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しおりを挟む「も、もしかして眷属になりたくない……? ―――…それなら」
「違う違う。単純に眷属にならなかったらどうなるのかなって思っただけ。なりたくないなんて思ってないよ。眷属にはどうやったらなるの?」
「よ、よかった!あのね、眷属になるにはね、こ、交尾するんだよ!」
「交尾…」
「あれ?人間は交尾のことなんて言うんだっけ?えっと……繁殖…あ、でも僕は子供作れないから……え、えっとなんだっけ…」
「んーっと、セックスのことかな?」
「そう!セックス!エン、僕とセックスしよ!!いっぱいいっぱいセックスしよ!」
触り続けていたエンの手を自分の顔に押し当て、手のひらの匂いを嗅いだ。
いい匂い…♡
エンが生きていた頃は触れないのはもちろん、匂いも嗅げなかった。
これがエンの匂いなんだぁ…♡
もっと欲しいな、もっと嗅ぎたいな、もっともっともっともっともっと…
「僕、ちゃんと勉強したからエンを気持ちよくできるよ?ね?セックスしよ?いいでしょ?いいって言って…?」
「今から…?」
「うん!あ、初めにちゃんと伝えるね?僕とシても子を孕むことはないよ!僕みたいな末端の神は子供が絶対にできないからその代わりに眷属を作るんだ。でも僕はエン以外の眷属なんていらないから安心して?それに眷属っていうのは形式なだけでエンは僕にとってのお嫁さんだよ!僕とずーっとずーっとここで一緒に暮らすために眷属にするって思ってね?じゃああっちに布団敷いてあるから行こ?抱っこしてあげる」
「ぅわっ!」
掴んでいた手をグイッと引っ張ってエンを抱き上げると、亡者が着る質素なワンピースのおかげで柔らかい体が僕の体に密着した。
横抱きにしながらエンの胸元に顔を埋めて胸の柔さを頬に感じながら匂いを嗅ぐと、手のひらのときより甘い匂いを感じて、自分がビキビキと痛いほど起立したことがわかる。
「ハア……♡ 軽くて細くて柔らかくて気持ちよくていい匂いで可愛い…♡」
やっぱりエンは拒絶しない。
大人しく抱かれたまま、僕の顔を見上げている。
「僕ね、君が生前男とセックスしてるところだって、ほんとは嫌だったけど……すっごくすっごく嫌だったけど、見てたよ。すぐそばで見てた」
「タキ……」
「君の舌が男の舌と絡まっているときも、男の手が君の体を弄ってるときも、君の股に男が顔を埋めているときも、君のナカに男の汚いものが入ったときも、…………僕、ちゃんと見てたよ」
エンの生前の性行為は全部で6回。
僕はそれを全部見ていた。
少しわざとらしいエンの嬌声も、あまり濡れておらず僅かに痛そうにする表情も、行為が終わった後の冷めた顔も、僕は全部見ていたんだ。
そんなエンも、可愛かったよ。
可愛かったけど、いい気分なんて1ミリもしなかった。
だって僕のものなのに。
エンは僕のものなのに、なんで……なんでっ、って思ったんだよ。
布団に横たわったエンがまっすぐに僕を見つめながら頬を撫でてくれた。
それがとっても心地よくて、その手が離れないように僕の手を重ねた。
「責めてるんじゃないんだよ…?ただね?僕、すごく……すっごく嫌だったんだ……」
「うん…」
「だってエンは僕のなのに…。僕が見つけた、僕が守ってきた、僕の伴侶。僕の唯一の、唯一無二の伴侶なんだ…。ねぇ、エン。これからは僕だけって言って…?タキのものだって、言って……?」
「私はタキのものだよ。私自身も、私のこれからも、全部全部タキのものだよ」
エンが僕の丸い耳を可愛がるように優しく撫でて、そっと微笑んだ。
綺麗だ。
嬉しい。
この綺麗なエンは僕のもの。
死ぬこともなく、永久に。
―――でも、何故だろう……。なんで、なんでエンは………
「ありがとう。嘘でもそう言ってくれるのはほんとにすっごくすっごく嬉しい。で、でも、君にとって僕はついさっき会った男でしかも人間じゃないし、こうしてたぬきの耳もしっぽもある。僕は君をずっと見守っていて君のことがずっと好きだから嬉しいけど、なんで僕のことを全然嫌がらずにそんなにすぐに受け入れてくれるの……?」
「嘘なんて言ってないし、なんでなんてそんなの簡単なことだよ」
エンが微笑みながら僕の頬をつかんで引き寄せ、触れるだけのキスをしてくれた。
「っ!」
「私、タキに一目惚れしたんだ」
「………え」
エンが僕の頭を撫でながら頬や鼻にもキスをしてくれた。
「ひ、一目惚れ…?」
「うん。一目惚れしたの。だってほら、タキの耳もしっぽも可愛いし、顔もかっこいい。背が高いところも素敵。あとはタキと話をするのも楽しいよ」
「………っ」
苦しい。
胸が苦しくて、泣きそうだ。
こんなに胸が苦しいのはたぬきのときも神になったときも経験したことがない。
かっこいいって、可愛いって、素敵だって言ってくれた。
エンもかっこいいよ。エンも可愛いよ。エンも素敵だよ。
ううん、エンのほうがかっこよくて、エンの方が何万倍も可愛いくて何億倍も素敵だよ。
エンといるときだけが楽しくて、幸せになるよ。
エンは、すごい……。
僕をこんな気持ちにさせてくれる……。
すごい、すごいすごいすごい!
エン………、大好き。愛してる。
グチャグチャにしたい………♡
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