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10 最終章
運命を乗り越える
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テウォンは掬い上げたクドをバッグの中に入れて、背負って歩き出した。
わたしは後に続く。
「ところで、テウォンはお姉さんと一緒に病院にいるって聞いたけど」
「姉さんの通院なら終わったよ。オレ、これからククルのところに行くつもりだったんだ。スズネ、ククルには会ったか?」
この街に慣れているせいか、テウォンはまるで水の中を泳ぐように人混みをすり抜けていく。
ついていくのが大変だ。
テウォンの方が荷物は多いし、別に走ってるわけでもないのに。
「クルルさんには、もう会ったよ。それでテウォンの場所を聞いたの」
「なんだよ、オレが一番に会いたかったのに」
と、テウォンは口を尖らせる。
「会いたかったって、わたしに?」
「当たり前だろ。他に誰がいるんだよ」
「わたしがいなくて寂しかった?」
「寂しいに決まってんだろ。クルル以外には、オレの唯一の友達なんだからさ」
「……テウォン、もしかして友達いないの?」
「オマエがいるだろ」
「いや……わたし以外に」
「今はクドがいる」
「それまではいなかったの?」
「そうだよ」
……なんか、思わぬところで、すごく悲しいエピソードを聞いてしまったような気がする。
前世のようにネットやゲームのない時代、友達がいない子供には、ほぼイコールで娯楽がない。
その深刻さはわたしの比ではないはずだ。たぶん。
元奴隷のスードルといい、この世界の少年は何かしらの悲しみを背負わないといけない運命だったりするのかな。
「……ごめん、変なこと聞いて。ところで、テウォンはククルさんの見習いをしてるんでしょ? どんなことをするの?」
「見習いってか、雑用だけどなー。宿が沈んだから、それで稼いでんだよ」
「工房は動いてないんだよね? 今は何をしてるの?」
「オマエ、クルルに聞かなかったのか? クルルのしてることなんて、オレよりクルルに聞いた方がいいだろー」
「わたしもテウォンに会いたかったし、あんまりクルルさんとは話してないんだ」
「へー、そっか」
テウォンは、ちょっと嬉しそうに鼻を鳴らした。
こいつ……さては可愛いな。
「って言っても、そんなに大したことはないよ。持ち出した剣とか防具を売る手伝いをしたり、最近は、工房を再開させるために場所を借りるのを手伝ったりさ。オマエは? 海には行ったんだよな?」
「わたしは、最近、地面の下にある世界樹の都市に行ったよ」
「冗談はいいから、まともな話を聞かせろよ。ちんけなドワーフなんてほっといてさ」
貴重な友達に向かって、ちんけなドワーフ呼ばわりはちょっとあんまりじゃないのかな。そんなんだから友達ができないんじゃ?
……もし、テウォンが大人になって鉱石とかと会話し始めたら、わたしはそれでもテウォンの友達でいられるのかな?
