一つにまとめ、裏返しの状態で並べていく。一枚のカードを中心に六枚のカードがその周りを囲むような配置だ。
「はじめるよ。……――まずは過去、……未来、……それから、現在……ふむふむ、……環境、……なるほどね」
一枚ずつカードをめくりながら呟く店長。
それぞれのカードが俺の過去や未来を表しているってことか。
カードを見て小さく苦笑する店長……いや、あの……説明して下さい。
「……それから、願望……、……ふぅ~ん……」
いや、だから! 説明して下さいって!!
「そして、最終結果――…っ、……」
最後の一枚、真ん中のカードをめくった店長の手が止まる。
なんだ? 表情が読めない。いいのか? 悪いのか?
「ごめん、失敗みたいだ」
え???
店長は拡げていたカードをまとめて揃え、ケースへとしまう。
それ、めちゃくちゃ悪かったとしか受け取れないぞっ!!
なんだ? 俺、死ぬ!? 死ぬのかっ!?
「都築くんは本当に無敵だから、占いまで弾かれちゃうなんて……商売あがったりだよ、まったく」
店長が苦笑する。
なんだ、そういう事か。
「商売って! 店長この占いでもお金取るつもりだったんですかっ!?」
「当然だろ?」
油断も隙もあったもんじゃない、本当にこの人には気を付けないと!!
下手したら一生ムーンサイドでこき使われるぞ……。
俺は取り皿からサンドイッチを摘まんでかぶりついた。
シャキシャキレタスと玉子の塩加減が絶妙だ。
まぁ、店長の手料理がまかないで食べられると思えば、ムーンサイドの仕事もそれほど悪くはないかもしれないが……。
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