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竜の国
頂上の国(2)
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シャノウがにらみを利かせ続けていると、竜の国で暮らす竜たちが騒めいた。皆、シャノウがいる方とは反対の方を向いている。
リーシャがその方向をじっと見ていると、白い竜が自分たちの方へやって来ているのが見えた。竜王だ。竜たちの視線は竜王へと向けられ続けている。
竜王は2匹の黒竜を従え、リーシャたちの元まで堂々と羽ばたきながらやって来た。
「まさか君たちがここを訪れてくるなんて。よく来たね、といいたいところだけど、私の立場上それは言うことはできないから、聞くべきことを聞かせてもらうよ……人間、何しにここへ来た。目的はなんだ」
竜王は柔らかな物腰から突如として凍り付いたような冷ややかな態度へと豹変した。
圧倒的な強者の威圧に、リーシャと3兄弟だけでなくファイドラスさえも怯んだ。ただ1匹、シャノウだけは怯むことなく竜王と対峙している。
けれど、怯んだままでいるわけにもいかない。
リーシャは重くなった口を開き、声を絞り出した。
「私たち、竜王様にお願いがあって来ました」
「願い?」
「はい。シャノウさんの、この死竜の封印を解く魔道具を作るため、協力をお願いしたいんです」
「何故私に協力を求める。私に人間の使う道具の知識があると思うのか?」
「魔道具を作る事自体はこちらが全てやります。ただ、竜王様の光の魔力をお借りしたいのです。もしかすると、解放に光の魔力を用いた魔道具を作らないといけないかもしれないので」
「かもしれない、か。つまりは何の確証もなくここまで来たというのだな」
「確証はありません。けど、可能性があるのなら試す価値はあると思うんです」
リーシャが威圧に負けずに訴えかけていると、竜王が纏う雰囲気がフッと軽くなった。
「……期間は?」
「え?」
「いつまでここにいるつもりなのか聞いているんだよ」
「わっ、わかりません。ただ、それなりの時間はかかるとは思います。でも目的を達成したらすぐに立ち去ります!」
力強く願い出ると、竜王が一瞬口を閉じた。
「……わかった。死竜と黒竜、そして彼に乗る人間、人型をした者たちが立ち入る事を許可する」
「えっ……」
竜王の視線がファイドラスの方を向いた。
「君は、わかっているね」
「ああ。私は追われた身。貴方様の許しなく押し入ったりするつもりなどない。元よりここに戻るつもりなどなかったしな。約束も果たした。このまま立ち去ろう」
「……すまない」
竜王の発する人間の声は本当にすまなそうな声をしていた。きっと竜王とファイドラスも親しい仲だったのだろう。
罠にはめられたからとはいえ、竜の王という立場がファイドラスを無暗に庇う事を許さなかった。ファイドラスもそれをわかっていて、咎めるつもりもないようだ。
「かまわないさ。あー、あと最後に1つ聞きたいんだが」
「なんだい?」
「これはどうすればいい?」
ファイドラスが足を揺らすと、握られていたロープの先がぐらりと揺れた。
「ふっ。律儀だね。自分を追放するよう仕向けた者など放っておけばいいものを」
「私の判断ではない。そこの人間のお嬢さんがこのまま放って、死なせるのはかわいそうだと聞かなかったのでな」
「そうか」
竜王がちらりとリーシャの方を見た。
「彼女はお人よしが過ぎるね。わかった、その者は引き取ろう」
竜王が従えていた黒竜に竜の言葉で何かを告げた。するとその黒竜がファイドラスの元へと飛んで行き、凍った水竜の縛られたロープを受け取る。
「これで役目は終わったな。それでは私は退散させてもらうとするよ。ではな、人間のお嬢さんと小さき竜、そしてわが友よ」
ファイドラスが清々しく飛び去ろうとした直前、リーシャは大きな声で彼を呼び止めた。
「あのっ、ファイドラスさん!」
「なんだ?」
「ここまで連れて来てくれて、ありがとうございました!」
感謝されるとは思っていなかったのか、ファイドラスは驚いたように目を見開いた。
「……お嬢さんが改まって礼を言う必要はない。私は友が再び自由を手にするために必要な事を手助けしただけだ。礼を言うならばヤツが言うのが正しいと思うのだがね。なぁ、シャノウ?」
最後の最後まで軽口を叩くファイドラスをシャノウの赤い瞳が捕えた。睨みつけているのだろう。
そんな顔を見るのが面白いのか、はたまたそんな馬鹿げたやり取りができる事で気分が高揚しているのか、ファイドラスは高らかに笑い声を上げた。
「はっはっはっ! ヤツも不機嫌になった事だ。今度こそ、立ち去るとしようか。それではな」
ファイドラスがリーシャたちへと顔を向けた。
ほんの2日程度の短い時間しか共に過ごしてはいないけれど、次に会う機会があるかもわからない別れを前にしたリーシャは寂し気に微笑み、別れを告げた。
「……はい。お気をつけて」
「じゃあね、ファイのにぃ、さん」
ノアとルシアも各々頭を下げて別れを告げ、シャノウは口を閉じたままファイドラスから顔を背けた。
