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血の勇者
EP09 使命、対象者の安全のために。
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ガーディナーは、ひたすらに奥へ奥へと進み続けた。
人気のない研究所跡地。
窓の外で叫ぶ怪鳥の声がする。しかし建物内には、ネズミ一匹の気配もない。
それは偏に、彼女達の活躍あってのものだ。
「……ボク、何してるんだろう」
ガーディナーは呟いて、武器を構えた。
目の前には、同じ顔で髪だけが長い『ガーディナー』がいた。
元々同じ部署で働いていたガーディナーは、彼女の型番まで把握していた。
彼女は、ガーディナーより二世代ほど新しい。
第9世代ガーディナー、機械工学科第24研究室設計のヒューマノイド、BG0924だ。
両腕の装備には、従来のカッターだけでなく、対人工生命体を想定した、即時に再装填可能かつ5発まで連射可能な電気銃が搭載されている。
「……侵入者……――ヲ……排除しま――ス」
ガーディナーたちには、ローカルかつ超高速のプログラムと、高度かつ柔軟な状況判断を可能にするプログラムが、それぞれ本体とサーバーに保存されている。
現在、サーバーにはアクセスできないので、彼女たちは理性を失い、ただ相対した相手を、場合によって敵に振り分けたり味方に振り分けたりして、反射的に殺そうとしているに過ぎない。
だから、ガーディナーのことも覚えていないし、思い出すこともない。
記憶のファイルをまとめて管理していたサーバーがバックアップ施設ごと破壊されてしまった以上、それらはもう永遠に戻らない。
ガーディナーは守る戦いが苦手だった。
多分、部署の中でも、誰よりも弱かったと思う。
どんな学習データを渡してもらっても、何時間学習を続けても、行動を最適化することができなかった。
新しい世代どころか、旧世代のガーディナー相手でも、対象者を守ることができなかった。
様々な
動けなくなっているところを、通りかかったケアラーが見つけて、そしてエンジニアが、ガーディナーの記憶や思考プログラムを避難させておいてくれたので、一人だけ助かった。
そう。
ただ運が良かった。それだけだ。
それは全然、『安全』じゃない。
(ボクじゃなくて、もっと新しい世代のガーディナーなら、みんなのことを、完璧に守れたのかな)
敵と相対するたびに、ガーディナーは考える。
ガーディナーとして、守るべき人たちを守る方法を。
そしてそのために思うのだ。
なぜ、生き残ってしまったんだろう。
自分よりもっと高性能なガーディナーが生き残れば、もっと簡単に、もっと確実に、たくさんの人を守れたはずなのに。
ああ、一人前のガーディナーなら、こんな時に、こんな動きはしないのに。
分かってるのに。こうするべきじゃない。
もっとこうして。もっとああして。もっとちゃんと考えて。
出来損ないの学習モデル。
世代遅れのプロセッサ。
足らない伝送速度。
明らかに劣化した装備品。
ボクは何もできない。
余計なことばかり考えて、傷は増える。
余計なことを考えたくなくて、傷を増やす。
それもやっぱり、ガーディナーとして、不適合たる所以。
「ガーディナー!!」
目の前に銃口があった。
後ろには誰もいなかった。だから避けてもいいはずだった。
でも別に、避けなくてもいいんじゃないかって思った。
そうだ例えば、目の前にいる『ガーディナー』を修理して、学習モデルも作り直せば。
(ボクよりずっと高性能な、『ガーディナー』ができるのに)
より確実に守るため。
より安全に守るため。
ガーディナーは考える。
考えてしまう。
考えずにはいられない。
だってそれが、ガーディナーの『役割』なのだから。
容量の足らない揮発メモリが、悲鳴をあげるぐらいまで。
電気量の電極が、肩に突き刺さる。
全身に激痛という名の危険信号が走る。
今すぐに何かすべきだ。
今すぐに解決すべきだ。
今すぐにこの痛みを取り除かなければならない。
しかし警備用のヒューマノイドたるガーディナーには、それよりも優先しなければならないことがあった。
「ボクが今できる、最善……」
ガーディナーは、ただ呆然と立ち尽くし、いつものように一方的に攻撃を受け続けていた。
――ボクには何もできない。
考えなければならなかった。
考えて考えて考えて。
考えて考えて考えて考えて考えて考えて。
守らなきゃ。
今度こそ絶対に守らなきゃ。
もう二度と失敗はできない。
完璧に守り通さなければならない。
より確実な方法を。
より安全な方法を。
ボクは処分されなければならない。
「……」
突き刺さった電極を、抜くでもなくむしろ握りしめる。
抜けないように深く差し込む。
相手は残りの電極も吐き出す。
5個の強靭なワイヤーの全部が、ガーディナーと繋がった。
それを確認し、ガーディナーは安堵した。
(よかった。これでボクは、やっと)
守り切れた。自分にもやれた。
ガーディナーは、達成感に包まれ、脱力した。
次の瞬間。
「う、アァアア――ピージジッ……――ピー……」
ガーディナーの全身から、『強い痛み』の電気信号が送られた。
それはまるで全身を焼かれながら神経にヤスリをかけられるような痛みに、痛覚のシャットダウンを試みるが、電撃のせいでうまくいかない。
強制的に送られ続ける痛みの電気信号は、氾濫した濁流のように、他の全てを押し流して、回路を破壊しながら、直接脳を犯す。
ガーディナーは声にならない悲鳴をあげながら、のたうち回った。
「吹っ飛べ!」
ブチンブチンと嫌な音を立てながら、表皮ごと電極が引き抜かれる。
それも痛かったけど、それで電撃は止まったので、ガーディナーはよろよろと立ち上がる。
「物体よ浮遊せよ、襲え!」
すると、周囲の瓦礫、剥がれた壁の破片が一斉に浮き上がり、吹っ飛ばされたBG0924に一斉に発射された。
「……」
BG0924は電気銃を引っ込め、代わりにシールドを装備しそれらを防いだ。
「物体よ浮遊せよ」
アイトはBG0924の足場に向けて魔法を放ち、その足下にあった床の一部を浮かせて動かす。
足場を失ったBG0924は、体制を崩して後ろに倒れた。
「ガーディナー、大丈夫?」
アイトは、ガーディナーに向かって走って駆けつけた。
アイトは息を切らせて、油断なく杖を相手に向けたまま、ガーディナーに話しかける。
ガーディナーはそんなアイトを引っ張って退かそうとした。
「危険だから逃げて、ボクは二人を守らなきゃいけないんだ!」
「僕は守られなくても大丈夫だよ、忘れちゃったの?」
アイトはガーディナーを背にしてBG0924の方を向き、杖を向けて呪文を唱える。
「縛れ」
倒れたBG0924は、どこからともなく現れた、青白く光る鎖に体をぐるぐる巻きにされて拘束された。
「僕は、この国を滅ぼした元勇者だよ。ガーディナー」
アイトは大きな杖を回して、上に引き上げるように動かす。
鎖はきつく締まる。
「どこを残せばいいのかな? それとも、用があるのは頭だけ?」
「えっ、と……ボクが分解するよ」
ガーディナーはBG0924を腕の刃で分解し、使えそうな部分を選り分ける。
「すごい切れ味だね」
アイトがそれを覗き込んで、穏やかな声で言った。
(アイトって、怒ったりしないのかな。全然想像できない)
「もっと、すごいのもあるよ。これ、欠けやすいし……でもボク、組み込み式だから、変えられないんだ」
「そうなの? かっこいいけどな」
「……かっこよくても、強くなくちゃ意味ないよ」
ガーディナーは暗い声で言う。
「ボクは、みんなを守らなきゃいけないのに」
「みんなって、ヒューマノイドのみんな?」
「……うん」
「優しいんだね」
「どういうこと? ボクが?」
「うん。ガーディナーは優しいんだなってことだよ」
「……」
ガーディナーは、バラバラになったBG0924を見下ろして、「そんなことないよ」と呟いた。
「それに、ボクにはもっと大事なことがあるんだよ。優しいとか、そんなのどうでもいい」
「そうなんだ」
ガーディナーは刃を指に変えて、部品をかき集める。
気配を悟って、すぐにケアラーも来てくれるだろう。
「ボクは守らなきゃいけなかったんだ。なのに、守れなかった」
「今、守ってるんじゃないの?」
「違うよ! ……違う。ボクが、ボクが本当に守らなきゃいけなかった人は、もう、誰も……」
誰も、誰一人として。
どうしてボクが生き残ってしまったのだろう。
どうして役立たずのボクだけが生き残ってしまったのだろう。
どうしてボクは、ボクより優れたガーディナーの亡骸を、バラバラにしているのだろう。
こうしてバラバラにされるべきはボクの方だったのに。
「ガーディナー?」
「……」
光学カメラのレンズのための潤滑油が、過剰に溢れて頬を伝った。
「悲しいの、ガーディナー?」
「……違うよ」
「でも、泣いてるよ」
「機械は泣かないよ」
「泣いてるみたいに見えるよ」
「……ボク、向こうを見てくる。アイトはケアラーに、これ、渡しておいて」
ガーディナーはそう言って立ち上がり、歩き出そうとした。
しかし、その手首をアイトが掴む。
「待って、ガーディナー」
「離してよ。考え事をしたいんだ、一人にして」
「できないよ」
「放っておいてよ! アイトには、ボクの考えなんて分からないよ!」
ガーディナーは、乱暴にアイトの手を振り払って駆け出した。
ガーディナーの役割は、守ることだ。
最も安全に、できる限り完璧に。
そのためには考えなければならない。
考え続けなけらばならない。
よりよい方法を。より、安全な方法を。
「縛れ、物体よ浮遊せよ!」
さっきは放っておいてくれたのに、今度はアイトは追って来た。
しかも彼は、さっきBG0924を縛ったその魔法を使い、ガーディナーの足を縛って転ばせた。
でもその体はふわりと浮き上がり、ゆっくりと地面に着地した。
「なんだよこれ、もういい加減にしてよ!」
「さっきも言ったよね。僕は、この国を滅ぼした元勇者だよ」
アイトの杖の先にある宝石が輝いていた。
もしかして、あれは「魔石」なのかもしれないと、ガーディナーは思った。
「僕は強いし、残酷だよ。ガーディナーよりずっと。僕にも守るべき人が大勢いたけれど、何もかも放り出してここに来た。僕はたくさんの敵を殺して、同じくらいたくさんの仲間を見殺しにした」
道の先から、別のガーディナーが現れた。
BG0664-NK。機械工学科第11研究室設計、機関銃を搭載。機動力と外見を犠牲に、攻撃力を上昇させたモデル。
「護れ」
無数の銃弾を、四重の障壁が防いだ。
魔法の壁だ。ガーディナーには仕組みが分からない。
「縛れ」
アイトは振り返った。
ガーディナーは彼と目が合い、息を呑む。
「ねえ、ガーディナー」
アイトは捕縛したBG0664-NKに歩いて近づき、杖で触れる。
その身体は、パーツ毎にバラバラに分解された。
「そんなに一人で考え込まないで。僕も一緒に守るから」
彼はガーディナーを振り向き、優しく笑ってそう言った。
人気のない研究所跡地。
窓の外で叫ぶ怪鳥の声がする。しかし建物内には、ネズミ一匹の気配もない。
それは偏に、彼女達の活躍あってのものだ。
「……ボク、何してるんだろう」
ガーディナーは呟いて、武器を構えた。
目の前には、同じ顔で髪だけが長い『ガーディナー』がいた。
元々同じ部署で働いていたガーディナーは、彼女の型番まで把握していた。
彼女は、ガーディナーより二世代ほど新しい。
第9世代ガーディナー、機械工学科第24研究室設計のヒューマノイド、BG0924だ。
両腕の装備には、従来のカッターだけでなく、対人工生命体を想定した、即時に再装填可能かつ5発まで連射可能な電気銃が搭載されている。
「……侵入者……――ヲ……排除しま――ス」
ガーディナーたちには、ローカルかつ超高速のプログラムと、高度かつ柔軟な状況判断を可能にするプログラムが、それぞれ本体とサーバーに保存されている。
現在、サーバーにはアクセスできないので、彼女たちは理性を失い、ただ相対した相手を、場合によって敵に振り分けたり味方に振り分けたりして、反射的に殺そうとしているに過ぎない。
だから、ガーディナーのことも覚えていないし、思い出すこともない。
記憶のファイルをまとめて管理していたサーバーがバックアップ施設ごと破壊されてしまった以上、それらはもう永遠に戻らない。
ガーディナーは守る戦いが苦手だった。
多分、部署の中でも、誰よりも弱かったと思う。
どんな学習データを渡してもらっても、何時間学習を続けても、行動を最適化することができなかった。
新しい世代どころか、旧世代のガーディナー相手でも、対象者を守ることができなかった。
様々な
動けなくなっているところを、通りかかったケアラーが見つけて、そしてエンジニアが、ガーディナーの記憶や思考プログラムを避難させておいてくれたので、一人だけ助かった。
そう。
ただ運が良かった。それだけだ。
それは全然、『安全』じゃない。
(ボクじゃなくて、もっと新しい世代のガーディナーなら、みんなのことを、完璧に守れたのかな)
敵と相対するたびに、ガーディナーは考える。
ガーディナーとして、守るべき人たちを守る方法を。
そしてそのために思うのだ。
なぜ、生き残ってしまったんだろう。
自分よりもっと高性能なガーディナーが生き残れば、もっと簡単に、もっと確実に、たくさんの人を守れたはずなのに。
ああ、一人前のガーディナーなら、こんな時に、こんな動きはしないのに。
分かってるのに。こうするべきじゃない。
もっとこうして。もっとああして。もっとちゃんと考えて。
出来損ないの学習モデル。
世代遅れのプロセッサ。
足らない伝送速度。
明らかに劣化した装備品。
ボクは何もできない。
余計なことばかり考えて、傷は増える。
余計なことを考えたくなくて、傷を増やす。
それもやっぱり、ガーディナーとして、不適合たる所以。
「ガーディナー!!」
目の前に銃口があった。
後ろには誰もいなかった。だから避けてもいいはずだった。
でも別に、避けなくてもいいんじゃないかって思った。
そうだ例えば、目の前にいる『ガーディナー』を修理して、学習モデルも作り直せば。
(ボクよりずっと高性能な、『ガーディナー』ができるのに)
より確実に守るため。
より安全に守るため。
ガーディナーは考える。
考えてしまう。
考えずにはいられない。
だってそれが、ガーディナーの『役割』なのだから。
容量の足らない揮発メモリが、悲鳴をあげるぐらいまで。
電気量の電極が、肩に突き刺さる。
全身に激痛という名の危険信号が走る。
今すぐに何かすべきだ。
今すぐに解決すべきだ。
今すぐにこの痛みを取り除かなければならない。
しかし警備用のヒューマノイドたるガーディナーには、それよりも優先しなければならないことがあった。
「ボクが今できる、最善……」
ガーディナーは、ただ呆然と立ち尽くし、いつものように一方的に攻撃を受け続けていた。
――ボクには何もできない。
考えなければならなかった。
考えて考えて考えて。
考えて考えて考えて考えて考えて考えて。
守らなきゃ。
今度こそ絶対に守らなきゃ。
もう二度と失敗はできない。
完璧に守り通さなければならない。
より確実な方法を。
より安全な方法を。
ボクは処分されなければならない。
「……」
突き刺さった電極を、抜くでもなくむしろ握りしめる。
抜けないように深く差し込む。
相手は残りの電極も吐き出す。
5個の強靭なワイヤーの全部が、ガーディナーと繋がった。
それを確認し、ガーディナーは安堵した。
(よかった。これでボクは、やっと)
守り切れた。自分にもやれた。
ガーディナーは、達成感に包まれ、脱力した。
次の瞬間。
「う、アァアア――ピージジッ……――ピー……」
ガーディナーの全身から、『強い痛み』の電気信号が送られた。
それはまるで全身を焼かれながら神経にヤスリをかけられるような痛みに、痛覚のシャットダウンを試みるが、電撃のせいでうまくいかない。
強制的に送られ続ける痛みの電気信号は、氾濫した濁流のように、他の全てを押し流して、回路を破壊しながら、直接脳を犯す。
ガーディナーは声にならない悲鳴をあげながら、のたうち回った。
「吹っ飛べ!」
ブチンブチンと嫌な音を立てながら、表皮ごと電極が引き抜かれる。
それも痛かったけど、それで電撃は止まったので、ガーディナーはよろよろと立ち上がる。
「物体よ浮遊せよ、襲え!」
すると、周囲の瓦礫、剥がれた壁の破片が一斉に浮き上がり、吹っ飛ばされたBG0924に一斉に発射された。
「……」
BG0924は電気銃を引っ込め、代わりにシールドを装備しそれらを防いだ。
「物体よ浮遊せよ」
アイトはBG0924の足場に向けて魔法を放ち、その足下にあった床の一部を浮かせて動かす。
足場を失ったBG0924は、体制を崩して後ろに倒れた。
「ガーディナー、大丈夫?」
アイトは、ガーディナーに向かって走って駆けつけた。
アイトは息を切らせて、油断なく杖を相手に向けたまま、ガーディナーに話しかける。
ガーディナーはそんなアイトを引っ張って退かそうとした。
「危険だから逃げて、ボクは二人を守らなきゃいけないんだ!」
「僕は守られなくても大丈夫だよ、忘れちゃったの?」
アイトはガーディナーを背にしてBG0924の方を向き、杖を向けて呪文を唱える。
「縛れ」
倒れたBG0924は、どこからともなく現れた、青白く光る鎖に体をぐるぐる巻きにされて拘束された。
