【R18】ずっと見守っていた大好きなあの子が死んだから、ようやく僕のお嫁さんにする

冬見 六花

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「あ、あのね?僕、君が生きていた頃ずっと傍にいたんだ。ほんとに、ずっと…。そ、それでね?君に僕のお嫁さんになってほしいんだ…」


社の奥へと彼女を案内し、ふかふかの座布団の上に座らせた。
お茶とお菓子を卓袱台の上に置くと、彼女は小さく「ありがとう」と言って一口お茶を飲んでお菓子にも手を付けた。


かっっっ、可愛いっ!!
ちょこんと座っている! 可愛い!!
「ありがとう」って言ってくれた! 優しい! 好き!!
お茶飲んでくれた! 僕が! 淹れたお茶!!!
お菓子食べてる! モグモグしてる!
わああぁ、なんて可愛いんだろう!


「お嫁さんかぁ…」
「お、お嫁さんって言ってもね、結婚とか、そういう人間っぽいのじゃなくて、その……け、眷属になってほしいんだ……」
「ん~、いろいろ聞きたいんですけど、まず私なんで若返ってるんでしょう?」
「ぼ、僕が若返らせたんだ!今の君は22歳155日の体だよ!何歳の君も綺麗で可愛いけど…、今だけはこの体になっててほしいんだ」


幽世では体の年齢をコントロールできる。
だけどそれは死んだ年齢までで、例えば20歳の人間が死んだ場合、ここでなれるのは0歳~20歳までの間だけ。
僕が彼女を殺さないでいられたのはここにも起因する。
僕は出会ったときの7歳の彼女も、若々しい女盛りの彼女も、老年の皺皺な彼女も見たかったしここでの年齢操作もしたかったからだ。

そしてもちろん灰になった彼女も見たかったし、見届けた。
灰になった彼女も当然可愛かった。
まあ灰になるのは何歳で死んでもいいんだけど。



「……あの、あなたは?」
「あっ、そ、そっか。自己紹介してなかった。ごめんね?でも僕、名前なくて…、だから君に僕の名前、つけてほしいんだ。僕も君に名前をつけてあげるよ!」
「名前……そういえば私の名前って……あれ?思い出せない…」
「あのね、死ぬと生前の自分の名前に関することは絶対に忘れるようになってるんだ…」
「そうなんだ。確かに生きてた頃の記憶はあるし、人の名前は憶えてるのに自分の名前はどうしても思い出せない…」
「あ、あの……僕の、名前を……」
「私がつけていいんですよね?じゃああなたの名前は“タキ”にします」
「っ!」


即決! 可愛い!! この決断力が可愛い!
あまりの可愛さにゾクゾクして、脚間からしっぽを出して強く抱きしめてしまった。


「タキ…、タキだね。僕の名前はタキ……。ハア…♡ ね、ねぇ、タキって、呼んで…?」
「タキ、様」
「さ、様なんていらないよ!あ、あと敬語もいらないから…」
「タキ」
「ァッ、ハア…♡ も、もう1回…」
「タキ。ねぇタキ、私の名前も付けて?」
「はうぃ!!」


コテンと首を傾げて僕に甘えるように言う彼女のあまりの可愛さに奇声を発してしまった。


僕を煽ってくれてるのかな?誘ってくれて嬉しい…!
もちろん誘いに乗ってあげるよ。
だからもう少しだけ待っていてね。もう少しだけ君とお喋りをして、それから、あとでたくさんたくさん…



「タキ?大丈夫?」
「う、うん!えと、名前!君の名前、“エン”はどう、かな…?」
「エン?」
「あ、い、いやだった、かな……? ずっと何にしようって思って色々考えてたんだけど、少しかなとも思ったんだけど、でもすごく可愛いな、いいなぁって思ってて…」
「? 別に嫌じゃないよ。むしろしっくりくる…。ありがとう、タキ」
「ハッ、ァ……♡ ほんと、好きっ」
「ねぇ、タキはどうして私のことが好きなの?」


元々エンは落ち着きすぎなほど冷静な女性だった。それは死んでも変わらないらしい。まったくもって可愛らしい。
むしろ僕のほうが落ち着かない。さっきからずっと自分のしっぽを抱きしめている。こうしないと落ち着かない。
だって目の前にこんな可愛い人がいて、僕をまっすぐ見て、僕に興味を持ってくれている様子だけで興奮がおさまらない…。


「ぼ、僕、生きていた頃に君に優しくしてもらって……それで……」
「もしかして神社の裏にいたたぬきのこと?」
「う、うん!覚えててくれたの!?」
「まあね。タキの耳としっぽを見たらそうだろうな、って。人生でたぬきに遭遇することなんてなかなかないし、私、たぬきには思い入れがあるから。……あれ?思い入れってなんだっけ?」
「わあ…!嬉しい!嬉しいな!僕のこと覚えていてくれたなんて……!」


卓袱台を挟んで対面に座っていたが、もぞもぞと動いて少しエンに近づいてみた。
エンに嫌がる素振りはなく、縮んだ距離を離すなんてこともしない。


「あ、あのね、たぬきってすっごくすっごく一途な生き物でね?伴侶を決めたら他に絶対目がいかないんだ!その伴侶が死んじゃったとしても別に伴侶を持つなんてこともしないんだよ。ずっと相手だけを思うんだ!」
「へぇ、そうなんだ。じゃあタキの愛情は私がもらったってこと?」
「うん!そうだよ!僕、エンのことが大好きなんだ!大好きだよ!大大大好き!!エンがいれば僕は何もいらないんだ!ほんとだよ!僕の愛は全部全部エンのものだよ!!だからエン、僕の眷属になって?」


さらにエンに近づいて両手を取って伝えると、少し驚いた様子だが手を振りほどかれない。

驚いたエンも可愛いなぁ。
あ!エンに初めて触れちゃった!!!
手、小さい!僕の手にすっぽりおさまっちゃう!ちょっと冷えてる!冷たくて可愛い!
こんな小さい手じゃ重いものなんて持たせられないな。持たせるつもりなんてもともとないけど。
こんなに小さくて細いのにフニフニしてて気持ちいいな。

あぁ、可愛い…。
可愛くないところなんてないもんね。わかってたけどやっぱり可愛い。



「眷属にならないと私どうなるの?」
「えっとね、ただの亡者のままだとお迎えが来て、天国か地獄行きの裁判の順番待ちに行かされちゃうんだ。そうしたらもうここには来れないし、僕と会うこともできない……。今は特別に君をここに呼んだだけなんだ…」


エンが連れていかれてしまったら、と考えただけで胸の奥が痛くなって泣きそうになる。
そんな悲しい気持ちを消すためにエンの手を触り続けた。エンに触れられる。それだけで悲しい気持ちがどんどん消えていく。

それに、エンがいなくなるなんて起こりえない未来だ。


だってから。



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