シャノウのその姿を見たファイドラスは小さく「グルルッ」と機嫌良さそうに鳴くと、ぐるりと向きを変え、ここまで向かって来た空を引き返して飛び去って行った。
リーシャがその方向をじっと見ていると、白い竜が自分たちの方へやって来ているのが見えた。竜王だ。竜たちの視線は竜王へと向けられ続けている。
竜王は2匹の黒竜を従え、リーシャたちの元まで堂々と羽ばたきながらやって来た。
「まさか君たちがここを訪れてくるなんて。よく来たね、といいたいところだけど、私の立場上それは言うことはできないから、聞くべきことを聞かせてもらうよ……人間、何しにここへ来た。目的はなんだ」
竜王は柔らかな物腰から突如として凍り付いたような冷ややかな態度へと豹変した。
圧倒的な強者の威圧に、リーシャと3兄弟だけでなくファイドラスさえも怯んだ。ただ1匹、シャノウだけは怯むことなく竜王と対峙している。
けれど、怯んだままでいるわけにもいかない。
リーシャは重くなった口を開き、声を絞り出した。
「私たち、竜王様にお願いがあって来ました」
「願い?」
「はい。シャノウさんの、この死竜の封印を解く魔道具を作るため、協力をお願いしたいんです」
「何故私に協力を求める。私に人間の使う道具の知識があると思うのか?」
「魔道具を作る事自体はこちらが全てやります。ただ、竜王様の光の魔力をお借りしたいのです。もしかすると、解放に光の魔力を用いた魔道具を作らないといけないかもしれないので」
「かもしれない、か。つまりは何の確証もなくここまで来たというのだな」
「確証はありません。けど、可能性があるのなら試す価値はあると思うんです」
リーシャが威圧に負けずに訴えかけていると、竜王が纏う雰囲気がフッと軽くなった。
「……期間は?」
「え?」
「いつまでここにいるつもりなのか聞いているんだよ」
「わっ、わかりません。ただ、それなりの時間はかかるとは思います。でも目的を達成したらすぐに立ち去ります!」
力強く願い出ると、竜王が一瞬口を閉じた。
「……わかった。死竜と黒竜、そして彼に乗る人間、人型をした者たちが立ち入る事を許可する」
「えっ……」
竜王の視線がファイドラスの方を向いた。
「君は、わかっているね」
「ああ。私は追われた身。貴方様の許しなく押し入ったりするつもりなどない。元よりここに戻るつもりなどなかったしな。約束も果たした。このまま立ち去ろう」
「……すまない」
竜王の発する人間の声は本当にすまなそうな声をしていた。きっと竜王とファイドラスも親しい仲だったのだろう。
罠にはめられたからとはいえ、竜の王という立場がファイドラスを無暗に庇う事を許さなかった。ファイドラスもそれをわかっていて、咎めるつもりもないようだ。
「かまわないさ。あー、あと最後に1つ聞きたいんだが」
「なんだい?」
「これはどうすればいい?」
ファイドラスが足を揺らすと、握られていたロープの先がぐらりと揺れた。
「ふっ。律儀だね。自分を追放するよう仕向けた者など放っておけばいいものを」
「私の判断ではない。そこの人間のお嬢さんがこのまま放って、死なせるのはかわいそうだと聞かなかったのでな」
「そうか」
竜王がちらりとリーシャの方を見た。
「彼女はお人よしが過ぎるね。わかった、その者は引き取ろう」
竜王が従えていた黒竜に竜の言葉で何かを告げた。するとその黒竜がファイドラスの元へと飛んで行き、凍った水竜の縛られたロープを受け取る。
「これで役目は終わったな。それでは私は退散させてもらうとするよ。ではな、人間のお嬢さんと小さき竜、そしてわが友よ」
ファイドラスが清々しく飛び去ろうとした直前、リーシャは大きな声で彼を呼び止めた。
「あのっ、ファイドラスさん!」
「なんだ?」
「ここまで連れて来てくれて、ありがとうございました!」
感謝されるとは思っていなかったのか、ファイドラスは驚いたように目を見開いた。
「……お嬢さんが改まって礼を言う必要はない。私は友が再び自由を手にするために必要な事を手助けしただけだ。礼を言うならばヤツが言うのが正しいと思うのだがね。なぁ、シャノウ?」
最後の最後まで軽口を叩くファイドラスをシャノウの赤い瞳が捕えた。睨みつけているのだろう。
そんな顔を見るのが面白いのか、はたまたそんな馬鹿げたやり取りができる事で気分が高揚しているのか、ファイドラスは高らかに笑い声を上げた。
「はっはっはっ! ヤツも不機嫌になった事だ。今度こそ、立ち去るとしようか。それではな」
ファイドラスがリーシャたちへと顔を向けた。
ほんの2日程度の短い時間しか共に過ごしてはいないけれど、次に会う機会があるかもわからない別れを前にしたリーシャは寂し気に微笑み、別れを告げた。
「……はい。お気をつけて」
「じゃあね、ファイのにぃ、さん」
ノアとルシアも各々頭を下げて別れを告げ、シャノウは口を閉じたままファイドラスから顔を背けた。
シャノウのその姿を見たファイドラスは小さく「グルルッ」と機嫌良さそうに鳴くと、ぐるりと向きを変え、ここまで向かって来た空を引き返して飛び去って行った。
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