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不機嫌な猫と掃除屋ロボット
ep11 感動と悲嘆のバスタイム
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船に戻ったときには、もうすぐ日が暮れようとしていた。
思ったより長く研究所に滞在してしまったのか、出発した時間が遅かったのか。
「マスター! お帰りを待っていました! さぁさぁ、お疲れですよね? 私はこのご挨拶を送信できることを心待ちにしていました。『ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも、わ、た、し?』」
「マネージャーは元気そうだね」
マネージャーの服装は、中世風の可愛いワンピースになっていた。あざとくカメラを見つめながら、ウィンクしている。
「ボクラが出てる間に、深層メンテナンスは終わったんだね」
「そうですよ、つい先ほど。エンジニアは、私の無線通信機能を回復させました。まもなく飛行機能も回復する予定です。全くもって15分では終わりませんでしたが、ええ。仕方ありません。緊急メンテナンスは、いつも延長するものですから」
と言いながらも、マネージャーは不機嫌そうだ。
「ところで、ガーディナー。あなたにもメンテナンスが必要そうですね」
「うん。……マネージャー、メンテナンスがいつ終わるか、エンジニアに聞いてくれる?」
「……参考時間なら、問い合わせが可能です」
「何分?」
「――エンジニアの返答を読み上げます。『未定。以上、送信』」
「……朝までかかりそうだね。メンテナンスルームに行くよ」
ガーディナーは残念そうに僕の方を振り向き、小さく手を振った。
「またね、アイト。今度は、ボクがガーデンを案内するから」
「お言葉ですが、ガーディナー。あなたは『ガーディナー』です。『ガイド』ではありません」
「私たちの中に『ガイド』はいないわよ、『マネージャー』」
ケアラーは肩を竦めて言った。
「私も、自分の場所に戻るわ。それとも、メンテナンスが必要?」
「メディカルセンターにお戻りですか? 私は医療スタッフではないので、専門的な助言は致しかねますが……そうですね、自己調整で十分なように見えます。ところで、メ新着のメッセージが一件ありますが、読み上げましょうか?」
「あら、まあ。私のメッセージボックスなんて刺激的なもの、勇者さんには見せられないわ」
「ああそうですか、分かりました。それなら、エンジニアがしびれを切らす前に、メッセージボックスを確認してください」
「分かったわ。じゃあね、勇者さん」
ケアラーはそう言って歩いて行った。
「……さて、これで私達、二人きりになりましたね。マスター、お怪我はありませんか? 私にできることなら、何でもしますよ!」
「マネージャーは、苦手なメンテナンスがあって疲れてるんじゃないの。辛いなら無理しないでね」
「やはりマスターは、完璧に優しい方ですね! ところで、どうして、私がメンテナンスが苦手だとご存じなんですか? 会話ログは残っていませんよ」
会話ログ、なんてものがあるのか。
マネージャーなら、「何時何分何秒、マスターはこのような発言をしました。矛盾しています」とか言うのができるのだろう。嘘をつくときは、ちゃんと何を言ったか覚えておかないとな……
「ガーディナーに聞いたんだよ。マネージャーはメンテナンスが苦手だって」
「そ、そんなことはないですよ? ソフトウェアたるもの、メンテナンスくらいは淡々と受けられますとも。ええ、本当ですよ?」
「苦手なんだね」
明らかに挙動不審のアバターと、合成音声の乱れた調声。機械なのに、隠し事が苦手な子みたいだ。
隠すことも隠されることもないなんて、まるで人工知能みたいだ。裁判官とか向いてそう。
やっぱりメンテナンス嫌いって、恥ずかしいことだったりするのだろうか。
「……ところで、ここってお風呂があるの?」
「そうですよ! ご入浴なさいますか?」
「うん、そうだね……旅してる間は、川で水浴びをするくらいしかできなかったし、入らなくても平気だけど。もしそうしてもらえるなら、嬉しいかな」
「分かりました、ご案内しますね!」
また足下に、光が射す。案内してくれるようだ。
「マネージャーも、お風呂に入ったりするの?」
「私は無理ですよ。ボディがありませんから。でもフォロワーやリソーサー、ケアラーには必要なことです。ガーディナーやクリーナーも、身体を洗浄することがあります」
「クリーナーちゃんって、あの、白い髪の子だっけ」
「そうですね。もう会いましたか?」
「船の外でね、ちょっと」
思いっきり襲われたというか、なんというか。
リソーサーが、矢継ぎ早にコマンドらしき言葉を叫んでいたことを思い出す。
「そういえば、リソーサーは彼女の『汚染じゃない』リストにマスターを追加するように、エンジニアにリクエストしていましたね」
「それは、僕を襲わないようにするためにそうしてくれたのかな」
「そうですよ」
と、マネージャは言ってから、声を低くした。
「彼女は『汚染じゃないもの以外』を全て、跡形も残さず、滞りなく、排除するようにプログラムされています。彼女は先進的な『お掃除ロボット』だったのですが、やや先進的過ぎました」
「『汚染』リストを作るわけにはいかなかったの?」
「設計の意図については、クリーナーを設計したデザイナーに問い合わせる必要がありますが、それはできません。代わりに私が推察するに、恐らく、彼は几帳面な性格で、そして自信家でもありました。自分を『汚染じゃない』リストに登録し忘れるなんてミスを、犯さない自信があったのです。痛ましいことに」
「……」
それは確かに、痛ましい事件だっただろうな。
なんか、何が起きたのかはありありと想像できる。
「彼女はどちらかというと、ロボットに近いです。私ほどでは、ないかもしれませんが」
マネージャーは、爽やかに明るく笑ってそう言った。
彼女は、自分が最も人間らしくないと知っているのだろう。
「毎日同じ時間に起動して、同じ場所を掃除して、同じ場所に戻って。そういうルーティンに従って動いているようです。廃棄されていたのを拾って、ここのメンテナンスのために一部改良し、設置したようです」
「リソーサーの言うことしか聞かないの?」
「本来なら、誰の言うことでも聞くはずですが、リソーサーはクリーナーの本来のユーザーである人間に近いので、スムーズに命令を受け入れるのかもしれませんね」
マネージャーは「彼女は困った人です」と言った。
「クリーナーはよく問題を起こすので、ほとんどの時間、リソーサーが付き添っているんです」
「リソーサーって、クリーナーと仲良しなんだね」
「一緒に居る時間が長いという点では、そうかもしれません。二人の間に友情があるのかどうかは、私には分かりませんが」
「友情かぁ。友情は、難しいよね」
僕は何もない道を光に沿ってひたすら歩いていたからか、思わずそんな言葉が口をついた。
「僕にも、友達だって言われてる人がいたよ」
「お友達ですか?」
「そう。僕も向こうも、お互いに友達だと思ってるわけじゃなかったけどね。周りはそう思ってたみたい」
「そうなんですか」
「周りがそう言うからさ、僕もなんとなく意識してたんだよね。確かに、一緒に仕事をすることも多かったし。仲良くなった方がいいかなぁとか、考えたこともあったんだ」
そういえば、あの勇者の髪は、流れるような銀髪だった。
それをいつも自慢していた。
「でも、無理だったな。結局どの性格とも、全然合わなかった。お互いにね。相性が悪かったんだ」
タイミングよく、光の道は壁に向かって途切れている。
いつかこんな灰色一色の道も、一人で歩ける日が来るのだろうか。
「この中でいい?」
「そうですよ。プライバシーの観点から、私は内部の監視を行っていませんが、マスターのご要望があれば可能です。お望みならば、マニピュレーターで洗浄のお手伝いをすることも可能です!」
マネージャーは、嬉しそうに機械触手を壁から這い出させる。
なんか、すごく嫌な予感がする。余計な死因を増やしそう。
「一人で入れるよ、ありがとう」
丁重に断ると、マネージャーはすぐにアームを引っ込めてくれた。良かった。
「そうですか、分かりました。実は、水は得意ではないんですよ。お湯は試していないので、得意だと思いますが。入浴の間に、お食事の用意を済ませておきますね!」
