速度極振りエセ侍の異世界奇譚

シュペーマン

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拠点を創ろう!

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「じゃあ、始めるか!」

佐々木とロアは森の中の少し開けた草原の中である準備を行なっていた。

佐々木が取り出したのは箱状のアイテム。見た目だけならルービックキューブに似ているそれを草原の中央に設置する。

『セッチ、カクニン。ホウイカク、コテイ。ザヒョウ、トウロクカンリョウ』

機械音のアナウンスが流れる。ルービックキューブはパタパタと開けながら中から飛び出したアンカーを地面に打ち込む。

『キョテンセイサク《ログハウス》サクセイ、カイシ』

奇妙なモーター音と共にみるみる形を変えてゆくルービックキューブ。質量保存の法則など無視してみるみる膨れ上がり、材質さえ変化させていく。

「…流石[チビ兄]クオリティが違う」

ロアは無表情なまま感想を述べる。佐々木もこの景色を見るとは何度目かにはなるが、おぉ~という感嘆の声を上げた。

「でもまぁ、アイツこれ作るのにクランの倉庫から希少金属消し去りやがったからな」

有能にもかかわらず、他人に迷惑ばかりかけていたギルメンの事を思い出す。

錬金術師 [チビ兄]

ポーションやゴーレムを作成することができる生産職である錬金術師。その中でもギミックを極め、皆の度肝を抜くアイテムを創り出す男がいた。

ファンタジーの世界で車を作り、今でこそ移動の主流になった飛行船も公式で追加アップデートされるまで[チビ兄]がゼロから作り出していた。その様なことができる《カオスエイジ》も凄まじいのだが、彼の発想は多くのプレイヤーに《カオスエイジ》の数多の可能性を示す教本的な物となっていた。

しかし彼は同時にとんでもない災害を振り撒きもした。

《バーサーカー・タブレット》という薬を生み出したがそれを野原に不法投棄、それを食べた魔物達のスタンピート(大暴走)により初心者プレイヤーの町が半壊した。

ある時は備え付けのテレポート装置を勝手に弄り、転移した者が「壁の中にいる」状態になってしまったこともあった。

彼曰く「ついカッとなってやってしまう、反省は検討している」との事。

そしてこの拠点製作アイテム、通称《廃棄物その145》も彼の製作であった。

「…完成した?」

二人の目の前に建つのは立派なログハウスであった。二階建てのその家は、お金持ちの避暑地の別荘を彷彿とさせる。

立派な生垣、玄関までの石畳、可愛らしい花々が咲く庭、生き物はいないが綺麗な池まで付いている。

「「おぉ~」」

戸を開けると広い玄関が顔を出す。どこぞの名画のコピーが壁に飾られている。磨き上げられたフローリングは足をつける事を憚られる程だ。

リビングに入れば暖かそうな絨毯にフカフカのソファ、暖色の照明が部屋を優しく照らしている。

完全に見た目だけの装飾品であったキッチンやお風呂、水洗トイレまで再現されていた。

「…すごく立派」

思わず息を飲むロア。相変わらず無表情だが多分驚いているのだろう。

「確かに凄いことは凄いんだが…」

改めてログハウスのクオリティの高さを知った佐々木だったが[チビ兄]がしでかしたままでの所業のせいで素直に喜べずにいた。

「…結界が貼ってある、低位の魔物なら傷すらつけられない」

ロアは佐々木が説明する前にログハウスの機能に気が付いた。

それは佐々木が魔法に一切ポイントを振っていないからなのか、ロアが特殊なのかは分からない。

確かにこの結界はモンスター避けなのだが、クラン[栄光の開拓者]は既に高レベルプレイヤーで構成されていたため、低位の魔物を問題とはしなかった。つまり余分な機構である。

さらにただの外装データであったキッチンやお風呂も[チビ兄]は内部機構を作り上げ、本当に水や火が出る様にしてしまった。しかし専用の作業台を必要とする{料理}や、バフをかける大浴場がある関係上特にキッチンで料理ができる様になる訳でも、バスユニットが使える訳でもなかった。ただ単にクオリティの高い装飾品となってしまっていた。

「でも今だけは[チビ兄]には感謝だな」

確かにこれらは《カオスエイジ》において無駄な機能だが、全てが現実となったこの異世界生活では違ってくる。

暖かいお湯の出るお風呂もコンロの使えるキッチンも、サバイバル生活に不慣れな佐々木には必需品であるのだから。

佐々木は武器を下ろしソファに座るそのままおっさんの様な呻き声を上げながら体の力を抜いた。

肉体よりも慣れない生活に疲弊した精神を上等なソファが包み込む。

「もう動きたくねー」

「…ふざけてないでやる事やって」

寝そべる佐々木の頭に小さな手刀が入る。見た目の割に強烈な一撃に変な声を上げながら転げ落ちた。

「グフッ…りょうかい…」

そそくさと立ち上がる美丈夫。適当なスペースを
見つけるとアイテムボックスからある物を取り出す。

「…それが?」

それは大きな業務用冷蔵庫の様に巨大な金属の箱。鈍い銀の表面には時より光の筋が走る、見るからにオーパーツ、もしくは未来の装置を思わせる。

「ストレージボックスだ」

《ストレージボックス》はアイテムボックスとは異なり、本拠地の倉庫と直接繋がっている。プレイヤーキラーにあってもドロップする事はなく、アイテムボックスの様に所持制限がある訳ではないのでいくらでも物が入る。一見アイテムボックスの上位互換の様に見えるが、いちいちボックスを展開する場所を必要とし、暗証番号、接続先の指定諸々の長さから戦闘中に使用する事が出来ない。更に回収は使い切りの専用アイテムを必要とするので、《カオスエイジ》では中々使い所が限られるアイテムであった。