「あのねー、いっぱいあるよ。どこから聞きたい?」
そんな不安はとりあえず忘れて、わたしはテウォンに聞いてみた。
テウォンは少し歩く速度を落として「そうだなー」と呟く。
「船旅からかな。……いや、やっぱ海はいいや。海の話は、客の冒険者からも聞けるし。珍しいとこがいいな」
「わたし、王都から火山に行ったんだけど、それはどう?」
「火山? 火山って、あのすっげー過酷なところ? 聞きたいに決まってるよ!」
わたしは、エリオットさんたちと一緒に火山を旅した話を、テウォンに話して聞かせた。
……都合よく、クルルさんのところには、ちょうど話が終わったくらいで辿り着いた。
「テルテルテウォン! スズネと一緒だったの?」
「まぁね。そこで会ってさ」
「なんか遅かった気がするの。気のせいなの?」
気のせいかもしれないけど、来たときよりも、明らかに遠回りをしていたような。わたしの気のせいかな。
「気のせいだよ。そんなことより、今日の仕事は何?」
テウォンはすました顔で、大真面目にそう言った。
わたしは後に続く。
「ところで、テウォンはお姉さんと一緒に病院にいるって聞いたけど」
「姉さんの通院なら終わったよ。オレ、これからククルのところに行くつもりだったんだ。スズネ、ククルには会ったか?」
この街に慣れているせいか、テウォンはまるで水の中を泳ぐように人混みをすり抜けていく。
ついていくのが大変だ。
テウォンの方が荷物は多いし、別に走ってるわけでもないのに。
「クルルさんには、もう会ったよ。それでテウォンの場所を聞いたの」
「なんだよ、オレが一番に会いたかったのに」
と、テウォンは口を尖らせる。
「会いたかったって、わたしに?」
「当たり前だろ。他に誰がいるんだよ」
「わたしがいなくて寂しかった?」
「寂しいに決まってんだろ。クルル以外には、オレの唯一の友達なんだからさ」
「……テウォン、もしかして友達いないの?」
「オマエがいるだろ」
「いや……わたし以外に」
「今はクドがいる」
「それまではいなかったの?」
「そうだよ」
……なんか、思わぬところで、すごく悲しいエピソードを聞いてしまったような気がする。
前世のようにネットやゲームのない時代、友達がいない子供には、ほぼイコールで娯楽がない。
その深刻さはわたしの比ではないはずだ。たぶん。
元奴隷のスードルといい、この世界の少年は何かしらの悲しみを背負わないといけない運命だったりするのかな。
「……ごめん、変なこと聞いて。ところで、テウォンはククルさんの見習いをしてるんでしょ? どんなことをするの?」
「見習いってか、雑用だけどなー。宿が沈んだから、それで稼いでんだよ」
「工房は動いてないんだよね? 今は何をしてるの?」
「オマエ、クルルに聞かなかったのか? クルルのしてることなんて、オレよりクルルに聞いた方がいいだろー」
「わたしもテウォンに会いたかったし、あんまりクルルさんとは話してないんだ」
「へー、そっか」
テウォンは、ちょっと嬉しそうに鼻を鳴らした。
こいつ……さては可愛いな。
「って言っても、そんなに大したことはないよ。持ち出した剣とか防具を売る手伝いをしたり、最近は、工房を再開させるために場所を借りるのを手伝ったりさ。オマエは? 海には行ったんだよな?」
「わたしは、最近、地面の下にある世界樹の都市に行ったよ」
「冗談はいいから、まともな話を聞かせろよ。ちんけなドワーフなんてほっといてさ」
貴重な友達に向かって、ちんけなドワーフ呼ばわりはちょっとあんまりじゃないのかな。そんなんだから友達ができないんじゃ?
……もし、テウォンが大人になって鉱石とかと会話し始めたら、わたしはそれでもテウォンの友達でいられるのかな?
「あのねー、いっぱいあるよ。どこから聞きたい?」
そんな不安はとりあえず忘れて、わたしはテウォンに聞いてみた。
テウォンは少し歩く速度を落として「そうだなー」と呟く。
「船旅からかな。……いや、やっぱ海はいいや。海の話は、客の冒険者からも聞けるし。珍しいとこがいいな」
「わたし、王都から火山に行ったんだけど、それはどう?」
「火山? 火山って、あのすっげー過酷なところ? 聞きたいに決まってるよ!」
わたしは、エリオットさんたちと一緒に火山を旅した話を、テウォンに話して聞かせた。
……都合よく、クルルさんのところには、ちょうど話が終わったくらいで辿り着いた。
「テルテルテウォン! スズネと一緒だったの?」
「まぁね。そこで会ってさ」
「なんか遅かった気がするの。気のせいなの?」
気のせいかもしれないけど、来たときよりも、明らかに遠回りをしていたような。わたしの気のせいかな。
「気のせいだよ。そんなことより、今日の仕事は何?」
テウォンはすました顔で、大真面目にそう言った。
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