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第一章異世界に舞い降りたキチガイ

NPCと主人公2/3

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 朝日奈楓あさひなかえで

彼女が入ってきた瞬間教室の空気が変わった。
NPCが多いこのクラスだから分かる『その』変化。
ローズヒップに近いその香りは詳しく分かんないけど、彼女本人の香りとその香水が混じったことによって教室を香りだけで暖かくする。
その空気は心臓を早める効果があるんじゃないかと疑ってしまうくらい心臓を高鳴らせる。

次に目につくのはキラキラと輝くその髪だ。
黒というよりおしゃれめな栗色の髪。
また、元々少しウェーブのかかっている髪だから、入る光加減が所々変わって、遠くから見るとキラキラ輝いて見える。
制服をキチンと校則を守って、着用している。
そういった部分も彼女の魅力を引き立てている。

遅く入ってきたことから分かる通り、彼女は朝練終わりで普段はバスケットボール部に所属している。
勿論主人公格なので、一年なのにレギュラーを任せてもらえるほど上手い。
本当はかなり鍛え上げているのに、外見は小柄でだいたい155㎝ほどしかないので子犬のような印象なのにだ。

ふわふわとした子犬のような彼女の雰囲気に惚れない人間はこの世にいない。
絶対に一目見たら惚れる。
ふだんふわふわなのに、試合の時の凛とした姿とのギャップもまたいいらしい。
ちなみに、バスケしてない時は寧ろ天然ドジっ子な部分が強く出るとか出ないとか。

こんな長々と描写されても甚だ迷惑だろうが、このクラス全員が彼女を見た瞬間これぐらいの文量を持って彼女の外見を評価する。
大体二千字ぐらいで彼女を褒め称える。
そして、そんな彼女が入ってきたものだから皆が一斉に彼女に注目する。

注目されること自体は慣れていただろうが、遅刻ギリギリかもという考えがあって非難の眼差しでも受けていると思ったのか、それとも彼女本来のドジっ子属性が発揮されたのか、運動神経バツグンな彼女にしては珍しく足元がお留守になっていた。

「え?あ?きゃあっ!」

そこにはハマリュウに背中をはたかれた時に落としたアンパンがあり、運悪くそれを踏んずけてしまった。
更に運悪くこぼした牛乳が潤滑油になって、彼女は転んでしりもちをついてしまった。
更に運悪くたまたまそこにあった牛乳パックを手でつぶしてしまい、ストローから飛び出た牛乳が彼女に降りかかる。
主人公補正・・・いや、もしいるとすれば作者の悪意しか感じられない運の悪さである。

「うへえ、べとべとだあ・・・」

体全体に白い液体をまとわりつけ、走って来たのか朝日奈は顔を真っ赤にして息を荒げている。
顔についたどろっとした牛乳を指で救う朝日奈。みんなその様子をあら♡・・・とみていたが、俺はそれどころじゃなかった。
皆さん、俺はこの少女が入って来た時に何をしてたか分かるだろうか。

 ANSWER:雑巾で床を拭いていた。

よって俺だけはしりもちをついた彼女のみずみずしい内股の奥がはっきりと見えていた。
室内競技選手だからだろうか、本当の意味で純白なその肌とみずみずしい弾力を兼ね備えた運動で鍛え上げられた太もものとアイアンカーテンという名のスカートに守られた聖域の奥にあったのは、小学生が履いてるような子犬のプリントパンツだった。
その子供っぽさとふんわりさは彼女の雰囲気にピッタリ一致しており、この情報だけでさらに彼女の狂信者が増えるだろう。
意図せぬラッキースケベに俺の斬○刀と顔に血が上ってしまう。
よ、四つん這いだからセーフ!
そんなNPCのくせにクラスで一人だけラッキースケベを経験してしまった俺には勿論罰が待っていた。
 
目の前に俺がいることに気付いた朝日奈は桜ちゃん?と、やあっと俺の存在に気付いた。
顔を真っ赤にした俺を見て小首を傾げると、俺の目線を辿っていき・・・

「きゃあ!」
「ぐはっつ!」

鍛え上げられた神の左足が俺の眉間に直撃!
その一撃で俺の斬魄刀に回ったエネは一瞬で縮み上がり、視界は真っ白になった。
暴力教師の『せいとめいぼ』によって鍛えられていた為、ちょっと?じたばたもがくだけで済んだがその間に朝日奈はスカートを抑えつつ、壁際まで避難し手近にあった机をバリケードにして俺を恨みがましく睨んだ。

