97 / 143
09 交流の成果
本気の鬼ごっこ
しおりを挟む
スードルが言うには、エーチさんもアイさんも、魔術を使うのは難しいらしい。
簡単なもの、例えばエレメントのバブルを、わずかに膨らませることくらいならできるみたいだけど、維持はできないし、大きくすることもできないし。
飲み水の確保が多少簡単になるだけで、実戦には使えなさそうだ。
練習すればできるようになるかもしれないけど、とスードルは言ってたけど、少なくとも数日程度では無理みたいだ。
アイさんは大層ガッカリしていたのだけど、できないものは仕方がないと、すぐに切り替えた。
切り替えが早いのは、アイさんのいいところだ。
何故かボーナスタイムが長引いているエーチさんも、能力を使うことにならなくて安心したみたいだ。
「さーん、にー、いーち! スタート!」
待ちくたびれたわたしたちは、やがて魔術の勉強会とは程遠い鬼ごっこを始めた。
宮廷騎士団の人たちも、最初は遠慮していたけど、結局一緒に遊んでいる。
「スズ! スズー!」
キースは飛べるとずるいので、人の姿で参加しているのだけど、人の姿で動くのはあんまり得意ではないらしく、すぐに捕まる。
それは別にいいんだけど、捕まってからわたしのことしか追いかけて来ない。
この鳥頭、さてはルールを理解してないな?
「だから! わたしを捕まえるゲームじゃないんだってば!」
「スズー、捕らえるー!」
「やめてー!」
わたしは魔力戦術に肉体強化まで使って逃げ回るのだけど、ずっと粘着されるとさすがに辛い。
休耕中の畑をめいいっぱい使い、地面を蹴る。
地面は運動場とは違って柔らかいので踏ん張りがきかず、かなり走りにくい。
「あ、見つけた!」
「捕まえるー!」
「やめてー!」
しかも、スードルまで面白がって追いかけてくる。
ルールを理解してるのに無視しているようだ。
「天地の御霊、我祈る去り給え」
「わー!」
急に魔力を取り上げられたわたしは肉体強化をキャンセルされ、バランスを崩した。
「キース、チャンスだよ!」
「バブル・エレメント・アクア!」
「キー!?」
キースは突然現れた水の球に突っ込み、人型らしからぬ悲鳴を上げてずぶ濡れになった。
ことあるごとにずぶ濡れになってるし、そろそろ水がトラウマになってそう。
「天地の御霊、我祈る去り給え!」
「それずるいじゃん! 絶対ずるいって!」
「おー、頑張れー!」
「スズネちゃん、ファイト!」
「負けるなスードル~!」
気づいたら、なんか他の人たちは全員遠くの方で応援していた。参加してたんじゃなかったの?
「シュート・エレメント・ウィンド!」
「うわっ!」
風を使ってスードルを転ばせ、さらに距離を取る。
スードルは魔力を操作し、わたしの魔術を強制キャンセルさせようとするけど、詠唱も短いし動き回っているので、全然当たっていない。
複雑な魔力操作や魔術の発動には、それだけ時間がかかる。
素早く動き続けていれば当たらない。
「待てー!」
懲りずにキースが走ってきた。濡れたら飛べないけど、走れないわけではないらしい。
「なんでわたしたちだけになってるの!?」
「捕まえろー!」
「スズー!」
「やめてー!」
泥だらけのスードル、水浸しのキース。
追いかけられるわたしも、走り回って汗だくだ。
「ワウォオオン!」
その時、オオカミの鳴き声が聞こえた。
いつの間にか、ホーンウルフが走ってきて、畑の中に飛び込んできたみたいだ。
「ウォンッ!」
「楽しそうなことをしてるな」
「あ、ロイドだ。何してたの?」
「獣舎で、こいつらの世話をしてた。何してるんだ?」
「今、スードルとキースがスズネと対戦してるの。追いかけっこで」
乱入してきたホーンウルフたちと一緒に、ロイドさんもやってきた。
ロイドさんはレイスさんの隣に座り、観戦を始める。
「アリスたちは?」
「まだ話してるみたい。もう夕方なのに、長話だねー」
「我々とは文化も環境も違いすぎるからな。積もる話でもあるのだろう!」
乱入ホーンウルフは4匹いたけど、ホーンウルフ同士で戯れあってるだけなのであんまり関係ない。わたしは無視して走り回る。
「キース、そっちから行ってくれる?」
「分かった! キー!」
