18 / 25
出会い編
診察
しおりを挟む
次にハルが目覚めたのは、豪奢なベッドの上だった。
柔らかいレースの天蓋がかかったベッドは、現実離れしたほどに美しかった。高級なシルクのシーツが身体を包み、ふかふかの枕が首元を支えている。部屋の明かりは控えめに調整され、ムーディな雰囲気が漂う。
「え……? どこだ、ここ……?」
記憶がぼんやりとしている。自分がここに来る前に何をしていたのか、ハルは思い出そうと眉を寄せた。
窓の外には、きらびやかな街の明かりが広がっていた。ここはかなり高層階にあるらしい。空を見上げると、満月がぽつんと寂しそうに浮かんでいる。その光は街の強烈なネオンに押され、かすかに輝くだけだった。
「お目覚めになられましたか?」
声が聞こえ、ハルはそちらに目を向ける。
入って来たのは、ユキの従者である老執事、セバスチャンだった。
「セバスチャンさん……? あの、ここはどこですか?」
「日本国内にある、我が国所有のビジネスホテルです。このフロア全体を貸切にしておりますので、何も心配なさらずに」
ハルはその言葉に一瞬耳を疑った。
(……さらっとすごいこと言ったよな?)
ワーウルフ所有のホテルといえば、世界的に有名な超高級ホテルだ。ここが都内の一等地に位置していることを考えれば、目が飛び出るほどの金額が動いているだろう。
「こちらのお部屋は通常、エグゼクティブスイートとして使用しておりますが、ユキ様の来日に合わせてフロアごと貸し切っております」
「マジっすか……」
老執事はにこりと微笑み、トレーの上に置かれたカップを差し出した。
「温かい白湯をどうぞ。お身体をいたわるために」
ハルはカップを受け取るが、飲もうとした瞬間、頬に僅かな痛みが走った。触れてみると、頬にガーゼや医療用テープが貼られている。
それに、頭にも包帯が巻かれていた。触ると痛む部分がある。
(そうだ……タチバナ……!)
記憶の断片が鮮明に蘇る。
「あ、あの、タチバナは!?」
ハルの突然の問いに、セバスチャンは目を細めて答えた。その表情には、ハルの優しさに対する敬意が滲んでいるようだった。
「あの方は現在、警察に拘束されています」
「そうですか……」
(良かった…生きてた……)
噛み殺されたのではないかと思ったのだ。
そうでは無いと聞いて、ハルは小さく安堵の息を漏らす。
そして、その次の瞬間には別の名前が口をついて出た。
「……ユキは?」
その問いに応じたのは、静かに扉を開けて入ってきたユキ自身だった。
「いるよ」
彼の後ろには、一人の白衣をまとった男性がいた。聴診器を首に掛けたその姿から、医師であることが伺える。
「お加減はいかがですか?」
医師の柔らかい声に、ハルは少し緊張しながら頷いた。
「……まあ、大丈夫です」
「それでは少し診させてください。失礼しますね」
医師がベッドに軽く腰掛け、ハルの寝巻きを静かに開いた。シルクの布地がはらりと落ち、白い肌が露わになる。
医師の聴診器を持った手が近づくと、ハルは反射的に身を硬くした。その動きを見た医師は、すぐに手を止めた。
「あ……すみません……」
「いえ、無理もありませんよ。こんなことがあった後ですから、緊張するのは当然です」
医師の優しい言葉に、ハルはわずかに安心した。
しかし、その言葉から、この場にいる全員が「あの事件」を知っていることが分かり、胸が苦しくなった。
強姦未遂。
自分は、その被害者。
医師が心音を確認している間ーー
ハルは、ユキの視線が自分に向けられていることに気づいた。
その視線はどこまでも鋭く、重く、自分の白い肌にじっと注がれているように感じた。
(……卑しいと思われただろうか?)
(汚れたと思われただろうか?)