そんな様子も可愛いので美少女はやはり無敵である。
天然美少女最高です、ぶひぃ。
けども、そのバリケードにしてる机は私の机です。
牛乳が着いた手でべたべた触れないで下さいとか、いろいろ突っ込みたいけど彼女を見てたらそれすらどうでもよくなる。
 仕方ないなあ・・・ごめん、大丈夫?そんな言葉をかけて立ち上がる手助けをしようと手を差し伸べた。

しかしその前にまるで『俺がいないかのように』ごく当然に割り込んできた人間がその少女の手を掴み、強引に立ち上がらせた。

「ったく、俺がついてないと、お前は相変わらず危なっかしい奴だな。」
「あ、先輩。」

 彼女の手を強引に引き上げ立たせたのは、ブレザーを勝手に改造していい感じにしたやんきーさんで、明らかに染めたことが分かる不自然に明るい茶髪染めのお兄さんである。
 主人公である朝日奈にタバコを吸ってるところを注意されて大喧嘩。その後、イベントをこなすことで最近デレ始めたちょい悪先輩ポジションの先輩である。
バイクが大好きという子供っぽい一面も。

ワイルド系イケメン。
勿論、朝日奈の逆ハー要員。
3年です。

「君は、女性の扱いがなってないよ。どきたまえ。」
「せ、先輩まで来ちゃったんですか・・・?」

この真面目そうな眼鏡イケメンは、学校一の秀才である。
東大を目指せるだけの学力を持ち、それを鼻に掛けない。
真面目で、清楚な女性が好みであり、図書室で朝日奈に勉強を教えた時、先輩って本当に頭がいいんですねと笑いかけられて以来、朝日奈のことが忘れられない。
真面目で誠実な人柄が災いして、朝日奈に積極的ににアプローチできない。髪は緑色。

クール系イケメン。
勿論、朝日奈の逆ハー要員。
3年生です。
何故校舎自体違う人間がここに何人も来てんの!?

「楓。牛乳の匂いしみついちゃってんなあ。ほら、匂い消ししてやっよ。」
「っ、何だ君は!?違うクラスだろう!」

秀才イケメンを押しのけて、朝日奈にシュッ、シュッと香りスプレーをかけてあげるのは、男子生徒副会長である。
中学校時代、生徒会長だった経験を活かして1年なのに大抜擢された。
小学校の頃朝日奈と同じ学校だったらしく、仲が良い。
明るい性格で人望の高いムードメーカー。
ワックスで固めたシャレオツな髪形とピアスが目印。髪は赤色。

明るい元気系イケメン。
勿論、朝日奈の逆ハー要員。
一年生。
クラス違うけど。

「楓姉さま。大丈夫ですか?」
「楓・・・この子供君の子?」
「違うわよ!」

蒼色の髪だけでなく優しい蒼色の目まで持っているこの少年は、実とある国の皇子様である。
迷子になっていたところを朝日奈に助けられて惚れてしまう。
それ以来、しょっちゅう朝日奈のところに遊びに来る。

逆光源氏系ショタイケメン。
勿論、朝日奈の逆ハー要員。
そもそも小学生。
何人いんの!?てか、まだいんの!?

「お前、、、僕の姉さんを楓姉さまとか呼ぶな。その舌、引っこ抜くぞ?」
「ひい・・・」
「な、何で、あなたまでいるの!?」

いつの間にか、朝日奈を後ろから抱きしめる目に髪が少しだけかかっているこのイケメンは朝日奈の従弟である。
 現在は朝日奈の家にお世話になっており、朝日奈に妄執している。
 朝日奈につく悪い虫は即刻排除して良いと本気で考えている。

ヤンデレ系イケメン。髪は紫色。
勿論、朝日奈の逆ハー要員。
そもそも学校違う。
10キロぐらい離れているはずだ。中学生。

「お前ら、何集まってるんだ!さっさと解散しろ!朝日奈が迷惑しているだろうが!」
「やば・・・姉さんまたね」

今来た人は、体育教師である。
爽やかな笑顔が人気でバスケ部の顧問をしている。髪はウルトラターメリックオレンジ色。
昔、運悪く故障をして全国大会出場を為せなかったという過去があり、朝日奈に期待している。

