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05 試練と挑戦
シアトル
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シアトルさんは手に持った本を置いて、わたしの正面に座った。
わたしはきょとんとして、シアトルさんを見つめる。何をしに来たんだろうか。
「あの、シアトルさんは何をしに?」
「読書よ読書。意外?」
シアトルさんはそう言って、クスッと笑った。
「ま、せっかく会えたし、聞きたいこともあるけれど。その剣、ちょっと気になってたのよ」
「剣?」
「そうそう。素敵だなぁと思って」
シアトルさんはそう言って、わたしの剣を指さした。
「かなりの業物じゃない?」
「ありがとうございます。見ますか?」
「あら、いいの?」
私がシアトルさんに剣を渡すと、シアトルさんは剣を掴んでそれを抜いた。
「……あら、やっぱり」
「やっぱりって?」
「ドワーフの作品ね。その防具と、ペットちゃんの足飾りもそうでしょ?」
ありがとう、とシアトルさんはわたしに剣を返しながら言う。
「そうですけど……どうしてですか?」
「サインがあるのよ。これね」
シアトルさんは、キースの足に手を伸ばす。しかしキースはいつの間にか起きて、わたしの頭の上に避難してしまった。
シアトルさんは気分を害した様子もなく、「あらまぁ」とか言っている。
「まだいたのね、ドワーフなんて」
「えっ、珍しいんですか?」
「珍しいってわけじゃないのよ。ただ、鉱山にはあまりいないんじゃないかしら」
「鉱石は鉱山にあるのに……?」
「船に乗って来たんじゃないの? 鉱石はあれで海に運んでから、砂漠に向かうのよ。鍛冶を生業にするドワーフは、ほとんどがダンジョンにいるわ。そっちの方が売れるじゃない?」
確かに、鉱石に鮮度があるってわけじゃないだろうし、作るのはどこでもいいのか。
確かにもっといてもいいのにとは思ったけど。
「ダンジョンの素材を使って武器を鍛える冒険者もいるから、そのせいもあるのかしらねー、ま、素材は高くなるけど、その分武器は高く売れるし」
じゃあクルルさんはどうして鉱山にいたんだろう。
そこでわたしはクルルさんが、自前のツルハシを持っていたことを思い出す。採掘が好きなのかな。
「ところで、シアトルさんってエルフさんなんですよね?」
「そうよ」
「エルフさんって、やっぱり人間とは違うんですか? わたし、獣人さんが街を歩いているところはたまに見るんですけど、エルフさんは見たことないから……」
「そうね、まあ、そんなにたくさんいるわけではないわ」
シアトルさんは少し昔を思い出すようにしながら、わたしに教えてくれた。
「この辺りには色々な種族がいるわ。その中で獣人、人間、魔人は全て祖を同じとする種族なの。魔獣化した人間が魔人、魔人と人間の混血が獣人ね。やがて魔人は地上から姿を消し、残されたのは獣人と人間だけになった。だから人間と獣人は今でも、手を取り合い、共に暮らしているのよ」
「なるほど」
「エルフたちは人とは別の種を祖先としているの。古代妖精族ね」
「シアトルさん、物知りなんですね」
シアトルさんは「そうかしらぁ」と言ってクスクス笑った。
初対面以来、シアトルさんとはあまり接する機会がなかったけれど、こうして話してみるとややおっとりした印象を受ける。
「話は変わるのだけど……スズネ、世界樹の都市っていうの、見つかったかしら?」
「え? あ、ええと、全然です。どうやって調べればいいのかも分からなくて」
ちょうど良かった、とシアトルさんは言う。
「この大学に私の知り合いがいるのよ。その人に聞いてみたらどうかしら?」
「大学にって……学生さんですか?」
「研究者よ。ちょっと変わり者だけど、私とアリスの恩師なの」
「アリスさんって、大学行ってたんですか? なんかシアトルさんは研究とかしてそうなイメージ、ありましたけど……」
「アリスは第一学院出身よ。私の知り合いは、両方の講師をしてたの。あの子、貴族の出だから」
「え? アリスさんも?」
