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20 ゆあがり

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 温泉から上がったルルは、ポケーっとしながら足をばたばた動かしている。

「ほい、ルル」
「ん?」

 ケケは何か固くて冷たいものをルルに手渡した。
 
「瓶ミルクだゼ。すごく美味いんだ」


 そう言ったケケは、腰に手を当てながら一気に中身を飲み干す。

「……プハァッ! ケケッ、久々に飲んだけど、やっぱり美味いな!」

 そして満足そうにうんうんと頷き、ケケは残った瓶をバリバリと咀嚼して食べ始めた。
 
 
「……」

 ルルはしばらくその様を見てから、瓶を開けて中身を一口だけ飲み、その後、全部を飲み干した。

「めぇ」
「……」

 そしてちょっと瓶に噛みついてから、それをジャックの前に置く。
 
「……ジャック、あげる」
「めぇ!?」

 ジャックは、それを受け取ったものの、食べる気にはならなかったようで、そのままツノで突いてケケに瓶を渡した。


「なァ、ルル。ルルが決めたんなら、オレは従うけどさァ……オレ達は何を狙うべきなんだ? スライム達のときは、襲ってくるヤツを倒すっていう明確な目標があったけど」

「……ケケは、かざん、いってきて」

「火山? 火山には人間はいないだろ」
「かざん、つよいまもの、いる」

「呼び戻すってことか? それで一緒に戦う?」
「ん。ケケがいえば、ついてくる」
「え、なんでだ?」


 なんで、と言われると、実はそんなに根拠はなかった。

 少し考えてみたが、やはり根拠は見当たらない。

「……ケケならできる。がんばれ」


「それ、何か根拠あるんだよな? 適当に言ってるだけではないよな?」
「ん」

 ルルはそう言って、「たのむ」と付け加えた。


「ルルは行かないのか?」

「ルル、ここにいる」

「なんで? 魔物なら、オレの言う事よりも、ルルの言う事の方がよく聞きそうだし、ルルも行けよ」

「ルル、つかれた。ねる」


「……まァ、火山なんて飛べばすぐだし、行ってきてもいいけど。ニコは? オレ一人で行くのか?」

「ニコ、しらべものをしてる。ケケ、つよいから、ひとりでいい。あとかざんのついでに、たににもいって」

「……谷? 西の谷の様子を見て来るってことか? それくらいならいいけど……」

「たのむ」


「信頼されてんだな、オレは……そういうことにしとくゼ」

「しんらい、してる」

 ルルは力強く頷き、サムズアップで応えた。


「……うん、じゃあ行ってくる」

『マテ!』

「ウエッ!? な、なんだ……小さいフラメン・ケイか……なんか用か?」

 足下に、チビヨロイが一匹、大声を上げてこちらを見上げている。
 その体長のせいで、見逃してしまうと踏み潰しそうだ。


『オレモ、ツレテケ!』

 未発達なアゴを鳴らしながら、見上げたチビヨロイは力強く言った。

「オマエラ、仲間は? どこかに兄弟がいるだろ?」

『オレ、ヒトリ!』

 ヨロイは自信たっぷりに言う。
 まだ短い尻尾を、床に叩きつけてアピールしている。


「正気か? まだ子供なのに、何するつもりだよ」
 
『カザン、アンナイ。オレ、エリート!』

「エリート?」

『ギャザ・ト・ルーチェス! オレ、エリート!』


 エリートかどうかはともかく、こんなにアイデンティティをアピールしているし、確かに他の子ヨロイとは違うらしい。

 ルルは少し考え、チビヨロイに尋ねた。

「……おや、いいといった?」

『キョウダイ、タクサン。オレ、キヅカレナイ!』

 チビヨロイは悲しいことをむしろ自慢げに言って、小さな鎌首をもたげる。


 赤い外殻は鮮やかに、ルルはそんなカチカチアゴを鳴らすチビヨロイを眺めて、腕を組んで頷いた。

「……ん。ふたりで、いってきて」

「えっ、いやっ、オレ……」
『ヤッタ! ギャザ・ト・ルーチェス!』

 ケケは何か言いたいことがあるようだったが、チビヨロイはとても喜び、早速ケケの背中に取り付き、肩に乗っかり歓声を上げた。


「う…………ま、いいか……案内はあった方が、いいし」

「ん。つよいまもの、たくさんつれて、かえってきて。できるだけ、いっぱい」

「いやでも、どうやって頼めばいいんだ? こいつらの家になってくれって頼んでも、嫌なヤツは嫌って言いそうだし。例えばオレだったら、どっちかというと帰りたくなくなるんだけど」

『シャーッ!』

「ウワッ、おい、暴れんなよ」

 ケケは肩に乗っかったチビヨロイをパシッと払い除けたいのを、グッと堪えたらしく、顔を歪ませて呟く。
 

「……ケケがゆえば、みんなきょうりょくしてくれるとおもう。もし、だめだったら……」

 ルルは少し考えて、こう言った。

「ここ、もう、にんげんこないようにする。みんなでここ、くらせる」

『ホントカ!?』

「ん。おんせん、はいりほうだい」

 ルルは頷き、ジャックが拒否した瓶を手に取り、ちょっと考えてから、奥歯を使って力強く噛みついた。

 
 瓶はルルの口の中で砕けた後、そのまま奥歯にすりつぶされる。

「ナ、美味いだろ?」

 ケケは心底嬉しそうに笑った。

 瓶の底の厚い部分には、少しだけミルクのにおいがこびりついていて、それが冷たくコロコロしたガラスの破片と合わさっている。


「……ん」

(でも、なかみのほうが、いい)

 ルルは無表情に頷いて、口いっぱいのガラスくずを飲み込んだ。
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