SとKのEscape

Neu(ノイ)

文字の大きさ
14 / 97
一章:SとK

担当医 05

しおりを挟む


カトウ、と叫ぶ聞き覚えのある声と、気になっている人間の名前だ。
クラスのガキ大将の声が、サンの名を叫んでいた。
合間合間で聞こえてくるのは人を殴る音だ。
体の震えが止まらない。
涙が溢れてきた。
サンを思ってではない。
植え付けられている、恐怖と苦痛を思い出しての涙だ。
僕はなんて賎しいのだろうか。
今そこで行われている暴行を止めることもなく、恐怖から逃げようとしている。
何れだけ苦しいのか、解っていると言うのに。


 暴力に生物は勝てない。
絶対の力だ。
毎日、嫌という程に味わう絶望と苦痛と屈辱と。
其れと何が違うのだろうか。
彼もまた、暴力に屈するのか。
屈することのない人間など、いないだろう。
其れだから、僕は彼女を責めない。
彼は、僕を責めるだろうか。




 ガタンっ――


 気付くと、僕は扉を乱暴に開けていた。
クラスメイトの男子が、五人程いた。
中心にはサンが寝転がっている。
見た目には外傷がない。
人の目に触れない箇所を殴られたのだろう。

「川路、こんなとこに何の用だよ?」

一番ガタイの良いガキ大将が、此方を睨み付けてくる。
小屋の中は、古い机と椅子、地図や定規など、使われなくなった道具が散乱していた。
激しく暴れたのだろう。
僕はサンを凝視したまま、震える声で何とか言葉を返す。

「あ、あの、えっと。こういうの、良くない、と、思うよ」
「こういうの? プロレスゴッコしてただけだろ。なあ、カトウ」

ガキ大将がにやりと笑う。
サンは緩慢な動きで上体を起こし、表情の解らない醒めきった顔で僕を一瞥する。

「悪いが、ボクは君達のような低能な人間と、これまたプロレスといった野蛮な遊びをする趣味はないよ。かと言って、君みたいに態々助けにやってくる人間の気持ちも解らないけどね」

サンは、フン、と鼻で嗤う。
ガキ大将の顔が険しくなり、拳が握られる。
その手は怒りで震えていた。
今にも殴りかかりそうな勢いである。
僕は咄嗟に駆け出していた。

「や、やめてよ! せ、せせ先生、呼んで来るよ。服で隠せても、捲ったら殴ってた痕、残ってる、んだよ。先生来たら、僕、見たこと全部、話す」

サンとガキ大将の間に入り込み、両手を広げて怒鳴っていた。
普段大人しい僕が大きな声を出したことに、一瞬ガキ大将は怯み、言われた内容を理解すると舌打ちをして僕を睨む。
僕は震えながらも視線を外さなかった。

「解ったよ。今日のところは勘弁してやる。精々嫌われ者同士、仲良くするんだな」

行くぞ、とガキ大将は他の連中を引き連れて小屋から出て行くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

処理中です...