わたしを畑の端っこに追い詰めてから、左右から挟み撃ちで猛ダッシュしてくる。
「コート・エレメント・クレイ!」
わたしは剣を抜き地面に刺して魔力を伝え、硬化の逆の軟化をかける。
地面が柔らかくなり、表層だけが泥沼化する。
「わっ!」
「キー!」
ぬかるんだ地面に足を取られた隙に、わたしは走って距離を取る。
今は関係ないけど、人の姿でキーって鳴くのはやめてくれないかな。
「ワウッ!」
「えあっ!?」
急に目の前に出てきたホーンウルフがわたしに向かって吠えてきたので、わたしはびっくりして足を止めた。
めっちゃ尻尾振ってるから敵意はなさそうだけど、進行方向を塞がれてしまった。
「隙ありっ!」
「わー!」
背後から思いっきりタックルされ、わたしはそのまま地面に転がり倒れる。
「捕まえた! 捕まえた!」
「やったー!」
水が混ざった土は泥となり、わたしの体は沈んでいく。
キースの白い毛皮も泥だらけだ。
「もー! 重いよキース!」
「キー! キー!」
わたしはキースを跳ね除ける。
キースはコウモリの姿に戻って、バタバタ翼を動かしたけど、泥のせいで全然飛べず、無様に地面でのたうち回るだけの結果になった。
「あはは! みんな、泥だらけだねー!」
レイスさんは、パンパンと二度手を叩き、その両手を空に掲げた。
頭上から降り注いだ雨粒が、わたしたちの体に吸い付き、泥と共に落ちていく。
濡れてるはずなのに乾いていく。不思議な感覚だ。
ただの雨じゃないんだろうけど、どういう魔術なんだろう。
夕暮れの赤い太陽の光を受けながら落ちる雨粒は、うっすらと小さな虹をかけた。
「キー!」
濡れたら飛べなくなるくせに、この雨は平気らしい。
ハムスターくらいのサイズになったキースは飛翔し、その虹の中でバタバタもがいて鳴いていた。
簡単なもの、例えばエレメントのバブルを、わずかに膨らませることくらいならできるみたいだけど、維持はできないし、大きくすることもできないし。
飲み水の確保が多少簡単になるだけで、実戦には使えなさそうだ。
練習すればできるようになるかもしれないけど、とスードルは言ってたけど、少なくとも数日程度では無理みたいだ。
アイさんは大層ガッカリしていたのだけど、できないものは仕方がないと、すぐに切り替えた。
切り替えが早いのは、アイさんのいいところだ。
何故かボーナスタイムが長引いているエーチさんも、能力を使うことにならなくて安心したみたいだ。
「さーん、にー、いーち! スタート!」
待ちくたびれたわたしたちは、やがて魔術の勉強会とは程遠い鬼ごっこを始めた。
宮廷騎士団の人たちも、最初は遠慮していたけど、結局一緒に遊んでいる。
「スズ! スズー!」
キースは飛べるとずるいので、人の姿で参加しているのだけど、人の姿で動くのはあんまり得意ではないらしく、すぐに捕まる。
それは別にいいんだけど、捕まってからわたしのことしか追いかけて来ない。
この鳥頭、さてはルールを理解してないな?
「だから! わたしを捕まえるゲームじゃないんだってば!」
「スズー、捕らえるー!」
「やめてー!」
わたしは魔力戦術に肉体強化まで使って逃げ回るのだけど、ずっと粘着されるとさすがに辛い。
休耕中の畑をめいいっぱい使い、地面を蹴る。
地面は運動場とは違って柔らかいので踏ん張りがきかず、かなり走りにくい。
「あ、見つけた!」
「捕まえるー!」
「やめてー!」
しかも、スードルまで面白がって追いかけてくる。
ルールを理解してるのに無視しているようだ。
「天地の御霊、我祈る去り給え」
「わー!」
急に魔力を取り上げられたわたしは肉体強化をキャンセルされ、バランスを崩した。
「キース、チャンスだよ!」
「バブル・エレメント・アクア!」
「キー!?」
キースは突然現れた水の球に突っ込み、人型らしからぬ悲鳴を上げてずぶ濡れになった。
ことあるごとにずぶ濡れになってるし、そろそろ水がトラウマになってそう。
「天地の御霊、我祈る去り給え!」
「それずるいじゃん! 絶対ずるいって!」
「おー、頑張れー!」
「スズネちゃん、ファイト!」
「負けるなスードル~!」
気づいたら、なんか他の人たちは全員遠くの方で応援していた。参加してたんじゃなかったの?