私が思わずそう言うと、シアトルさんはあごに手をやって首を傾げた。
「あら? も、って?」
「え、ああえっと、ロイドさんが貴族だったって……もしかしてフェンネルさんも?」
「ふふっ、ロイドは貴族じゃないわ。庭師の養子よ。まあ、貴族街に住んでたけれど。あの子たちは王城の庭園で出会ったのよ。フェンネルはアリスの護衛。仲良しなのよ」
そういえば、貴族だとは言ってなかったかもしれない、とわたしは思い出す。
王都出身って言ってたから、てっきり貴族さんかと思ってた。
「そういえば、シアトルさんはパーティに途中から入ったんですよね?」
「そうよ」
「どうしてそんな昔のことを知ってるんですか? アリスさんと同じ学校だから?」
「もともと、アリスに冒険者の道を勧めたのは私なのよ。当時は別のパーティにいたから参加はしなかったけれど、結成当時のことは知っているわ」
「へー、そうだったんですか」
「ええ。当時はもう一人メンバーがいたのよ。メンバーというか、リーダーね。当時のアリスはサブリーダーだった。彼女はアリスが妹のように可愛がっていた子だったわ。死んでしまったけど」
「死んで……?」
「ええ。新人の冒険者には、よくあることよ。でも、アリスにとっては衝撃的だったみたいね。それ以来、あの子は誰かを守るために戦い続けてるのよ」
たまにお人好しすぎるけどね、とシアトルさんは言った。
「アリスはあれだけ強くなれた。それは間違いなく、彼自身に才能があったからだけど、それ以上に必死で努力したからでしょうね。誰も失わないように、全てを守れるように」
「かっこいいですね」
「優しいのよ。優しすぎるくらい。だから、近頃は追い詰められてたわ。魔獣は増えてた。でも何が起きてるのか分からなかった。スズネが情報を教えてくれて、アリスは救われたと思う」
シアトルさんが席を立ったので、わたしもつられて席を立った。
「世界を救いたい、そのために犠牲は払わない。そんな夢みたいなこと、平気で言えるのはアリスくらいよ」
そんなアリスに毒されて、私もあのパーティに入ったんだけどね。
と、シアトルさんはそう言って、楽しそうにウィンクした。
わたしはきょとんとして、シアトルさんを見つめる。何をしに来たんだろうか。
「あの、シアトルさんは何をしに?」
「読書よ読書。意外?」
シアトルさんはそう言って、クスッと笑った。
「ま、せっかく会えたし、聞きたいこともあるけれど。その剣、ちょっと気になってたのよ」
「剣?」
「そうそう。素敵だなぁと思って」
シアトルさんはそう言って、わたしの剣を指さした。
「かなりの業物じゃない?」
「ありがとうございます。見ますか?」
「あら、いいの?」
私がシアトルさんに剣を渡すと、シアトルさんは剣を掴んでそれを抜いた。
「……あら、やっぱり」
「やっぱりって?」
「ドワーフの作品ね。その防具と、ペットちゃんの足飾りもそうでしょ?」
ありがとう、とシアトルさんはわたしに剣を返しながら言う。
「そうですけど……どうしてですか?」
「サインがあるのよ。これね」
シアトルさんは、キースの足に手を伸ばす。しかしキースはいつの間にか起きて、わたしの頭の上に避難してしまった。
シアトルさんは気分を害した様子もなく、「あらまぁ」とか言っている。
「まだいたのね、ドワーフなんて」
「えっ、珍しいんですか?」
「珍しいってわけじゃないのよ。ただ、鉱山にはあまりいないんじゃないかしら」
「鉱石は鉱山にあるのに……?」
「船に乗って来たんじゃないの? 鉱石はあれで海に運んでから、砂漠に向かうのよ。鍛冶を生業にするドワーフは、ほとんどがダンジョンにいるわ。そっちの方が売れるじゃない?」
確かに、鉱石に鮮度があるってわけじゃないだろうし、作るのはどこでもいいのか。
確かにもっといてもいいのにとは思ったけど。
「ダンジョンの素材を使って武器を鍛える冒険者もいるから、そのせいもあるのかしらねー、ま、素材は高くなるけど、その分武器は高く売れるし」
じゃあクルルさんはどうして鉱山にいたんだろう。
