追放勇者はヒューマノイドと空で生きたい

白夢

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不機嫌な猫と掃除屋ロボット

ep12 想定通りのパーフェクト

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「えっと、一旦整理するんだけど」

 お風呂場でリソーサーと鉢合わせた僕は、リソーサーの見てはいけないものを見てしまったらしい。

 しかしそれに怒るでもなく、ただただ悲しそうなリソーサー。
 さっきまで、あんなに元気だったのに……あんな大声で怒鳴ってたのに……

「リソーサーは、ヒューマノイドのみんなには男性って言ってるけど、本当は女性としてデザインされた。でもみんなは男性だと思ってるから、男湯に入ってて。で、他のヒューマノイドは全員女の子だから、それがバレることもなかった、と?」

「……元々中性的な体つきだったし」

 もちろん僕はすぐに去ろうと思ったのだけど、リソーサーがまた、消え入りそうな声で「まって」とか言うから、外に出ようにも出られず、仕方なく体を洗って湯船に浸かるしかなかった。

 一応背を向けて座ってるけど、なんか背中の方でしくしくしている声が聞こえる。

 僕、出ていくよ? っていうか出て行かせてくれないかな、お願いだから。


「じゃあ、僕にもそう言えば良かったのに……そんな、泣かなくても。言いふらしたりしないよ」

 と言いながらも、マネージャーを呼ばなくて本当に良かった、と僕は心の底から胸を撫で下ろす。
 これでマネージャーがいたら、全室にアナウンスされてたかもしれない。いや、そんなことはしないと思うけど、一応。

「……」
「……そもそも、どうして女の子だってこと、隠してるの? 悪いことじゃないのに」
「……旧バージョンが」

 リソーサーは、低い声で言った。

「俺の旧バージョンは、女だったから」
「……うん?」

「生物学的に、錬金術においてのホムンクルスは、男より女の方が作りやすい。だから最初期のヒューマノイドはほとんどが女で、中性的だ。あいつらみたいに、明らかに凝った見た目のヒューマノイドが開発され始めたのは、つい最近のことだった。だから研究者は、都合によって、俺を男として見たり、女として見たりした」
「……うん」

 確かに、明らかに可愛いフォロワーや、本人曰くセクシーなケアラーと比べると、リソーサーはあまり派手な見た目じゃない。
 でも整った顔立ちではある。確かに、特徴はないけど。

「……旧バージョンについて、死亡事故が起きたとき、研究チームは、『彼女と同じ道を歩むな』と俺に言った。だから俺は、旧バージョンとは違って、髪を伸ばして、男だと名乗った」

「きゅうばーじょん? って、いう人がいたの?」

(囚われてるなぁ、リソーサー)

 あの可愛いフォロワーを怒鳴りつけてるところからして、難がある性格ではあると思ってたけど。

「実験体5924は、最初期のヒューマノイド開発において、最大の汚点となった試作品だ。奴は当時担当の研究チームを皆殺しにし、鎮圧されたと言われてる。結局は雑用係に、奴隷として下賜された。雑用係だぞ、雑用係。その慰み者にされるんだ。これ以上の屈辱があるか? 全職員の人事査定を行うべきリソーサーが、クズの雑用にゴミとして扱われるんだよ」

「……えぇ、あぁ……そうなんだ……」

「俺は、絶対にそんな失敗作にはならない。誰も傷つけないし、誰のことでも尊重する。完璧に中立で、平等で、優秀で、文句なしのリソーサーでいなければならない」

「……うーん……そっ、かぁ……」

 雑用係のこと、思いっきりクズって言ってるけど……平等……なのかな。
 いや、リソーサーの中で何かあるのかもしれないけど。 

「でも、性別まで変える必要あるかなぁ……」
「ある!」

 と、リソーサーは決意に満ちた声で宣言する。
 ……ヒューマノイドも大変だな。

「うん、そっかぁ。リソーサーがそうしたいなら、僕に止める権利はないけど……」

 僕は天井を仰ぎながら、小さく溜め息を吐いた。

「それで、この状況はどうするの? 僕、もう限界だよ? 完全にのぼせそうなんだけど」
「……」
「リソーサー?」
「……こういうときにどうすればいいのかは、考えてある」

(へぇそうなんだ、さすが用意周到だな)

 ちょっと感心してしまった。こんなに動揺してるのに、想定はしてあったらしい。リソーサーが、後ろから僕の肩をツンツンと突いた。


「え、何?」

 反射的に振り向くと、リソーサーは、完全に茹だったみたいな真っ赤な顔をしていた。

「……大丈夫?」
「……」

 脱水になってそうだ。しかも結構重症な。
 早く上がらないと、死んじゃうよリソーサー。


「リソーサー? ちょっと、大丈夫? すっごい顔真っ赤だよ」
「な、何でもするから、内緒にしてください……」
「え?」
「えっ、えっちなこと、するんだろ……?」
「は?」

 思わず聞き返してしまった。
 
「で、できればその、優しくしてくれると……嬉しいです」

 リソーサーは、真っ赤な顔で、僕のことを見ている。
 泣きそうな顔で何言ってるんだ、この子は。いや、その前に、早く水飲んでよリソーサー。死んじゃうから。

「……どしたのリソーサー。するわけないでしょ、そんなこと。ほら、早く出るよ。顔が真っ赤じゃん」
「えっ、や、でもいいのか? チャンスなのに」
「要らないよ。どんなチャンスだよ。っていうか、何がチャンスなんだよ。さっき奴隷がどうとか言ってたのに、それはいいの?」
「俺のは戦略的だからいいんだよ! それともなんだ、俺じゃ、俺なんかじゃ、駄目って言いたいのか? 俺は完璧なヒューマノイドなんだ、その気になれば俺も……!」
「そこ食い下がるところじゃないよリソーサー。頭冷やして」
「いやだって、っ」

 勢いよく立ち上がったリソーサーは、案の定ふらついてぐらっと危うく体が傾ぐ。

「ああほら、やっぱりのぼせてる」

 予想していた僕は、それを正面から受け止めた。
 リソーサーは僕に抱き着くように湯船の中で崩れ落ちる。

「っぅッツツっゃう……!」

(どこから出てるんだ、この声……)

 僕は、リソーサーをゆっくりと湯船の外に誘導し、そのまま脱衣所にゆっくり座らせ、体にタオルをかけた。


「リソーサーが秘密にしたいなら、僕も秘密にするし、それに代償も対価も必要ないよ。今見たことは忘れる」

「……うぅ……」

 頭痛がするのか、リソーサーはうめき声を上げている。
 大丈夫かな……

「大丈夫? お水とか、貰おうか?」
「みず……そう、だな……でも大丈夫、自分で言えるから……」
「……そっか」

 僕はさっき脱いだ自分の服を着ようとして、それが見当たらないことに気がついた。

「あれっ、え、ちょっと、僕の服は?」
「……そこに置いたのか?」

 リソーサーは、やや苦しそうにしながらも、既にいつもの服を着ていた。カッターシャツだ。それをカジュアルに着崩している。

「ここに置いておくと、自動で回収されて、クリーナーが洗濯するんだよ。そこに、フリーサイズのが置いてあるだろ。それ着ろ……」
「あ、あぁ確かに……リソーサーが着てるのと一緒だ……」

 言われてみると、タオルの横に、カッターシャツが積まれているて、横にはそれに合わせるためのカジュアルなパンツが畳んで置いてある。

「……なんだよ、俺と一緒は嫌なのか?」
「いやそうじゃないけど、これ、リソーサーの服じゃないの?」
「今は俺しか着てないけど、全体に支給されてる服だよ。本当ならルームウェアもあるけど、今は素材不足で作れてない」

 館内着、ってやつだろうか。カッターシャツが館内着とか、人によっては発狂しそうだけど。


「……それじゃあ、ありがたく使わせてもらおうかな。リソーサー、脱水は大丈夫なの?」
「ああ。だいぶ回復した。ヒューマノイドは体が丈夫なんだ。ちょっとした病気くらいなら、放っておけば治る」
「メンタルの回復も早いの?」
「メンタル面は割と引きずるけど、仕事に持ち込んだりはしない。俺は完璧に真面目だから」
「リソーサーは、完璧が好きなんだね」

 頑張ってるなぁ、という印象だ。
 苦しくないのかな。僕が口を出すことじゃないのかもしれないけど。


「……お前、俺のこと、女だと思うか?」

 リソーサーは僕の顔を覗き込み、目を合わせた。

「うん。女の子だと思っ……」

 言いかけて、僕は見なかったことにすると言ったことを思い出して慌てて訂正する。

「あ、えっと、あー……うん、分かった。男の子だと思って接するよ、ちゃんと」
「……そうかよ」

 リソーサーは、興味を失ったように鏡の前に座って、髪を拭き始めた。

「どうしたの?」
「……仮にもお前、風呂場で女の裸を見て、何もないのかと思って」
「何かあってほしかったの?」
「いや、別に。ただ俺は……お前は、変わってるな……って」
「そうかな? ああ、お姉ちゃんがいたからかも。うちは女家族だったから、女の子の裸は見慣れてるんだよね」

 僕がそう言うと、リソーサーは鏡越しにまた僕の方を見た。

「どうしたの?」
「……いや、姉がいたんだなと思って」
「そうだよ。前世の話だけど」
「なんでもない。お前、晩は食べたか?」
「夕食ならまだだよ」
「……そうか。じゃあ一緒に行こう。俺もまだなんだ」

 リソーサーは、鏡の前で髪を拭きながらも、僕の方を見ているようだった。
 一方僕は俯いて、同じように髪を拭く。
 タオルは普通の綿素材ではなく、恐らく化学繊維で、吸水力がすごくいい。

 僕は髪と体を拭いてから、カッターシャツに袖を通す。
 リソーサーは既に準備を終えていて、またじっと僕の顔を見ていた。

「……どこか変?」
「……いや。別に」

 とは言いながら、リソーサーは僕から目を逸らそうとしない。
 なんだろう。『矯正』の傷とか、残ってたかな? 魔法でほとんど直したと思うんだけど。

「……その、そんなに僕の体、珍しい?」
「……別に」

 その言葉とは裏腹に、リソーサーは、僕の身体を穴が空きそうなくらいに見つめ続けている。
 なんだろう、さっき見られた分を取り返そうとしてるのかな。

「……着替えたなら行くぞ」
「そうだね」

 リソーサーは、タオルをランドリーボックスの中に投げ込み、脱衣所を出て行った。


 ……ランドリーボックスがあるのなら、脱いだ服を勝手に回収するの、やめてくれないかな。
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