「シュート・エレメント・ウィンド!」
「うわっ!」
風を使ってスードルを転ばせ、さらに距離を取る。
スードルは魔力を操作し、わたしの魔術を強制キャンセルさせようとするけど、詠唱も短いし動き回っているので、全然当たっていない。
複雑な魔力操作や魔術の発動には、それだけ時間がかかる。
素早く動き続けていれば当たらない。
「待てー!」
懲りずにキースが走ってきた。濡れたら飛べないけど、走れないわけではないらしい。
「なんでわたしたちだけになってるの!?」
「捕まえろー!」
「スズー!」
「やめてー!」
泥だらけのスードル、水浸しのキース。
追いかけられるわたしも、走り回って汗だくだ。
「ワウォオオン!」
その時、オオカミの鳴き声が聞こえた。
いつの間にか、ホーンウルフが走ってきて、畑の中に飛び込んできたみたいだ。
「ウォンッ!」
「楽しそうなことをしてるな」
「あ、ロイドだ。何してたの?」
「獣舎で、こいつらの世話をしてた。何してるんだ?」
「今、スードルとキースがスズネと対戦してるの。追いかけっこで」
乱入してきたホーンウルフたちと一緒に、ロイドさんもやってきた。
ロイドさんはレイスさんの隣に座り、観戦を始める。
「アリスたちは?」
「まだ話してるみたい。もう夕方なのに、長話だねー」
「我々とは文化も環境も違いすぎるからな。積もる話でもあるのだろう!」
乱入ホーンウルフは4匹いたけど、ホーンウルフ同士で戯れあってるだけなのであんまり関係ない。わたしは無視して走り回る。
「キース、そっちから行ってくれる?」
「分かった! キー!」
わたしを畑の端っこに追い詰めてから、左右から挟み撃ちで猛ダッシュしてくる。
「コート・エレメント・クレイ!」
わたしは剣を抜き地面に刺して魔力を伝え、硬化の逆の軟化をかける。
地面が柔らかくなり、表層だけが泥沼化する。
「わっ!」
「キー!」
ぬかるんだ地面に足を取られた隙に、わたしは走って距離を取る。
今は関係ないけど、人の姿でキーって鳴くのはやめてくれないかな。
「ワウッ!」
「えあっ!?」
急に目の前に出てきたホーンウルフがわたしに向かって吠えてきたので、わたしはびっくりして足を止めた。
めっちゃ尻尾振ってるから敵意はなさそうだけど、進行方向を塞がれてしまった。
「隙ありっ!」
「わー!」
背後から思いっきりタックルされ、わたしはそのまま地面に転がり倒れる。
「捕まえた! 捕まえた!」
「やったー!」
水が混ざった土は泥となり、わたしの体は沈んでいく。
キースの白い毛皮も泥だらけだ。
「もー! 重いよキース!」
「キー! キー!」
わたしはキースを跳ね除ける。
キースはコウモリの姿に戻って、バタバタ翼を動かしたけど、泥のせいで全然飛べず、無様に地面でのたうち回るだけの結果になった。
「あはは! みんな、泥だらけだねー!」
レイスさんは、パンパンと二度手を叩き、その両手を空に掲げた。
頭上から降り注いだ雨粒が、わたしたちの体に吸い付き、泥と共に落ちていく。
濡れてるはずなのに乾いていく。不思議な感覚だ。
ただの雨じゃないんだろうけど、どういう魔術なんだろう。
夕暮れの赤い太陽の光を受けながら落ちる雨粒は、うっすらと小さな虹をかけた。
「キー!」
濡れたら飛べなくなるくせに、この雨は平気らしい。
ハムスターくらいのサイズになったキースは飛翔し、その虹の中でバタバタもがいて鳴いていた。
35
あなたにおすすめの小説
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~
うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」
探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。
探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼!
単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。
そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。
小さな彼女には秘密があった。
彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。
魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。
そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。
たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。
実は彼女は人間ではなく――その正体は。
チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる