ヒョロガリ殿下を逞しく育てたのでお暇させていただきます!

冬見 六花

文字の大きさ
2 / 12

しおりを挟む


「エリシア、大丈夫?」


先程記憶を取り戻してからずっとボーっとしていたらしい。自分よりもか弱そうな体の殿下に心配そうに顔を覗き込まれた。

「あ、すみません。大丈夫です」
「ごめんね、僕の見舞いに毎日来てくれているから疲れているでしょ?」
「全然!疲れてなんかいませんよ。私とっても元気です!お見舞いだって私が来たくて来てるんですから」
「本当に?嬉しいな。エリシアが来てくれると僕も元気になれるんだ」


殿下は大変見目麗しい。
ホワイトゴールドの髪は太陽の下を歩くと目を細めてしまうほど眩しく、熟れたトマトのように潤んだ赤い瞳は男女問わず法悦としたため息を漏らさせる魅力を持っている。
不健康に見える青白い肌さえ、その存在の儚さ神秘さを演出しているかのようだ。

彼は別に病気があるわけではない。
ただ『食事をする』という行為を恐れ、食べることがほとんどできないのだ。





それは3ヶ月前のこと。
私と一緒に他国の珍しいお菓子を食べているとき、突如として殿下の体中に蕁麻疹が表れ、嘔吐と喘鳴に苦しみ数日生死をさまよった。
食事に毒は入っておらず、何故殿下がそうなったのか誰もわからなかった。なんとか一命を取り留めたが殿下は食事を摂ることができなくなってしまい、みるみるうちに痩せ細ってしまい現在に至っている。



イセキンの内容を知った今だからわかる。
殿下はクルミアレルギーなのだ。



だがこの世界では“アレルギー”という概念がない。
人によっては毒ともなるものがあるという考えがないのだ。
クルミはこの国では栽培されておらず滅多に食べることはないが、なにが原因だったかわからない殿下にとって「食事」は毎度死と隣り合わせとなる行為。苦手になって当然だろう。
他ルートで殿下が死んでしまうのもアレルギーが起因している。



とにかく、ヒョロガリ超絶美少年の殿下が生き残るには筋肉が必要不可欠だ。
そのために必要なことは殿下に食事を克服してもらい、5年後までに屈強な体を手に入れてもらわなければならない。
ならば今思い出したことを殿下に話してしまおう。
安心して食事をして欲しいし、筋肉をつけるのは他でもない殿下自身なのだから。


「殿下、大事なお話があります」
「なにかな?」
「殿下と私の未来に関する、とても大切なことです」
「エリシアと僕の未来?」




それから、殿下が倒れたのはクルミアレルギーが原因であること、前世の記憶からここは恋愛小説の世界であること、殿下には筋肉をつけてもらってマイカちゃんに選んでもらわなければ殿下も私も死んでしまうことを話した。

殿下は相槌だけ打って途中で口を挟むこともせず黙って話を聞いてくれた。





しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

愛の重めな黒騎士様に猛愛されて今日も幸せです~追放令嬢はあたたかな檻の中~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
令嬢オフェリアはラティスラの第二王子ユリウスと恋仲にあったが、悪事を告発された後婚約破棄を言い渡される。 国外追放となった彼女は、監視のためリアードの王太子サルヴァドールに嫁ぐこととなる。予想に反して、結婚後の生活は幸せなものであった。 そしてある日の昼下がり、サルヴァドールに''昼寝''に誘われ、オフェリアは寝室に向かう。激しく愛された後に彼女は眠りに落ちるが、サルヴァドールは密かにオフェリアに対して、狂おしい程の想いを募らせていた。

鉄壁騎士様は奥様が好きすぎる~彼の素顔は元聖女候補のガチファンでした~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
令嬢エミリアは、王太子の花嫁選び━━通称聖女選びに敗れた後、家族の勧めにより王立騎士団長ヴァルタと結婚することとなる。しかし、エミリアは無愛想でどこか冷たい彼のことが苦手であった。結婚後の初夜も呆気なく終わってしまう。 ヴァルタは仕事面では優秀であるものの、縁談を断り続けていたが故、陰で''鉄壁''と呼ばれ女嫌いとすら噂されていた。 しかし彼は、戦争の最中エミリアに助けられており、再会すべく彼女を探していた不器用なただの追っかけだったのだ。内心気にかけていた存在である''彼''がヴァルタだと知り、エミリアは彼との再会を喜ぶ。 そして互いに想いが通じ合った二人は、''三度目''の夜を共にするのだった……。

【完結】大学で人気の爽やかイケメンはヤンデレ気味のストーカーでした

あさリ23
恋愛
大学で人気の爽やかイケメンはなぜか私によく話しかけてくる。 しまいにはバイト先の常連になってるし、専属になって欲しいとお金をチラつかせて誘ってきた。 お金が欲しくて考えなしに了承したのが、最後。 私は用意されていた蜘蛛の糸にまんまと引っかかった。 【この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません】 ーーーーー 小説家になろうで投稿している短編です。あちらでブックマークが多かった作品をこちらで投稿しました。 内容は題名通りなのですが、作者的にもヒーローがやっちゃいけない一線を超えてんなぁと思っています。 ヤンデレ?サイコ?イケメンでも怖いよ。が 作者の感想です|ω・`) また場面で名前が変わるので気を付けてください

転生令嬢は婚約者を聖女に奪われた結果、ヤンデレに捕まりました

高瀬ゆみ
恋愛
侯爵令嬢のフィーネは、八歳の年に父から義弟を紹介された。その瞬間、前世の記憶を思い出す。 どうやら自分が転生したのは、大好きだった『救国の聖女』というマンガの世界。 このままでは救国の聖女として召喚されたマンガのヒロインに、婚約者を奪われてしまう。 その事実に気付いたフィーネが、婚約破棄されないために奮闘する話。 タイトルがネタバレになっている疑惑ですが、深く考えずにお読みください。 ※本編完結済み。番外編も完結済みです。 ※小説家になろうでも掲載しています。

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

憐れな妻は龍の夫から逃れられない

向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

処理中です...