追放勇者はヒューマノイドと空で生きたい

白夢

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血の勇者

ep10 勇者アイト

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 僕と目が合うと、ガーディナーはさらに顔を赤くして俯き、倒れたそのままに地面にうずくまって、顔を隠してしまった。

「どうしたの。せっかく可愛いのにどうして顔を隠してるの?」
「……」

 ガーディナーは床の上にうずくまったまま動かない上、何も言わない。

「……ごめん、なんか偉そうなこと言っちゃったかな」

 気分を害したのかもしれないと思って僕は謝ったけれど、ガーディナーは小さく頭を横に振った。

「……えっと。ガーディナー、大丈夫? 動けそう?」
「ボク、そんなに、心配されるの、おかしいよ……」
「心配するよ。ガーディナー、不安定みたいだし」
「不安……かな? ボク……」
「僕はそう思うけど」

 ガーディナーは恥ずかしそうにもじもじしながら、「ジーッブブチッ」みたいな音を立てている。

 全然大丈夫そうに見えない。不安定の極地だ。


「最初に会った時も思ったけど、ガーディナーって、ただ無抵抗に相手の攻撃を受け続けてるよね。受け流すわけでも、反撃するでもなく」
「それは、守るのが、ボクの役目だし……それに相手、ボクより二世代も新しいガーディナーだったんだ、どうせ戦ったって、勝ち目ないし……」

 ガーディナーは俯いて、気まずそうにそう言った。

「相手の動きは単純だったし、まともに戦えば、時間稼ぎくらいはできそうだったけどね。強そうな敵と接敵する度に、こんなに危なっかしいことしてたの?」
「ボクの本体は、ブラックボックスっていう箱に入ってるんだ。それさえ無事なら、別に……」
「何のために僕がついてきたと思ってるの。勝てないと思ったら、時間を稼いで僕を呼んでよ。必ず助けるから」

 少し上から目線だったかなと思ったけど、ガーディナーはただ、こくんと静かに頷くだけだった。
 寡黙な子なんだろうけど、何考えてるかよく分からないな。


「……ガーディナー、ケアラーのところに戻ろう。今一人なんだ」
「う、うん分かった。じゃあアイト、ボクは警戒するから、部品を持って……」
「持つのはガーディナーだよ。僕の方が強いから」
「う……た、確かに……そう、だね」

 ガーディナーは部品を抱えて、こくんと素直に頷いた。


動体探知ミービィルムース

 軽く魔力を飛ばし、動いているものを探す。

 あまり広い範囲は拾えないし、あまり正確じゃないけど、どうやらガーディナーと同じタイプのヒューマノイドには魔力反応がないので、魔力探知だと探れない。

 ……周囲に反応はない。
 けど、遠くの反応が近づいてきている。運良く周囲にいなかっただけで、他のガーディナーは今の銃声で引きつけられたようだ。


「急いでここを出よう。でも床が崩れそうだし、慎重に」
「う、うんもちろん。分かった」

 僕が歩き出すと、ガーディナーはその後をついてきた。

「……あの、アイト」
「何?」
「……さっき、言ってたこと、本当?」
「さっきって?」
「一緒に守るって、言ってくれたの」
「あぁ」

 うん、確かに。
 勢いに任せて、僕らしくないことを、言ったような気がする。

「本当だよ」

 それでも、取り消す気はない。
 僕はあまりにもたくさんの人を殺めてしまったけれど、彼女達を死なせるつもりは、ない。


「ガーディナーが受け入れてくれるなら、だけどね」
「ボクは嬉しいよ! チームの戦闘力は、高い方がいいし!」

 ガーディナーはそう言って、僕の手を掴んだ。

「あっ」

 手を離したので、当然、ガーディナーが腕に抱えていた部品が全部床に落ちて、大きな音を立てる。

「……どうしたの? 大丈夫?」
「あ、あは……ちょっとうっかりしちゃって。その、うん」

 ガーディナーは僕からパッと手を離して、急いで部品を拾う。

 こうして見ると、ガーディナーは、かなり表情豊かでとても可愛い。無口なのがもったいないくらいに。


「ガーディナー」
「うん?」
「あまり考えすぎないようにね。これからは僕も、みんなの『ガーディナー』になるから」
「……うん」

 ガーディナーは少しほっとしたように、小さく笑った。

「あの、アイト。ひとつだけ、お願いがあるんだけど」
「ん?」
「『みんなの』っていうの、できればだけど、その、変えてほしいなって」
「変えるって? どういうこと?」
「その……なんていうか……」


「なんだ、もう終わってたのね」

 振り向くと、ケアラーが歩いてきていた。
 ケアラーは大きな袋を持っている。

「どうしてそっちから来たの? 反対側じゃない?」
「二人が遅いからよ。回り込んで様子を伺ってたの。決着がついたなら、様子を教えてくれれば良かったのに」
「今帰るところだったんだ」

 ケアラーは肩を竦めて、ガーディナーの抱えていた部品を、袋を開けて受け入れた。

「ところで、何の話をしていたの? 無口なガーディナーが、珍しくよく喋ってたみたいだけど」

「僕もみんなの仲間にいれてほしい、って話だよ」
「みんなの仲間、って? ヒューマノイドになりたいの?」

 ケアラーは冗談めかしてケラケラ笑う。


「そうじゃなくて……」

 と、ガーディナーが言いかけると、ケアラーは首を振った。

「冗談よ。別にいいんじゃない? リソーサーさえ説得できれば、フォロワーあの子は反対しないでしょ。エンジニアは、基本的にリソーサーのを信頼してるわ」
「リソーサーは、嫌がるかな」
「意外と、すんなり納得するんじゃないかしら? あの子も悪く思ってるわけじゃなさそうだし」

 ケアラーは空いている手の平を天に向け、にやりと笑った。

「うん。リソーサーのこと、ボク、頑張って説得するよ。アイトと一緒にいたいし。……あ、えっと、みんなの安全のために!」

 ガーディナーはそう言うと、突然慌てたようにガチャガチャ音を立てて走り出した。

「ああほら、早く帰らないと! マネージャーもエンジニアも、待ってるよ!」
「そうね。私はずっとそのつもりよ」

 ケアラーは肩を竦めて僕を振り向き、怪しげな笑みを浮かべた。

「私は歓迎するわ、勇者さん」
「そうだね、か」

 僕は、真っすぐに彼女を見返してそう言った。


 ずっと『勇者』の名に振り回されて、苦しんできた。
 けれどそれは、他の誰でもない僕が、この世界で築き上げてきたものでもある。

 帝国のことはもう思い出すのも嫌だけど、でもこの『勇者』の名で、一人の女の子を助けられるのなら。

 『勇者』とそう呼ばれるのも、悪くないのかもしれない。
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