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ゴブリン滅殺
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棲家を出る。
男は置いてきた。
男は――
「お嬢様は……鋼の鎧を着けてる。亜魂魄が仕込んであって……白く膨らんでる。緊急体勢。きっと。ミシェールの鎧、青。光る……」
――こちらの質問力の低さを慮ってか、保護対象の人物について非常に丁寧に教えてくれた。
俺の手には『囀り石』。
爺さんは『再遇の貝』を持って別行動だ。
それぞれが、それぞれの魔導具に従って『お嬢さん』のもとへと向かっている。
これが何を意味するかというと、試されてるのだ。
俺と爺さんの、どちらが先に『お嬢さん』のところへ着くかという試験。
俺は『囀り石』の教える襲撃場所へ向かい、そこに『お嬢さん』がいなければ、連れ去られた先を探って追う。
一方、爺さんは『再遇の貝』の教える『お嬢さん』の居場所へ直接向かう。どちらが有利かは、言うまでもない。だが、関係ない。もし爺さんより遅く着いただなんてことになったら……きっと、恐ろしいことになるだろう。
分かれ道に出た。
適当に選んで進む。
間違ってたら、『囀り石』が震えて教えてくれる。
そうやって、案内してくれる。
正しければ、何も起こらない。
爺さんの拳骨と同じだ。
襲撃場所へは、5分とかからず着いた。
あっけなくはあるが、意外でもない。
あの男は内蔵を痛めつけられ、死にかけていた。
あんな怪我人でも辿り着けたのだから、そんなに離れてるはずがなかった。
だが――
そこには、ゴブリンも『お嬢さん』もいなかった。
ミシェールらしき死体も無し。
さて、どこへ連れ去られたか――地面を見たら分かった。
二列で進んでく、足跡があった。
通常よりやや深い。
そしてそれより深い跡が、足跡の間に溝を作っている。
溝の窪み方からすると、ゴブリンは『お嬢さん』の両足を持って引きずっていったらしい。
ある予感に従い、俺は、鎖の端を地面から持ち上げた。
溝を辿っていくと、声がした。
10匹近くいる。
ゴブリンの、声だった。
「「「チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!」」」
そして猿吠をあげるゴブリンたちの足元に、転がっている。
あれが『お嬢さん』だろう。
人の形の繭だ。
冒険者たちは『お籠り』と呼んでるが、正式な名前は知らない。超高価な鎧に付いてる機能で、緊急時に周囲の魔素を取り込み、殻を作る。全身の輪郭が白く膨れ上がって、これが海に浮いてたら、水死体と見間違うだろう。
殻は頑強で、たいていの打撃や魔法は跳ね返すし、関節を捻じ曲げることも叶わない。ゴブリンたちもそれを分かってるから、無理にこじ開けようとはしない。だから、奴らは叫んでいるのだ。
俺も、こんなのを『鎖』伝いに聞かされてたら、何もかもがバカバカしくなって、棲家に帰ってたかもしれない。
「「「チ○コ!ズボズボ!マ○コ!ズボズボ!チ○コ!ズボズボ!マ○コ!ズボズボ!チ○コ!ズボズボ!マ○コ!ズボズボ!チ○コ!ズボズボ!マ○コ!ズボズボ!チ○コ!ズボズボ!マ○コ!ズボズボ!」」」
卑猥な言葉を叫びながら鎧を叩くことで、中の人間を錯乱させ、向こうから外に出てくるよう仕向けているのだ。これはゴブリンに限らずよく使ってる方法で、もっとスマートなやり方としては、幻覚系の魔法で多幸感を与えたりといったのもある。
この周辺には、地図に反映されてない洞穴がいくつかある。
『お嬢さん』を剥いたら、そこで犯す気だろう。
種付けから出産まで、ゴブリンの場合、半日かからない。
それまでなんとか身を潜め、生まれた赤ん坊を抱えて散開すれば、誰かは逃げ切れるという目算か。
浅薄といえばあまりに浅薄だが、これが何とかなってしまうのがダンジョンだ。
霜を、踏み込むように。
一歩で間を詰めて、木剣を振るった。
まずは2匹を屠る。
次の一歩を踏み出しながら、1匹。
踏み込んで2匹。
振り返りながら更に3匹。
そこから踏み込んで1匹。
そんな感じで、ゴブリンは全滅。
奴らの半分くらいは、死ぬまで俺に気付いてなかったはずだ。
ああ――でも、駄目か。
轟音が、近付いていた。
間に合わなかったか……確信して、俺は構えを直す。
暗闇を、暖簾をくぐるみたいに押しのけて。
やって来た。
オーガだ。
道の向こうから何体も。
いまだ、その数は確定していない。
「「「おぐ、おぐ、おごぉおおおおおお!!」」」
膂力、腕力、暴力――圧倒的な力の群れ。
たいがいの抵抗は、蹴散らせてしまえる行軍。
だがおかしなことに、その瞳からは獰猛さが窺えない。
勝利を前提とした、獰猛さが。
どれも真っ赤な顔を、汗と涙と鼻水で汚してしまっていた。
その表情に浮かんでいるのは――明らかなる怯え。
俺は見た。
オーガたちの、更に向こうに立つ人影を。
両手に木剣を構えた白髪の巨漢。
爺さんだ。
爺さんが、オーガを追い立てているのだった。
圧倒的な腕力を、更に圧倒的な暴力――剣の力でねじ伏せて。
オーガ達の心をへし折り、敗走へと追い込んだのだった。
ああ――やはり。
爺さんの姿、そして『鎖』から伝わる感触で、俺は悟った。
俺はまだ、『お嬢さん』を見つけていないのだと。
爺さんに、遅れてしまったのだと。
試験に、落第してしまったのだと。
その結果が、このざまだ。
罰として、無茶振りされているのである。
こいつらを、なんとかしてみろと。
さて、この追試をどう乗り切るか。
かつん。
俺は、双剣を打ち鳴らす。
男は置いてきた。
男は――
「お嬢様は……鋼の鎧を着けてる。亜魂魄が仕込んであって……白く膨らんでる。緊急体勢。きっと。ミシェールの鎧、青。光る……」
――こちらの質問力の低さを慮ってか、保護対象の人物について非常に丁寧に教えてくれた。
俺の手には『囀り石』。
爺さんは『再遇の貝』を持って別行動だ。
それぞれが、それぞれの魔導具に従って『お嬢さん』のもとへと向かっている。
これが何を意味するかというと、試されてるのだ。
俺と爺さんの、どちらが先に『お嬢さん』のところへ着くかという試験。
俺は『囀り石』の教える襲撃場所へ向かい、そこに『お嬢さん』がいなければ、連れ去られた先を探って追う。
一方、爺さんは『再遇の貝』の教える『お嬢さん』の居場所へ直接向かう。どちらが有利かは、言うまでもない。だが、関係ない。もし爺さんより遅く着いただなんてことになったら……きっと、恐ろしいことになるだろう。
分かれ道に出た。
適当に選んで進む。
間違ってたら、『囀り石』が震えて教えてくれる。
そうやって、案内してくれる。
正しければ、何も起こらない。
爺さんの拳骨と同じだ。
襲撃場所へは、5分とかからず着いた。
あっけなくはあるが、意外でもない。
あの男は内蔵を痛めつけられ、死にかけていた。
あんな怪我人でも辿り着けたのだから、そんなに離れてるはずがなかった。
だが――
そこには、ゴブリンも『お嬢さん』もいなかった。
ミシェールらしき死体も無し。
さて、どこへ連れ去られたか――地面を見たら分かった。
二列で進んでく、足跡があった。
通常よりやや深い。
そしてそれより深い跡が、足跡の間に溝を作っている。
溝の窪み方からすると、ゴブリンは『お嬢さん』の両足を持って引きずっていったらしい。