オジサマ系イケメン。
勿論、朝日奈の逆ハー要員。
お前、、、自分のクラスのホームルームすっぽかしたな?
そんな感じで朝日奈が埋もれてしまうぐらいの輝きを持ったイケメンが集まりお互いに朝日奈のフォローを競い合って一歩リードしようと競い合っている。

正直、朝日奈ワールドにクラス全員ドンっ引きである。
てか、逆ハー要員で埋もれて、朝日奈見えんくなってる、、、多すぎだろ。
美少女だから主人公になれるとは限らない。
普通なら、ただのハーレムメンバーの一員に過ぎない。

しかし、その点、彼女は幼いころから『主人公』だった。
幼稚園では、金持ちを救って一躍、家がセレブになったり
小学校では、善人っぷりを超発揮し、逆ハー探偵団を結成して大捕りものをして表彰されたり。

中学校では、生徒会を逆ハーメンバーで埋め尽くし。
4月の誕生日は、今まで積み上げてきた逆ハーメンバーからの誕生日プレゼントが家からあふれ出して、隣のうち家の庭に流れ込んで来たり。
・・・未だにすべて開けきってない。
てか、宇宙ロケットの使用権や核ミサイルの発射ボタンらしきものをうちの庭で見つけてしまったので処理に困ってます。

 誰か助けて。

美少女であることは重要視されることではあるが、それだけでは『主人公』にはなれない。
幼いころから、自分にとって都合の良いイベントのみを引き当てる強運の持ち主だった。
基本的に善人だから、心臓が動くのと同じくらい当たり前に誰でも救おうとするバカだった。

そして天然ドジっ子だから、食事と同じ回数でトラブルに巻き込まれてしまうやつなのだった。
つまりこの朝日奈楓という少女は知らず知らずのうちに自分の美貌とか性格に惚れられてイケメンを振り回して困っちゃうな『逆ハー系主人公』さんなのだ。

コイツが主人公である限り、俺は絶対『主人公』にはなれない。

それは朝日奈本人に中学校の時に思い知らされたことだから、最近は腹が煮えくり返るだけで顔に出さないで済ませられるようになった。
呼吸をゆっくりと続ける、朝日奈が主人公っぽいところを魅せつけられるたびにこうしないと体に不調をきたしてしまう。
黙々とそんなことを考えてしまっていたらいきなりちょい悪系イケメンに胸ぐらを掴まれた。

「おい、オマエ。楓を転ばせたのお前らしいな。」
「ガッ・・・」

むかむかする心を落ち着けるのに必死になって、全く心の準備が出来ていなかった。
き、急に息が出来なくなって苦しい。
ジタバタもがくが腕はびくともせず、逆にきつく締めあげられる。
ぼやけた視界の中、逆ハー要員たちの顔が見える。
そいつらの顔に浮かんでるのは、不良系イケメン同様『怒り』と『先を越されたというしまったっていう表情』だった。

そうだろうな、、、結局、俺みたいなNPCはあいつらにしてみれば自分の恋を上手く進める為の潤滑油でただの道具にすぎないんだろうな。
体に力が入んなくなり、耳がザワザワして何も聞こえなくなる。
もう、、、いいかと全部諦めかけた時、いきなり呼吸が出来るようになった。

「ごほっ、ごほっ・・・ハマリュウ?」

どうやら、ハマリュウがちょい悪イケメンを突き飛ばしたらしい。
ちょい悪イケメンが勢い良く立ち上がり、どすの利いた声を出す。

「何すんだよてめえ」
「先に手を出ししたのは先輩でしょ?何、本気で首絞めてんです?」
「だから、朝日奈が・・・」
「朝日奈さんと如峰月の問題でしょ?何であんたに関係あんの?」
「っつ・・・てんめえ・・・」

ちょい悪さんが血管を浮きだたせて、詰め寄ろうとする。
それが分かっていたのはおそらく俺だけだった。
その瞬間、なんかが自分の中で切れてしまった

逆ハー『要』員だからっていつでも都合の良いように進むと思うなよ・・・と思ってしまった。

世界にもしシナリオがあるなら、あと数秒待てばいいのだろう。
具体的にいえばハマリュウが殴られればおそらくその音を聞いたことで視界を塞がれていた朝日奈さんがやめてと叫ぶんだだろう。
そして、朝日奈さんの顔に免じて・・・となって終わるだろう。
皆その流れを想定していた。

フザケンナよ。
 
危険も顧みずに助けてくれた親友を犠牲にできるか、NPCにも物語を別の方に滑らすことは出来んだよ!