「ありがとう。でもそんなに、気を遣わなくても……」
「マスターのために尽くすことは、私の幸せなんですよ!」
マネージャーはそう言って、扉を開けてくれた。
中は、大浴場でよく見るような脱衣所になっている。
前世と遜色ないとまではいかないけど、10人は入れると思う。
大浴場とか、この世界では帝国の王宮でしか見たことない。すごかったんだなこの国。転生者なんて、無双するまでもなく飲み込まれそう。
いやえっと、転生者もいたんだっけ。ケアラーが言ってたような。
僕はそんなような、とりとめもないことをぼーっと考えながら、適当に服を脱ぎ、扉を開けて中に入った。
「……僕に勇者なんて、似合わないんだよね」
ああすごい、ちゃんとシャワーがある。
温泉施設とまではいかないけど、大きめの浴槽もあるし、温かい湯気が立っている。
「……」
温度はどうかな、なんて思いながら、僕は湯船に手を入れた。
じんわり温かい。ちゃんとお湯だ。なんか涙出てきた。
「……」
感慨に浸っていた僕は、そこで初めて、湯船に別の人物がいることに気がついた。彼は今まさに歩き出そうとしていたらしく、湯船の中に棒立ちだ。
驚いたけど、大浴場だし、そりゃ他の人もいるか。
「……」
「……」
相手は僕と目が合い、完全に固まっている。
うん、確かに、急に入ってきたらびっくりしちゃうよね。
……あれ?
そういえばここ、入ってすぐに脱衣所で、男女とか特に分かれてなかったけど、えっと、男湯だよね?
ああうん、マネージャーに言われて入ったし、当然男湯だよね。
じゃあえっと、そうか。リソーサーか。
髪を結ってたから、ちょっと印象が違って見えたのか。
「……あ、ごめんリソーサー。驚かせちゃったね」
「……」
しかし、リソーサーは完全に固まり、呆けて僕を見ていて、全く動かない。
濁りのない透き通ったお湯の中で、別にそうしようとしたわけではないけど、僕は不可抗力で、リソーサーの身体を見てしまった。
「……リソーサー?」
なんか……なんだろう。違和感がある。
その体は、なんか。
……なんか、あるべきものが存在しない、というか。
「……いっ」
リソーサーは、ようやく口を開いて、そして。
「な、なんっで、お前が……」
彼、いや彼女は、消え入りそうな声で、自分の身体を守るように抱きしめて蹲った。
思ったより長く研究所に滞在してしまったのか、出発した時間が遅かったのか。
「マスター! お帰りを待っていました! さぁさぁ、お疲れですよね? 私はこのご挨拶を送信できることを心待ちにしていました。『ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも、わ、た、し?』」
「マネージャーは元気そうだね」
マネージャーの服装は、中世風の可愛いワンピースになっていた。あざとくカメラを見つめながら、ウィンクしている。
「ボクラが出てる間に、深層メンテナンスは終わったんだね」
「そうですよ、つい先ほど。エンジニアは、私の無線通信機能を回復させました。まもなく飛行機能も回復する予定です。全くもって15分では終わりませんでしたが、ええ。仕方ありません。緊急メンテナンスは、いつも延長するものですから」
と言いながらも、マネージャーは不機嫌そうだ。
「ところで、ガーディナー。あなたにもメンテナンスが必要そうですね」
「うん。……マネージャー、メンテナンスがいつ終わるか、エンジニアに聞いてくれる?」
「……参考時間なら、問い合わせが可能です」
「何分?」
「――エンジニアの返答を読み上げます。『未定。以上、送信』」
「……朝までかかりそうだね。メンテナンスルームに行くよ」
ガーディナーは残念そうに僕の方を振り向き、小さく手を振った。
「またね、アイト。今度は、ボクがガーデンを案内するから」
「お言葉ですが、ガーディナー。あなたは『ガーディナー』です。『ガイド』ではありません」
「私たちの中に『ガイド』はいないわよ、『マネージャー』」
ケアラーは肩を竦めて言った。
「私も、自分の場所に戻るわ。それとも、メンテナンスが必要?」
「メディカルセンターにお戻りですか? 私は医療スタッフではないので、専門的な助言は致しかねますが……そうですね、自己調整で十分なように見えます。ところで、メ新着のメッセージが一件ありますが、読み上げましょうか?」
「あら、まあ。私のメッセージボックスなんて刺激的なもの、勇者さんには見せられないわ」
「ああそうですか、分かりました。それなら、エンジニアがしびれを切らす前に、メッセージボックスを確認してください」
「分かったわ。じゃあね、勇者さん」
ケアラーはそう言って歩いて行った。
「……さて、これで私達、二人きりになりましたね。マスター、お怪我はありませんか? 私にできることなら、何でもしますよ!」
「マネージャーは、苦手なメンテナンスがあって疲れてるんじゃないの。辛いなら無理しないでね」
「やはりマスターは、完璧に優しい方ですね! ところで、どうして、私がメンテナンスが苦手だとご存じなんですか? 会話ログは残っていませんよ」
会話ログ、なんてものがあるのか。
マネージャーなら、「何時何分何秒、マスターはこのような発言をしました。矛盾しています」とか言うのができるのだろう。嘘をつくときは、ちゃんと何を言ったか覚えておかないとな……
「ガーディナーに聞いたんだよ。マネージャーはメンテナンスが苦手だって」
「そ、そんなことはないですよ? ソフトウェアたるもの、メンテナンスくらいは淡々と受けられますとも。ええ、本当ですよ?」
「苦手なんだね」
明らかに挙動不審のアバターと、合成音声の乱れた調声。機械なのに、隠し事が苦手な子みたいだ。
隠すことも隠されることもないなんて、まるで人工知能みたいだ。裁判官とか向いてそう。
やっぱりメンテナンス嫌いって、恥ずかしいことだったりするのだろうか。
「……ところで、ここってお風呂があるの?」
「そうですよ! ご入浴なさいますか?」
「うん、そうだね……旅してる間は、川で水浴びをするくらいしかできなかったし、入らなくても平気だけど。もしそうしてもらえるなら、嬉しいかな」
「分かりました、ご案内しますね!」
また足下に、光が射す。案内してくれるようだ。
「マネージャーも、お風呂に入ったりするの?」
「私は無理ですよ。ボディがありませんから。でもフォロワーやリソーサー、ケアラーには必要なことです。ガーディナーやクリーナーも、身体を洗浄することがあります」
「クリーナーちゃんって、あの、白い髪の子だっけ」
「そうですね。もう会いましたか?」
「船の外でね、ちょっと」
思いっきり襲われたというか、なんというか。
リソーサーが、矢継ぎ早にコマンドらしき言葉を叫んでいたことを思い出す。
「そういえば、リソーサーは彼女の『汚染じゃない』リストにマスターを追加するように、エンジニアにリクエストしていましたね」
「それは、僕を襲わないようにするためにそうしてくれたのかな」
「そうですよ」
と、マネージャは言ってから、声を低くした。
「彼女は『汚染じゃないもの以外』を全て、跡形も残さず、滞りなく、排除するようにプログラムされています。彼女は先進的な『お掃除ロボット』だったのですが、やや先進的過ぎました」
「『汚染』リストを作るわけにはいかなかったの?」
「設計の意図については、クリーナーを設計したデザイナーに問い合わせる必要がありますが、それはできません。代わりに私が推察するに、恐らく、彼は几帳面な性格で、そして自信家でもありました。自分を『汚染じゃない』リストに登録し忘れるなんてミスを、犯さない自信があったのです。痛ましいことに」
「……」
それは確かに、痛ましい事件だっただろうな。
なんか、何が起きたのかはありありと想像できる。
「彼女はどちらかというと、ロボットに近いです。私ほどでは、ないかもしれませんが」
マネージャーは、爽やかに明るく笑ってそう言った。
彼女は、自分が最も人間らしくないと知っているのだろう。
「毎日同じ時間に起動して、同じ場所を掃除して、同じ場所に戻って。そういうルーティンに従って動いているようです。廃棄されていたのを拾って、ここのメンテナンスのために一部改良し、設置したようです」
「リソーサーの言うことしか聞かないの?」
「本来なら、誰の言うことでも聞くはずですが、リソーサーはクリーナーの本来のユーザーである人間に近いので、スムーズに命令を受け入れるのかもしれませんね」