そこでわたしはクルルさんが、自前のツルハシを持っていたことを思い出す。採掘が好きなのかな。
「ところで、シアトルさんってエルフさんなんですよね?」
「そうよ」
「エルフさんって、やっぱり人間とは違うんですか? わたし、獣人さんが街を歩いているところはたまに見るんですけど、エルフさんは見たことないから……」
「そうね、まあ、そんなにたくさんいるわけではないわ」
シアトルさんは少し昔を思い出すようにしながら、わたしに教えてくれた。
「この辺りには色々な種族がいるわ。その中で獣人、人間、魔人は全て祖を同じとする種族なの。魔獣化した人間が魔人、魔人と人間の混血が獣人ね。やがて魔人は地上から姿を消し、残されたのは獣人と人間だけになった。だから人間と獣人は今でも、手を取り合い、共に暮らしているのよ」
「なるほど」
「エルフたちは人とは別の種を祖先としているの。古代妖精族ね」
「シアトルさん、物知りなんですね」
シアトルさんは「そうかしらぁ」と言ってクスクス笑った。
初対面以来、シアトルさんとはあまり接する機会がなかったけれど、こうして話してみるとややおっとりした印象を受ける。
「話は変わるのだけど……スズネ、世界樹の都市っていうの、見つかったかしら?」
「え? あ、ええと、全然です。どうやって調べればいいのかも分からなくて」
ちょうど良かった、とシアトルさんは言う。
「この大学に私の知り合いがいるのよ。その人に聞いてみたらどうかしら?」
「大学にって……学生さんですか?」
「研究者よ。ちょっと変わり者だけど、私とアリスの恩師なの」
「アリスさんって、大学行ってたんですか? なんかシアトルさんは研究とかしてそうなイメージ、ありましたけど……」
「アリスは第一学院出身よ。私の知り合いは、両方の講師をしてたの。あの子、貴族の出だから」
「え? アリスさんも?」
私が思わずそう言うと、シアトルさんはあごに手をやって首を傾げた。
「あら? も、って?」
「え、ああえっと、ロイドさんが貴族だったって……もしかしてフェンネルさんも?」
「ふふっ、ロイドは貴族じゃないわ。庭師の養子よ。まあ、貴族街に住んでたけれど。あの子たちは王城の庭園で出会ったのよ。フェンネルはアリスの護衛。仲良しなのよ」
そういえば、貴族だとは言ってなかったかもしれない、とわたしは思い出す。
王都出身って言ってたから、てっきり貴族さんかと思ってた。
「そういえば、シアトルさんはパーティに途中から入ったんですよね?」
「そうよ」
「どうしてそんな昔のことを知ってるんですか? アリスさんと同じ学校だから?」
「もともと、アリスに冒険者の道を勧めたのは私なのよ。当時は別のパーティにいたから参加はしなかったけれど、結成当時のことは知っているわ」
「へー、そうだったんですか」
「ええ。当時はもう一人メンバーがいたのよ。メンバーというか、リーダーね。当時のアリスはサブリーダーだった。彼女はアリスが妹のように可愛がっていた子だったわ。死んでしまったけど」
「死んで……?」
「ええ。新人の冒険者には、よくあることよ。でも、アリスにとっては衝撃的だったみたいね。それ以来、あの子は誰かを守るために戦い続けてるのよ」
たまにお人好しすぎるけどね、とシアトルさんは言った。
「アリスはあれだけ強くなれた。それは間違いなく、彼自身に才能があったからだけど、それ以上に必死で努力したからでしょうね。誰も失わないように、全てを守れるように」
「かっこいいですね」
「優しいのよ。優しすぎるくらい。だから、近頃は追い詰められてたわ。魔獣は増えてた。でも何が起きてるのか分からなかった。スズネが情報を教えてくれて、アリスは救われたと思う」
シアトルさんが席を立ったので、わたしもつられて席を立った。
「世界を救いたい、そのために犠牲は払わない。そんな夢みたいなこと、平気で言えるのはアリスくらいよ」
そんなアリスに毒されて、私もあのパーティに入ったんだけどね。
と、シアトルさんはそう言って、楽しそうにウィンクした。
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