「…もしかしてまだ繋がってる?」

「かもしれないってだけだけどな」

ストレージボックスは『あらゆる次元を超越し、万物を納める宝物庫なり』という説明文があった。アイテムが具現化している以上これも使えるのではないかと思い付いたのだった。

佐々木が手を伸ばす。ストレージボックスはそれに反応するように表面には光で幾重にも幾何学模様を描き、消えてゆく。ゲームと同じエフェクトを見せた後、アイテムボックスと同じ様に佐々木の頭の中には何が入っているかを認識できた。

「ビンゴ!」

そこにあるのは大量の資材、食料、武具の数々。莫大な量のアイテムが脳内を駆け巡った。

ロアも手をかざす。どうやらロアにも知覚できるらしい。

「…沢山ある、しかも増えてる?」

「よく分かったな」

自由度に定評のある《カオスエイジ》にてギルドメンバーにより様々なものが自動化回収されている。作物は実ったところから回収、種付けが行われ、家畜達も勝手に成長し精肉される。挙げ句の果てにはネクロマンサーによるスケルトンを使っての鉱石自動回収システムまであった。それらは全て倉庫に接続され一括管理されているのだった。

「これで物資に困る事はないなー」

安心のため息をつく佐々木。これが使えなければした事もない狩に出かけなければならない所だった。

「…いいことを思い付いた」

「どうしたロア?」

「…手紙を書く、そうすれば見てくれるかもしれない」

「…………おまえ、天才か!?」


ストレージボックスが《カオスエイジ》と繋がっていると言うのなら、此方のSOSを知ってくれるかもしれない。

佐々木は早速羊皮紙と羽根ペンを取り出し、 今の状況と救出の旨を紙いっぱいに書き込んだ。

「可能性は限りなく低いんだけどな…」

「…打てる手は打っておくべき」

この一片の髪を膨大なアイテムの中から見つけてくれるかは分からないし、見つけたとしてもおふざけと取られる可能性が高い。そもそも現実世界で置換された別の[佐々木]によって隠蔽される確率が高い。

手紙の信憑性を増すためにメンバーの口に出せない様な秘密を添えストレージボックスに投げ込んだ。

思わず佐々木は柏手を打つ。邪神がいたのだから敵対している神様が願いを叶えてくれるかもしれない。

「……ご飯にしよっか」

佐々木はロアに振り返り告げる。キッチンや調味料が使える以上贅沢なご飯ができる筈だ。既にできているパンなどではなく肉も焼ける筈、未知の世界で食事だけでも充実していたいのだった。

「…わたしが作る、コジロウはお風呂に入るといい」

「いいのか?一番風呂貰ってしまって」

「…いい、コジロウ結構汚れてる」

「…………だな」

昨日の錯乱で身体の至る所に土や葉っぱが付いている。佐々木はバタバタと風呂場に駆け込んでゆくのだった。



自宅よりもデカイ風呂を堪能した後、適当な浴衣に袖を通す。これはファッションアイテムであり防御力も何もない。少々胸元がはだけ、色気のある装備だが風呂上がりの火照った体にはちょうど良かった。

「…ご飯、出来て……………」

食事の支度をしていたロアと目が合う。その凝視する様な視線に佐々木は背後を見渡す。特に何かいる訳ではない。再びロアを見ると手で顔を覆っていた。

「どうした?」

「…ちょっと目にゴミが入った」

そんな事を言いながらそそくさとキッチンに消えてゆく。

(そんなに変な格好かなぁ)

少々傷付いた佐々木であった。

食事はいつものパンと野菜に焼いた肉とスープが追加されていた。肉はストレージボックスから取り出した空を駆ける火を噴く牛、《ベリアルモーモー》というモンスターの肉であった。今まで食べたことのない食感で例えるなら濃厚な鶏肉の様であった。

(そう言えば誰かと一緒に食事をするのは久し振りだな)

ふとそんな事を思いながらも落ち着いて食事を取れる事に安心して特に話す事もなく黙々と食べ続けた。

満足な食事を終えた頃には既に夜遅く二人は眠気に襲われた。ロアもいつもとあまり変わらない黒の寝間着に着替え就寝の準備を済ませた。

二人が二階に上がると、六つ程の部屋があり、それぞれ大きなベットやクローゼットが完備されていた。

「じゃあお休み、俺はここを使うよ」

「……………そう、じゃあわたしはこっち」

僅かに残念そうな声色でロアは佐々木の隣の部屋を選んだ。

「お休み、ロア」

「…コジロウもお休み」

二人はそれぞれの部屋で大きくて柔らかなベットに身を投げた。




朝、まだ日の登り切っていていない時間に佐々木は目を覚ました。本来の自分ならば昼過ぎまで寝ていてもおかしくないのだが、身体が[佐々木小次郎]になったからなのか非常に目覚めが良かった。

特にすることもないため、フラフラ外を散歩する。今日はここに付いた時には既に辺りは暗かったため、周りに何があるか把握しきれていなかった。ロアが起きるまでと、少し歩けば意外にも二人のいる場所が切り立った山の端、崖のすぐ近く出会ったことがわかった。

「うわァ、結構あるなぁ」

傾斜面をぼんやりと見つめる。森に立ち込めた朝霧のせいで視界は悪いが、手元が見えないほどではない。

鳥の鳴く声を合図に家に戻ろうとした時ある物を発見した。

「あれは…………」

それは崖の麓に横たわった。全身傷だらけの少女であった。
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