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しおりを挟む彼女に恋人ができた。できてしまった。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!
だけど僕より偉い神に「あの人間の縁を切りすぎだ。切るより縁を結べ」と怒られてしまった。
そういえば彼女と何かの縁を切ってはいても、結ぶことをしていない。
でも誰とも、何とも彼女との縁を結ばせたくない。そう思っていたらこの仕打ちだ。
しばらく彼女の“縁”に触れることも傍にいることも禁止されていると、彼女に恋人ができてしまった。
相応しくない。
綺麗な彼女に全然合っていない。
この男を殺してしまおうか。
いや、それよりも今すぐ彼女を殺してしまおうか。
いやいやいやいや、ダメだ。それはダメだ。
殺していいならとっくに彼女を殺してる。
神の掟に逆らっちゃダメだ。
――――……でも、つらい。つらすぎる。
あぁ、あんな汚い奴と唇を重ねている。
あんな汚物のような男に体を開いている。
やめろやめろやめろやめろ。
愛していないんだろう?
その男のこと、好きじゃないんだろう?
そんな冷めた目をしてるんだから、好きじゃないんでしょう?
なのになんで。
なんでそんな奴に君の綺麗な体を……。
君の体は、君の心は、……君のすべては、
ずっと守ってきた僕のものなのに………。
⚫︎
またもや縁を切りすぎて怒られ、彼女と離されてる間にできていた2人目の恋人と別れた後は、彼女は恋人を作らなかった。周りはとっくに結婚をして子供を産んでいくけれど彼女は粛々と仕事に打ち込むようになった。
僕はいつものように後ろから抱きしめながら触れられないけれど頭を撫でる。
「人を殺すのは許されていないけど、それが許されていれば綺麗な体のまま君を殺したのになぁ。あっ!君が汚いって言ってるわけじゃないよ!ごめんね?…傷つけちゃったかな?君はいつだって綺麗でとってもとっても可愛いよ!……でも、君の体を知っている男がいることが許せないんだ。僕だって君がどんなに柔らかくてあったかいのか知らないのに…。あぁ、君を知る男共を殺したい……。でもね、私欲で人を殺したら僕、消えちゃうんだ。それが掟なんだ。消えたら君ともう会えなくなっちゃうもんね。僕、殺さないようがんばるね」
「…」
「君が自殺しちゃっても僕の元に来れなくなっちゃうんだ。だから僕ね、君のことも男共のことも殺さないし、君を絶対に自死させないよ。事故と大病との縁は切ったから天寿を全うしてね。――――そうしたら……」
“僕が永遠に愛してあげる”
彼女が眠る前にその言葉をそっと囁くことが毎夜の習慣となっていた。
⚫︎
「今日も君は可愛いね」
そう、彼女は今日も可愛い。
可愛くない日なんて今まで1日だって、いや1秒だってない。
君と出会ってからの75年間で、一度も。
皺が刻まれた相貌も、骨と血管が浮き出た手の甲も、ハリがない弛んだ肌も、真っ白な髪も、すべてが綺麗ですべてが可愛い。
ここは僕が祀られている神社の目と鼻の先にある小さな小さな家。
僕と彼女がずっと一緒に過ごして寝起きを共にした家。
―――――だけどここにいるのは今日で最後。
今日、彼女の生は火が静かに消えるように終わる。
いつものように彼女の隣に寝そべって、感触はないけれど彼女の体を撫でてあげる。
浅く呼吸をして、目は少し開いているけれどどこも見えていないかのようだ。可愛い。
僕は笑っていた。
ずっと、待っていた。
君の隣にずっといて、君の寝顔を見ながら、僕はずっと待っていた。
――――……君の目が永遠に開かなくなることを。
「怖くなんかないよ。静かに静かに眠るだけ。次に目が覚めたら、君の前には僕がいるからね」
「…」
「だからゆっ……くり、おやすみ………」
彼女の薄く開いていた目がゆっくりと閉じていくとき、眦からスルリと涙が一筋流れていった……――――
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