「皆さん!」

 俺は高校に入って初めて腹一杯大声で叫んだ。教室の皆の注意が俺に注ぐ。
ちょい悪ですら、ぎょっと俺を見つめていた。

「僕のせいで皆さんをお騒がせして本当に申し訳ありません!本当に申し訳ありません!」

土下座である。
義弟イケメンは功を求めたのか、さも、朝日奈さんを心配しているように言う

「まずさ、傷ついた姉さんに謝んのが筋じゃない?」
「はい!申し訳ありません!朝日奈さん、本当に申し!わけ!ありま!せん!」
「うっ・・・」

義弟が失敗したという顔をして、後退していく。
その間もただ言葉もなく態度だけで俺はNPCの役割を果たす。
ただ俺の声が響き渡る。

恋に酔っていたこのバカどもには良い薬になるだろうな・・・とぼやける頭で考えた。
間違いなく、勧善懲悪ではなくこの逆ハー要員達がやっていることがいじめに『見える』。
そして、『主人公』はたとえ自分がどんなに害されようとも悪を許さない。

「先輩たち、いい加減に謝って!どう考えても悪いのはあなたたちです!」
「何してるんですか!私の生徒に何をさせてるんです!そこに並びなさいっ!」

逆ハー要員を朝日奈が全員土下座させているのが、ぼんやりと見える。
いつの間にか教室にいた穂のちゃん先生が順番にそれらを張り倒してる様子もなんとなく分かる。
あれはまじで痛いからな・・・

NPCは主要人物が織りなす物語に逆らってはならない。
逆ハー要員の意見を曲げれるのは主人公だけ。
主人公って恵まれすぎだろ・・・

NPCの役割はただそのSEKKYOUタイムを作るきっかけを作り理不尽に耐えるだけなんて。
ちくしょう、、、朝日奈みたいな主人公らしい主人公になりたかった。




翌日になった。結局、丸く収まった。
ハマリュウが準主人公格に逆らったことよりも俺がヤバい土下座をしたことの方が目立ったらしい。
その俺も幸い見た目ほどひどくなかったらしく、怪我もなく済んだ。

ちなみに逆ハー要員たちは全員、親や教師にこってり絞られたらしい。
まあ、、、他の学校の生徒まで来てるとか意味わかんないしね。

多分だけど、朝日奈劇場的には逆ハー要員達がお互いに牽制しあう状況が悪化して一度キレるという流れに沿えば問題なかったのだろう。
 全く、、、腐った物語だなくそ野郎。
・・・ってな感じで、後日談に入っておしまい!としたかったところだがそうも言ってられなくなった。


朝日奈楓物語は再び俺に目をつけやがった・・・


次の日、俺のクラスの1-Bは、昨日結局うやむやになった文化祭実行委員会の委員決めをすることになっていた。

「・・・えーと、分かってると思うけど男女一人ずつ決定しなきゃいけないし、大事なことだからできれば立候補がいいんだけど」

 新聞君が相変わらず、眠そうな顔で黒板に『実行委員決め(さっさと決めて合唱コンクールの曲決めに入りましょう)』と書いてるあたり、学級長の苦労が良く分かる。
ちなみに朝日奈さんから全曲『没』が出たため、彼は2徹目を迎えてしまった。
合唱コンクールも後3週間を切っている。
曲を早く決めないと一人の有望な少年が過労死するぞ?
そんな彼の苦労も知らず、クラス全員から面倒臭いからパスムードが漂ってそれが20分続いた。

学級長が切れた。

「はい、もう推薦しあいましょ!さっさと決めろやてめえら!」
「お、落ち着いて新聞君!先生もそれでいいと思います!誰かいませんか!?誰かいませんか!?」

誰をサクリファイスするかを皆がこそこそと話し合い始めたが、それはすぐに止んだ。
朝日奈さんが手を挙げたので皆がシンと静まりかえったのだ。
流石、主人公。皆を一瞬で観客に変えてしまう。

さあ、彼女は誰を蹴落とすのか?いや、彼女がそんなことをするはずがないとかいろんな議論がとあるサイトで巻き起こる。
皆の(文字通り)注目を浴びてちょっと恥ずかしそうにしながら彼女は形のいい唇を開いた。

「誰もいないようなので、、、私やってみようかな?」

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
ktkr
orzせっかくサボれたと思ったのに、楓たん参加とか・・・

などと、本当にとある掲示板が大騒ぎしている。
楓たん、マジパないっす。

「他には、、、いないよね。おっけ、朝日奈さんよろしくお願いします!ハイ決まった!次、逝こう!」

彼女(主人公)とよっしゃ張り合ったるとか言えちゃう方もいらっしゃらないので、スムーズに決まる。
・・・となると、問題は

「男子」

おおう、、、流石NPCばっかのクラスだ。朝日奈さんと同じ仕事なんて無理だ☆と既に心を折っている。
てか、このクラスで物語に組み込まれそうな重要NPCは新聞君とハマリュウしかいない。
女子が手を挙げ発言する。

「新聞君で決定じゃない?・・・ごめん、嘘!踏みとどまって!」

ありのままの事実を報告するぜ!
あらふ・・・と聞こえた瞬間、新聞君は皆さん今までお世話になりました!合唱コンクールの曲決めは別の人に任せたぜ!ヒャッホイ!と4階から飛び降りようとしたので男子数人で彼を捕えることになった。
・・・となると、残りの犠牲者(重要NPC)は一人しかいない。
と、数少ない友人を売ろうと手を挙げる前に先に手を挙げられてしまった。

「はい!時間的に余裕のある如峰月桜君なんてどうでしょう!?」
「ハマリュウ・・・てめえ、親友を売る気か?この下種野郎っ!」
「はっ、俺は忙しいんだよ!昨日の借りも返せんだし、良いだろ!このなんちゃって帰宅部が!」
「じゃあ、アンパン代返しやがれ!この野郎!」
「けつの穴がちっせえ男だなあ!じゃあ周りに聞こうじゃねえか!皆、俺と桜どっちがいい!ちなみに俺を選んだ奴は、、、分かってんな?」
「「「「「「「「「・・・・・・SAKURA!SAKURA!」」」」」」」」」

この、流れにすぐ乗るNPC共がっ、、、自分の意思ってもんがコイツラにはねえのかよ!?
 保身に走りやがって!絶望したぜ!
 明らかに俺が不利なので、逆転の望みをかけて身の上話を始める。

 「実は俺、部活動を始めようと・・・」
 「そういや、昨日将棋部に入部届と退部届一緒に出してきやがったよな。俺は忘れてねえぞ?」
 「くそう・・・ちょっと待て・・・・あ、そうだ!俺、家に早く帰って夜遅く帰ってくる妹の為に夕飯作ってあげないといけないんだ!両親全然帰って来ないからさ!」
 「「「「「「「「ちっ」」」」」」」」」

ふう、、、ちょっと待てとか言ってる時点で俺がろくでもない人間であることは間違いないが意外と良い言い訳を思いついたもんだ。
ハマリュウが逆転の発想をひねり出すんだ俺!俺!と叫んでいる。
他の奴らも、これ以上手が無いといった様子で悔しそうにこちらを見上げる。

「学級長!これ以上の議論は無駄だ!判決を!」
「仕方がありません・・・では判決を・・・」
「異議あり!」

ハマリュウが立ち上がり、こちらを指さしてきた。
それから机をバンと叩くと野球部仕込みの大きな声で話し始めた。

「こちら側には証人を用意しております!それを聞いてからでも遅くはないのではないでしょうか!?」
「無駄だ!どんな証言でもこの流れは覆らない!」
「学級長、様々な可能性を吟味しなければあなたに災いが・・・」
「許可します!」
「屈してんじゃねえよ!?」

