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01 旅の始まり
スードル
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スードルは青い髪の少年だ。
青とはいっても、空みたいな真っ青じゃなくて、緑のかかった、エメラルドグリーンみたいな色。
「スズネさんって、何かあったんですか?」
「何か?」
「なんていうか……元気がないように見えて」
自分ではそんなつもりは全然ないのだけど、もしかして、目が死んでるからそう見えるのだろうか?
わたしの思っているよりも、知らない幼女が死んだ魚のような目をしていたら心配になるのかもしれない。
「そんなこと、ないですよ。顔は生まれつきです」
「そうですか? それなら、いいですけど……スズネさんは大人びてますね、僕、驚いちゃいました」
「スードルさんも、そうですよ」
「え、僕もですか? やだなあ、嬉しいです」
スードルさんは感情豊かで、大袈裟に笑ったり照れたりした。
「アリスメードさんを心配させちゃったみたいですね、なんていうか。あんなに心配するとは思わなくて。なんでだろう」
それとなく理由を探ると、スードルさんは少し困ったように首を傾げた。
「アリスさんは、昔大切な人を亡くされたとかで……本当にただ、優しいだけですよ。裏を疑う気持ちも分かりますけど。でも僕みたいな奴隷にも、チャンスをくれるし、本当に立派な人なんです。それだけです」
「奴隷?」
「僕、奴隷出身なんです。色々あって、アリスさんに助けてもらって。それで今は見習いをしてます。僕もホーンウルフに乗れるようになったら、みなさんと一緒に冒険に行くんですよ!」
スードルさんの目は輝いていた。
きっと、彼はそう遠くない未来を見ていて、そのために今努力している。
どうせ世界は滅びるのに。
「奴隷とか、その、いるんですね」
「え? あ、ああそうでした。スズネさんは記憶がないんでしたね。奴隷はいますよ。スズネさんも、必要になったらぜひ手に入れてくださいね!
「僕らはご主人様に精一杯尽くすし、受けたご恩は忘れませんから!」
「……どうして、奴隷になったんですか?」
「僕は病気があって。でも家が貧しく、治療できなかったんです。
「もしご主人様に買われて、貢献したら、治療してもらえるかもしれないから、両親は僕を奴隷にしたんですよ」
「それで、アリスメードさんに買われたってことですか?」
「そうですよ。アリスさんはパーティの雑用を任せる奴隷をお探しで、僕を選んでくださったんです。誠心誠意お仕えしたら、エリクサーを僕に……あのときは、本当に嬉しかったなぁ」
楽しそうに話しているのを見ていると、奴隷とはいえ決して不幸な人生というわけでもなさそうだった。
「エリクサーって分かりますか? 超高級ポーションです。僕を何度も買い替えられるくらいですよ!」
「スードルさんと、あの、エリクサーっていくらなんですか?」
「自分の値段は分からないんです、すみません。アリスさんも教えてくれなかったので……エリクサーは小金貨12枚もするんですよ!」
つまりスードルさんは、それよりも安いということだろうか。
金貨がどのくらいの価値か分からないけど。
「あの、スズネさん。僕のことはスードルって呼んでくれませんか? なんていうか、スードルさんって言われるの、慣れなくて……」
「え。えと、はい。いいですけど。わたしも、スズネでいいですよ。……スードル」
「あ、はい。うーんと……スズネ? ……うわぁ、なんだか慣れないなぁ」
スードルは青い髪を照れくさそうに掻きながら、クスクス笑った。
「あっ、あのお宿ですか?」
「そうですよ」
スードルは、小走りに駆け出した。
わたしはその後ろ姿を眺めて考えていた。
わたしの前世にも、あんなに輝いていた少年時代があったのだろうか?
今のわたしの目には光がないけれど、スードルみたいにキラキラしていた時期が。
「ちょっとスズネさ……スズネ! 早く来てくださいよ!」
「……」
つくづく、わたしに幼女の体は似合わない。
「おかえりなさい。あら……あなたは?」
「スードルと申します。お部屋は空いていますか?」
「ええ、どうぞ」
赤い肌の女性は、やはり女主人なのだろう。
彼女は頷いた。
「二人とも、食事はどうかしら」
「えっ」
「いいんですか!? ぜひいただきます!」
スードルは当然のように喜んで頷き、「荷物を置いてきますね!」と言って走っていった。
去るタイミングを逃したわたしは、鈍器と財布を持ったまま立ち尽くす。
「あなた、ワンダーランドのメンバーだったの?」
「ワンダーランド……って?」
「アリスメードがリーダーのパーティ。知らないの?」
「あぁ……すみませんちょっと分かんないです」
オオカミ5匹連れたアリスさんは、確かにワンダーランドだけども。
「有名なんですか?」
「Aランク冒険者パーティの中でも指折りの実力なのよ。Sランクに昇格の話もあったとか」
「Sランク? DからAまでって、えと、聞いたんですけど」
「普通の冒険者はそうね。Sランクの冒険者は、王様直属の騎士団みたいなものだから」
そんな実力者だとは知らなかった。
まだ若いのにすごいなぁとか考えていると、スードルが戻ってきた。
「お待たせしました!」
「おかえりなさい。今日のお客さんは二人だけなの。食事にしましょう」
「はい!」
スードルがいなかったら一人だったわけだし、二人きりになったら気まずくなりそうだから、良かった。
「お友達?」
スードルはキラキラした笑顔で、「はい!」と答えた。
どうやら、わたしにも異世界に友達ができたようだ。
青とはいっても、空みたいな真っ青じゃなくて、緑のかかった、エメラルドグリーンみたいな色。
「スズネさんって、何かあったんですか?」
「何か?」
「なんていうか……元気がないように見えて」
自分ではそんなつもりは全然ないのだけど、もしかして、目が死んでるからそう見えるのだろうか?
