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序章:出逢い
神父見習いの場合 01
しおりを挟む何かに取り憑かれたかのように笑った。
其は狂気に満ちた顔だった。
僕はきっと、そんな彼に悲しい程に惹かれていたのだ。
身が焦がれそうな恋は、己を滅ぼすと知っていて、どうしても離れることが出来なかった。
【神父見習いの場合】
神なんていないさ、と何処か達観した物言いで彼(か)の男は僕を抱き寄せる。
だから冒涜も何もない。
そう宣い、僕の額に接吻を施す。
避けようと思えば避けられる。
拒絶であれ、その気があれば出来るだろう。
僕は動かない。
ただ黙って享受する。
冒涜だと解っている。
どう考えても彼は異常だ。
少なくとも、僕の中では異常者だ。
神は同性同士の交わり、一切の恋愛を禁じられた。
疑いようのない事実であり、其を破れば神への冒涜にと繋がる。
神を冒涜するなかれ。
生を受けてから今日まで、言われ続けてきた言葉。
隣人を愛し、人を憎まず罪を憎む。
根っからの悪人などいないのだと、僕はイエス様の教えを信じて生きてきた。
そう、彼に出会うまでは、可笑しいとも感じなかったのだ。
彼の理論に返せる言葉が見付からないのだから、僕はまだまだ不信心なんだと思う。
彼の理屈は僕を可笑しくさせる。
常識が崩壊していく。
まだ15歳になるかならないかの子供なのに、その目は混沌としていた。
彼を初めて知ったのは、僕が見習いとして教会に入って間もない頃だった。
信者の子供で、親に連れられて来た彼は、まだ12歳であった。
毎週日曜に開かれるミサは、信者が一堂に会する場だ。
壇上に立つ神父様の話に、皆耳を傾ける。
そんな中で、彼だけは焦点の定まらぬ目線を其処ら中へ彷徨わせていた。
辛そうに眉間へ皺を寄せ、椅子の背凭れに背中を預け、足をぶらぶらと揺らす様は、幼い子供のようだった。
教会に響く神父様の声と、ミサに訪れた来訪者の中で、彼だけが異様に浮いている。
僕は神父様の後ろに控え、見慣れぬ彼の姿を頻りに伺っていた。
彼は異端児だ。
黒い髪、同色の瞳、常に引き結ばれた唇。
「人類みな兄弟」などと、どんな綺麗事を捻出しても、彼が周りから浮いていた事実は変わらない。
母親も心配しており、何度か神父様に相談しているのを耳にしたことがある。
父方の祖父が亜細亜の人間であったらしい。
隔世遺伝なのだろう。
父親も母親も綺麗な金髪に碧眼なのだ。
この地域では珍しくない、寧ろ典型的な色だ。
彼はきっと、産まれたその時から独りぼっちだったのだろう。
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