マネージャーは「彼女は困った人です」と言った。
「クリーナーはよく問題を起こすので、ほとんどの時間、リソーサーが付き添っているんです」
「リソーサーって、クリーナーと仲良しなんだね」
「一緒に居る時間が長いという点では、そうかもしれません。二人の間に友情があるのかどうかは、私には分かりませんが」
「友情かぁ。友情は、難しいよね」
僕は何もない道を光に沿ってひたすら歩いていたからか、思わずそんな言葉が口をついた。
「僕にも、友達だって言われてる人がいたよ」
「お友達ですか?」
「そう。僕も向こうも、お互いに友達だと思ってるわけじゃなかったけどね。周りはそう思ってたみたい」
「そうなんですか」
「周りがそう言うからさ、僕もなんとなく意識してたんだよね。確かに、一緒に仕事をすることも多かったし。仲良くなった方がいいかなぁとか、考えたこともあったんだ」
そういえば、あの勇者の髪は、流れるような銀髪だった。
それをいつも自慢していた。
「でも、無理だったな。結局どの性格とも、全然合わなかった。お互いにね。相性が悪かったんだ」
タイミングよく、光の道は壁に向かって途切れている。
いつかこんな灰色一色の道も、一人で歩ける日が来るのだろうか。
「この中でいい?」
「そうですよ。プライバシーの観点から、私は内部の監視を行っていませんが、マスターのご要望があれば可能です。お望みならば、マニピュレーターで洗浄のお手伝いをすることも可能です!」
マネージャーは、嬉しそうに機械触手を壁から這い出させる。
なんか、すごく嫌な予感がする。余計な死因を増やしそう。
「一人で入れるよ、ありがとう」
丁重に断ると、マネージャーはすぐにアームを引っ込めてくれた。良かった。
「そうですか、分かりました。実は、水は得意ではないんですよ。お湯は試していないので、得意だと思いますが。入浴の間に、お食事の用意を済ませておきますね!」
「ありがとう。でもそんなに、気を遣わなくても……」
「マスターのために尽くすことは、私の幸せなんですよ!」
マネージャーはそう言って、扉を開けてくれた。
中は、大浴場でよく見るような脱衣所になっている。
前世と遜色ないとまではいかないけど、10人は入れると思う。
大浴場とか、この世界では帝国の王宮でしか見たことない。すごかったんだなこの国。転生者なんて、無双するまでもなく飲み込まれそう。
いやえっと、転生者もいたんだっけ。ケアラーが言ってたような。
僕はそんなような、とりとめもないことをぼーっと考えながら、適当に服を脱ぎ、扉を開けて中に入った。
「……僕に勇者なんて、似合わないんだよね」
ああすごい、ちゃんとシャワーがある。
温泉施設とまではいかないけど、大きめの浴槽もあるし、温かい湯気が立っている。
「……」
温度はどうかな、なんて思いながら、僕は湯船に手を入れた。
じんわり温かい。ちゃんとお湯だ。なんか涙出てきた。
「……」
感慨に浸っていた僕は、そこで初めて、湯船に別の人物がいることに気がついた。彼は今まさに歩き出そうとしていたらしく、湯船の中に棒立ちだ。
驚いたけど、大浴場だし、そりゃ他の人もいるか。
「……」
「……」
相手は僕と目が合い、完全に固まっている。
うん、確かに、急に入ってきたらびっくりしちゃうよね。
……あれ?
そういえばここ、入ってすぐに脱衣所で、男女とか特に分かれてなかったけど、えっと、男湯だよね?
ああうん、マネージャーに言われて入ったし、当然男湯だよね。
じゃあえっと、そうか。リソーサーか。
髪を結ってたから、ちょっと印象が違って見えたのか。
「……あ、ごめんリソーサー。驚かせちゃったね」
「……」
しかし、リソーサーは完全に固まり、呆けて僕を見ていて、全く動かない。
濁りのない透き通ったお湯の中で、別にそうしようとしたわけではないけど、僕は不可抗力で、リソーサーの身体を見てしまった。
「……リソーサー?」
なんか……なんだろう。違和感がある。
その体は、なんか。
……なんか、あるべきものが存在しない、というか。
「……いっ」
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