わたしの思っているよりも、知らない幼女が死んだ魚のような目をしていたら心配になるのかもしれない。
「そんなこと、ないですよ。顔は生まれつきです」
「そうですか? それなら、いいですけど……スズネさんは大人びてますね、僕、驚いちゃいました」
「スードルさんも、そうですよ」
「え、僕もですか? やだなあ、嬉しいです」
スードルさんは感情豊かで、大袈裟に笑ったり照れたりした。
「アリスメードさんを心配させちゃったみたいですね、なんていうか。あんなに心配するとは思わなくて。なんでだろう」
それとなく理由を探ると、スードルさんは少し困ったように首を傾げた。
「アリスさんは、昔大切な人を亡くされたとかで……本当にただ、優しいだけですよ。裏を疑う気持ちも分かりますけど。でも僕みたいな奴隷にも、チャンスをくれるし、本当に立派な人なんです。それだけです」
「奴隷?」
「僕、奴隷出身なんです。色々あって、アリスさんに助けてもらって。それで今は見習いをしてます。僕もホーンウルフに乗れるようになったら、みなさんと一緒に冒険に行くんですよ!」
スードルさんの目は輝いていた。
きっと、彼はそう遠くない未来を見ていて、そのために今努力している。
どうせ世界は滅びるのに。
「奴隷とか、その、いるんですね」
「え? あ、ああそうでした。スズネさんは記憶がないんでしたね。奴隷はいますよ。スズネさんも、必要になったらぜひ手に入れてくださいね!
「僕らはご主人様に精一杯尽くすし、受けたご恩は忘れませんから!」
「……どうして、奴隷になったんですか?」
「僕は病気があって。でも家が貧しく、治療できなかったんです。
「もしご主人様に買われて、貢献したら、治療してもらえるかもしれないから、両親は僕を奴隷にしたんですよ」
「それで、アリスメードさんに買われたってことですか?」
「そうですよ。アリスさんはパーティの雑用を任せる奴隷をお探しで、僕を選んでくださったんです。誠心誠意お仕えしたら、エリクサーを僕に……あのときは、本当に嬉しかったなぁ」
楽しそうに話しているのを見ていると、奴隷とはいえ決して不幸な人生というわけでもなさそうだった。
「エリクサーって分かりますか? 超高級ポーションです。僕を何度も買い替えられるくらいですよ!」
「スードルさんと、あの、エリクサーっていくらなんですか?」
「自分の値段は分からないんです、すみません。アリスさんも教えてくれなかったので……エリクサーは小金貨12枚もするんですよ!」
つまりスードルさんは、それよりも安いということだろうか。
金貨がどのくらいの価値か分からないけど。
「あの、スズネさん。僕のことはスードルって呼んでくれませんか? なんていうか、スードルさんって言われるの、慣れなくて……」
「え。えと、はい。いいですけど。わたしも、スズネでいいですよ。……スードル」
「あ、はい。うーんと……スズネ? ……うわぁ、なんだか慣れないなぁ」
スードルは青い髪を照れくさそうに掻きながら、クスクス笑った。
「あっ、あのお宿ですか?」
「そうですよ」
スードルは、小走りに駆け出した。
わたしはその後ろ姿を眺めて考えていた。
わたしの前世にも、あんなに輝いていた少年時代があったのだろうか?
今のわたしの目には光がないけれど、スードルみたいにキラキラしていた時期が。
「ちょっとスズネさ……スズネ! 早く来てくださいよ!」
「……」
つくづく、わたしに幼女の体は似合わない。
「おかえりなさい。あら……あなたは?」
「スードルと申します。お部屋は空いていますか?」
「ええ、どうぞ」
赤い肌の女性は、やはり女主人なのだろう。
彼女は頷いた。
「二人とも、食事はどうかしら」
「えっ」
「いいんですか!? ぜひいただきます!」
スードルは当然のように喜んで頷き、「荷物を置いてきますね!」と言って走っていった。
去るタイミングを逃したわたしは、鈍器と財布を持ったまま立ち尽くす。
「あなた、ワンダーランドのメンバーだったの?」
「ワンダーランド……って?」
「アリスメードがリーダーのパーティ。知らないの?」
「あぁ……すみませんちょっと分かんないです」
オオカミ5匹連れたアリスさんは、確かにワンダーランドだけども。
「有名なんですか?」
「Aランク冒険者パーティの中でも指折りの実力なのよ。Sランクに昇格の話もあったとか」
「Sランク? DからAまでって、えと、聞いたんですけど」
「普通の冒険者はそうね。Sランクの冒険者は、王様直属の騎士団みたいなものだから」
そんな実力者だとは知らなかった。
まだ若いのにすごいなぁとか考えていると、スードルが戻ってきた。
「お待たせしました!」
「おかえりなさい。今日のお客さんは二人だけなの。食事にしましょう」
「はい!」
スードルがいなかったら一人だったわけだし、二人きりになったら気まずくなりそうだから、良かった。
「お友達?」
スードルはキラキラした笑顔で、「はい!」と答えた。
どうやら、わたしにも異世界に友達ができたようだ。
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