(……嫌われただろうか……)
不安が胸を締め付ける。息がしづらい。
(……苦しい……)
「頭を強く打ったようですね。手足に力は入りますか?痺れや吐き気はありませんか?目が見えにくい等の症状は?」
「大丈夫です…」
医師の言葉に、ハルはなんとか答える。
身体に異常はないはずだが、心の中で不安がぐるぐると回り続けていた。
「手足の打撲は、しばらく痛むでしょうが、一週間程度で症状が落ち着いてくると思います」
「はい」
血圧計と体温計を使っての診察が進む間も、ハルの胸元ははだけたままだ。
何度も、何度も、ユキの視線を感じ、無言の圧に耐えられなくなったハルは、そっと寝巻きの前を閉じた。
「…以上になります。もし体調が悪化したり、何かあったらすぐに知らせてください」
医師は診察結果と今後の指示を伝えると、最後に微笑んでそう締めくくった。
「では、私は失礼します」
「ハル様、何かあったらすぐにお呼びくださいね」
医師と老執事は部屋を出て行き、ドアが静かに閉まる音が響いた。
部屋には、ハルとユキだけが残された。
柔らかいレースの天蓋がかかったベッドは、現実離れしたほどに美しかった。高級なシルクのシーツが身体を包み、ふかふかの枕が首元を支えている。部屋の明かりは控えめに調整され、ムーディな雰囲気が漂う。
「え……? どこだ、ここ……?」
記憶がぼんやりとしている。自分がここに来る前に何をしていたのか、ハルは思い出そうと眉を寄せた。
窓の外には、きらびやかな街の明かりが広がっていた。ここはかなり高層階にあるらしい。空を見上げると、満月がぽつんと寂しそうに浮かんでいる。その光は街の強烈なネオンに押され、かすかに輝くだけだった。
「お目覚めになられましたか?」
声が聞こえ、ハルはそちらに目を向ける。
入って来たのは、ユキの従者である老執事、セバスチャンだった。
「セバスチャンさん……? あの、ここはどこですか?」
「日本国内にある、我が国所有のビジネスホテルです。このフロア全体を貸切にしておりますので、何も心配なさらずに」
ハルはその言葉に一瞬耳を疑った。
(……さらっとすごいこと言ったよな?)
ワーウルフ所有のホテルといえば、世界的に有名な超高級ホテルだ。ここが都内の一等地に位置していることを考えれば、目が飛び出るほどの金額が動いているだろう。
「こちらのお部屋は通常、エグゼクティブスイートとして使用しておりますが、ユキ様の来日に合わせてフロアごと貸し切っております」
「マジっすか……」
老執事はにこりと微笑み、トレーの上に置かれたカップを差し出した。
「温かい白湯をどうぞ。お身体をいたわるために」
ハルはカップを受け取るが、飲もうとした瞬間、頬に僅かな痛みが走った。触れてみると、頬にガーゼや医療用テープが貼られている。
それに、頭にも包帯が巻かれていた。触ると痛む部分がある。
(そうだ……タチバナ……!)
記憶の断片が鮮明に蘇る。
「あ、あの、タチバナは!?」
ハルの突然の問いに、セバスチャンは目を細めて答えた。その表情には、ハルの優しさに対する敬意が滲んでいるようだった。
「あの方は現在、警察に拘束されています」
「そうですか……」
(良かった…生きてた……)
噛み殺されたのではないかと思ったのだ。
そうでは無いと聞いて、ハルは小さく安堵の息を漏らす。
そして、その次の瞬間には別の名前が口をついて出た。
「……ユキは?」
その問いに応じたのは、静かに扉を開けて入ってきたユキ自身だった。
「いるよ」
彼の後ろには、一人の白衣をまとった男性がいた。聴診器を首に掛けたその姿から、医師であることが伺える。
「お加減はいかがですか?」
医師の柔らかい声に、ハルは少し緊張しながら頷いた。
「……まあ、大丈夫です」
「それでは少し診させてください。失礼しますね」
医師がベッドに軽く腰掛け、ハルの寝巻きを静かに開いた。シルクの布地がはらりと落ち、白い肌が露わになる。
医師の聴診器を持った手が近づくと、ハルは反射的に身を硬くした。その動きを見た医師は、すぐに手を止めた。
「あ……すみません……」
「いえ、無理もありませんよ。こんなことがあった後ですから、緊張するのは当然です」
医師の優しい言葉に、ハルはわずかに安心した。
しかし、その言葉から、この場にいる全員が「あの事件」を知っていることが分かり、胸が苦しくなった。
強姦未遂。
自分は、その被害者。
医師が心音を確認している間ーー
ハルは、ユキの視線が自分に向けられていることに気づいた。
その視線はどこまでも鋭く、重く、自分の白い肌にじっと注がれているように感じた。
(……卑しいと思われただろうか?)
(汚れたと思われただろうか?)
(……嫌われただろうか……)
不安が胸を締め付ける。息がしづらい。
(……苦しい……)
「頭を強く打ったようですね。手足に力は入りますか?痺れや吐き気はありませんか?目が見えにくい等の症状は?」
「大丈夫です…」
医師の言葉に、ハルはなんとか答える。
身体に異常はないはずだが、心の中で不安がぐるぐると回り続けていた。
「手足の打撲は、しばらく痛むでしょうが、一週間程度で症状が落ち着いてくると思います」
「はい」
血圧計と体温計を使っての診察が進む間も、ハルの胸元ははだけたままだ。
何度も、何度も、ユキの視線を感じ、無言の圧に耐えられなくなったハルは、そっと寝巻きの前を閉じた。
「…以上になります。もし体調が悪化したり、何かあったらすぐに知らせてください」
医師は診察結果と今後の指示を伝えると、最後に微笑んでそう締めくくった。
「では、私は失礼します」
「ハル様、何かあったらすぐにお呼びくださいね」
医師と老執事は部屋を出て行き、ドアが静かに閉まる音が響いた。
部屋には、ハルとユキだけが残された。
0
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる