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王子様の意図(3)

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 近づいていた距離を戻し椅子に座り直すと、フェンリルはリーシャが考えていた疑問の答えを口に出し始めた。

「実はさ、さっきあんたをこの国から逃がさないために、王室に入れちまった方がいいんじゃないかって親父に打診しに行ったんだけどさ……」
「はぁ⁉ なんてことを打診しに行ってるんですか⁉」

 想定外の内容だったせいで、リーシャは焦りを顕わにしてフェンリルの言葉を遮った。
 話を遮られたにもかかわらず、フェンリルは気を悪くすることなく続けた。むしろリーシャを慌てさせられたことを面白がっているようだった。

「まぁまぁ、話聞けって。んでさ、ちょうど居合わせたシルバーとかいう男に、竜に国をめちゃくちゃにされちまうからそれはやめとけ、って言われちまったんだ。嫉妬した竜が暴れ出すってな。だから無理やりっていうのはまずいと思って、諦めはしたんだ」
「無理やり以前に、そもそも貴族でもない人間を王家に入れるなんて無理ですよ……」

 リーシャはフェンリルの突拍子のない発言の数々に項垂れた。
 そして、今の会話で気がついた。
 リーシャがこの部屋で待機させられていた原因は、シルバーが国王と謁見しているところにフェンリルが乱入したからのようだ。

「別に、俺だったら継承権低いから気にするほどの事でもねぇだろ。俺は国を守る力のためならなんだってする。さっきああは言ったけどよ、お前が望むなら側室にしたっていいんだ。何なら正妻でもかまわねぇし」
「……はい? あの、人の話聞いてました⁉」

 フェンリルからの唐突な申し出に衝撃を受けすぎて、彼が言っている内容について詳しくは理解できいうちに咄嗟に反応してしまった。さっきというのは体形云々と言っていた事だろう。
 そんな自由気ままなフェンリル王子に呆れた眼鏡の使用人の呆れた声が聞こえて来た。

「フェンリル様。お戯れはおやめください」
「なんでだよ。別に戯れで言ってるわけじゃねぇぞ? っていうか俺は元々結婚なんてする気はさらさらないし、しないといけないんなら都合のいい相手見繕った方がいいだろ。俺がこいつを貰っちまえば、こいつの力はこの国のもんだ。そうだろ?」

 2人の会話はリーシャを置き去りにしてどんどん進んでいく。いつの間にか、妃教育という言葉を含んだ話にまで発展していた。
 このままだと本当にフェンリルの妻という位置に納まってしまいそうな雰囲気だ。

「あのぉ、話を勝手に進められると困るんですけど……えっと、フェンリル……その話はお断りさせていただいてもいいでしょうか?」

 リーシャのその返答に使用人は安堵したようだった。
 継承権が低いとはいえ、王族であるフェンリルが貴族に必要な礼儀作法を学んでいない一般庶民、ましてやこれから裁かれようとしている人間を娶るというのはやはり無理がある。当然の反応だとリーシャも思った。
 リーシャとしても人の注目を集め、魔法の研究を続けてそれを実践で使える機会を減らしてしまうような選択肢などリーシャはいらなかった。
 ただこれまでの話でリーシャのフェンリルに対する評価は変わっていた。
 一見いい加減に見えるフェンリルだけれど、その言動の裏には国を第一に考えている。彼も立派に王族としての務めを果たそうとしているのだ。考え方はいただけないけれど。
 フェンリルは断られるのを承知だったというように、わざとらしく脱力してみせた。

「やっぱダメかぁ。ま、いいけど。あんたがこの国に残ってくれればそれで」

 フェンリルはおもむろに立ち上がった。

「んじゃ、俺は行くな。親父たちがあんたを待ってるだろうし、これ以上引き留めとくわけにはいかねぇからな。じゃあな、また後で」

 フェンリルは一方的に言いたいことを言い残すと、そのままスタスタと行ってしまった。

(また後でって……?)

 リーシャが呆然とフェンリルが立ち去った後を眺めていると、何故か使用人が謝ってきた。

「申し訳ありません」
「え? 何がです?」
「フェンリル様のことです。失礼な言動を。それにあなた様を差し置いてあのような……困っておいででしたでしょう?」
「ああ、大丈夫ですよ。ああいうのは慣れてますし。それに、フェンリル王子が本気で言ってるわけじゃないのもわかってますから」

 リーシャは苦笑いで答えた。
 おそらく、フェンリルもリーシャが首を縦に振るとは思っていなかったはずだ。これで引き留められたらラッキー、くらいの感覚での言葉だろう。
 眼鏡の使用人は安堵したように微笑んだ。

「そうですか。それでしたら、よかった。では、国王様がいらっしゃる玉座の間へご案内いたします」
「はい。お願いします」

 ついにその時がやってきたと、リーシャは気を引き締めた。
 自分の発言で今後の生活が決まる。今まで通りでいられるか、それとも逃げ続ける生活になるか。緊張がまとわりついてくる。
 重く感じる足を動かし、リーシャは玉座の間へと向かった。
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