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竜の国
羨望(2)
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「あっ、ねぇさん。竜王のにぃさん、今こっち向かって来てるよ」
エリアルが向いている方角の空に、リーシャたちの方へ向かって飛んで来る白い竜の姿が見えた。
瞬く間に距離を詰めた竜王が崖際に足を掛ける。
「すまないね。こっちに向かおうとしたところで、クリスティナが体調悪いのに飛ぼうとしてるのに気がついてしまって。止めるのに時間がかかってしまったよ」
「えっ、大丈夫なんですか?」
「うん。立ってるとふらつくってくらいだから」
「それ、大丈夫じゃないですよね……?」
「いや? 死にそうってわけじゃないから問題ないよ。症状としてもマシな方だから。ひどい時は起き上がれないみたいだからね」
「そう、ですか」
相変わらずのあっさりした物言いに、リーシャには返せる言葉が見つからなかった。
「それよりも、私の方にも気になっていることがあるんだけど。向こうでこっちを見ている彼らは、何をしているんだい? 知ってるかな?」
竜王の視線の先には、色とりどりの竜が5匹いた。何をしてくるわけでもなく、離れた場所から、ただじっとリーシャたちの様子を窺っているだけだ。
リーシャは自分では説明しにくく、どう説明したものかと言い淀んだ。
「えーっと……」
「あいつらは、リーシャとシャノウの取り巻きだ」
横から発せられたノアの端的な回答に、竜王は首を傾げた。
「取り巻き?」
「先ほど、先日凍らせた火竜の氷を溶かしに行ってきたんだ」
「ああ。やっぱり溶かしてあげたんだ」
「リーシャがどうしてもというからな。仕方ない。まあそんなことはどうでもいいんだ。その時に、先客でどうにかして氷を溶かそうとしていた集団がいてな。その目の前で火竜を解放したんだが、集団の大半が火竜について行ったにもかかわらず、あの連中がこっちに付きまとい始めたんだ。リーシャとシャノウの下に付かせてくれと言ってな」
「へえ。また新しい派閥ができたんだ」
「おい。竜という生物は群れないんじゃなかったのか?」
「大体の子たちはそんな感じだよ。現に今もここから見える子たちは1匹で自由気ままに過ごしているだろう?」
高い岩場から見下ろす国の中では、竜王の言う通り個々の竜が思い思いの時間を過ごしている。2匹で、3匹でと過ごしている個体は見当たらない。
「そうだな」
「ね? けど、こうして集まって暮らすようになって、世代を重ねるうちに、強い思想や利害の一致であの火竜たちのように、集団で何かを成そうとする子たちがちらほらと出てくるようになったんだ。きっとあそこに集まっている彼らも、リーシャやシャノウの下に付くことで何かやりたいことでもあるんじゃないかな? それか、戦いを見て自分もああなりたいという強い憧れを持ったとか」
「そんなものか」
「うん。そんなものだよ。それに、集まったところでずっと誰かと一緒ってわけでもないからね。時々、何かをしたいときだけ集まるみたいな、上辺だけの集団みたいだから。個々で過ごすも集団を作って何かをするのも自由。とはいえね。国というものを作っている以上、完全に統率が取れない集団が大きくなるのは困る。口出しはしないようにしていたけど、今のあの集団はちょっと手に余っていたから。こうして素直で真っすぐなリーシャや私の言う事を聞いてくれるシャノウを頭にした集団へ移ってくれるって言うなら、私としてはありがたいよ」
竜王はどこかほっとしているような様子だった。
竜らしく好きなように生きているような竜王でも、竜王なりの苦労があるのだろう。
「竜も人間も、王っていう立場にいるといろいろあるんですね。なんか、大変そう」
「うーん、どうなんだろうね。ここで暮らす子たちが安心して暮らせるように、最低限の事はしているつもりだけど、私も基本的に自由気ままに過ごしているから。他の子を観察してみたり、飛び回って散策してみたりするのが好きなんだ。だから大概の事は些細に思ってしまえる。時間も余るほどにあることだからね」
竜王の回答があまりにも清々しく満足そうで、リーシャは心にむずつく風が吹いたような気がした。
(いいな……)
リーシャは別に竜になりたいわけではない。ただ、本当に満足そうに語る竜王を見て、なんとなく羨ましく思ったのだった。
体の中に受け継がれる竜だった1部がそう感じさせるのか。ルシアから竜にならないかという提案を持ち出されたからこんな気持ちになるのか。
リーシャはしみじみと竜の国に生きる彼らの姿を眺めた。
「さて、と。話を脱線させてしまったけど、そろそろ集まった目的を果たそうか」
