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二章:訪れた変化
誘拐された場合 02
しおりを挟む「あ、あの、どういう」
「彼なりに君を想ってのことだ。ミルはもう少し、他人を頼りなさい。独りで出来ることもあれば、独りでは出来ないこともある。もうフィンは、何も出来ない子供ではないよ」
神父様は優しい表情を此方に向けて微笑んでいた。
泣きたくなる。
フィンは僕を守ろうとしてくれるのだ。
気持ちに応えられない僕のことを、一途に想ってくれる。
「僕は……僕に、そんな資格が、あるのでしょうか? 誰かに優しくして貰うのは、とても苦しくて、駄目になりそうです」
ぽつりぽつりと出てきた言葉は、僕の心に住み着く闇の部分なのだろう。
消えることはない親殺しの罪の意識が、己を赦してはくれない。
「うーん、そうだなあ。じゃあ、ミルは他人に優しくする時、その人にその資格があるかどうかを考えて優しくしているのかい? 資格のない人には手を差し伸べない?」
神父様は、小首を傾げて困ったように笑うと、叩きを椅子の上に置いた。
一歩一歩、僕に近付いて来る彼は、諭す言葉を口にしながら、矢張り慈しみの表情を崩さない。
返された言葉に必死で首を横に振る。
そんなことはないと言いたかった。
平等など不可能だと知っている。
それでも、どんな者にも分け隔てなく手を差し伸べたいと思うのだ。
神父様のようになりたかった。
「君に幸せになって貰いたい。それが私の本心だよ。喩え、どれだけの人間を敵に回しても、それが或いは神であっても、私は味方になりたい。……そう思っているのだから、きっと神父失格なんだろうね」
目の前にまでやって来た神父様が、僕の落とした袋を持ち上げる。
今にも泣き出してしまいそうな顔に見えた。
その袋は、近くの椅子の上に収まり、空いた彼の手が、僕の頬に伸びる。
両頬を挟み込まれた。
顔を覗かれる。
クマのような逞しい体に相応しい精悍な顔立ちが、歪んでいた。
だが、もう僕の視界自体がぼやけてしまい、上手く認識出来なくなってしまう。
次から次に溢れてくる涙が頬を伝い、神父様の手に落ちて行く。
「そんなことは、ないです。神父様は、僕には立派過ぎる神父様で、目標で、憧れでっ! ……貴方のように、なりたかった。でも、どうしていいか、解らないんです。フィン君のことを想うと苦しくて。受け入れちゃいけないのに、僕は……彼を受け入れてしまいそうな自分が、怖くて」
止まらなかった。
言えなかった想いが口を吐いて止まらない。
こんなにも吐露したのは初めてのことだった。
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