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しおりを挟む自分で言い放った言葉なのに、その言葉に思いのほか深く傷ついた。
性生活がないことを勝手に不安になって、勝手に名器になる薬を飲んで発情して、そんな私をリュカは嫌々慰めた。それなのにあんな痴態を晒して、あんな声出して、下品に絶頂した私を見て、幻滅したのかな。
だから興奮してくれないのかな。
「嫌とかそんなこと……っ!」
「じゃあ、なんでここが……」
「それは……っ……」
その問いに気まずそうにリュカが目線を下げた。
「わ、私のどこが、嫌だった? どこか変なところとか気持ち悪いとこ、あった……?」
「違うっ、違くて、だからその、ラーラは人間だから……」
「……リュカは、人間とは、したくないの……?」
ぽつりとつぶやいたその問いを、リュカの長い耳は正確に拾った。
そしてたっぷりと沈黙を作った後、私の目を見ずに徐に口を開いた。
「ラーラと、こういうことしなくていいとは、思ってる……」
まるで真っ暗闇に放り出され、悲哀と恐怖という冷水を体に浴びたように一気に凍りついた。
なんで? どうして?
私の事が好きなんじゃないの?
好きだけど、性的には興奮はしないってこと?
私人間とはしたくないの……?
私が獣人だったら興奮してくれたのかな。
私で興奮しないのなら、リュカはどうするの?
私のことが好きでも、獣人には興奮するの?
それなら……
それならリュカは……
――……リュカは……誰と、エッチするの……?
「や……やだ……」
自分の耳にも聞こえないほどの、か細い声だった。
座っているというのにそれでも倒れてしまいそうで、リュカの着崩した隊服を必死に掴んだ。
「やだ! いやだ! リュカが私以外の人とするなんて絶対にやだ!」
「ラーラ、ちょっと待っ……」
「わ、私、人間以外になれないけど、獣人にはなれないけど、でもがんばるから!い、今だって名器になる薬を飲んだからちゃんとリュカを満足できるはずなの!」
「ちょっ、落ち着いて、名器になる薬って……」
「それでもダメ……? 私が人間だから興奮しない……?」
「ラーラちょっと落ち着いて……!」
「落ち着けないよ! だってリュカが……好きな人が自分に欲情してくれないんだよ!? いくら私のことを好きでいてくれても……悲しいよ……」
「……っ」
「私に興奮しなくても、それでも他の人としないで……? 私だけのものでいて……? 私だけのリュカでいて……?」
先程まで体中に滞留していた熱は一気に冷め、リュカの服を摘まむ手すら覚束なくなっていく。
そう思ったとき、体中が温かいもので包まれた。
リュカが、私を抱きしめた。
「ごめん! 違うんだ! ラーラに興奮しないとか、そんなことありえないから! そうじゃなくて、俺……」
「リュカ……?」
「俺……勃起不全なんだ」
「ぼっ……き……」
あまり聞き慣れないその言葉に驚き、言葉と一緒に溢れそうだった涙も止まった。
そんな私の様子を腕の中でも気づいたリュカは少しだけ笑ってゆっくりと体を離した。
「すごく、情けない話なんだけど、聞いてくれる?」
浮かべている表情は、不安と諦めと、色あせない私への慕情が込められたものだった。
それを見て、こんな状況だというのに私の胸は飽きることなく苦しくなった。
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