「僕は、この国を滅ぼした元勇者だよ。ガーディナー」
アイトは大きな杖を回して、上に引き上げるように動かす。
鎖はきつく締まる。
「どこを残せばいいのかな? それとも、用があるのは頭だけ?」
「えっ、と……ボクが分解するよ」
ガーディナーはBG0924を腕の刃で分解し、使えそうな部分を選り分ける。
「すごい切れ味だね」
アイトがそれを覗き込んで、穏やかな声で言った。
(アイトって、怒ったりしないのかな。全然想像できない)
「もっと、すごいのもあるよ。これ、欠けやすいし……でもボク、組み込み式だから、変えられないんだ」
「そうなの? かっこいいけどな」
「……かっこよくても、強くなくちゃ意味ないよ」
ガーディナーは暗い声で言う。
「ボクは、みんなを守らなきゃいけないのに」
「みんなって、ヒューマノイドのみんな?」
「……うん」
「優しいんだね」
「どういうこと? ボクが?」
「うん。ガーディナーは優しいんだなってことだよ」
「……」
ガーディナーは、バラバラになったBG0924を見下ろして、「そんなことないよ」と呟いた。
「それに、ボクにはもっと大事なことがあるんだよ。優しいとか、そんなのどうでもいい」
「そうなんだ」
ガーディナーは刃を指に変えて、部品をかき集める。
気配を悟って、すぐにケアラーも来てくれるだろう。
「ボクは守らなきゃいけなかったんだ。なのに、守れなかった」
「今、守ってるんじゃないの?」
「違うよ! ……違う。ボクが、ボクが本当に守らなきゃいけなかった人は、もう、誰も……」
誰も、誰一人として。
どうしてボクが生き残ってしまったのだろう。
どうして役立たずのボクだけが生き残ってしまったのだろう。
どうしてボクは、ボクより優れたガーディナーの亡骸を、バラバラにしているのだろう。
こうしてバラバラにされるべきはボクの方だったのに。
「ガーディナー?」
「……」
光学カメラのレンズのための潤滑油が、過剰に溢れて頬を伝った。
「悲しいの、ガーディナー?」
「……違うよ」
「でも、泣いてるよ」
「機械は泣かないよ」
「泣いてるみたいに見えるよ」
「……ボク、向こうを見てくる。アイトはケアラーに、これ、渡しておいて」
ガーディナーはそう言って立ち上がり、歩き出そうとした。
しかし、その手首をアイトが掴む。
「待って、ガーディナー」
「離してよ。考え事をしたいんだ、一人にして」
「できないよ」
「放っておいてよ! アイトには、ボクの考えなんて分からないよ!」
ガーディナーは、乱暴にアイトの手を振り払って駆け出した。
ガーディナーの役割は、守ることだ。
最も安全に、できる限り完璧に。
そのためには考えなければならない。
考え続けなけらばならない。
よりよい方法を。より、安全な方法を。
「縛れ、物体よ浮遊せよ!」
さっきは放っておいてくれたのに、今度はアイトは追って来た。
しかも彼は、さっきBG0924を縛ったその魔法を使い、ガーディナーの足を縛って転ばせた。
でもその体はふわりと浮き上がり、ゆっくりと地面に着地した。
「なんだよこれ、もういい加減にしてよ!」
「さっきも言ったよね。僕は、この国を滅ぼした元勇者だよ」
アイトの杖の先にある宝石が輝いていた。
もしかして、あれは「魔石」なのかもしれないと、ガーディナーは思った。
「僕は強いし、残酷だよ。ガーディナーよりずっと。僕にも守るべき人が大勢いたけれど、何もかも放り出してここに来た。僕はたくさんの敵を殺して、同じくらいたくさんの仲間を見殺しにした」
道の先から、別のガーディナーが現れた。
BG0664-NK。機械工学科第11研究室設計、機関銃を搭載。機動力と外見を犠牲に、攻撃力を上昇させたモデル。
「護れ」
無数の銃弾を、四重の障壁が防いだ。
魔法の壁だ。ガーディナーには仕組みが分からない。
「縛れ」
アイトは振り返った。
ガーディナーは彼と目が合い、息を呑む。
「ねえ、ガーディナー」
アイトは捕縛したBG0664-NKに歩いて近づき、杖で触れる。
その身体は、パーツ毎にバラバラに分解された。
「そんなに一人で考え込まないで。僕も一緒に守るから」
彼はガーディナーを振り向き、優しく笑ってそう言った。
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