新聞君が簡単に脅しに屈したので、仕方なく条件を付ける事にする。
ハマリュウを指さしながら、今度はこっちが机を叩く。

「よろしい、、、ただし、私は常日頃から無駄な質問を重ねていたずらに審議を伸ばすことは法廷侮辱罪にあたると考えている!よって質問は一つだ!」
「ええ、かまいませんよ」
「、、、何?」
「朝日奈さんは前へ」

しかし彼は胸を張って自信ありげに笑った。
そして彼は本当に一つだけ質問した。

「このクラスで、誰と一番組みたいですか?」
「てめえええええええええええ!?」
「え?え?それは・・・桜ちゃ、、、如峰月君、、、です。」
「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」」」」」」」

 汚ネエ手を使いやがって!俺って答えざるをえんだろうが!
どうやら、昨日の一件でNPCとしての影の薄さが薄れているのも原因だろう。
 多分2,3日で元に戻るだろうが、この時はまだ致命的だ。
 絶対皆に俺の印象残ってしまっている。

おれは『特に』『主人公』なんかと一緒にいたくねえんだよ!?

多くのブーイングが巻き起こり、俺に様々なものが投げつけられる。
だったら!お前ら!俺と変われ!
変わるほど根性はないが羨ましいものは羨ましいらしい。

「裁判長!確かに証人の意思は尊重されるべきだ!しかし、、、たかが文化祭と大事な家族のどちらを優先すべきかなんてわかるでしょう!俺の妹は今年受験生なんだ!」
「ふむ、、、確かに。」
「くっ、、、ここまでか。ごめん、朝日奈さん。君の願いをかなえてあげれなかった・・・」

このシスコン!朝日奈さんに謝れ!という言葉と共に硬球とかブラックジャックといったものをガチデ投げられ始めるようになってきた。
これは、早く逃げないと命の危機につながる、、、
中指をおったてながら、悔しがるハマリュウや暴徒と化したクラスメートを威嚇する。

 「何とでも言え!最後に勝つのは、兄妹愛なんだよ!ざまあみやがれ!妹サイコ-!さあ、裁判長!判決を!」
 「個人的にはハマリュウ氏の意見に同意なのですが、とばっちりを喰らうのはごめんです。仕方有りません。原告、浜田龍之介を文化祭準備委員3か月の刑に・・」
 「待った!」

扉を押し開いて、穂のちゃん先生がハマリュウに茶封筒を渡す。
ハマリュウはその資料をさらっと読むと段々生気を取り戻していった。
小声で、、、逆転とか言っている。

「せ、先生!生徒の自主性を重んじるんじゃなかったのか!?無理矢理強制労働させるなんて教師の所業か!?」
「良い生徒には自主性を!悪い生徒には労働によって青春の素晴らしさを学んでもらいます!このままじゃあなたは青春を知ることのないまま平気で卒業しそうです!」
「話にならん!てか、教師が強制労働を進めるとかまじないわー。で、後あなたの勘は大当たりッすわ!」
「それはどうかな!喰らえ!」
「な!?これは、、、」

それはただ単純な手紙といっても良いものだった。
 書いてあることは単純、『もう夕飯私の分作んないでいいから。美味しくないし。』
敗訴決定した俺の前に先生がやってきておれにかがめと指示する
抵抗する気にもなれないのでおとなしくかがむ

「あと、妹さんにもしあなたが兄妹愛とかほざいてたらこう言ってほしいって頼まれてたんです。」
「なんですか?」
「くらえ!!」
「ぐはっ」

鳩尾にまともに一発入ったため、せき込みながら倒れこむ。

「被告、如峰月桜に次ぐ、、、文化祭準備委員3か月の刑に処す!これにて閉廷!」
「「「「「「「「オナシャス!!」」」」」」」」」

仰向けに倒れこむ。くそ、、、あきらめるしかないかあ。
花吹雪が顔に降りかかるのを死んだ目でぼうっと見つめていると、朝日奈さんが俺の耳元にしゃがみ込み一言だけ囁いて去った。

くそ、『頑張ろうね・・・桜ちゃん』か。
主人公ってやつはよくそんなこっぱずかしいセリフを口に出来るもんだ。
そういうところが、俺がNPCな理由なのかな・・・
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