「……はい。じゃあ、お願いします」
「ああ、任せて」
竜王はルシアの作り上げた魔法陣の前に立った。
エリアルが向いている方角の空に、リーシャたちの方へ向かって飛んで来る白い竜の姿が見えた。
瞬く間に距離を詰めた竜王が崖際に足を掛ける。
「すまないね。こっちに向かおうとしたところで、クリスティナが体調悪いのに飛ぼうとしてるのに気がついてしまって。止めるのに時間がかかってしまったよ」
「えっ、大丈夫なんですか?」
「うん。立ってるとふらつくってくらいだから」
「それ、大丈夫じゃないですよね……?」
「いや? 死にそうってわけじゃないから問題ないよ。症状としてもマシな方だから。ひどい時は起き上がれないみたいだからね」
「そう、ですか」
相変わらずのあっさりした物言いに、リーシャには返せる言葉が見つからなかった。
「それよりも、私の方にも気になっていることがあるんだけど。向こうでこっちを見ている彼らは、何をしているんだい? 知ってるかな?」
竜王の視線の先には、色とりどりの竜が5匹いた。何をしてくるわけでもなく、離れた場所から、ただじっとリーシャたちの様子を窺っているだけだ。
リーシャは自分では説明しにくく、どう説明したものかと言い淀んだ。
「えーっと……」
「あいつらは、リーシャとシャノウの取り巻きだ」
横から発せられたノアの端的な回答に、竜王は首を傾げた。
「取り巻き?」
「先ほど、先日凍らせた火竜の氷を溶かしに行ってきたんだ」
「ああ。やっぱり溶かしてあげたんだ」
「リーシャがどうしてもというからな。仕方ない。まあそんなことはどうでもいいんだ。その時に、先客でどうにかして氷を溶かそうとしていた集団がいてな。その目の前で火竜を解放したんだが、集団の大半が火竜について行ったにもかかわらず、あの連中がこっちに付きまとい始めたんだ。リーシャとシャノウの下に付かせてくれと言ってな」
「へえ。また新しい派閥ができたんだ」
「おい。竜という生物は群れないんじゃなかったのか?」
「大体の子たちはそんな感じだよ。現に今もここから見える子たちは1匹で自由気ままに過ごしているだろう?」
高い岩場から見下ろす国の中では、竜王の言う通り個々の竜が思い思いの時間を過ごしている。2匹で、3匹でと過ごしている個体は見当たらない。
「そうだな」
「ね? けど、こうして集まって暮らすようになって、世代を重ねるうちに、強い思想や利害の一致であの火竜たちのように、集団で何かを成そうとする子たちがちらほらと出てくるようになったんだ。きっとあそこに集まっている彼らも、リーシャやシャノウの下に付くことで何かやりたいことでもあるんじゃないかな? それか、戦いを見て自分もああなりたいという強い憧れを持ったとか」
「そんなものか」
「うん。そんなものだよ。それに、集まったところでずっと誰かと一緒ってわけでもないからね。時々、何かをしたいときだけ集まるみたいな、上辺だけの集団みたいだから。個々で過ごすも集団を作って何かをするのも自由。とはいえね。国というものを作っている以上、完全に統率が取れない集団が大きくなるのは困る。口出しはしないようにしていたけど、今のあの集団はちょっと手に余っていたから。こうして素直で真っすぐなリーシャや私の言う事を聞いてくれるシャノウを頭にした集団へ移ってくれるって言うなら、私としてはありがたいよ」
竜王はどこかほっとしているような様子だった。
竜らしく好きなように生きているような竜王でも、竜王なりの苦労があるのだろう。
「竜も人間も、王っていう立場にいるといろいろあるんですね。なんか、大変そう」
「うーん、どうなんだろうね。ここで暮らす子たちが安心して暮らせるように、最低限の事はしているつもりだけど、私も基本的に自由気ままに過ごしているから。他の子を観察してみたり、飛び回って散策してみたりするのが好きなんだ。だから大概の事は些細に思ってしまえる。時間も余るほどにあることだからね」
竜王の回答があまりにも清々しく満足そうで、リーシャは心にむずつく風が吹いたような気がした。
(いいな……)
リーシャは別に竜になりたいわけではない。ただ、本当に満足そうに語る竜王を見て、なんとなく羨ましく思ったのだった。
体の中に受け継がれる竜だった1部がそう感じさせるのか。ルシアから竜にならないかという提案を持ち出されたからこんな気持ちになるのか。
リーシャはしみじみと竜の国に生きる彼らの姿を眺めた。
「さて、と。話を脱線させてしまったけど、そろそろ集まった目的を果たそうか」
「……はい。じゃあ、お願いします」
「ああ、任せて」
竜王はルシアの作り上げた魔法陣の前に立った。
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