ある予感に従い、俺は、鎖の端を地面から持ち上げた。
溝を辿っていくと、声がした。
10匹近くいる。
ゴブリンの、声だった。
「「「チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!チ○コ!マ○コ!」」」
そして猿吠をあげるゴブリンたちの足元に、転がっている。
あれが『お嬢さん』だろう。
人の形の繭だ。
冒険者たちは『お籠り』と呼んでるが、正式な名前は知らない。超高価な鎧に付いてる機能で、緊急時に周囲の魔素を取り込み、殻を作る。全身の輪郭が白く膨れ上がって、これが海に浮いてたら、水死体と見間違うだろう。
殻は頑強で、たいていの打撃や魔法は跳ね返すし、関節を捻じ曲げることも叶わない。ゴブリンたちもそれを分かってるから、無理にこじ開けようとはしない。だから、奴らは叫んでいるのだ。
俺も、こんなのを『鎖』伝いに聞かされてたら、何もかもがバカバカしくなって、棲家に帰ってたかもしれない。
「「「チ○コ!ズボズボ!マ○コ!ズボズボ!チ○コ!ズボズボ!マ○コ!ズボズボ!チ○コ!ズボズボ!マ○コ!ズボズボ!チ○コ!ズボズボ!マ○コ!ズボズボ!チ○コ!ズボズボ!マ○コ!ズボズボ!」」」
卑猥な言葉を叫びながら鎧を叩くことで、中の人間を錯乱させ、向こうから外に出てくるよう仕向けているのだ。これはゴブリンに限らずよく使ってる方法で、もっとスマートなやり方としては、幻覚系の魔法で多幸感を与えたりといったのもある。
この周辺には、地図に反映されてない洞穴がいくつかある。
『お嬢さん』を剥いたら、そこで犯す気だろう。
種付けから出産まで、ゴブリンの場合、半日かからない。
それまでなんとか身を潜め、生まれた赤ん坊を抱えて散開すれば、誰かは逃げ切れるという目算か。
浅薄といえばあまりに浅薄だが、これが何とかなってしまうのがダンジョンだ。
霜を、踏み込むように。
一歩で間を詰めて、木剣を振るった。
まずは2匹を屠る。
次の一歩を踏み出しながら、1匹。
踏み込んで2匹。
振り返りながら更に3匹。
そこから踏み込んで1匹。
そんな感じで、ゴブリンは全滅。
奴らの半分くらいは、死ぬまで俺に気付いてなかったはずだ。
ああ――でも、駄目か。
轟音が、近付いていた。
間に合わなかったか……確信して、俺は構えを直す。
暗闇を、暖簾をくぐるみたいに押しのけて。
やって来た。
オーガだ。
道の向こうから何体も。
いまだ、その数は確定していない。
「「「おぐ、おぐ、おごぉおおおおおお!!」」」
膂力、腕力、暴力――圧倒的な力の群れ。
たいがいの抵抗は、蹴散らせてしまえる行軍。
だがおかしなことに、その瞳からは獰猛さが窺えない。
勝利を前提とした、獰猛さが。
どれも真っ赤な顔を、汗と涙と鼻水で汚してしまっていた。
その表情に浮かんでいるのは――明らかなる怯え。
俺は見た。
オーガたちの、更に向こうに立つ人影を。
両手に木剣を構えた白髪の巨漢。
爺さんだ。
爺さんが、オーガを追い立てているのだった。
圧倒的な腕力を、更に圧倒的な暴力――剣の力でねじ伏せて。
オーガ達の心をへし折り、敗走へと追い込んだのだった。
ああ――やはり。
爺さんの姿、そして『鎖』から伝わる感触で、俺は悟った。
俺はまだ、『お嬢さん』を見つけていないのだと。
爺さんに、遅れてしまったのだと。
試験に、落第してしまったのだと。
その結果が、このざまだ。
罰として、無茶振りされているのである。
こいつらを、なんとかしてみろと。
さて、この追試をどう乗り切るか。
かつん。
俺は、双剣を打ち鳴らす。
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