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「私ね、リュカの耳を撫でるのが好きなの」

「え?」



 リュカが虚を突かれたような顔をした。



「知ってる? リュカの耳ってサラサラしててとっても気持ちいいんだよ」

「いや、自分の耳なんて気持ちいいと思ったことないけど……」

「あとね、リュカが耳触られるのが本当は苦手なことも知ってるよ」

「え、し、知ってたの?」



 いつも私が触らせてと言ったら、「しょうがないなぁ」と少し困った笑みを浮かべて耳を差し出してくれる。耳を触るより、その笑みを見せて弱いところを私に差し出してくれることが嬉しくてねだってしまうのだ。



「リュカを情けないだなんて思うはずがないよ。だってそれほど私のことを好きでいてくれてるってことでしょう?」

「そりゃそうだよ。俺はラーラがほんとに好きだよ」

「私も大好き。だからリュカとの子供はもちろん欲しいって思ってるよ」

「……っ、そうだよな」

「確かに私も出産は怖いよ。それでも、リュカとの子なら欲しいって思うの」

「うん……」



ただでさえ強く握り合う手をさらに握り直した。

リュカを見ると、落ち込んでいるのか可愛い耳がへたりと垂れてしまっている。その耳に手を伸ばすと少しだけ体をピクッと強張らせながらも、リュカは黙って私に撫でられた。



「このまま2人で過ごすのだってきっとすごく楽しいと思うよ。でもいつか、リュカが心から子供が欲しいって思うかもしれないでしょ? どんな答えになってもいいように、2人でたくさんたくさん話し合おう? そしてたくさんの覚悟と愛情を準備しておこう?」



 リュカの胸に頬をすり寄せると、私の頭にリュカが頬を寄せながら強く抱きしめた。



「弱いと思うから、怖いと思うから、大切にしようって思えるんだよ。だからリュカは人を大切にする気持ちを十二分に持ってる。万が一私が死んじゃったとしても、リュカは絶対に子供を愛するよ。それにね、リュカは絶対いいパパになるよ。だって世界一素敵だもん」

「こんな、弱いのに……?」

「こんなに優しいリュカだから、私は大好きなんだよ。だから弱いところも弱い考えも、もっとたくさんさらけ出してほしいな。その素敵な耳を私に委ねてくれるみたいに」





 包まれる温もりとリュカの匂いが心地いい。

 今、リュカへの愛しさで胸が溢れている。



 その心地よさと愛しさは、先程鳴りを潜めた疼きを再熱し始めた。

 またも体を支配し始める疼きがバレてしまうことが恥ずかしいのに、気づいてほしいとも思っている。リュカの服を少し摘まんで顔をそっと盗み見るように見上げると、リュカが今まで見たことがないほど男の顔をしていた。





「ラーラ……」





「……っ」



 子宮に直撃するような声に体が反応した。



「まだ、覚悟ができたとは言えないし、体だって治っていない」

「うん……」

「けど、今すごくラーラを愛したい」



 子宮を直撃するような眼差しに胸が苦しい。



「最後まではできないけど、ラーラの全部、俺に見せて?」

「ひゃい……」



 自分の中に蔓延る熱と、リュカから放たれる凄艶のせいで変な返事をした私のことをリュカが「ッハハ、可愛い」とふわりとした笑みで愛でた。

 そして2人を包んでいた毛布をゆっくりと剥がし、そのままのスピードで私をベッドに優しく沈ま、熱い眼差しで見つめながら覆いかぶさってきた。









 窓の向こうから夕陽が淡く差し、楽しそうに家路を急ぐ子供たちの声が聞こえる。

 どこかの家がすでに夕食を作っているのか、美味しそうな香りまで仄かにしてきた。





 誰かにとっての日常である今、経験したことのない非日常を味わっている。





 だからだろうか。

 何故だか背徳的に思え、卑しくもそれが興奮を高めているように思えた。





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