速度極振りエセ侍の異世界奇譚

シュペーマン

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最凶の従者

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《カオスエイジ》のクラン[栄光の開拓者]のアジトで青年と少女が取り囲まれていた。

[佐々木小次郎]の個人ルームでは五人も入れば身動きも取れなくなっている。

『佐々木さん羨ましい~、でも本当にあったんですね《鮮血龍》のオトモ』

背中から翼を生やした忍者が側で座っている銀髪の少女をくるくると回りながら観察している。

『裏山過ぎっす佐々木氏!あんたラック値に全然振ってないのになんで落としちゃうんすか~?』

プリティーな魔女っ子からはあり得ない野太い声で、鮮血龍姫の写真を撮り続けながら文句を飛ばされる。

『拙者からすれば女子とは何者であれ愛でるべき胡蝶よ、ならばその蝶が寄り添う拙者はさながら“華がある”のであろうな』

青い長髪を総髪に結い、ダイニングテーブルでキメ顔を作る男は優越感に浸っていた。そろそろ出ていけと内心で思っているが[佐々木小次郎]と言う「なりきりプレイ」の為、そんな事は言わない。

傍のロアはジッと佐々木を見つめ続けている。眠たげな目ではあるが、いかんせん顔から表情が読み取れない。

『ぶひー!やはり顔か!やはりイケメンが良いのか!?』

立派な聖騎士の鎧を装備し聖剣を携えた…………顔が完全にオークのクルセイダーが地団駄を踏んでいる。

『『『お前のところには絶対に行かないだろうがな
』』』

『ぶひー!?ナンデェ!?オークが美少女を連れている……なんて淫靡な感じで興奮するでしょ??』

『『『うわぁ…』』』

理解出来ないという表情でわざとらしく慄いているブタ。このやり取りはギルドの中では“お約束”である。

『それにしても可愛らしいデザインですよね』

『それ分かるっす!』

ロアのキャラクターデザインは秀逸で、凶悪なパンドラの娘というギャップもあってNPCの中でも人気は指折りであった。

『ぶひー!なんだかヤンデレが似合いそうですね~』

『ヤンデレって…、[オークさん]にしては安直なキャラ付けっすね』

『ぶひー!ヤンデレは外から見てるから楽しいんです。つまり佐々木が酷い目にあって、私は二度美味しい思いができます』

『人のオトモを勝手にキャラ付けしないでくれるか…』

佐々木は呆れながら注意する。

『しかし鮮血龍姫の戦闘スタイルがここまで佐々木さんと噛み合うとは、案外運命かもしれませんね』

『確かに佐々木氏は速度カンストしてるから補助魔法当たんないっすもんね』

感慨深そうに忍者と魔女っ子は述べる。そこについては佐々木自身も思うところがあった。

《カオスエイジ》においてステータスにポイントを振る際メリットとデメリットが存在する。

例えば{筋力}を上げれば重い武器が振れ、{防御力}が上昇するが{体重}が増加し{速度}が落ちる。{知力}を上げれば覚えられるスキル・魔法が増えるが精神干渉に耐性が低くなる。

そんな風にメリットデメリットを計算しながら自分のアバターを作り上げてゆくのが一つの楽しみでもある。

そんな中{速度}に極振りしパロメーターが一点豪華主義になってしまったのが[佐々木小次郎]である。

{速度}カンストのボーナスとして“飛び道具自動回避”のパッシブスキルを得た。これは自身が拘束等の移動制限が無い状態ならば飛来物を100%回避できるスキルである。

タダでさえ{速度}カンストで回避率が上昇しているので当て辛いのが、このパッシブスキルのせいで佐々木を止められる手段が狭められている。

彼を止めたいならば広範囲魔法かトラップ、または組み付きで拘束するしか無い。

しかしこのスキルは敵味方両方に適用される。

つまり飛んできた補助魔法も避けてしまうのだ。

敵の攻撃は当たりづらいが支援も受けられない。

紙一重の戦場をボックスに回復薬詰め込んで走り抜けるのが佐々木のプレイスタイルである。

それを逆手に取れるのがロアというオトモである。

強力だがピーキーな《鮮血龍姫》を使いこなせるのは実質佐々木だけなのだった。

『せっかく手に入れたのオトモだからな、こき使ってやるとするか!』

そう言ってロアの頭を撫でてやる佐々木、無表情であるがロアの後ろからはハートマークのエフェクトが出ていた。

『うっ、う~、俺たちのロアちゃんが佐々木氏に調教されちまうっす…』

『調教とか言うな!後「俺たちの」じゃないからな!』

『ぶひっ!今時ノマカプドSイケメン侍とか流行んないですよ』

『お前は何を言ってるんだ…』

『やっぱ欲しいなぁ~….そうだ佐々木さん!久し振りにPvP しません?当然賭けるのは……

『お前ら出ていけーー!!』

この様に数日間他のギルメンからちょっかいをかけられ続けるのであった。




「…………はっ!」

フラッシュバックした記憶から佐々木は蘇る。

さっきの出来事に思わず走馬灯を見てしまったらしい。

(そういや[オークさん]の中の人女性だったなぁ…、現実に疲れてたのかな?)

そんなどうでも良いことを考えてしまう。

しかし今目の前にあるのは現実。佐々木の手には《鮮血龍姫》の召喚結晶石が握られていた。

(ロアか…、この上なく頼りになるのは間違いんだよな…)

佐々木はロアとであれば大人数を相手でも逃げ切れる自信はある。今まで運用してきた実績から言えるものであった。

しかし不安要素がいくつかある。

「コイツ…はたしてマトモな性格してるんだろうか…」

ロアのフレーバーテキスト、つまり説明文はなかなか血生臭い文字が踊っている。しかし流石邪龍の娘と感心する事は現状出来ない。

召喚して即戦闘にでもなったらたまったものでは無い。

しかもロアに命を与えたのはあの邪神である。酷い仕様があるのは想像に難くない。

「それでも今は仲間が欲しい…」

佐々木という人間は孤独に対する耐性がなかった。

異世界という全てが未知の状況が恐ろしくてたまらない。パソコンの様にすぐに調べられる物がないのが怖い。

ここはゲームではない。安全な現実があるからこそゲームでロマンを追いかけられたのだ。

「贅沢は言わないから言うこと聞いてくれよ~」

強く念じながら召喚結晶石を空に放り投げる。

石は散り散りに砕け、光が溢れ出す。渦が生まれ次第に形を成してゆく。

気がつけば見慣れた少女が目の前に立っていた。

「…おお」

美しい銀の髪は光の残滓で淡く輝く。人形の様に整った顔は幼いながら吸い込まれる様な魅力があり眠たげな金の瞳は蠱惑的な魔力を宿している。黒のドレスから伸びる四肢は到底荒事に向いているとは思えないほど白く細い。

全体的に庇護欲を誘うのがロアのデザインである。

しかしそんな外見とは裏腹に鮮血龍姫の異名通りの強烈な戦闘能力を有している。

「…コジロウ?」

小首を傾げ尋ねるロア。鈴の様な声であるが、相変わらず何を考えているか分からない程の無表情。

「…ロアなのか?」

佐々木は緊張の余り少し変な声になってしまう。

反応が薄過ぎて本当に生きているのか分からない。もしかしたらゲームの延長線で特定の受け答えしか出来ないロボットかもしれない。

そんな考えを巡らせていると気がつくと目の前にロアがいた。

「…コジロウ、やっと会えた」

ロアがそんなセリフとともに正面から佐々木に抱きついた。

長身の佐々木の鳩尾辺りまでしかないロアの身長。外から見れば兄弟か親子だと思うだろう。

甘える様な声を漏らしながら顔をうずめるロア。その様子からはひどく寂しがっている印象を受けた。

「…………」

佐々木は何も出来ず棒立ちしていた。いやその説明は正確ではない。

正確には頭がショートしていた。

(あれ……、ロアってこんな奴だったの?)

ロアの予想外の行動にどうしたら良いか分からなくなってしまった。

(すげー恥ずかしい、何だこれ、どうしたらいいんだ?…あっ、いい匂い…ってクソ!何考えんだ!)

少し変な気持ちになってしまうのを必死で抑え込み、平静を保とうとする。

「…コジロウ?」

あざといと思える程の上目遣いで佐々木を見つめる瞳。普通ならイチコロなのだろうが佐々木に取ってそうはいかない。相手は邪龍の娘。それにまだ味方と決まったわけではない。

「よ、よう、元気にしてたか?」

「…寂しかった、もう会えないかと思った」

さらに強く抱き締められる。噓みたいな力強さに佐々木は思わず息を飲む。このまま鯖折りにされるのではないかと思える程強烈であったからだ。

「いたっ、いだだだだだだ!おっ、落ち着けロア!」

「…だめ、また何処かに行ってしまうかもしれない」

「いてっ!?だ、大丈夫だ!勝手にどっかに行ったりしないから!」

「………」

ロアは拘束を解く。締め上げられていた腕を見ると赤くなっている。

「いてて、………お前は本当にロアで良いんだよな?」

「…どういうこと?」

佐々木は確認を取ろうとするがロアは不服そうな
語気をしている。

「その、今起きてる現状が把握しきれなくてな…」

佐々木にはロアに全てを打ち明けられずにいた。ゲームの世界から来たなどロアからすれば何を行っているか分からないだろう。彼女は《カオスエイジ》の住人、不用意に刺激する必要はない。

「突然異世界に飛ばされてな、何もかも分からないんだ…」

ロアはキョロキョロと辺りを見渡す。そして何かに納得した様に佐々木に向きなおる。

「…確かに流れているマナが異質、似てはいるけど本質が違う。異世界というのは本当なんだね」

淡々と無表情で答えるロア。

(何言ってんだコイツ…)

佐々木は自分の従者の言っていることが、よく分からなかった。

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